メールペットな僕たち   作:水城大地

10 / 51
メールペットシリーズ、今回はこの方のお話になります。


弐式炎雷と不器用なメイドとの多くの失敗と小さな成功を繰り返す毎日

弐式炎雷の朝は、かなり早い。

大手企業の地方支社の一般事務職である事もあり、仕事的な面では始発出勤組であるギルメンよりもゆっくりで構わないのだが、それでも早く起きているのにはそれなりの理由がある。

ヘロヘロの手によって、アインズ・ウール・ゴウンのギルメン全員に配布される事になり、彼の家にやって来た可愛い娘の様なメールペットが、色々と自分の仲間たちの噂を聞き付けては自分でも実行しようとした結果、色々と困った失敗をやらかしてくれているからだ。

 

そう……弐式炎雷が、自分のメールペットとしてNPCの中から選んだのは、自分が作った戦闘メイドプレアデスの一人であるナーベラルである。

 

彼女なら、弐式炎雷が自分で色々と組み上げたNPCだから、メールペットとして自分と上手くやっていけるとそう思っていたのだ。

他の仲間たちも、基本的に自分が作ったNPCをメールペットにしてた事も、彼女を選んだ理由の一つだったのだが……実際に受け取って彼女の事を育成し始めてから、弐式炎雷は思わぬ問題に気付かされる羽目になった。

もし機会があるなら、他の仲間たちの所では同じ様な状況になっていないのか、出来れば聞いてみたいと思う様な彼女の問題点。

 

それは、ナザリックのNPCとしての意識が影響しているのか、それとも仲間の一部が色々と主の世話をしている事を知ってしまったからなのか、ナーベラルが弐式炎雷に対して彼に仕えるメイドとして色々とリアルの世界に干渉しようとしては失敗し、結果的に予想外の被害を出している事だった。

 

もちろん、最初からナーベラルはそんな行動をしていた訳じゃない。

最初の頃は、ナザリックにいるNPCの【ナーベラル・ガンマ】のデータをダウンロードされただけの、ごく当たり前のメールペットとして弐式炎雷が頼んだメールの配達を中心に、普通に過ごしてくれていたのだ。

そんな彼女に変化が起きたのは、お互いにメールのやり取りをする事で他のメールペットとの交流するうちに、デミウルゴスや恐怖公といった、主のお世話をするタイプのメールペットがいる事を知った頃だろうか?

 

今思い返してみれば、自分と同じメールペットの彼らに主のお世話が出来るなら、自分にも出来る筈だと思い込んでしまったのだと思われる。

 

デミウルゴスは、サンプリングデータを取る為に最初期から活動しているメールペットの【始まりの三体】の一体であり、データ容量が他のメールペットとは違っているので、そもそも比較対象にはならない。

ウルベルトさんによるバックアップの元、あらゆる面での知識の収集に余念がないデミウルゴスは、既にメールペットの枠を超えている気もするが、それはそれとして。

正直言って、彼はギルメンが持つほぼ全てのメールペットの【祖】に当たる様な存在なのだ。

 

他のメールペットより、出来る事が多いのは当然である。

 

同じ様な理由で、【ナザリック】ではナーベラルの姉妹であるソリュシャンも、主のお世話が出来るメールペットとして挙げていいだろう。

彼女も、【始まりの三体】として最初期から存在している上、現在進行形でヘロヘロさんの公私共に手伝いをしている万能系メイドなのだが、姉妹の彼女に出来るなら自分にも出来るのではないかと、余計にナーベラルが思い込んでしまった可能性もある。

正直、彼女もまたナーベラルとは根底のスペックが既に違っているので、比較対象にしていい存在ではない。

 

その辺りを、ナーベラルがちゃんと理解出来ていたら、ここまで暴走していなかっただろうが。

 

主のお世話系メールペットとして、最後に名前が挙がるだろう恐怖公は、あのるし☆ふぁーさんが本気でそれはもう綿密な育成プログラムを最初の段階で組み上げて一気に紳士まで育て上げた、これまた別格のメールペットだ。

これに関しては、メールペットを決める彼を怒らせる様な真似をしたギルメンたちに対して、本気で見返す為に情熱を注いだ結果なので、別格と考えるべき存在だろう。

彼もまた、ウルベルトさんと同様に恐怖公の為に様々な知識を与える事に余念がないし、それに対してきっちりと期待に応えている恐怖公の努力を考えれば、彼と比較する方が間違っていると言っていい。

 

そもそも、ギルメン達はメールペットに対して癒しを求めてふわふわに育てているんだから、普通のメールペット達がそんな事が出来る様になるまでには、それこそ長い時間を掛けて様々な事を学習して出来る様になっていくという、段階を踏む必要がある案件なのだ。

 

どうやら、ナーベラルにはその辺りが良く判っていないらしい。

他の、大半のメールペットたちが普通に主との交流を楽しんでいる中で、彼らの様な【お世話系メールペット】の存在はある意味特殊ケースだというのに、自分にも出来る筈だと思い込んでしまったのは、弐式炎雷側にも実は問題があった。

彼女が、自分には向いていない方向で動き始めたばかりの頃、どうしてそう言う行動をしているのか、その理由を深く考えもせずに手放しに何かを手伝おうとする行為そのものを誉めてしまったのが悪かったのだろう。

 

ここでもう少しだけ、ナーベラルに対して弐式炎雷が彼らの様な特殊ケースとの違いを言うべきだった。

 

更に不味かったのが、その少し前に弐式炎雷側にうっかりミスを起こして予想外の状況になり、その結果としてナーベラルに妙なやる気を持たせてしまった事だろう。

そう、弐式炎雷がついうっかりと言った感じのミスを引き起こした為に、ナーベラルが自分に向いていない方向で努力をしようと本気で頑張り始めてしまったのだ。

もちろん、後で弐式炎雷もその事に気付いて何とか彼女の考えを修正しようとしたのだが、どうしても無理だという前に泣かれてしまって、どうする事もない状況を作り出してしまった切っ掛けの一件。

 

それは、【ナーベラルによる、弐式炎雷のリアルの職場の同僚への罵倒事件】である。

 

その日、弐式炎雷は前日の夜にギルメンと赴いた狩りに時間が掛かり過ぎて、睡眠時間がかなり少なく寝不足の状態だった。

普段なら、自分のリアルの職場でメールを立ち上げている際はもっと周囲に注意しているのだが、この日ばかりは前日夜更かしによる寝不足が祟り、かなり注意散漫だったのだ。

そう……こっそりと近付いてきた職場の同僚の存在に気付かず、うっかりそいつに端末を覗き込まれるのを許してしまう位には。

更に、端末の中のメール受信画面にいるのがメイドだと知ったそいつが、普段から隙が無い弐式炎雷への不意打ちに成功した事に調子に乗って、覗き込んだままナーベラルに声を掛けるのを、彼は阻止出来なかったのである。

運が悪い事に、その男が声を掛けたタイミングがメールを立ち上げたばかりで。弐式炎雷がナーベラルに声を掛ける前だった上、急に声を掛けられた事に驚いた弐式炎雷が操作ミスをして、自分たちがいるリアルの画像とナーベラルの視点を繋いでしまったのだ。

ナーベラルからすれば、主との交流をする楽しみの時間だったのに、いきなり知らない男の声が掛けられたかと思うと、大きな画面が現れて人間の男が覗き込む様に自分の姿を見ていたのである。

 

こんな状況になって、トラブルが発生しない筈がない。

 

彼女は、アインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーとナザリックのNPCの仲間以外、全ての存在を下等な存在と認識しているらしい。

と言うか、元になったナザリック側のナーベラルの設定が、異形種ギルドである事から人間種に対してそう言うものの見方しているのを、弐式炎雷自身がすっかり忘れていた。

自分がノリノリで、色々な昆虫図鑑か虫の名前などの罵倒の言葉を仕込んでおいたのに、だ。

 

その結果、彼女は弐式炎雷の職場の同僚である【人間】に対して、しっかりと暴言を吐いてくれたのである。

 

今にして思えば、あの時のナーベラルの反応は突然知らない人間種の顔が大画面で表示された事で、ひどく驚いたのだろうと言う事は、弐式炎雷にも想像が付く。

今まで、ずっと人間の姿など見た事もなかったという点を考えれば、彼女の過剰とも言える反応も仕方がない事だっただろう。

それも含めて、全部、弐式炎雷側がもう少し周囲を注意してからメールを開いていれば、防げた案件でもある。

 

元を糺せば、勝手に人が起動しているメール画面を覗き込んだ、その同僚の方が余程マナー違反なのだが……ナーベラルが暴言を吐いてしまったのは間違いないので、彼に対してのフォローはちゃんとした。

 

この男に対してフォローせず、放置しておいて余計な事を周囲に広められる方が、後で状況が掴めない事に発展しそうで色々と困る気がするからだ。

特に、口の軽いこの男に対してナーベラルの事は「【ユグドラシル】のギルド仲間が動作テストとして送って来た拠点用のNPCデータ」だと言う事にしてある。

事実、彼女はナザリックの中で稼働しているNPCなのは間違いないし、AIの担当はヘロヘロさんだから全くの嘘でもない。

それに、こいつも弐式炎雷がユグドラシルをプレイしているのは知っているので、「メールを開いて最初に見た相手に対してあの言葉を言う様に設定してあったんだろう」と言えば、納得してくれた様だった。

拠点用NPCは、設定したルーチンワークでしか動かないから、そいつからナーベラルが見えない様に画面を一時的に落とす動作をしながら「かなり悪戯好きの仲間がいるので、多分そいつからのちょっとした悪戯だ」と笑って説明したのだ。

どうやら、そいつも割とくだらない悪戯を仕掛けてくる奴だったので、弐式炎雷が前に「酷い悪戯好きなギルドの仲間がいる」と話した事もあり、それであっさり納得してくれて助かったとも思う。

 

ここで、この同僚から下手にしつこく聞かれたら、面倒な事になっていたと思うからだ。

 

状況的に、この場に留まっていてもメールサーバーを立ち上げるのは難しいと判断した弐式炎雷は、上手くその同僚や周囲に対して誤魔化しつつ端末を片手に急ぎ足で移動すると、人がいない休憩室を選んでするりと身を滑り込ませ、素早くメールサーバーを立ち上げ直す。

急いで立ち上げた先に待っていたのは、いきなり幾つもの不幸な出来事が重なった為に、主である弐式炎雷に嫌われたのではないかと、涙目になっているナーベラルが部屋の隅で蹲っている姿だった。

 

弐式炎雷が、せっかく初めて昼間の時間にメールを立ち上げてくれたのに、待ち構えていたのはナーベラルが知らない下等な人間の顔で、しかもすぐに弐式炎雷側から端末を閉じられてしまったと言う事実は、酷く彼女を傷つけたのだろう。

 

どう見ても、【捨てられた子犬】の様な雰囲気を漂わせていて、このまま彼女の事を放置出来る様な状態ではなかった。

慌てて必死に宥めたのだが、ナーベラルはまだ何処かグズグズと鼻を鳴らしている。

そんな彼女の様子を窺いながら、弐式炎雷が出来るだけゆっくりと話を聞くと、やはり知らない下等な人間の姿に驚いて、パニックになってしまっていたらしい。

彼女なりに、その原因である人間の男を追い払おうとした結果、あんな反応になったそうだ。

そんな彼女の話を聞いて、弐式炎雷は人目を気にせず端末を操作した自分が悪かったのだろうと、心の中で反省する。

少なくとも、ナーベラルのミスではない。

 

例え……彼女自身の言動に、かなりの問題があったとしても。

 

頭を優しく撫でてやりながら、気付かれない様にそっとナーベラルの様子を見ると、漸く落ち着いたのか与えたホットミルクをちびちびと飲んでいる。

だが、これは弐式炎雷が怒っていない事実に安心しただけで、やはり自分が実際に引き起こしてしまったトラブルがどんな問題を生むのか、その辺りをナーベラルはまだ理解出来ないのだろう。

先程も考えたのだが、そもそもこの事態を引き起こす原因を作ったのは、周囲を気にせず外でメール端末を無造作に開いた弐式炎雷自身だ。

職場でメールを開くなら、もう少し周囲を注意しつつ行動しないと駄目だと言う事を忘れていたなど、自分に色々と問題があったのは理解している。

 

今回の一件は、本当に外で端末をチェックする際の大きな失敗だった。

 

その一件があってから、ナーベラルは色々と仲間に話を聞いて回ったらしい。

彼らから、自分たちがどんな感じで過ごしているのかという話を聞いた事で、リアルの世界の事情をある程度中途半端な形で把握したナーベラルは、今回の自分の行動が割と大きな失敗だったという事を知ってしまったのである。

それによって、リアルでの弐式炎雷の立場が悪くなったのではないかと不安になり、せめて自分が弐式炎雷の為に出来る事をしようと、色々とやり始めたのが彼女の行動が始まった発端である。

もちろん、彼女が自分の意思で行動する事に関しては、別に弐式炎雷としても大きく反対するつもりはない。

むしろ、ナーベラル自身の成長の証として、心から喜びたいと思う部分はあるのだ。

 

ただ、人には向き不向きというものがあると言う事を、彼女にもきちんと理解して欲しいとは思うが。

 

******

 

リアルの話に傾き過ぎたので、ひとまず話は元に戻すとしよう。

 

ナーベラルの行動に関して、本音を言えば別に無理をしなくてもなどと色々と思う所があるものの、弐式炎雷本人的には本来の彼女の役目であるメールペットのメール配達に関して言えば、特に問題がある訳ではないので、多少の事までは構わないと思っていた。

少し前にあった会議で議題になった、タブラさんの所のアルベドの様な問題行動はしていないし、それなりに仲の良い仲間もいるのを知っている。

特に、建御雷さん(と言うと、なんか気分が変だから次からは建やんにする)の所のコキュートスとは、かなり仲良くやっているのを知っているので、それならそれで良いとも思っていた。

どうやら、人間関係などはどちらかと言うと親と似た関係を構築している様だ。

子供は親に似るというより、メールの配達回数が多い事に起因しているのだろう。

とにかく、二人でいるとまるでユグドラシルの中でプレイする際の自分たちの様なやり取りもしているのを、何度も見た事があった。

性別は違っても、こんな風に息が合う相手がいるのは、彼らにとっても悪い事ではないと弐式炎雷は思っている。

 

そうそう、先程ちょっとだけ話に出たタブラさんだが、彼にもちょっとした変化が起きたらしい。

アルベド自身が、出先で取る行動にはそれほど変化がない気もするものの、そんな彼女の代わりをするかの様に、彼の所にメールを配達に行くと、メールペットたちに対してフォロー的な行動をする様になったらしいのだ。

具体的に挙げるなら、ナーベラルがメールを届けに行った際は、今までおやつをくれる程度の相手しかしなかった彼が、メールを受け取った後軽く頭を撫でてくれたり、「いつもメールをありがとう」と一言だけではあるものの、声を掛けてくれたりする様になったと聞いている。

まだまだ、他のギルメンに比べるとメールペットに対してのスキンシップが少ない方ではあるが、それでも以前と比べればかなりの変化だと思える部分だった。

 

あ、でも……アルベドにもちょっとだけ変化はあったかな。

 

今までは、とにかくメールを持ってきたらそこのギルメンに引っ付いて離れようとしなかったし、ナーベラルに対して弐式炎雷が目を離した隙にとにかく苛める様な行動をしていた上、中々弐式炎雷のサーバーに居付いて帰ろうとはしなかった。

だけど、最近はギルメンに引っ付くのは変わらないものの、まるで得物を狙った肉食獣の気配じゃなくなったし、ナーベラルに対して何か言っているけどそこまで酷いものじゃない様だ。

だって、いつもアルベドに色々と言われて涙目になっていた筈のナーベラルが、彼女の言葉を聞いても涙目にならなくなっているからな。

そして……今までの様にいつまでも居付いて帰ろうとしないんじゃなく、ある程度の時間になったら自分から素直にタブラさんの所に帰る様になった。

 

ただし、帰り際に弐式炎雷に対して投げキッスをしていく様にはなったけど。

 

こうやって考えて見ると、今までのアルベドに比べたらかなりましな行動になった気もするけど、やっぱりまだまだ駄目な行動の域を出てはいないかもしれない。

それでも、次第に改善されていくのならもう少し弐式炎雷としては見守っても良いと、そう考えている。

今回のアルベドの騒動を、実は全く知らなかった(タブラさんとは仕事先で直接会う事から、メールのやり取りをしてなかったらしい)建やんから、二人きりの時に頭を下げられて頼まれたからだ。

 

タブラさん側にも色々と理由があって、今までメールペットを育てると言う事が良く判っていなかったらしい。

 

リアルでの知り合いな分、その事情を知っている建やんがフォローに入るから、「もう少しだけ長い目で見てやって欲しい」と彼に頭を下げられたら、弐式炎雷に断る事なんて出来なかった。

それに弐式炎雷も、タブラさんの今回の対応を危なっかしく思っていた一人だ。

彼が、これから少しでも変わる手伝いが出来るなら、喜んで引き受けるつもりはある。

 

彼も、大切なギルドの仲間なのだから。

 

そうそう、ナーベラルの親しいメールペットだが、普段からコキュートス以外で特に仲が良い相手の名前を挙げるなら、実は恐怖公だったりする。

彼の主であるるし☆ふぁーさんとの付き合いは、建やんから色々と個人的に付き合ってみたら印象が違っていたと言われて、試しにメールでやり取りを始めたのがきっかけだ。

確かに、るし☆ふぁーさんは色々とギルド内では問題児だったけど、個人的に色々と話を聞くのはとても話題が豊富で思っていたよりも楽しい。

そしてそれは、彼のメールペットである恐怖公にも同じ事が言えると言っていいだろう。

今は、とにかく何でも学びたいと考えているナーベラルにとって、恐怖公は様々な事を教えてくれる丁度良い教師役に近い存在だった様だ。

何より、彼が弐式炎雷の所にメールを運んで来て滞在している間は、アルベドがメールを持参してきたとしても長居する事はないから、色々な意味で助かってもいる。

 

そう言う訳で、ナーベラルも彼に対しての対応は師を仰ぐ様なそんな感じだと言っていいだろう。

 

同じ様な存在が、ウルベルトさんの所のデミウルゴスだ。

彼は、元々メールペットでのやり取りが開始された辺りから、ヘロヘロさん達と手分けして他のギルメン達の間で何か問題が起きていないか色々とチェックしてくれているらしく、ナーベラルとデミウルゴスともそれなりに交流があるらしい。

とは言っても、ウルベルトさん本人からはそこまで頻繁にメールが来る訳じゃないから、メールを持ってデミウルゴスが顔を出した時は、割とすごい長話をしている事が多い位だろうか。

デミウルゴスも、同じメールペットの仲間としてかなり面倒見が良い所を発揮しているので、ナーベラルが頑張っている事に対して協力を惜しむつもりないらしい。

 

弐式炎雷としては、ナーベラルが上手く付き合っていけると安心出来る人物の一人なので、こんな風に付き合いが出来て良かったと思っている。

 

他にも、モモンガさんの所のパンドラズ・アクターとは、割と仲良くやっていると思う。

仲間に対する気遣いは、彼の主であるモモンガさん譲りらしく、彼もまたナーベラルの相談相手の一人の様だ。

同じ二重の影と言う種族も、パンドラズ・アクターへの相談し易さに繋がっているなら、良かったと思っている。

モモンガさんとも、パンドラズ・アクターとも上手くやっていけるなら、悪くないと弐式炎雷は思っているのだから。

 

彼ら以外で、ナーベラルと仲が良いのは、意外かもしれないがシャルティアだったりする。

 

これに関しては、完全に弐式炎雷自身とペロロンチーノさんの繋がりから出来た縁だと言っていい。

やはり、頻繁にメールのやり取りをする事で顔を合わせていれば、特にナザリック側のNPC同士で仲が悪いと設定されていない限り、自然と仲良くなるものなのだろう。

特に、メールペットとしてのシャルティアは、ナザリックにいる彼女とは違って色々と性格が修正されているから、ナーベラルでも付き合い易くなっている事も、仲良くなれた理由だった。

なんでも、シャルティアとはデミウルゴスへの弟子入り仲間なのだそうだ。

 

一応、完全な脳筋からは脱出したらしいのだが、元々おバカな系統のシャルティアと、不器用でドジッ子の片鱗を見せるナーベラルの組み合わせは、何処か危険な気がするのは気のせいだろうか?

 

ナーベラルに関して、弐式炎雷が一つだけ可哀想な事をしているとすれば、ナザリックの設定では姉妹となっている他のメールペットのプレアデスの面々たちと、余り仲良くさせてあげられない所だろう。

普段から、長女のユリの主であるやまいこさんを筆頭に、弐式炎雷自身が彼らの主と余りメールなやり取りをしない事が原因だった。

本当は、彼女達が全員で集まってお茶会をしている所を見たい気もするが、今のメールのやり取りをしている状況では、少し難しいかもしれない。

この辺りは、誰もが似た様な考え方をしていたとしても、誰の所から最初にプレアデスの集まりをするのか、そこで揉めそうな気がするのだ。

出来れば、自分の所で最初のお茶会をしたいと思うが、「長女であるやまいこさんのユリの所から」と言われてしまえば、以外に反論し難いし。

 

まぁ、そんな話も出ていない時点では、考えるだけ無駄な気もするし、根回しをするだけの時間があると思うべきなのかもしれない。

 

弐式炎雷自身にも、メールペットを受け取った後に一つだけ変化があった。

職場で先程語った一件があった後、基本的には昼間のメールチェックはしなくなった事だ。

正確に言うなら、勝手にメールを覗き込んでナーベラルに勝手に話し掛ける様な、そんな人物の前ではメールを開かなくなったと言うべきだろう。

 

ああいうトラブルは、一回だけで十分だからだ。

 

それに、現時点でもナーベラルの行動に対してのフォローは割と大変なのに、これ以上ナーベラルとリアルの職場の人間を接触させて変なやる気を持たれたら、それこそ変な空回りをした上でとんでもない言動をされてしまう事態になりかねない。

もし、今度そんな事態に陥ってしまったら、それこそ会社の人間関係に罅を入れてしまうだろう。

 

色々な意味で、余り昼間の休憩時間にメールを開いて確認するのは躊躇われる状況だった。

 

では、弐式炎雷がいつメールをチェックしているのかと言えば、朝の時間帯以外だと仕事が終わった直後だったりする。

大企業の支社勤務で、割と残業をしなくても済む事務職勤務の立場を最大限に利用し、他のギルメンよりも早く帰宅出来る方だと自負する弐式炎雷は、仕事が終わるとほぼ直帰してメールにチェックに入る事にしていた。

その方が、短い時間ではフォローしきれない可能性もあるナーベラルと、ゆっくりとコミュニケーションを取りながら、きっちりギルメンからのメールのチェックが出来るからだ。

色々と、「弐式炎雷の為に、自分に出来る事が無いか」と行動したがるナーベラルだが、まだまだ問題が多い彼女にデミウルゴスや恐怖公の様な真似はさせられない。

少なくとも、仕事のスケジュール管理なんて油断したら職場の人間と接触する可能性がある事なんて、とても任せられないと言っていいだろう。

 

とは言え、弐式炎雷自身としては彼女のやる気を完全に潰すつもりもないので、試験的にナザリックの仲間との約束をした時のスケジュール管理を任せてみているのだが。

 

今の時点では、相手がギルメンと言う事もあってメールのやり取りの段階でのダブルブッキングはさせていないので、このまま彼女にも任せられる事が増えると、弐式炎雷的にも嬉しいと思う。

そう思うのだが……流石に、まだ朝の目覚まし役までは頼めなかった。

彼女の中で、弐式炎雷が人に使われる立場で仕事に行くと言う事が納得出来ていない以上、一度声を掛けて弐式炎雷が起きなければ、そのまま起こさずに済ませてしまいそうな気がして怖いからだ。

下手をすれば、仕事を首になる様な状況を自分から招くなんて真似は流石に出来ないので、今の所は彼女から【朝、起こす役目を是非私に任せていただけませんか】と言う懇願も却下している。

 

もう少し……そう、もう少しだけ彼女が色々な意味で成長してくれたら、休みの日の目覚まし役から任せていきたいとは思っているが。

 

一通り、メールチェックとナーベラルとスキンシップを取った後、弐式炎雷は【ユグドラシル】にログインする。

それ位の時間が、丁度仲間が集まる時間帯になるからだ。

ログインした先で、待ち合わせをした仲間と予定通り冒険に出るのが殆どだが、時にはギルドで仕切ったクエスト等になる事もある。

 

こればかりは、毎回突発的に発生する事もあるので、ナーベラルのスケジュール管理外でも仕方がない案件だったりするが。

 

そうして、ユグドラシルで一頻り仲間と一緒に遊んだ後、弐式炎雷は仲間と別れてログアウトする。

ログアウトすると、メールのチェックも特にないのですぐに就寝する時間になるのだが、寝る前にナーベラルと少しだけ話す事にしていた。

この時間帯に話した方が、ナーベラルと一緒に一日の反省会が出来るからだ。

これもまた、彼女の成長の為に欠かせない事だと考えて、必ず忘れない様に弐式炎雷は行っている。

 

そうして、弐式炎雷と不器用なメイドの失敗と少しの成功の毎日は過ぎていくのだった。

 




という訳で、弐式炎雷さんとナーベラルのお話でした。
因みに、この話はギルド会議の一件から十日後位の視点です。
タブラさん側に変化が起きたのは、そう言う理由です。
建御雷さんの協力で、タブラさんはいくつかの定型文をナザリックの自分の声に変換してメールペットたちにショートメッセージとして使用しています。
メールサーバー内でのボイスチェンジャーは、現在丁度良いのが無いかヘロヘロさんに相談して探して貰って居ます。
諸事情で、普段からゲーム内でもボイスチェンジャーを使用していて、このままメールサーバー内でも使用できるソフトが無いと、メールペットたちと喋れない事を一緒に伝えた上で、です。
今回の話は、弐式炎雷さんしてんなので、この辺りの事情を掛けなかったので補足説明させていただきました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。