メールペットな僕たち   作:水城大地

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タイトルの通りの、【ユグドラシル】の頃のモモンガさんの楽しい毎日の話。




モモンガの楽しい毎日

 

モモンガこと、鈴木悟は最近【ユグドラシル】以外に【リアル】で楽しみが出来ていた。

 

いや、正確に言えばこれも【ユグドラシル】の延長なのだと言ってもいいだろう。

簡単に言うなら、ギルメンとのメールのやり取りにあるソフトを導入してから、メールのやり取りが今まで以上に楽しくなったのだ。

そのソフトとは、ヘロヘロさんが百年以上前にあったと言うものを、身内のやり取りのみに限定して現代向けに組み直したメールペットソフトだ。

 

以前、ペットロスでログイン出来なくなったギルメンを見ていて、それならギルメン間でのみ使えるペットソフトはないか探した結果、見付かったのがこのソフトだったのである。

 

これなら、きちんと管理された電脳空間で飼育できるように手筈を組めば、餌のやり忘れや病気、寿命で死なせる心配なく飼えるだろうと言うのが、ヘロヘロの主張であった。

確かに、この方法なら全員が毎日メールのチェックをするこの時代で、餌を与え忘れたりする心配もなければ、病気や寿命も心配する必要はないだろう。

ヘロヘロの主張を、全面的に支持したのはかのペットロスのギルメンを中心にしたメンバーで、彼らの熱意によって他のギルメンからも支持を受けて受け入れられた。

そこから更に打ち合わせした結果、ギルメン全員で自分の作った(協力して作った場合は、話し合いで)それぞれのNPCがそのペットになる事になったのである。

 

ソフトウェアの容量の関係で、全員が二頭身のディフォルメキャラになったのだが。

 

当然、モモンガの手元に来たのは自分がデザインした宝物殿の領域守護者であり、卵頭に軍服のパンドラズ・アクターである。

最初こそ、割り当てられたそれを見て微妙な気持ちになった。

その頃には、自分が作り出したNPCがその場のノリと勢いで自分の理想を詰め込みすぎて、色々な意味でおかしくなっている事に、何と無く気付いていたからだ。

しかし……今は違う。

【ユグドラシル】を起動し、何らかの用事でナザリックの宝物殿に訪れた際に顔を合わせると、一定のコマンドで地雷が発動する事もあって色々と思う所がある相手なのだが、このメールソフトのパンドラズ・アクターは違ったのだ。

ヘロヘロの説明では、性格部分の基本設定はそのままだが、それ以外は赤ん坊と一緒で自分の手で育てて教育していく事が出来るらしい。

一種の育成ゲームとして捉えれば、そこから先は別の楽しみが出来たのである。

 

ナザリックのNPCであるパンドラズ・アクター本体とこのメールペットをリンクさせて、設定以外の部分で何かしらの変化をさせられないかと、何と無くそう考えたのだ。

 

何せ、目の前の相手は二頭身の可愛らしいディフォルメキャラなのだ。

くるりと黒く空いた二つの目と口だけしかない卵顔だが、その感触はもちもちとしていて柔らかそうだし、短い手と足を一生懸命動かし何かしている姿は、どこか微笑ましくて仕方がない。

とても、宝物殿に居るアレと同じ黒歴史だなんて思えなかった。

 

更に、その外見に似合った愛嬌のある仕種を見ていると、ついついほっこりとした気持ちになって、仕事でささくれだった心が癒されてしまうのである。

 

それに、この外見でなら多少の仰々しい言動も可愛らしく映って、許容できない範囲ではない。

もちろん、どう見てもやりすぎの場合はそれとなく叱るのだが、その時は凹んでいる姿がとても【可哀想で可愛いらしい】状態になり、暫く隅に移動したかと思うと身を丸めるように座り込んで、はっきりと見て解る様に落ち込んでいる状態を示すのだ。

しかも、時折こちらの様子を見て【ごめんなさい】と言わんばかりの仕種を繰り返していて。

赦しの言葉を告げつつ、出来るだけ優しく軽く頭を撫でてやれば、パッと嬉しそうな声を上げて立ち上がる様は、小さな子犬を思わせる仕種だった。

 

そんな姿を見たら、本当に小さな子供を相手にしている親のような気分になって、次第に愛着がわいてきたと言うべきだろうか。

 

一先ず、その一連の動きはモモンガの中では【パンドラズ・アクターが見せる可愛い仕種】の不動の第一位なのだが、見る機会は少なかったりする。

何故なら、その一連の動きは叱った時のみ見られるものだからだ。

あれで、パンドラズ・アクターは学習能力が高い。

元々、メールペットと言う育成ソフトだけあって、ちゃんとこちらの意図を学習する機能も付いている。

ある程度まで叱れば、叱った事に関してはちゃんと学習していて、繰り返したりしない素直ないい子だったりするのだ。

だが、それではあの【可哀想で可愛い】姿が見られないので、普段は行動の自由を少しばかり緩めて好きにさせている。

 

そうして、思い出したかのように別の事で羽目を外し過ぎた所で叱る事で、叱られた事に落ち込む姿を存分に楽しんでいる悪い親だった。

 

多分、この事を友人たちに話したら苦笑される可能性は高いだろう。

それ位の自覚は、モモンガにもある。

だが、これも仕方がないと思って欲しい。

【ユグドラシル】では、決まったルーチンでの行動しかしないNPCよりも、このメールペットたちの方が感情豊かに見えるのだ。

こんな風に、自分の言動に対して喜怒哀楽を見せられたら、構い倒したくなるのは当然だろう。

結婚どころか恋人もいない身の上で、子育て経験するのはと思わなくもないが、手持ちの端末に登録してあるのであちこちどこでもメールソフトを立ち上げて使える事も、こうして余計に構う要因だった。

 

それに、メールのやり取りも今まで以上に楽しい。

 

ギルメンにメールを送る時は、二頭身のパンドラズ・アクターが一生懸命に両手でメールの入った封筒を抱えて、目的の相手のメールサーバーまで駆けていくのである。

お出掛けする前に支度をする姿や、「行ってきます!」の挨拶をする姿、そして帰ってきた時に満面の笑みで「ただいま帰りました!」と告げる姿は、今まで家族が居なかったモモンガに……鈴木悟に、小さな家族が出来たように思えるのだ。

お使いから戻って来た所を出迎えるべく、自宅の仮想サーバー内に降りて三頭身になっている【ユグドラシル】の自分のキャラで撫でてやるか、出先で3Dタッチ専用グローブを付けて撫でてやれば、それは嬉しそうに笑う姿が小さな子供の様でとても可愛いと思う。

更に付け加えるなら、仮想サーバー内なら臭いや味覚はないが、その代わりに触覚はそのままであるので、頭や顔を撫でたりハグしたりしていれば、その見た目通りの柔らかさを感じられた。

 

ただし、自分達から彼らに対して出来るのは、あくまでもペットを愛でる意味での額や頬にキスまでらしいが。

 

家族に対して、親愛の情を示すだけの目的なら、ハグまででも十分だと俺は思うのだけれど、一部のギルメンはそれでは足りないと主張したらしい。

性的な意味を持たせそうな場所には、キスをしたり触れたり出来ないのは当然だと思うし、その話を聞いた時には本気で呆れたものだ。

まぁ、自分はパンドラズ・アクターを息子として育てているから、別に関係がない話なのだが。

 

それ以外でも、ギルメンたちからメールが来るのも楽しい。

 

まず、それぞれの手元にいるキャラたちが自分の元まで一生懸命にメールを届けてくれる姿が可愛くて、見ていてとても楽しいのだ。

何というのか、基本の性格設定はそのままに、育成されている部分が持ち主の性格の影響を受けているらしく、どこか似ていて見ていて楽しいし、小さな身体で一生懸命に動く仕種が微笑ましく思えて仕方がない。

ウルベルトさんの所のデミウルゴスは、そつなく自分に挨拶をしてから手紙を渡してくれるし、パンドラズ・アクターが居ればそのまま暫くチェスをしたりして遊んでから帰っていく。

もてなしにと、用意してあるストックからお茶やおやつを渡してやると、はにかんだようや笑みを浮かべながら受け取り、美味しそうに食べていく。

そして、来たときと同じ様に挨拶をしてから帰っていくのだ。

 

もしかしたら、【ナザリック】のデミウルゴスも、自分の意思で動けたらこんな感じなのだろうか?

 

建御雷さんの所のコキュートスの場合は、訪問の挨拶の仕方とかが何となく前に建御雷に見せて貰った【時代劇】に出てくる武士のような雰囲気だった。

もしかしたら、コキュートス用の礼儀作法の学習ソフトとして、建御雷さんが使っているのかもしれない。

その影響なのか、パンドラズ・アクターとの遊びもチェスから剣道の練習に変わるし、訪問時にこちらが提供するものも、昆虫種の影響からなのかお茶とおやつよりも甘い蜜の方を好むので、用意するのは蜂蜜やメープルシロップだったりする。

 

色々と堅苦しい物言いをする事もあるけど、それもコキュートスの個性だと思って楽しんでいる。

 

アウラとマーレの二人(茶釜さんのごり押しで双子揃って茶釜さんのメールペットだ)は、いつも二人揃ってやってきて、とても賑やかだと言っていいだろう。

元気いっぱいのアウラと控えめで大人しいマーレが来るだけで、何となくデミウルゴスやコキュートスが来た時よりも、賑やかな感じになった気がするのだ。

やはり、尋ねてくる人数が一人じゃなく二人だから、その分も賑やかなのだろうか?

二人はモモンガの所に来ると、最初にきちんと挨拶してから自分の仕事であるメールをモモンガに渡してくれるのだが、その後二人してこちらを見上げながら【褒めて?】とキラキラ目を輝かせるので、ついつい二人の頭を撫でてしまうのを止められない。

そうして、モモンガが頭を撫でてやると満足そうな顔をして、パンドラズ・アクターとささやかなお茶会をしてから帰っていく。

 

どうも、【ナザリック】のNPCの二人も子供の外見だからか、ついつい仕種が微笑ましくて仕方がないから甘やかしちゃうんだよな。

 

ペロロンチーノさんの所のシャルティアは、【ナザリック】のNPCとしてのその持ち前の性癖からなのか、必ず最初の挨拶の後にモモンガにハグをして行くのが通例だった。

最初にされた時こそ面食らったものの、彼女なりに親愛の情を示している事が判っているので、モモンガも悪い気はしていない。

それに、抱き付いてきた所をモモンガが頭を撫でてやれば、満面の笑みを浮かべながら満足して離れていくので、モモンガも彼女がメールを運んでくる際の恒例行事として受け入れている。

パンドラズ・アクターとも、まるで自分とペロロンチーノの様に仲が良い。

メールを運ぶ仕事の後、二人で並んでソファに座りながら楽しそうに話をしたり、遊んでいたりする姿はとても微笑ましくて、ついついまた頭を撫でてやりたくなる位だから、このまま仲良くして貰いたいものだ。

 

そして……そんな風に割と仲が良いメールペットの中で、唯一と言っていい位に問題行動をしているのが、タブラさんの所のアルベドだった。

 

彼女は、タブラさんからのメールを届けに来たらモモンガに引っ付いて離れなくなり、いつまでもモモンガの所に居座ろうとするので、追い返すように送り出すのが常なのである。

しかも、モモンガが不在の時にパンドラズ・アクターが居ると、何やら嫌みを言ったり意地の悪い事をしてきたりすらしい。

割と忙しい時期に、仕事の空き時間を見付けてメールサーバーを確認して、彼女が来た証拠として自分宛のタブラさんからのメールがあった場合、パンドラズ・アクターがたまに隅の方で涙目になっていじけているので、ほぼ間違いないと思う。

 

これに関しては、似たような案件が茶釜さんの所のマーレ相手で発生しているらしい。

 

なので、ギルメンを円卓の間に集めてお互いにメールペットのアルベドの行動を確認してみたところ、似たような話が幾つも上がってきた。

改めてタブラさんに問い詰めたところ、どうやらNPCとしての彼女の設定が暴走しているのではないかと言うのが、彼の推測である。

それで、改めて彼女の設定を確認してみたら……あの長文設定には参った。

まぁ、最後の【ちなみに、ビッチである】には呆れさせられたのだが。

そして、その設定こそが暴走の原因だろうと全員が思ったのだが……この部分を変える事にタブラさんが猛烈に反対した為、未だに改善の兆しが見えない。

 

まぁ、これ以外にも色々と問題がある部分はあるが、モモンガにとってはそれでも楽しい毎日を暮らしていた。

 

 




こんな感じで、ゆるゆるなギルメンとメールペットになっている守護者を筆頭にしたNPCたちの、のんびりほのぼのな話が浮かんだので書いてみました。
既に、pixivでは幾つか投稿済みなのですが、こちらはあちらから移動する際に加筆修正してあります。

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