魔女と怪異と心の穴───もしくは一ノ瀬巽の怪異譚─── 作:タキオンのモルモット
「あ、やっと起きたんだね!!」
目が覚めると、見知った部屋だが、自室ではない部屋のベッドで拘束されていた。
声のした方向を向くと自分の恋人である椎葉紬が笑顔でこちらを見ていた。
「ん?ここは何処、って?ここは私の家の私の部屋だよ······結構な頻度で来てるのに忘れちゃったの?」
忘れてるわけがない。が、この状況は全くもってわからない。そう言うと、彼女は「なるほど。」と言ってポンと手を叩く。そして、こう繋いだ。
「だって────ここなら他の雌豚から君を隔離できるから」
────今なんて言った?
理解出来なかった、普段なら彼女から絶対に出ない言葉が出たのだ。無理もない。
雌豚、確かにそう言った。
「君、最近ラブレター、貰ったでしょ?」
確かに、貰った。それは事実だ。だが、自分には紬が居た。だから断った。しっかりと断ったのだ。
「うん、君が私を裏切るなんて微塵も思ってないよ。ちゃんと君から愛してもらってるっていう実感を君は毎日私にくれるから······君を疑ったりはしてないよ?ただ······我慢出来ないの!!」
驚いた。彼女はあまり大声を出して怒ったりはしない。なのに今日は、今まで聞いたことないレベルの大声だった。それに────目の焦点が合っていない。黒く黒く、濁った目をしている。
「君は私のなのに────君は私だけのものなのに!!馴れ馴れしく近づいて!!手を握って!!発情期のウサギみたいな目で君を見て!!擦り寄って!!私から君を盗ろうとして!!」
後半に若干盛られたであろう単語が聞こえた気がするが特に指摘せずに黙って聞くことにした。
「だから······隔離することにしたの、こうすれば私以外の女の子は近づけない、近寄らせない。アカギもお母さんも誰一人として近づけさせない!!大丈夫、君のお世話は私が全部してあげる。食事も着替えも用意してあるしトイレだって私が連れていけば何の問題もないし────性欲だって処理できるし······」
最後だけやたらと声が小さくなった。自分の発言に照れているようだ。しかし、直ぐにハイライトの無い、暗い目でこう言う。
「だから安心して、何も問題は無いよ。私がぜーんぶしてあげるから、ね?」
確かになにも問題は無いんだろう。きっと俺が働けないとか言うと『私が働くから』といって封殺される未来が見える。それくらいの覚悟はあるだろう。
だが、パソコンやソシャゲが出来ないというのは地獄だ。100%『そんなのより私を見て』とか言われるだろう。さてどうしたものか────
と、考えた時。とあることに気づいた。
────だが紬、これだとお前とデートが出来ないしお前を抱き締めることもできないのだが。
そう伝えると、顔を真っ赤にして照れながら暫し考えているようだ。
五分くらいだろうか、はっ、として顔を上げた彼女は足と手の拘束を解いてくれた。わかってくれたようで何よりだ。
────計画通り
礼を言って抱き締めて頭を撫でる。
「あっ······えへへ······あったかい······」
さっきまでの表情から一転し、ふにゃふにゃと表情が砕ける様子が非常に可愛くて何よ────
ガシャン!!
······ガシャン?
音がしたのは左の手。
目だけを動かして左を見ると、紬の右手と繋がっていた。
「これなら······問題ないよね?勿論、授業中とかは外すけど······登下校、昼休み、休日のデート、家の中、こうやって、手錠で繋げばいいよね?これなら君も動けるし、私を抱き締められるでしょ?」
どうやら彼女の方が一枚上手だったようだ。
その後、本当にデートする時や登下校の時に手錠を付けながら歩いているのを生徒指導の先生に目撃されて、説教をくらうのは別の話。
ヤンデレでも圧倒的癒し────!!