Fate/Grand Order side blood 作:シアンコイン
お久しぶりです、シアンコインです。
遅くなりましたねぇ(開き直り)
やっと続き書けましたので、投稿します。
あと前話の最後の方で所長について書き加えておりますのでご覧ください。
どうしてもこの話には付け加えられなかったんじゃ、許して………(土下座)
「ば、化け物ぉぉぉ」
人理修復の為、歪んだ歴史を本来の姿を戻す為に最初の特異点、フランスに降り立った藤丸立香、マシュ・キリエライト、最後に狩人の三人は現地のフランス兵を相手に大立ち回りをする羽目になっていたのだが。
最後の一人がそう叫び悲鳴を上げる中、狩人は内心でその通り故に何も口に出来なかった。
その場に転がるのは鎧越しの狩人の拳打により沈むフランス兵の者たちと、マシュの得物の盾で盛大に吹き飛ばされた複数。
鎧に拳の跡がついている辺り相当の衝撃があったのは目に見えて分かる。
「………、さて、聞きたいことがある。」
何処からともなくごく普通の杖を持ち出した狩人は杖先で怯える兵士の顎を持ち上げ、怪しく紅く光る瞳で涙を流す瞳を見つめた。
「正直に、話せば何処へなりと消えると良い。」
「ひ、ひ……」
「貴公らは何故、我々を敵と呼んだのか。その様子を見るに何かから逃げてきたのか?」
「お、お、お前ら、知らないのか魔女の事を…」
「……魔女…いいや、知らないな。察するに我々を魔女の仲間だと思い攻撃したのだな。」
身体を震わせながら何度もそう頷いた兵士に狩人は満足のいく答えを得られたのか、そうかと言葉を切り上げ後はマシュと主人に任せる事とし。
周囲の警戒に意識を向けた。
魔女という言葉に心当たりがあった彼ではあるが、正直もう会いたくもないし、もしいたとすれば厄介この上ないので存在を感知すればさっさと始末するのが得策だろう。
無尽蔵に湧き続ける旨味の無い傀儡を相手にするのはもうこりごりだった。
「匂うな………」
そう呟く狩人は焼け野原となった街の残骸の上、濃厚な血の匂いが充満する炎の街並みの瓦礫に足をかけ視線を彼方へ向ける。
視線は鋭く紅く躍動する、さぁ、姿を見せろ。狩りは終わらないのだ、人と言う獣が消えぬ限り、そう、終わらない、決して我ら狩人の業は終わらない。
しかし、真に獣が人の理を捻じ曲げるのならば、我らの
戦慄しろ、咆哮を上げよ、生まれいずる憤怒を向けよ。それらを持たぬのならば逃げよ、失せよ、夜を終えよ。
我らが狩るのは血に酔い、夜に呑まれ、復讐を誓い、誇りを示し、狂気に溺れ、己の愚行を呪い、未だ死に絶える事の無い途方もない獣性。
そして我らに叡智を与え、呪いを刻み、呪いの血、啓蒙を与えた憐れで愚かな
狩人の背後から叫び声が聞こえた、それは危機を知らせる警鐘、しかし狩人の耳にそれは届かない。
コート裏で唇を歪め、杖を構え散弾銃を取り出した彼は一歩踏み出した瞬間に杖を横薙ぎに振るう。
して、当然の様に現れる白銀の槍。軽快な反発音と共に弾かれた両者の得物。踏み込まず退いた狩人が捉えるのは5人の人影。
中央、自らと向かい合う様に佇むはブロンズの髪に色白の長身の男、並び立つは仮面をつけたこれた色白の婦女、その背に見えるは物々しい鉄の棺桶だろうか。
羽根つき帽にブロンドの髪、中性的な面持ちの人物に、鉈を手にした白髪の男性、そしてその身に仄かな神秘を纏う杖を持った女性。
全員皆、その瞳に獣性を宿していると見える。唯一理性が残っているのは杖の女性だろうか。
未だ、制御が効く狩人の本性、彼は思考する。『これら』は人ではない。自らと同じ英霊なのだろう、使者や獣とは違う、熟練の狩人達と認識した方が正しい。
5人すべてが手練れならばこの場に置いて狩人に勝機は万に一つもない。いや、夢を繰り返せば不可能な限りではないが現状、夢に落ちて戻ってこれるか定かではないそれはできない。
3対1ならば可能性はまだ残っていたが如何せん、無理があるだろう。
「問おう、汝は何者だ。」
「狩人、貴様ら、獣性に呑まれた獣を屠る存在だ。そして今は―――狩りの時だ。」
取り出したのは武骨な斧、鈍く光る刃を正面に立つ男らに向け狩人は構える。
「余を、獣と呼ぶか無礼者。」
ブロンドの髪を揺らした貴族服の男は一歩踏み出すとやがて、その顔に怒りを浮かばせ男を起点に大地から無数の槍が飛び出した。
「ッ!?」
即座に狩人は飛び退くもその槍は際限なく地から生み出され、彼を貫かんと迫りゆく。
何度も飛びのき距離を置こうにも槍が生み出されるスピードが上をいき、次第に狩人は追いつめられる。
「ハァァァッ!!」
ならばと、彼は斧を両手に持ち替えると柄を捻るように上下に引き伸ばした。そしてソレを盛大に横降りに大きく振るう。
人の域を超えた膂力を持って、強靭な獣を叩き潰す為に鍛えられた獣狩りの斧を振るい槍を無造作に破壊する。
「ほう……!」
「ッ、アァッ!!」
更にもう一度、慣性に任せ強く回転しながらその刃先を視線の先の男に向け振りかぶる。この一撃で屠れる可能性は限りなく低い。
しかし狩人は至って冷静に目先の事を判断し相手の隙を作る事を選んだのだ。狩人自身、この状況に意識を呑み込まれず居られることに一抹の疑問を感じながらも逃げ道を探している。
後僅か、ブロンドの髪の男に斧が今にも届き得そうなその瞬間、狩人とその男の間を割って不気味な鉄の棺桶のような物体が出現し、獣狩りの斧は男に届く事なく弾かれる。
「!?」
息を呑み、本能的に不味いと察した彼はその場を退こうと大きく後ろへ飛ぶが―――
「逃がさない…」
「ガ…ァ…!!」
失念していた、相手は複数であると、自らの脇腹から白銀に光る細剣が顔を出し血が滴っている。
しかし今はそんな事に構っていられる状況ではない。下げていた視線を上げれば地から生えていた槍が一本、反応するより先に彼の右肩を穿つ。
「ッ!! ッ!!」
悲鳴にならない声を上げ悶絶する狩人、その様子に興醒めしたのだろうか、ブロンドの髪の男は浮かべていた笑みを消すと傍らにいた数人の人影を引き連れ彼に歩み寄る。
「少しは出来るかと期待したが、この程度か。愚者には相応しい姿とも言えるがな。」
「貴方の戦いの方がよっぽど獣でしたことよ。フフフ……。」
禍々しい雰囲気を纏い、狩人を見やる英霊達。ブロンドの髪の男はその手の槍を狩人に向け。
隣に佇む白髪のマスクを着けた貴婦人は杖を片手に不気味に笑う。背後から腹を貫かれ、正面からは肩を穿つ槍により身動きが出来ない狩人は荒く息を吐き呼吸を繰り返していた。
「………血だ…」
「何…?」
「まだ……残っている!!」
しかし、その目はまだ赤く躍動している。
声高らかに、手にした斧を男に向け投げ捨てた狩人は鋭角な棘が無数についた棒状の何かを取り出し。
間髪入れずにその刃先を自らの腹に、文字通り、突き刺した。
「ッ!!」
当然、狩人の背からはその棘が勢いよく飛び出し背後に居た金髪の人物に迫る。
間一髪の所でそれを避け、顔を向けた先で見たのはその腹から引きづり出された棒状の何かが、血に濡れ、元の大きさよりを悠に越え血濡れた鈍器に成り替わった姿だった。
「此奴、何という武器を…!!」
驚愕する男を尻目に狩人はその鈍器、瀉血の槌を大いに振るい辺りの英霊らを退ける、飛び散る鮮血を尻目に狩人は空いた片方の手を懐に忍ばせ、二つの異物を取り出した。
他の連中が横やりを入れる前に狩人は手にした、黒い獣の手の様な物を握りしめると全身に力を溜める様に一瞬蹲る。
そして―――
「――――xxxxxxxxxxxxxxxxxxxxx!!」
言葉ではない咆哮、耳にすれば竦むような重圧な方向が狩人の喉から響き、圧となり周囲の瓦礫諸共、英霊等を吹き飛ばす。
ブロンドの髪の男が反応するよりも早く、再び狩人はその手に白い光を帯びた骨を握りしめる。
すると、まるで砂の塊だったかのように残影を残し狩人はその場から消え去った。
「ッ……、血を、流し過ぎたか……。」
自らの血が滴る瀉血の槌を片手に、物陰で膝を着いた狩人は槌を元の状態に戻すと注射器を取り出し、手慣れた手つきで太ももに突き刺し重い腰に力を入れて立ち上がった。
いい加減、主人の元に戻らなければ心配するか追って来るだろう。
聖女、ジャンヌダルクとマシュを置いて一人索敵だと飛び出した彼は追手が来る前にこの場を離脱する為に走り出した。
鋭く研ぎ澄まされた警戒心に、唐突に何かが触れる。それはまるで休日の午後に意気揚々と散歩に出かけるような、そんな朗らかな雰囲気を交え、彼の領域までに踏み込んだ。
追手の登場だとマスクの裏で笑みを深めるも狩人が対面したのは、それとはまるで違う存在であった。
「―――――血塗れね、それに追われてもいる。さぁお乗りになって、狩人さん。」
ガラスの様に透き通った馬の乗って現れた麗しき乙女がその場に現れた。
「………分かった?」
「……………、あぁ。」
輝く馬に乗っていた乙女、かのフランスの妃、マリー・アントワネットに助けられた狩人は偶然鉢合わせたのか彼女の仲間であるアマデウス・モーツァルトと共に狩人が戻るのを待っていたようで。
帰った途端に普段は優しい立花が据わった瞳で狩人に説教を垂れていた。
何分、団体行動にはなれていない彼からすれば難しい事でもあるが主人が戒めている以上、勝手な事は出来ないようだ。
「あらあら、まるで旦那様に怒る奥様の様ね。立花。」
そんな様子を火を囲みながら隣で見ていたマリーは面白そうに微笑んで、そう口にする。立花はその言葉に何を慌てているのか即座に否定して顔を赤う染めるも。
狩人は何処吹く風で闇夜に瞳を向けると、物思いに耽った。夫婦、そんなもの狩りの中では望む事の叶わない夢物語。暖かい家庭で病魔も無く、獣も無く、平穏に『血』などまるで関係ない世界など望めるはずがなかった。
それほどまでに混沌と、死と恐怖、狂気にヤーナムは濡れていたのだから。
拭えど拭えど消える事の無いあの夜に狩人は、どこかあの街を、世界を求めているのかと我ながら馬鹿らしいと笑い。息を零した。
隣ではマシュに立花、マリーにジャンヌ・ダルクと賑やかに乙女達が言葉を交わし。
視線を戻した彼はそんな光景を瞳に焼き付けた。もう、こんなに平穏で、静かで優しいものなど見れるとは思いもしなかったからだ。
「君は音楽を嗜むのかな、バーサーカー。」
いつしか赤い瞳に宿っていた呪いの炎は消え失せ、和やかに会話を聞いて居た彼に唐突にブロンドの髪の男、アマデウスが笑いかけながら彼に問いかける。
アマデウス・モーツァルト。誰もが一度は耳にするであろう歴史に名を遺した音楽の天才、そんな彼の言葉に狩人は考える素振りを見せ、一度頷いた。
「だが、俺の生涯は音楽とは無縁だった……。礼拝堂にいけど、教会に立ち寄れど、誰も楽器など弾けなかったからな……。」
記憶の根底を掬えば音楽を聞いて居たのかもしれない、しかしそれは最早自分ではないのだから聞いて居ないのと同義であろう。
「つまり嫌いじゃないと、そういう訳だね?」
「あぁ、出来れば貴公の音楽を聞かせてほしい。貴公の名は俺の耳に届くほどに偉大だったからな。」
「それはそれは、お誉めに預かり光栄だな。そうだね、この旅でピアノでも見つかれば是非演奏させてもらうとするよ、リクエストには答えたいからね。」
本心からの笑みだろうか、無邪気に微笑んだアマデウスを前に狩人は是非に、と一言付け加えて頭を下げる。
殺す事しか出来ない自分にとって、暴力以外で人を鎮め、世界に名を残した人物に敬意を払わない理由などない、そして凍りついていた彼の感情が少し動いたという事でもあったのだから。
「この空を、どう思いますか?」
立花にマシュ寝静まり、睡眠の必要がないサーヴァントである狩人は彼女達を守るように暖を取っていたマリー達に任せ、狩人は少し離れた草原の上で夜空、そしてその中央に居座る大きく、黒い穴に瞳を向けていた。
するとそんな彼の背後から穏やかな声音が彼に問いかける、背後の人物、聖女、ジャンヌダルクを一瞥した彼は再びその夜空に目を向けると小さく唸った。
「……………瞳のようだ。」
「瞳、ですか。」
「空に丸く描かれた光の輪、そしてその中はまさしく漆黒。俺は、瞳に見えた。」
狩人の言葉にジャンヌは成る程と、呟くと同じく空を見上げ口を開いた。
「良きマスターですね、彼女は。感情豊かで、優しい……女の子です。」
憂う素振りで瞳を細めたジャンヌの様子に空から視線を降ろし、隣を見れば彼女の顔は何処か悲し気にも見えた。
自らの境遇に重ねて立花を見た故の反応だろう。国の為、皆の為に立ち上がったオルレアンの乙女。自らの人生を引き換えに祖国を救わんとしたその姿は紛れもなく英雄そのものだ。
立ち上るべくして自ら立ち上がった、覚悟の元に。
しかし彼女はどうであろうか、偶然とはいえ数十人いるメンバーの中で唯一生き残り、焼却された世界を救わなければいけないという使命を押し付けられた少女。
境遇は似ていようが過程が違う、そんな彼女を想い。この聖女はそんな現実を憂いているのだろう。
狩人も、似たようなものだ。
気が付けば夢の中に居た、生き残りたければ押し付けられた使命。青き血を求め、夜を終わらせるためにと狩りを強いられたのだ。
逃げ場など何処にもない。何処までも追いかけてくる死と、恐怖に呑まれた先で狂い、おかしくなり、文字通り死に絶えた。
悲惨だ、取り繕う必要もない程に凄惨な世界に居た。
頼る相手もおらず、あるのは血濡れた鋸と己の拳だけだったのだ。
「……恐怖に怯え、動けずに死を待つのは誰にでも出来よう。 だが彼女は前に踏み出す事を選んだのだ、それは賞賛されるべき選択。決して悲劇の少女ではないさ、そうならない為に、俺達が呼ばれたのだろう………」
低い声音で空を見上げながら紡いだ言葉に、ジャンヌは同意するように頷くとまた口を開いた。
「気難しい方かと思いましたが、確かな意志を持つ御仁ですね。お話で来てよかった、それでは先に戻りますね」
夜に咲く向日葵のように綺麗な笑顔を咲かせた聖女は足早にその場を去っていく。
再び一人になった狩人は、帽子を脱ぎ人知れず夜風に身を晒したのだった。
唐突ですが、次回で一応、一区切りとさせていただきます。
申し訳ありませんが、このまま書けずに放置するよりも物語として一幕を降ろそうかと思っております。
それでは、また。