Fate/Grand Order side blood   作:シアンコイン

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ハッピーニューイヤー……(小声)

どうも、お久しぶりです。
シアンコインです。

前回所長の安否が判明すると書いたのに触れられてない件………。
次回まで待ってて下され………

先にこっちが書きあがったので投稿。
短いのはご愛嬌。



追記

最後の方で所長についての書き加えをさせていただきました。
作者の力量じゃ次の話に入れられなかったんじゃ、許して(土下寝)









File04「万能人」

「……………静かなものだな」

 

一人ごちたのは神父服に身を包み与えられた部屋の中で落ち着かない素振りの狩人だった。

武器は今は無用だと備え付けの机の上に置いてあり、どうにもやる事が無いというは狩人にとって些細だが悩みになりつつあった。

 

不自由ではないのだがどうにも落ち着かない、考えてみればヤーナムの血の医療を受けて以来、こうした平穏というものとは無縁のままだった。

何かにつけて血を欲し、血晶を求めそして青ざめた血を望んでいた。夜を終わらせる為に、夢から覚める為に。

 

果たしてその目的を果たせたのかと問われれば狩人は肯定しないだろう。

幾つもの夜を明け、繰り返し、繰り返し、繰り返し、そして辿り着いたのは幼年期の始まりという途方もない終着点であり始発点だったのだから。

 

だが気が付けば彼は受け継いだ狩人の夢を離れ、マスター、藤丸立香という少女に召喚され従者としてこの場に存在していた。

過去に、カインの騎士として女王に仕えていた事もあり気にしては居ないが長らくヤーナムから離れる事が無かった狩人にとってこの場は眩しい場だった。

 

獣の病が蔓延していたヤーナムの街並みは薄暗く、人を襲う獣、そしてソレを狩る街人、そして導かれた狩人達により混沌に包まれ元は人だったモノの死体が磔にされ火をくべられ。

全てを狩るまで終わるの無い狩りが途方もなく続けられていた。

 

少数のみが生き残ったカルデアが命の溢れた場と言われれば大概の人間は否定するだろう。

しかし狩人は肯定を示すだろう、死が溢れていたあの街、いや『世界』に比べればこの30人にも満たないこの場は間違いなく命の溢れた安全な地だと。

 

どこもかしこも哀しみ、そして狂気に満ちていた世界を抜け出した今。

安息という物を得られたと感じた彼は一人俯き、一人の狩人が愛用していた帽子、そして上着を脱ぎ素顔を晒した。

 

黒髪だった髪質はまばらに白く染まっており、その隙間から覗かせる一対の瞳は紅く輝く。

想像よりも端正に整った顔立ちは何処か儚げで憂いを帯びていた。

 

「鏡を見たのは……メンシスの時以来か……。」

 

『オォォォ……マジェスティック!!』

 

「…………、やれやれ…。奴は今も何処か悪夢に居るのやもしれんな………。」

 

備え付けの鏡を覗きこみ、懐かしげにそう呟いた狩人の脳裏に不意に一人の探究者の叫びが木霊する。

思わず真顔になった狩人は小さく息を漏らすと面白おかしそうに言葉を残した。

 

一時の間でも血を被る事が無いのならば今はこのまま、素顔で過ごすかと安易に決める狩人はシミ一つない純白のシーツのベッドに横になるのだった。

眠りにつく事はやや迷いがあったがそれも些細な事。もしかすればこの現状こそが悪夢であり眠りに落ちれば再びあの夢に戻れるのではないかと何処か期待していた。

 

『―――おかえりなさい、狩人様』

 

幻聴かもしれないが、聞こえたその言葉に狩人は静かに微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

    ◇

 

 

 

 

 

 

『狩人よ……聖域を目指したまえよ。』

 

静かに瞳を開いた狩人は泡沫の囁きを脳裏に浮かべ、その穏やかに眠るような囁きからくみ取れる思惑に屈託のない笑みを浮かべるとベッドから上体を起こし身なりを整える。

思えば『自分』が始まったのもベッドの上である。ココが新たな始まりの場なのだろうと勝手に解釈する。

 

(毎回毎回、知り得もしない事柄を当たり前の様に伝えに来る貴方には助けられていたのか……それとも…。)

 

黒の神父服に両腕には包帯を巻きつけ、狩人の帽子を纏った狩人はその部屋を後にする。

どこか足取りが軽い彼は何故か感慨深そうに一度振り返り明かりの消えた部屋を見据えると、再び歩き出しやがて部屋の扉は閉められる。

 

扉が徐々に閉まる中で扉から差し込んでいた蛍光灯の明かりはありもしない、車椅子の影を映し出していた。

彼の聞いた囁きは彼の思い込みか、それとも幻聴か、あるいは本当に誰かがその場にいたのかもしれない………。

 

 

 

 

 

 

   ◇

 

 

 

 

 

 

「――――、マスター。居るか?」

 

「………狩人?」

 

「あぁ、少し話をしたいのだが、構わないか?」

 

「う、うん。ちょっと待ってね。」

 

「………」

 

「どうぞ、」

 

「失礼する」

 

「……えっと、どうしたの?」

 

「いや何、主人の気晴らしに話をしようと思ってな。」

 

「私の? 私は大丈夫だよ、皆優しくしてくれるし別に何も悩んでなんか「嘘は必要な時に着くモノだ」ッ…。」

 

「ロマニ、彼からこの顛末を一通り聞いた。よもや俺の知らぬ世界で人類が滅亡したとはな……笑えない冗談だ。そして君の立場もだ、気を病まない理由は何処にもない。」

 

「うん、そうだね……確かに狩人の言う通り、気分は最悪で、どうしたらいいか何て分からなくて、堪らなく怖いよ……。悩みよりも絶望って言うのかな? もう頭の中グチャグチャで見当もつかない…。辛い、辛いよ……。

 

………それでもね、私がやらなきゃいけないんだもの。泣いてられないの、怖い、逃げ出したい、戦いたくない、けどそれじゃあの時助けてくれたマシュにも狩人にも、所長にも…申し訳ないじゃん。だから……大丈夫!!」

 

「そうか、言葉は不要だったな。……しかし、限界が来た時は素直になる事だ。よもや……発狂ほど、悲痛な終わりはない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは……工房か?」

 

主人の部屋を後に気の向くまま施設内を練り歩いた狩人は突き当りの人気のない扉の前に立った。何処か鼻に着く機械油のような匂いを感じた彼は伺う様に静かに扉を開く。

その先にはこれまでの施設とは一風変わった雰囲気の内装の工房らしきものが広がっていた。乱雑に積まれた書籍の数々、地面一杯に散りばめられた紙。

 

宙にから吊るされた鳥のような模型に机の上には何処かで見たような文字の殴り書きと羽ペン。どうやらこの部屋の主は早急の用事でこの部屋を後にしたのだろう。

机や棚を一瞥してもどうやら自らの装備をメンテナンスする事は出来ても、修理するには道具が足りない事は明らかだった。

 

それもそうだ、この場に『血』の技術があってはならないのだから。

 

だが、この部屋の設備もそれはそれで興味をそそられるモノがある。壁に立てかけられた何かの設計図に、走り書きのメモ。

本棚に並べられた書籍の一つに手を伸ばそうとした瞬間だった。

 

「――おやおや、人が部屋を留守にしていたら思わぬお客さんが現れたもんだね。」

 

背後から投げ掛けられた言葉に、狩人はゆっくり振り返ると帽子の下で瞳を見開いた。

 

「……また、奇妙な夢だな。」

 

思わず自然とそう呟いた彼の言葉に視線の先で微笑みを浮かべ続けている貴婦人は組んでいた腕を解き、ゆっくりと彼へ足を進める。

 

「夢とは面白い表現をする、いやはや夢と形容するのも致し方ない。今や世界中にて絶世の美女として語り継がれるモナ・リザが目の前に居るのだから!!」

 

意気揚々、得意げにそう口にした美女は綺麗な顔に妖艶な笑みを浮かべ狩人の顔を下から覗き上げる。

何処かに興味を引かれているのか値踏みするような視線に彼は気にする様子もなく、視線の先の女性に視線を合わせて沈黙を貫いた。

 

「フフフ、そんなに見つめるなよ。流石の私も照れてしまうじゃないか。」

 

「…………サーヴァント、バーサーカー…。 ここは貴公の工房だろうか?」

 

おどけた女性の言葉に、仕切り直す様に小さく小首を振った狩人は部屋を見渡して向かい合っている彼女に視線を合わせた。

するとわざとらしく肩を竦めた女性は微笑んだまま口を開く。

 

「そうとも、ここは私ことレオナルド・ダ・ヴィンチの魔術工房さ!! あっ、私の事は気軽にダヴィンチちゃんと呼んでくれたまえ。」

 

ほう、そう小さく呟いた狩人はかの有名な発明家にして画家、天才と崇められた自称『レオナルド・ダ・ヴィンチ』を目にして瞳を見開いた。

よもやこんな場所で過去の偉人に出会う事に成ろうとは思いもしなかったのだろう。

 

しかし、あまりにも口調が軽い。まさか男として伝えられていた人物が美女の姿でウインクしてくれば戸惑うのも無理はないだろう。

まるで人間のような反応をした自分に気づき自嘲するように小さく笑った狩人だった。

 

「さて、自己紹介も終わった事だしお茶でもと言いたい所だけど。状況が状況だ、さっきからロマニのコールが煩くてね。バーサーカー、君も当然関係する話だろうから一緒に行こうじゃないか。」

 

「分かった…。」

 

サーヴァントとして、狂戦士と自らを語った狩人に驚く様子も見せずに当然の様に彼を狂戦士と呼んだ目の前のダヴィンチ。

動揺なく、悠然と構え何か面白そうに笑みを絶やさない女性の底が見えなかった。同時にこの状況をいち早く理解し、冷静に判断できる人物だとも理解できた。

 

身体の奥底、何かしら特出した力を持っている人間はその身に独特の雰囲気を漂わせている。かつての狩人達の中にはそれを匂いとも呼んでいる者も居た。

視線の先で煌びやかな装飾の為された手甲を着けた手で取り回し難そうな杖を手にした、ダヴィンチからも勿論、匂い、雰囲気が溢れている。

 

包み隠さない余裕の表れというのだろうか、全身から漂うのは決して折れる事の無いであろう意思の強さ。彼を見ていた彼女の瞳には好奇心が滲んでいた。

そしてあふれ出ている神秘の力。人間ではなくなったが故に感じる事の出来るその力の大きさに狩人は小さく首を振って笑みを零した。

 

よもや(ミコラーシュ)を思い出したのは彼女の存在に何処かで察してしまったからかもしれないと。

しかし、彼女がかのレオナルド・ダ・ヴィンチだとするならば納得できてしまう。両者共に叡智を求めた人物であるのだから。

 

カツカツと軽快な音を鳴らし、明るく照らされた通路を歩く彼女の後ろに着いていく様に歩みを進める狩人は徐に懐に手を入れ何かを取り出した。

そして現れる使者の一人。彼の腕にしがみ付く事で服の中から姿を現した使者は古ぼけた青い用紙を彼に広げて見せた。

 

用紙を掴み上げ、一瞥した狩人は使者に用紙を渡すとゆっくり窓際に使者を降ろしレオナルドの後を追いかけていく。

やがて用紙を丸めた使者は灰色の泡をたて床の中に溶けていくように吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かの特異点、冬木での聖杯戦争は終結した、レフという異常を除き、やがてその世界は修正される。

その中で、一つの問題が顔を出した。それは所長、オルガマリー・アニムスフィアが死亡していたという事実だ。

 

ならばあの場にいた彼女は一体なんなのか、それは間もなくカルデアからの連絡により判明する。

所謂、魂だけの存在、思念の塊だと、現実、カルデアに帰還すれば憑代、帰る場所が存在しない彼女は消滅してしまうだろうと。

 

だが、修正が始まったこの世界に居ても消滅してしまうだろうと。

狩人の視界の中で泣き崩れ、行き場を無くし、覚悟もなく死を迎えようとしてる女性が彼の瞳には酷く哀しく映る。

 

『最初の頃』は自らもその死に怯えた身、致命傷を受け、血を垂れ流し、臓物を引きづり出され地面に這いつくばり、酷く寒く感じるあの感覚は我ながら精神に傷をつけた。

しかし目の前の彼女はそれを『夢』にできない存在、一度きりなのだ。

 

加えて、気が付けば死んでいたなど常人なら耐えられる事柄ではない。

 

―――――まぁ、最も狩人自身、啓蒙が足りない頃は見えない何かに掴まれて死んだ記憶もあるが。

 

だから、可能性があるのならば。

 

生きたいと願うのならば。

 

一抹の可能性に掛けるとしようじゃないか。

 

徐に、狩人は泣きじゃくるオルガマリーに歪な大鎌を振りかぶり、斬り裂いた

 

 

 

「ほうほう……成る程成る程…。興味深い力、いや宝具なのか、君の持つ武器も、実に、実に興味深い。時間をかけてじっくりと見せてもらいたいものだが今は我慢するとしよう。それで狂戦士――――」

 

―――その目論見の自信は如何ほどに?

 

そう微笑む視線の先の女性、ダヴィンチを前に狩人は静かに息を吸い込むと口を開いた。

 

「………偉大な先駆者の一人が作り上げた人形、その人形は俺達狩人の手助けとして言葉を話し、祈りを捧げ、力を貸してくれていた。」

 

「つまりそれは、その人形が魂を持っていたというのかい?」

 

「…どうであろうな……。しかし彼女は無機質な身体を理解し心を感じていたのだ、そんな彼女に魂の所在を問うなど無粋だろうよ。」

 

――――ならば

 

「魂が存在し、それを受け入れる器があるのなら出来ない道理も存在しない。」

 

懐に手を入れた狩人が取り出すは淡い光を明滅させる球体、椅子に座らせられたクラシックな等身大の人形に向け握力のみで砕く。

 

 

ガシャリ

 

 

ガラスが砕け散るような軽快な音が部屋いっぱいに響くと淡い光は行先を求める様に人形へと吸い込まれていく、神妙な面持ちでそれを見つめる主人、マシュ、ロマニ、ダヴィンチ。

カチカチと振り子時計が音を鳴らし、妙な静寂が部屋を支配した。

 

数分を持って人形の指先が独りでにピクリと動く、それを見据えた狩人はコート裏で静かに笑みを浮かべ掌に巻きつけた包帯を解き素手で人形の頭に触れた。

 

――――目を覚ましたまえよ

 

狩人が一度は終えた狩りの先に手に入れた上位者としての力、それを今人形の中で眠る魂に向かい行使する。

やがて静かに無機質な瞼が開き作り物の綺麗な瞳が部屋を見渡した。

 

満足気に息を漏らした狩人は包帯を再び巻きつけると壁に寄りかかり腕を組んで、この先起きる事に笑顔を浮かべるのだった。

 

「………ダヴィンチ、にロマニ……マシュと立花……? 私は……。」

 

この先を語るのも無粋だろう、だが言うなればそう。

 

少し位の希望もあって然るべきだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――西暦1431年 フランス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……素手か、手加減はしかねるぞ。」

 

「峰打ちです、バーサーカーさん!!」

 

「盾で峰打ちって……え?」

 

 

 

 

 

 

 

武装したフランス兵たちを前に、人理修復の旅は始まりを告げるのだった。

 

 






ダヴィンチちゃんとミコラーシュって相性どうなんでしょうね(遠い目)

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