セングラ的須賀京太郎の人生   作:DICEK

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現代編15 長野県大会 団体編⑦

 

 

 

 

 桃子にとっての麻雀はただの手慰みだった。色々あったゲームの中で一番向いていて勝てるからやっていただけで、特に好んでいたという訳ではない。幸いリアルで自分を見つけてくれる人がいなくても、ネット上ならば相手に事欠かない。

 

 教室になど通ったことはなかったがネット上での成績は悪くなく、中学に上がる前に五段に上がれたことは桃子の中では密かな自慢でもあった。

 

 今でも麻雀はただの手慰みであり手段に過ぎない。でも、大好きな彼がこれに一生を捧げているから、少しは真面目にやってみることにした。いきなり真面目になるのもちょっと恥ずかしいのでこっそりと。大親友たる二人には及ばなくても、少しでも彼に追いつけるように。彼が少しでも自分のことを見てくれるように。

 

(そんな前向きな理由で始めたはずなんすけどね……)

 

 咲は京太郎と同じ清澄に進学し、淡は京太郎の紹介で照が働きかけ特待推薦をもぎ取って白糸台に進学した。なら自分は――単純に近いからという理由で鶴賀への進学を決めた。

 

 やるにしても高校に入ってからで良いっすと、何もかもを先伸ばしにしていたのをしっかりと神様も見ていたのだろう。鶴賀に麻雀部が存在しないことを桃子が知ったのは、入学式も終わった翌日の、オリエンテーション当日のことだった。

 

 調べられることは全て調べ、やれることは全部やる。準備に勝る成果なしといった京太郎にこの事が知られたら恥ずかしくて顔も見られない。後から言って驚かせようと、麻雀部に入るつもりだと京太郎にも咲にも言わなかった過去の自分を褒めてあげたい。

 

 とは言うものの、自分を褒めているだけでは何も始まらないし変わらない。部活が存在しないのであれば、最悪自分で立ち上げるより他はない。まさか友達のいない自分が同好会の立ち上げとは……と憂鬱な気分で調べを進めると、幸いなことに同好会は存在していることが解った。規定により部活のオリエンテーションには参加させてもらえなかったらしい。

 

 準備とか下調べって大事だろ? と脳内にニヤける京太郎に惚れ直しつつ、クラスメートからそれとなく情報を集めた所、メンバーは三年と二年が二人ずつの四人。部への昇格は一年の活動実績、部室と顧問の確保、部員五人以上であるから、桃子が加入すれば部員の要件は満たすことになる。

 

 部室と顧問はどうだか知れないが、麻雀を部活でやろうというのだから流石に牌くらいはあると思いたい。できれば全自卓が欲しい所であるが、発足したばかりの同好会では高望みのような気もする。マットに手積みというのは覚悟しておいた方が良いだろう。

 

 なお同好会か正式な部かどうかは鶴賀の中での問題であって、外に出た場合は関係がない。鶴賀の外に出る時に集団を一つに絞れるのであれば、公式戦へのエントリーは可能だ。その場合鶴賀の中で同好会であっても、公式戦での記録は麻雀部となるが、些細な問題である。

 

 自分がその同好会に参加するとして、これ以上部員が増えなければ自動的にレギュラーだが、自分以外がへっぽこでは流石に頼りない。入るにしてもリサーチは大事と、入学前の失敗を繰り返さないよう、先にメンバーの腕前を見ることにした。

 

 聞けば学内のサーバを利用して麻雀ゲームを行い、ネットワーク上で勧誘活動を行っているという。いよいよ牌の実物があるかも怪しくなってきたが、桃子も京太郎たちと打つ時以外はネット麻雀が中心である。牌に触らないと、などと偉そうなことが言えるほど経験豊富でもない。

 

 何よりまずは腕前を知るべきだ。放課後の教室で同好会の部屋にログインすると、既に自分以外の席は埋まっていた。対戦相手は『かじゅ』と『かまぼこ』と『むっきー』の三人。まさかこの作りのゲームでAIなど用意しているはずもなかろうから、順当に行けばこれが現在の麻雀部――正確には同好会のメンバー全員なのだろう。相手は三人で待機している人間はいない。一人足りないような気がするが、その辺りは良い。

 

 さて、実力試しと軽く――当然勝つつもりでいた桃子は目を見張った。四月時点で結成されている同好会のメンバーである以上全員先輩なのだろうけれども、『かまぼこ』と『むっきー』は正直大したことがない。高校から麻雀を始めて少し経った。ひいき目に見てもその程度だ。だが『かじゅ』一人が群を抜いて上手い。打ち取れると思った時に振り込んでこないし、逆にそこで待つかというところで待ち桃子からも直撃を取った。

 

 二半荘を行って二回ともトップだ。ツモ力はそれ程でもないが、当たり牌を一点で読み気持ち悪いくらいに止めてくる。その読みに自信があるのか踏み込みも鋭く、結果として多くの点棒をかっさらっていった。

 

 きっと京太郎とは気が合うタイプだろう。逆に感性が先行するタイプの咲や淡とは全く話が合わないに違いない。

 

 桃子はその二人よりも理論派で、麻雀に対する考え方は京太郎に近い。と言うのも桃子の持つオカルトは相手から感知されなくなるだけで、手の組み立てには何も影響しない。直撃を取る。そこに至るまでの過程は自分の力だけで処理をしなければならないのだ。

 

 分類するなら咲も淡も自分も皆オカルトのはずなのだが、どうにも自分一人だけが余計に理論を学んでいる上に、火力も低い気がしてならない。全く神様ってのは不公平っすと愚痴りながら、対戦のログを家に持ち帰り『かじゅ』の打ち回しを分析してよりその考えを深めた。

 

 間違いなくこの『かじゅ』は自分よりも上手い。この人と一緒なら麻雀部での活動も楽しいものになるだろう。ついでに京太郎に紹介したら喜んでくれるに違いない。

 

 どちらかと言えばそちらの方に比重を置き、麻雀同好会への参加は少し先送りにしていたはずなのだが、やはりデキる人というのは行動も迅速であるらしい。最初に麻雀ゲームをやったその翌日に『かじゅ』の中の人は桃子の教室へと現れ、その結果として東横桃子は鶴賀麻雀部の団体メンバー副将として県大会に参加している。教室に現れた彼女の『私は君がほしい!』という言い回しに、一発で絆されてしまったのだ。

 

 淡の時と言い、菫の時と言い、今回のことと言い。もしかして私は惚れっぽい女なのではと思わずにはいられない。『かじゅ』改め加治木ゆみはとても優しくかっこよく素晴らしい人だったが、次に『惚れる』人がそうとも限らないのだ。ダメな人にひっかかったら転がり落ちるように自分もダメになっていく、そんな気がするのだ。来年はもう少しクールになろうと心に決める桃子である。そう、加治木先輩のように。

 

 クールキャラで振る舞いながら場決めの牌を引き、着席する。その直後、自分の上家に座った少女の――正確にはその巨乳を見て、桃子のクールキャラは早くも崩れることになった。

 

 たぷんとかたゆんとか、そんな音が聞こえてきそうな重量感のあるおもちの持ち主の名前は原村和。去年のインターミドルのチャンプであり、桃子たちの学年では県下一番の有名人である。桃子も顔だけは知っていたし、京太郎や咲と同じ清澄に通うということで危険を感じてもいた。

 

 ついでに咲からは三日に一度は京ちゃんが鼻の下を伸ばしてるんだよ! と怒りのテレホンがやってくる。一緒になって怒っては収拾がつかないと、京さんはおもち星人っすからねと流していたのだが、実物を見て咲の怒りはもっともなのだなと実感した。

 

 童顔で巨乳。身長は女子としては普通の部類で、咲や自分と同じくらいだと判断する。これで麻雀の腕が同年代最強と京太郎の好みを狙い打ちにしたような存在であるが、あくまで咲の話ではあるが京太郎に入れ込んでいる様子はなく、むしろこのおっぱいさんの方が京太郎に夢中になっている有様だという。

 

 この巨乳と知り合いだったら自分たちが知らないはずはないから、知り合ったのは清澄に入学してからのはず。ならば付き合いはまだ三か月少々と行った所のはずだが、咲のテンションを鑑みるに、京太郎とは相当仲良しのようだ。

 

 この容姿の美少女から矢印が出ていて同級生で同じ部活。なるほど、世が世ならぶっ殺すしかない存在であるが、幸い桃子はその原村和と同卓することができた。このおっぱいさんの京太郎に対するアピールポイントの一つが麻雀であるなら、それで上回れば自分のアピールになる。

 

 同じ部活故に公式大会で同卓する機会の少ない咲にはできない『原村和を公式大会でぶっとばす』機会に恵まれたと考えれば、この巨大なおもちに対するイライラも少しは晴れるというものだ。

 

(おっぱいさん個人に恨みはないっすけど……私の恋の前に消えてもらうっすよ! ここから先はステルスモモの独壇場っす!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうにも下家からの視線が痛い。そちらに目を向けると黒髪の美少女がいた。黒い綺麗な髪を肩口で揃えた、控え目な雰囲気の美少女である。

 

 写真で何度か見たことがあったし、そもそもここに向かう前にも京太郎から話があったので、この黒髪美少女が誰かは和も知っている。京太郎や咲の話に度々出てくる『モモ』さんであり、和にとってはこれが初めての邂逅だ。

 

 咲の大親友。京太郎とは共通の友人。和の目から見て同年代で一番麻雀が上手い京太郎曰く、中々麻雀が達者だと言うから油断できないが、それ以上に和の心を惹きつけるものがあった。

 

 和の視線が桃子の顔から下に移る。そこには自分ほどではないものの高校一年にしては大きな胸部があった。

 

 誰に自慢できるものではないが、実は和には母親にしか言っていない特技がある。

 

 目視さえすれば例えパッドなどで誤魔化していたとしても、正確なバストサイズを看破できるのだ。自分の胸が膨らみ始めてきたころ、バストサイズがどういう数値なのか把握したその時から可能となったこの能力は、実生活では何のプラスにもなったことがない。

 

 ひょっとして皆こういうことができるのではと母に相談した所、どういう訳か母は『流石恵くんと私の娘!!』と大層喜んでくれた。何が嬉しいのか聞いても答えてくれなかったが、とにかく母にとっては嬉しいことであったらしい。

 

 この能力でプラスになったことと言えばそれくらいだ。ともかくその能力で桃子の胸を分析してみたところ和よりも二回りは小さいと判明した。

 

 ところで、何事にも適正値というものが存在する。過ぎたるは及ばざるが如しとも言う。胸だって大きければ大きいほど良い訳ではないのだ。そりゃあ大きいに越したことはないはずだが、物には限度というものがあるはずで、自分はそろそろその限度を超えつつあるような気がしてならない。

 

 京太郎はおもち星人であるし、見た目を理由に女子を遠ざけたりするような男性ではないはずだが、できることなら好みに沿いたいというのが乙女心というものだ。

 

 その点、桃子の胸は現実的にかなり良い線を行っており、和の分析では更に成長する見込み――というよりも、まさに急成長している最中のようである。他校で良かった。同じ清澄にいたら咲よりも遥かに危険人物であり、世が世ならぶっ殺すしかない相手だ。

 

 そう言えば風越のキャプテンも京太郎の好みを具現化したような女だった。理想の女がどうとか具体的に聞いたことはムカつくので一度もないが、はやりんを世界一可愛いと常々言っているのだからあの系統の面が好みなのだろう。

 

 であるならば自分もかなり良い線を行っていると思う。エプロンでも着てにっこり微笑んでみれば京太郎も少しは鼻の下を伸ばしてくれるかと脳裏に思い描いてみるも、にっこりほほ笑む自分というのがどうにも上手く想像できない。

 

 和の苦手なことの一つが愛想よく振る舞うことだ。今までそれで困ったことはないが、好きな人の前でかわいく振る舞うことができないというのは、乙女の心を焦らせる。

 

 とりあえず笑顔は鏡の前で練習するとして、エプロンを着てする真っ当なことと言えば料理である。こちらは苦手ではないものの京太郎の特技であるため、一緒に料理をすることはあっても一方的に振る舞うということはほとんどない。

 

 むしろ和を含めた麻雀部の女子全員が、普段の部活で京太郎にスイーツを振る舞ってもらう側だった。これではいけないと常々思うものの、美味しいスイーツを前には口も堅く腰も重くなるというもの。女は大抵甘いものに弱いのである。

 

 思えば京太郎の理想の女性像であるところのはやりんもお菓子作りが得意であるらしい。容姿と言い体つきと言い中身と言い、総合すると風越のキャプテンや自分の上位互換とでも言えるはやりんであるが、では和から見てはやりんがいる限り風越のキャプテンは脅威ではないのかと言えばそういうことでもない。

 

 同系統で違う方向性とでも言えば良いのだろうか。おそらく脅威度という点でははやりんと風越のキャプテンにそれ程差はないはずなのだ。

 

 単純な見た目の好みこそ存在するが、京太郎は良い意味で女に順位を付けない。ある意味ではそれは良いことなのだが、恋する乙女にとっては最悪なことがある。容姿が確たる優劣になりえないということは、翻って言えばどのような容姿の女にも等しく目移りするということでもあった。

 

 こいつなら安心と思える相手が存在しないのである。故に過去京太郎と一緒にいた女子は自分たちで囲って外との接触を断つという選択肢を取り続けてきた……はずだし、清澄でもそれは成功している。まさか自分と優希と咲の三人で囲っていても、なお外からちょっかいをかけてくる女は存在するまい。

 

 懸念があるとすればまこや久を経由して、二年三年の女がちょっかいをかけてくることであるが、久は何だかんだで京太郎のことを男の子として気に入っているようであるし、まこも満更でもない様子である。麻雀部が今の五人でいる限り京太郎の身の安全は固いだろう。

 

(その間彼女はできないかもしれませんが、私が寂しくないようにしますので我慢してくださいね)

 

 さて。目下の問題は下家の黒髪おもち美少女だ。幸いなことに和の世間での評価は同年代での最強。海外からの留学生を考慮に入れなければ実力の上では風上に立っていたはずだが、それも約一年前のこと。

 

 京太郎によれば実力の向上には環境が大きく作用するという。中学も強豪校で高校も強豪校なライバルと、中学も高校も強豪ではなかった和を比較した場合、どちらの環境が恵まれているのかは言うまでもない。

 

 鶴賀の麻雀部は清澄と同じ、補欠なしの五人である。京太郎が一目置いているとは言え、環境としては清澄と同等かそれ以下の鶴賀の同級生に遅れを取るようでは、全国のライバルに勝てるはずもない。

 

 勝てる相手と油断して良い訳ではないが、勝たなければいけない相手なのだ。和の心にふつふつと闘志が燃える。

 

(麻雀と京太郎くんがなければ友達になれそうな人ですが……私の明るい未来の礎になってもらいますっ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人の感情に色が見えるとすれば、彼女らの感情はきっと桃色なのだろうと思う。目の前の勝負に気持ちが乗るというのは良いことなのだろうが、雑念ばかりが見えるというのも先達としてはどうかと思う透華だった。まして同卓した二人もが、自分の弟分に熱を上げているとすれば猶更だ。

 

(全く京太郎のモテること……)

 

 かわいい弟分のことだ。透華も自分のことのように嬉しく思う。これで対戦相手二人の足元が疎かになっていれば言うことはなかったのだが、気持ちが乗った分感性も鋭くなっているようで付けいる隙は少ない。

 

 これが恋する乙女の力なのだろうか。一や智紀を見るにそこまで感性に違いが出るとも思えないが、眼前の二人のように感性が鋭くなるのであれば恋をしてみるのも悪くないかもしれない。

 

 その時は純以外から小言を言われそうではあるが、それはきっと自分が悪いのではなく魅力的な弟分のせいなのだろう。男が原因で女が争うのだから、その責任は男が取るものだ。

 

 本当に、想像するだけで楽しい。試合前とは思えない愉快な気持ちで対戦相手をぐるりと見渡す。

 

 同卓するのは二人が初めてだ。三人の内、原村和と鶴賀の選手が一年。風越の選手だけが二年である。龍門渕としては、風越とは去年も戦っている。印象に残っているのは去年も先鋒を務めた福路美穂子のみ。その読みの鋭さは戦慄を覚えた去年よりも更に鋭くなっていたように見えた。

 

 先鋒と同じく大将も去年と同じ選手が務めているが、これは衣が相手をするならば何も問題はないだろう。殻を破った宮永妹が脅威であるが、こればかりは試合の行方を見守るより他はない。

 

 ともあれ今は風越の選手だ。智紀の話では彼女が頭角を現してきたのは、去年の三年が引退し、キャプテンが福路美穂子に変わってからのこと。レギュラーがほぼ定位置に入ってきたのは今年に入ってからである。

 

 龍門渕のロートル部員を全員叩きだし、一年五人で団体に出た透華からすると三年がいなくなって二年でようやくレギュラーというのは遅い気もするが、世間一般ではそれが普通のことであるという。一年よりも二年、二年よりも三年が強いと考えれば、そも自分たち五人や三年二年がいるにも関わらず、一年でレギュラーになった美穂子や池田が優秀なのだ。

 

 デジタルを標榜している透華だが、流れというのは大きな視点のものであれ、小さな視点の物であれ無視できないものだと思っている。流れに乗ってレギュラーを勝ち取ったのなら、本来ならば軽く扱って良い物ではない。風越のような強豪校であるなら猶更――と京太郎ならば分析するのだろうが、透華の視点で見る限り風越の選手は全く持って脅威ではない。

 

 やはり原村和か。一がことあるごとに呪詛を飛ばす大きな胸は今日も健在である。間近で見るのは二度目だが、確かに一が呪詛をかけるだけのことはあると思う。透華の手では間違いなく手に余るし、男の京太郎の手でも持て余すだろう。

 

 物の本では男性が激しく女性を攻め立てる時に『胸を鷲掴む』そうであるが、これでは京太郎の手でも掴むのではなく持ち上げることになるかもしれない。

 

(見事なのは認めますが、過ぎたるは及ばざるがごとしですわよ?)

 

 だから龍門渕(うち)の誰かにしておきなさい、と心の中で京太郎へと念を飛ばしながら、鶴賀の選手を見る。

 

 関係の()()話であるが、京太郎は口が固い。こと対戦相手が自分の知人で固まる時、本人から許可されていない限り、彼が情報を漏らすことは絶対にない。男として人間として信用のできる相手だ。

 

 透華以外の全員も、鶴賀の副将――東横桃子が京太郎の知人であることは知っている。初見の相手だが決勝までの牌譜を見る限り中々打てる相手だとも解るし、どうやら振り込みを誘発する『何か』を持っていることが判断できる。

 

 当然、京太郎はそれを知っているのだろう。桃子が許可を出している可能性はあるし、聞けば教えてくれるかもしれない。

 

 だが透華たちはそれをしなかった。少なくともこの東横桃子に関しては聞くまでもなかったからだ。

 

 

『俺の友達にモモって奴がいて――』

『――消えるオカルトなんですけど』

『何か知り合いの巫女さんがそれを再現できるって――』

 

 

 京太郎は口が固いし義理堅いし記憶力もある方だが、未来が見える訳ではないし用心深い方ではない。話した時はまさかこんなことになるとは思っていなかっただろう。

 

 今ごろ思い出して顔を青くしているかと思うと姉貴分として心が痛まないでもないが、これも勝負と諦めてもらうより他はない。勝負の世界は非情で、姉も弟もないのものなのだ。

 

 それに京太郎が心を痛めたのならばいくらでも癒してあげる準備もできている。どの道全国には龍門渕が行くのだから京太郎を連れ回して遊びまくるのも良いかもしれない。レジャーを楽しむもよし、引きこもって夜通し遊ぶもよし。歩も入れて七人で遊べば、きっと楽しいだろう。女の知り合いがちょっかいをかけてくるだろうが、その前にかっさらってしまえば問題はないし、何なら海外まで連れ出す準備もある。

 

 先手必勝一撃必殺。そのためにはまずこの決勝戦を物にしなければならない。尋常なる勝負である。負けるつもりでやる道理はない。元より見た目からおもちから京太郎と同じ部活という境遇から、色々と憎々しく思っていた原村和が相手というのも天の配剤である。ここで華麗さの二つも三つもアピールすれば、京太郎からの尊敬を勝ち取れるだろう。

 

 

 

(衣と愉快な夏休みのため――華々しく散ってもらいますわよ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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