セングラ的須賀京太郎の人生   作:DICEK

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65 中学生三年 有珠山高校麻雀部編

 

 

 

 

「申し訳ありません。次の日曜には予定があります」

 

 有珠山高校卓上遊戯部。放課後、次の休みに何をしようかと切り出した爽の言葉に、由暉子がそう返した。

 

 これは珍しいことである。

 

 有珠山高校の部室にいるが由暉子は高校生ではない。試験には合格したので順当に行けば来年度からこの高校に通うことになるため後輩には違いないが、年度の変わっていない現時点で彼女はまだ中学生だ。

 

 中学生の身で高校に顔を出していることからも解るように、由暉子はとっても友達が少ない。ここに集った人間以外にいないのではと爽たちに不安を抱かせるくらいに、友達の気配というのが全くと言って良いほど感じられなかった。その分自分たちが良き友達であれば良いと思うものの、この部で来年一年であるのは由暉子一人だけ。次の年には爽と誓子が卒業し、その次には揺杏と成香が卒業する。

 

 つまり新入部員が来なければ、いずれ由暉子が一人になってしまうのだ。 最低限、由暉子以外の新入部員を一人二人確保しておきたいところだが、既に部員四人になっている事実を鑑みるに、相当気合を入れないと厳しいというのが部長である誓子の見立てである。そもそもまだ見ぬ新しい部員とユキが上手くやっていけるという保証もないのだから前途は思っている以上に多難であるのだが、それはさておき。

 

「ユキちゃん、どこか出かけるんですか?」

「長野から友達が来るんです。小学生の頃の友達なんですけど」

「ユキは長野に住んでたのか?」

 

 大事な友達ではあるが、由暉子との付き合いはまだ浅いために知らないこともある。爽たちは全員、由暉子は生まれた時から北海道に住んでいたのだと勝手に思っていたのだが、どうやら違うらしい。

 

「いえ、小学生の頃、少しだけ東京に住んでいたことがあります。その時の同級生です」

「ってことは中三か……なんでまた北海道に?」

「中学の卒業旅行で北海道を一人旅で横断するんだそうですよ。その途中にこの辺りまで来るので、どうせなら会おうということになりました」

「金持ちなんだなーその同級生」

 

 中学生が一人で卒業旅行というのも大分ぶっ飛んだ話であるが、それに北海道横断を選ぶというのも珍しいように思う。自分でお金を貯めたにしろ親に出してもらうにしろ、中学生という身の上ではそれなりの金額が飛んでいくはずで、どういう手段にしろ北海道を横断するのであれば、金に加えてかなりの時間を食うことになる。

 

 その内一日を割いて由暉子と遊ぶのだから、その友達からのユキの好感度は決して低くないように思えた。ぼっちだと思っていたせいかちゃんと遊ぶ友達がいることに、爽などはほっこりとした気持ちになる。

 

「これはあれかな、私たちからもご挨拶とかした方が良いのかな」

「いらないんじゃない? まさか爽、押しかけるつもり?」

「いやー、邪魔するつもりはないけどさ、何というか、気になるじゃん?」

 

 なぁ? と爽は部員の顔を見回す。久しぶりに再会する友達二人の時間を邪魔するべきではないというのが模範解答であると解っていても、それはそれとして気になるものは気になるのである。揺杏も誓子も成香も由暉子の友達が一体どんな人間なのかとても気になっていたのだ。

 

「先輩たちも一緒に来ますか? それなら確認しておきますけど」

「ないない、それはない。私はユキとの時間を邪魔したいんじゃなくて、どんな女の子なのか見ておきたいだけ――」

「男の子ですよ? 名前は須賀京太郎くんといいます」

 

 沈黙が流れたのは一瞬。爆発したのは、

 

「ダメだ! 絶対ダメ!」

 

 案の定爽だった。にこやかなムードから一転、由暉子を説得するためにテーブルを飛び越えた爽を見て、誓子は溜息を吐く。後輩がかわいいのは解るが、少し過保護過ぎやしないだろうか。同じ考えの人間を探すために部室を見まわすと成香と視線が合う。彼女は同意してくれるようだが、揺杏は姿勢からして爽よりの考えのようだった。由暉子以外の部員の考えが、綺麗に二つに分かれた恰好になる。

 

「中学生の男子なんて獣に決まってるだろ! 久しぶりに再会した同級生がこんなロリ顔巨乳になってたら、どんな聖人だってビースト・モードにチェンジするはずだ!」

 

 一応、教会の娘としては聖人がビースト・モードというのは微妙に看過できない発言ではあるのだがそれはそれとして、中学生の男子に今の由暉子を引き合わせるのが危険、という爽の主張には大いに同意できるところがある。

 

 頭より大きいのではないかという胸は女性の目から見ても凶器であり、その凶器をぶら下げているのは身長140センチにも満たないロリ顔美少女である。来年高校生になる年齢なので、特殊な需要満載の麻雀プロ三尋木咏のように合法でもない。去年インターミドルを制した原村某も十分凶器だったが、女子としては標準的な身長である彼女に対してユキは更に低身長というのも加わっている。

 

 バストサイズに大きな差がなければ、身長が低い分由暉子の方が見た目には大きく見えるはずだ。原村某に思うところがある訳ではないが、程度に差があるだけで誓子も身内贔屓はするのである。

 

「でも、アイドルだからってボーイフレンドの一人もいないってのはあざとすぎない? 例のアイドルの人気投票でもスキャンダルのあったアイドルが一位になったばかりでしょ?」

「途中からできるのと最初からいるんじゃ全然違うだろ! デビュー前から男がいるなんて絶対にダメだ!」

「別に須賀くんとお付き合いをしてる訳じゃありませんよ?」

「長野から北海道まで来て女子と二人で遊ぶなんてユキに気があるに決まってる!」

「別に私に会いに北海道までくる訳では……」

 

 由暉子は爽の勢いに引き気味であるが、では相手の男子に全くそんな気がないかと聞かれると判断に困る所ではある。昔馴染みとは言え、小学校以来全く会っていないらしい女子に、旅行のついでとは言え男子の方から会おうというのは下心があるように思えなくもない。由暉子は全く警戒していないようだが、彼女は元からそういうタイプだ。人の悪意に無頓着というか、自分の容姿にまるで拘りがないというか、これまで悪い男にひっかかっていなかったことが奇跡のように思える。

 

 そう考えるとアイドル云々は別にして、爽が男子を警戒するのも解らないことではない。爽にとっても誓子にとっても、由暉子は大事な後輩である。悪い男にひっかかって身の破滅なんてことにはなってほしくないのだ。

 

「ユキはその須賀くんとお付き合いをしてる訳じゃないのね?」

「そうです」

「須賀くんに交際を申し込まれたらどうする?」

「多分、受けると思います」

 

 ほらー! とエキサイトする爽を見もせずに、誓子は軽く手を挙げて指を一本立てる。『黙りなさい』という無言の主張に爽はスイッチが落ちたように沈黙した。自己主張の機会こそ多い爽だが部内の力関係ではまだ誓子の方が上なのである。部室で話が切りだされた以上部の問題と言えなくもない。乗りかかった船だと誓子は最後まで面倒を見ることにした。

 

「長野と北海道なのに?」

「それは須賀くんも承知で申し込んでくるんでしょうから、私の方には拒む理由はありません」

「一応確認だけど、交際する相手は誰でも良いって訳じゃなくて、須賀くんだからOKしたのよね?」

「そうですね」

「須賀くん以外に交際を申し込まれて、OKしても良いと思える男子はいる?」

「いないです」

 

 淡々とした受け答えであるものの、どうにも由暉子の感触が悪くない。これだと本当に須賀くんとやらがビーストモードだった時に頂かれてしまいかねないと誓子は判断した。確かに中学生男子から見て由暉子はとても美味しそうに見えるのだろうが、かわいい後輩を早々毒牙にかけさせる訳にはいかない。

 

「爽、トランシーバーとかあったわよね?」

「部室のどっかにはあると思うけど……ユキをストーキングでもするのか?」

「見守りって言って。私もちょっと不安になってきたから」

「須賀くんなら大丈夫だと思いますけど……」

 

 苦言は言うが反対はしない。由暉子にとってはどちらでも良いのだろう。年頃の女子にあるまじき積極性のなさに誓子はますます不安を募らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、こうして女子高生四人で女子中学生をストーキングしてる訳だけども」

「見守りよ」

 

 訂正してから、待ち合わせ場所にいる由暉子を見る。爽たちのコーディネイトで初めて花開いたように、私服の由暉子というのもそれはそれは地味だったのだが、主に揺杏の活躍によってそれも解決されていた。流石に麻雀大会用のアイドルコーデ程派手ではないものの、これまでの由暉子では考えられないくらいのカラフルで華やかな見た目に仕上がっているのだが、それが逆に誓子を不安にさせている。

 

「男の子と会うなら、もう少し地味でも良かったんじゃない? ビーストモードは困るんでしょう?」

「そうだけどさ、久しぶりに再会するんだから驚かせてみたいじゃん? ほら、ユキが美少女なのは間違いないんだしさ」

 

 揺杏の主張にも、一理はある。これからアイドルとして売り出そうというのだ。どういう形であれ侮られるというのは、揺杏Pとしてはその沽券に関わるのだろう。まして由暉子の見た目的に中学生男子というのはメインターゲットである。これで箸にも棒にもひっかからないという反応をされては――そんなことは万が一にもないだろうが――ということを揺杏は気にしているのだ。

 

 無論、揺杏とて由暉子の見た目と自分のコーデには絶対の自信があったが、それはそれとして、色気は全くないのだとしても、年頃の少女が年頃の少年と出かけるのだからおしゃれはさせてあげたいし、その手助けが出来るのならば全力を出す。由暉子をビーストから守りたいという感情も当然あるため、この場で一番葛藤していたのは縫製担当の揺杏だった。

 

 それ以外の三人も心配していない訳ではないが、いざ当日になってみると物見遊山な気分である。こんな昼間から狼藉を働くとも思えないし、いざ危なくなったらカムイさんたちにご登場願えば良い。ずっと北海道にいるのならばまだしも、行きずりの人間相手ならばそれ程怖いものではない。私達のアイドルを誑かす者には鉄槌をと、軽く重めな気持ちで見守りをしていた四人の前に、ようやく男性が現れた。

 

「あれが須賀くん?」

「違うだろ。何かユキも困ってる感じだし」

「そうね。ユキ。助けが欲しいようだったらすぐに行くからいつでも言って」

 

 トランシーバーでそう伝えると、由暉子は帽子に触れた。了解というサインである。落ち着いた見た目以上に心には余裕があるようだが、この場合我慢強いことはあまり助けにならない。走って追いつけるだろう距離で待機しているものの、何かあってからでは遅いのだ。由暉子からの救援求むのサインが出なくても、自分たちで危ないと判断したら駆けつけるつもりで見守っていると、また新たに男性が現れた。

 

 絡んでいる茶髪よりも更に身長が高い。180は超えているだろう。髪の色は由暉子から聞いていた通り燻ぶった金色であるから、おそらくあれが須賀くんなのだろうと誓子たちにも察しがついた。

 

 待ち合わせ時間の10分前に来ている訳だから由暉子のボーイフレンドとしては合格であるが、当の由暉子は既にトラブルに巻き込まれているので間に合っているかと言われれば微妙な所だ。

 

 時間以外にも問題がある。由暉子と須賀くんは十年近い付き合いがある訳だが、お互いに最近の姿を知らないでいる。須賀くんの方は解り易い特徴があるために由暉子の方は彼がそうだと理解できるだろうが、由暉子の方は小学校の時とはかけ離れた容姿をしている上に、彼女一人では到達しえないコーデをしている。

 

 十年ぶりの再会であれば、彼女がそうだと誰かに言われなければ気付かない可能性がある。当初の予定では由暉子の方から須賀くんに声をかけてサプライズということだったのだが、茶髪が邪魔をしていて須賀くんの方に声をかけることはできないでいる。

 

 そも、明らかに質の悪いナンパ男に、好んで割って入ることのできる人間がどれだけいるだろうか。それが正しいと解っていても、実行できる人間は少ない。だからこそ、善行が素晴らしいものとして貴ばれる訳だが、善行をしないからと言って悪辣な人間と責めることもできない。

 

 彼女が真屋由暉子であるとしっかりと理解しているならばまだしも、関係のない他人ではそうもいくまい。やはりカムイ様たちにお出まし願うべきか。誓子が直接的な手段で介入を決断しようとした矢先、須賀くんの方が先に動いた――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 近くまで京太郎が来ていたことは、由暉子はとっくに気づいていた。愛嬌のある面差しは変わっていないし、彼はとても目立つ髪をしている。あの燻ぶった色をした金髪は見間違えるはずもない。約束の時間の十分も前なのに小走りでやってくる所も変わっていなかった。

 

 すぐにでも駆け出したい気持ちに駆られるが、知らない男性が邪魔をしていてその場を動くことができなかった。はっきり言って彼はとても邪魔なのだが、どういう言葉をかければ諦めてどいてくれるのか。ユキの言葉の引き出しには、こういう時の対処方が全くと言って良いほど入っていなかった。

 

 自分一人であれば途方に暮れていただろうが、今イヤホンの向こうには頼りになる先輩たちがいる。視線を向ければ助言の一つもくれるだろう。時間をかけて彼がどこかに行ってしまっても不味い。せっかくの久しぶりに顔を合わせる機会を不意にしたくない。

 

 イヤホンの向こうで言い合いをしている先輩たちに明確に助けを求めようとした矢先、しかし、彼は由暉子の思惑を超えてやってきた。

 

「ごめん、ユキ。待たせたな」

 

 あの頃のあだ名で自分を呼んでくれた声は、昔よりもずっと低くなっていた。それでも彼の声だと解ったのはその声音に優しさを感じたから……というのは、長年の友人としてのひいき目だろうか。あの頃と変わらない愛嬌のある笑顔を浮かべた彼は、散々自分に絡んできた男性を軽くどかして、由暉子の手を取って歩き出した。

 

 無視された形になる男性は声を挙げようとしたが――不自然に硬直してその場から動けなくなった。誰かが何かやったのだと察した由暉子は爽たちの方に視線を向ける。サイドポニーにした先輩が、小さくウィンクをして手を振っている。何も言わなくても助けてくれたのだ。

 

 良い先輩だ、と心中で感謝しながら、由暉子は京太郎に疑問をぶつけた。

 

「どうして私だって解ったんですか? 自分では結構変わったと思ってるんですけど」

「確かに変わったと思うけど、ユキはユキだろ。見れば解るよ」

 

 こともなげに京太郎は言うが、両親でさえ最初は由暉子の変化に戸惑ったのだ。十年近く会っていなかった友人が何も事情を知らずに理解できるとは、由暉子本人も全く思っていなかった。だからこそサプライズになるだろうと爽たちも考えていたのだが、その思惑をあっさりと京太郎は超えてきた。

 

 これがときめくということなのでしょうか、と内心の変化に戸惑っているユキを他所に、京太郎は苦笑を浮かべて肩越しに振り返った。京太郎の視線を受けて、女性が四人物影にさっと隠れる。怪しいことこの上ないが、まさか誰の関係者でもないということもあるまい。おそらく関係者だろうと当たりを付けた京太郎は、由暉子に問うた。

 

「ところで、俺たちの後ろを女子高生らしき四人がついてきてるみたいなんだけど、ひょっとしてユキの知り合いか?」

『ユキ、イヤホンを須賀くんに渡してもらえる?』

 

 誓子の指示を受けた由暉子はイヤホンを外し、京太郎に渡す。今まで自分の耳に入っていた物を他人に渡すことに、このロリ顔巨乳の美少女は抵抗がないのだろうか。全てを疑うような人間性が問題なのは誰でも解るが、全てに置いて受け身というのも問題である。これは友達先輩は苦労するだろうなと心中で苦笑しながら、京太郎はイヤホンを付けた。

 

『初めまして。二人の時間をお邪魔して申し訳ないんだけど、とりあえず私達も一緒して構わない?』

「どうぞどうぞ。寒空の下、女性に追いかけっこを強要するのもアレなんで遠慮せずに」

 

 京太郎の感覚では長野も十分寒いのだが、流石に北海道はその比ではない。既に三月。『暦の上では春』という大昔の建前がまかり通る時期とは言え、寒いものは寒いのである。それは北海道民であっても同様だろう。思い思いのおしゃれをした少女四人は、そそくさと京太郎たちの前まで移動した。

 

「はじめまして。桧森誓子です。さっきは私達の後輩を助けてくれてありがとう」

「須賀京太郎です。いや、もっと早く来てたら絡まれなくても済んだ訳ですから、男としては遅刻ですね」

「かっこいいこと言うねー。あぁ、私は岩舘揺杏。ユキの服は私が作ったんだぜ?」

「なるほど。どうりでユキの趣味っぽくないと思いました」

 

 由暉子の趣味は昔から男の京太郎の目から見ても地味だったが、今の服はとても女の子らしい。誰か別の人間の選択だとは思っていたが、一から作っているとは思わなかった。京太郎の言葉に、揺杏はほほぅ、と目を細める。

 

「なんだよー。須賀くんだって自分で服選んでる訳じゃないだろ?」

 

 揺杏の言葉に、今度は京太郎が小さく唸った。京太郎の余所行きの服は大抵、女友達が選んだものなのだがそれを指摘されるとは思っても見なかったのだ。しかもそれが初対面の女性であるだけに、決まりも悪い。

 

「……そんなに分かりやすいものですか?」

「そうでもないかな。事実似合ってはいるんだけど、どうも似合う服じゃなくて着せたい服を選んだような感じなんだよね。で、その趣味が女寄りというか……まぁ須賀くんもこの服気に入ってるみたいだし、私が口を挟むようなことではないけどさ。大事にしなよ、その娘」

 

 バンバンと肩を叩く揺杏に、京太郎は早速一目置いていた。どのジャンルでも目の肥えた人というのはいるものだと実感すると共に、見る人間が見れば女性に選んでもらった服だということがバレるということに、聊か戦慄もする。実際、今日着ている服は桃子が選んだものであり、彼女の趣味を反映して若干暗い色合いとなっていた。

 

「本内成香です。よろしくお願いします」

 

 集団唯一の小動物系の少女である。既に高校生ということは間違いなく京太郎よりも年上であるはずなのだが、身長は女子であることを差し引いても小さい。それでも由暉子よりは大きいのだが、身長相応の体つきをしているために余計に小さく見えた。

 

「ユキちゃんにも紳士的に対応してくれて安心しました」

 

 彼女が言うのは先ほどの救助行為だけではなく、由暉子に無遠慮な視線をあまり(・・・)向けない事も指していた。それ程由暉子は男性の下卑た視線を集めることが多いのだが、京太郎にはそれがあまり感じられない。だからこの人は信用できるというのが成香の判断だったのだが、実際は表面に出ていないだけで京太郎も内心穏やかではなかった。

 

『俺の幼なじみがロリ顔巨乳になってる!』

 

 というのが京太郎の第一の感想である。容姿が洗練された由暉子を一目で理解したことはそれとは関係なく、あくまで京太郎の長年培った女性への観察眼に寄る所が大きいが、それと劣情を切り離して物を考えることができるかはまた別の問題だった。

 

 これだけおもちが大きいと視線をやらないだけでも一苦労だ。自分と同級生、久しぶりの再会という要素が辛うじて京太郎を紳士に押しとどめていた。少し前に、実は仲良しだったらしいはやりと良子がグラビア撮影の合間に自撮りした写真を送ってきてくれなかったら、今の由暉子を相手にするのは危なかったかもしれない。

 

「獅子原爽だ。よろしく」

「こちらこそ」

「ところで、須賀くんは何かオカルトっぽいモノを持ってたりするのかな? 何というか、良いんだか悪いんだか微妙に判断のつかないものを強く感じるんだけど」

「奇遇ですね。俺もどういう訳か、獅子原さんの後ろに良いんだか悪いんだか解らないものを沢山(・・)感じるんですが……」

 

 勝負運に関するオカルトなので日常生活にそれほど関わるものではないが、日常生活にすら関わるオカルトを相手にすると、京太郎にもその気配くらいは感じ取ることができる。神様を降ろしている時の小蒔しかり、満月の時の衣しかりだが、爽からは――正確には爽の周辺にいるように感じられるものからは、二人の姉貴分に近い物を感じる。

 

 ふと、背後に良くない気配を感じた京太郎は、爽と握手をしたまま振り返った。そのまま視線を左から右に動かす。気配がそう動いた様に感じたからだ。見えない何かがそこにいることに、京太郎はその時点で確信が持てた。状況から察するに眼前の爽の仕込みであるようだが、視線でそれを問うと年上らしい少女は白い歯を見せてにかっと笑う。

 

「誓子、こいつ本物だぞ!」

「からかわないの……さて。そんな訳でというのはアレなんだけど、私達も一緒に遊んでもらって良いかしら?」

「ユキが良いなら良いですよ」

「問題ありません」

 

 この娘は本当に受け身だなと軽い苦笑を浮かべた。由暉子と二人で特に何をするでもなく時間を過ごすつもりだったが、そこに彼女の友達が四人増えてしまった。予定外も良い所だが、多数の女性によって予定が変わることなど、京太郎にとってはよくあることである。

 

 




次回ネリー来日編です。

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