セングラ的須賀京太郎の人生   作:DICEK

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中学生編
8 中学生一年(入学前) 鶴賀編


 

 

 マイホームを買った。

 

 父親の言葉に京太郎は耳を疑った。『買う』ではなく『買った』である。当たり前だが京太郎はそんな話は一度も聞いていない。どうして何も相談してくれなかったんだ、と抗議する京太郎に両親は『お前の意見を聞いてもしょうがない』と答えた。

 

 両親は既に長野に家を買うと決めていた。二人の出身が長野だったからだ。京太郎も何度か足を運んでいるが、そこに定住することになるとは考えてもいなかった。定住するなら何となく怜のいる大阪だと思っていた京太郎は肩透かしを食らったような気分で、それを受け入れた。

 

 近所に挨拶周りをしたり、良子とその同級生にさよならパーティを開いてもらったりしながら愛媛を後にした京太郎は、翌日には長野に着いた。

 

 年末年始には両親の実家に顔を出していたから、久しぶりという気はしない。どちらかの祖父母と一緒に住む訳ではなく、そしてどちらの実家にも近くない場所に家を買ったという。何でそんなに訳の解らない場所に? と問うたら、父親は苦笑しながら『両方の家から同じくらいの距離に家を建てた』と答えた。

 

 父方も母方も仲が悪かった記憶はないが、そういう配慮は必要なものらしい。京太郎としてはどちらかに近い方が楽でよかったのだが、既に建ててしまった家はどうにもならなかった。どちらの祖父母の家にもそこそこ遠い代わりに、これから行く予定の中学校とおそらく行くことになるだろう公立の高校には結構近かった。一年に一度か二度しかいかないそちらよりも、毎日通うことになる学校。どちらが大事かは考えるまでもなかった。通学を楽にしてくれた両親には感謝である。

 

 引越しの荷物を運び込みひと段落ついたところで、須賀一家は祖父母の家に顔を出すことにした。転勤ばかりだった父が漸く落ち着いたということで、特に県北に住んでいる母方の祖父母が喜んでくれた。テンションが上がりすぎて、日帰りするつもりだった父が引き止められてしまった。

 

 予定外の泊まりである。お泊りセットを用意していなかった京太郎は途方に暮れたが、昔の父親の服があるということで説得されてしまった。荷物の整理はもう済んでいたし、特にやることがあった訳ではない。たまにはこういうのも良いだろうと、京太郎は割り当てられた部屋で携帯を脇において一人教本を読み始めた。

 

 それから、三十分もしただろうか。

 

 本を読みながら怜や憧のメールに返信していた京太郎の部屋を、誰かが小さくノックした。京太郎は教本から視線をあげずに『どうぞー』と答える。

 

 部屋に入ってきたのは一つ年上の従姉だった。母親の兄の娘である彼女は、自分と同じ燻った色の金髪をしている。あまり綺麗な色ではないと自分ではあまり好いていなかったが、性別が変わると印象まで変わるのだろうか、可愛らしい顔立ちをしている従姉にはその色は似合っていると思ったし、彼女の髪なら綺麗だと思えた。

 

 教本を閉じ、従姉――妹尾佳織に向き直る。佳織は京太郎から僅かに距離をとると、座布団に腰を降ろした。

 

「京太郎くん、明日の朝には帰っちゃうんだよね」

「そういう予定だな」

「もう少し延期にならない?」

「俺は別にかまわないけど、どうしてだ?」

「あのね、明日友達と一緒に幽霊を探しに行くんだけど、一緒についてきてほしくて」

「幽霊か。別にいいぞ。おもしろそうだし」

「……え、なんで疑わないの?」

 

 何も聞かずに引き受けたのがよほど意外だったのか、佳織は身を乗り出して詰め寄ってくる。関係ないことだが、一般的に女性の方が第二次性徴は早いとされている。その恩恵を正しく受けた佳織は一部が非常に女性的になっており、間近に寄られた京太郎は視線を自然に逸らすのに苦労した。

 

「幽霊だろ? 別にいいじゃないか探しにいっても」

「本当にいると思ってる?」

「思ってる。『幽霊は』見たことはないけどな」

 

 疑いなど微塵も感じさせない静かな声音で、京太郎は答える。

 

 不思議パワーで人を吹っ飛ばす巫女がいるのだから、幽霊くらいいても良いだろう。というか、巫女に降りる神様を肯定して、その辺を漂う幽霊を否定する理由がない。

 

 だが、それは京太郎の個人的で特殊な事情だった。普通の人間は普通じゃない巫女と交流などしないし、本物の神様にも縁がない。その一人であるらしい佳織は、物分りが良すぎる京太郎に不審な目を向けてきたが、付き合ってくれるという返答を重視したのか、疑問は口にしなかった。

 

「おじさんたちには、私の方から言っておくから」

「そうか。ありがとう」

 

 話はそれで終わりと判断した京太郎は、再び教本に視線を落とした。今日の一冊は南浦プロの『南場は南場の風が吹く』である。南場に吹くということが前提になっている氏独特の理論は、都合の良い能力を持たない京太郎にとってはトンデモ理論も良い所だったが、特殊な能力を持つ人間の特殊な視点というのはそういう人間に対抗するために、大いに参考になった。全国で千冊も売れていないというドマイナーな本であるが、どうしても読みたいということで咏に手配してもらったのだ。サイン入りの貴重な一品である。

 

「京太郎くんは麻雀するの?」

「する。スゲー好き」

「私も始めてみようかな」

「部活に顔出して見るのが良いと思うぞ。女子なら歓迎されるだろ。最初は先生とかきちんとした人に教わるのが良いって、俺の先生も――」

 

 言葉をさえぎるようにして、佳織は思い切り京太郎の顔に座布団を投げつけた。

 

「おやすみ! また明日ね!」

 

 足音も高く、佳織は部屋を出て行った。佳織が何故怒ったのか京太郎には理解できなかったが、女性とは癇癪を起こすものだと経験として理解していた京太郎は、すぐに気にするのをやめて読書に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ワハハ、お前が佳織の従弟かー」

 

 佳織に連れられた先にいた友達は、何というかとても個性的な少女だった。佳織よりも一つ上。ということは、京太郎よりも二歳年上の中二であるはずだが、身長は京太郎よりも頭半分は低い。身体つきもほっそりとしており、少年のような、という形容がぴったりの少女だった。女の子として紹介されなければ、京太郎も少年と思っていただろう。

 

「はじめまして、須賀京太郎です」

「蒲原智美だ。よろしくなー」

「よろしくお願いします」

「さて、幽霊を探すって話だったなー。実はこの辺でよく幽霊が目撃されるって話だ」

「よくってのはどれくらいの頻度なんですか?」

「ほとんど毎日だなー。色々聞き込みして回ったけど、目撃者は老若男女色々だ。時間は昼の方が多いなー」

「幽霊なのにですか?」

「朝型の幽霊なんだろ」

 

 当たり前のように言われると、そういうもののような気がしてくる。だが一応ということで、本職の春にメールを出しておく。『幽霊は昼間に出るのか』

 

 智美たちの後ろを歩いていると、すぐに返信がきた。『でないこともない』

 

 どっちつかずな返答である。とりあえず、幽霊などいないと否定されることはなかっただけマシなのだろう。ありがとう、と簡潔に返答して視線を前に向ける。

 

 人通りの少ない並木道だ。歩いているのは京太郎たち三人と、向かいから歩いてくる同じ年くらいの少女くらいである。天気の良い春先だ。もう少し人通りはあってもよさそうなものだが、微妙に不自然なこの静けさは幽霊の噂と何か関係があるのだろうか。

 

「智美さん、幽霊って特徴とかあるんですか?」

「黒髪のおかっぱ頭って意見が多いなー」

「へー、黒髪のおかっぱ」

 

 ちょうど、前から歩いてくる少女がそんな髪型をしていた。肩口で切りそろえられた黒髪は、古風ですらあった。神境の中では良く見た髪形であるが、世間一般ではあまり流行らない髪形だろう。まして中学生、高校生の女子ともなれば尚更だ。

 

 だがそんな古風な髪形も、その少女には良く似合っていた。年齢は自分と同じくらいだろうか。目鼻だちのはっきりとした、男なら振り返らずにはいられないような美少女である。

 

「あんな感じですか?」

 

 と、京太郎は少女に視線を向けて、智美に尋ねた。智美と佳織はその視線を追って―ー首を傾げる。

 

「どんな感じだ?」

「……いや、あの娘ですよ。正面から歩いてくる」

 

 二人は怪訝な顔をして振り返る。智美の顔にさえ京太郎の言葉が『理解できない』と顔に書いてあった。見間違いか、と視線を上げれば美少女は確かにそこにいた。からかいにしては、演技が入りすぎているように思う。智美の性格は良く知らないが、今日あったばかりの人間を捕まえてここまでやる人間には思えない。二人には本当に少女が見えていないのだ、と京太郎は結論づけた。

 

「すいません、冗談です」

「……お前センスないなー」

 

 と、智美にばっさりやられながらも、京太郎は視線を少女から外さずにいた。自分の話題で盛り上がっていることなど知らない様子で、少女はスタスタと道を歩いている。黒髪のおかっぱで、少女。智美のざっくりとした情報と合致する。昼間から出ていて、探し始めたら早速遭遇するという幸運には目をつぶるとして、とにかく目の前に現れてくれたというのは、京太郎にとって僥倖だった。

 

 しかし、同時に困ったことがある。幻覚でないとしたら、この三人の中であの少女が見えているのは自分だけということだ。見えるようにする手段があるのかもしれないが、やはり本職でない京太郎にそんなことは解らない。幽霊を見つけたという話をしても、先ほどのように冗談として処理されたらそれまでなのだ。

 

 元々佳織に付き合って始めた企画であるから、見つからないというのならそれで構わなかったが、それらしいものが目の前にいるというのに、それを看過することはできない。ともあれ『アレ』が何であるのか、それを確かめるのが先決だった。

 

「とりあえず、別れて聞き込みでもしてみませんか? 今まで智美さん一人でやってた聞き込みを、三人でやるんです」

「悪くない案だなー。私はそれで構わないけど、佳織は一人で聞きこみとかできるかー?」

「それくらいできるよ!」

「怖がりの佳織がそういうなら決まりだな。時計合わせろー。今から二十分後にここに集合だ」

 

 かいさーん、と智美は気の抜ける声で指示を飛ばす。見た目は緩いが、方針を決めた後の行動の早さを目を瞠るものがあった。案外、リーダーに向いているのかもしれない。人は見かけに寄らないんだな、と智美の意外な長所に感心しながら、さっきの少女を追おうと踵を返した京太郎の服の裾を誰かが掴む。

 

 予想できたことではあるが、それにしても予想通りの展開に京太郎はそっと溜息をついた。

 

「一緒に行くか、佳織さん」

 

 京太郎の提案に、佳織はこくこくと頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「冗談じゃなかったの!?」

「冗談言う理由がないだろ」

「智美ちゃん相手にウケを狙ったのかもって思ってた」

「あの人本当に笑わせられたら面白いだろうな」

 

 智美に対して幽霊でウケを取れると佳織が考えていることの方が気になったが、ともかく今は『幽霊』のことだ。『幽霊』とすれ違ったのは一本道である。京太郎たちとは逆の方角から来たのだから、京太郎たちがやってきた方にしか行きようがない。『幽霊』が本当に幽霊だったとして、人間の常識がどこまで通じるかは未知数であるが、差しあたっては人間の常識で考えるしかなかった。

 

「この道をまっすぐ俺達と逆の方から歩いてきた訳だから」

 

 道は二つに分かれている。この辺りで京太郎たちは待ち合わせし、並木道を歩いたのである。右に行くと佳織の家があり、左に行くと智美の家がある。両方とも歩いて五分もかからない。

 

「どっちかに曲がるしかない訳だ。どっちに行ったと思う?」

「こっち」

 

 佳織が指したのは左だった。

 

「どうしてだ?」

「だって幽霊が自分の家の方に歩いていったとか思いたくないし……」

 

 もっともな理由だった。しかし、それを否定する理由もないし、他に説得力のある案を京太郎は思いつかなかった。

 

「じゃあ、佳織さんの案で行こうか。ちょっと早めに歩こう」

 

 すたすた。早歩きで行く京太郎に、佳織は何とか着いてくる。運動が得意そうではない見た目の通り、既に息もあがり気味だった。

 

「一応聞いておくけどさ、幽霊見つけてどうするつもりなんだ? 友達にでもなるのか?」

「智美ちゃんが面白そうって言ったから、私も一緒に探そうと思っただけ」

「見つかった後については知らないってことか……智美さんはどうするつもりだったのかな」

「智美ちゃんなら、幽霊とでも友達になれるんじゃないかな」

「否定できないのが面白いな」

 

 あの人ならば何が相手でも物怖じしないだろう。話さえ通じれば幽霊とだって友達になれるかもしれない。中学生にもなって幽霊を探そうと本気になれる行動力にも目を瞠るものがあった。観測できなかったとは言え、実際幽霊に遭遇もしたのだから、運も良いのかもしれない。

 

「それにしても京太郎くんも――」

 

 先に行こうとした佳織の襟を掴んで、わき道に寄せる。抱き寄せるような形になったので、佳織は腕の中で慌てていたが、そんな佳織に京太郎は喋らないように、と指示を出すと道の先を視線で示した。

 

「いた、さっきの『幽霊』だ」

 

 距離にして大体20M。後姿だが、服装も髪型も一緒だから間違いはないだろう。佳織はメガネの奥で目を凝らすが――

 

「見えないよ」

「俺にしか見えないってのはどうしてなんだろうな」

「ねえ、本当に私をからかったりしてない?」

「してない」

 

 そう答えてはみたものの、あの『幽霊』は佳織には見えないのだから、それを証明するのも難しい。やはり捕まえるしかない。決意を固めた京太郎は、佳織をその場に残すと、『幽霊』にそろそろと近寄った。一歩、二歩と足音を立てないように距離を詰めていく。対して『幽霊』からはちゃんと足音が聞こえた。近くで見てみても、人間にしか見えない。

 

「なぁ、ちょっといいか?」

 

 意を決して京太郎は『幽霊』に声をかけた。反応はない。『幽霊』なのだから当然かと思い直し、今度は強めに声をかけた。

 

「すいませーんっ!!」

 

 それでようやく『幽霊』は振り向いた。酷く鬱陶しそうな顔をしている。自分が声をかけられたとは考えていないようだったが、声の主である京太郎がすぐ近くにいたことで、漸く自分が声をかけられたと思い至ったようだった。

 

 きょとん、と物凄く不思議そうな顔をして、自分を指差す。何を言ってるんだ……と思いながら京太郎が頷くと『幽霊』は京太郎の前で手をひらひらと振った。

 

「…………私が見えるんすか?」

「らしい。あっちの従姉は見えないとか言ってたけど」

「ほんとに、ほんとっすか?」

「一回見失ったのを、こうして見つけたんだ。多分、本当だとは思う」

「そうっすか……」

 

 『幽霊』は京太郎と佳織を見比べて、小さく手を打った。

 

「それじゃあ、あっちの従姉さんは邪魔っすね。ちょっと私と一緒に来てもらうっすよ」

 

 言うが早いか『幽霊』は京太郎の腕を掴んで引き寄せると、そのまま抱きついた。突然の行動に京太郎は慌てふためくが、それ以上に慌てた人間がいた。

 

「消えた!?」

 

 離れてみていた佳織である。佳織は駆け寄ってくると、抱き合う京太郎と『幽霊』には気付かずに、そのまま通り過ぎていった。

 

「これで君も幽霊の仲間入りっすね」

「まさか死んでないよな俺」

「それは安心するっすよ。ついでに言えば私も幽霊ではないっす。私は東横桃子。今度中学生になるっす」

「須賀京太郎。奇遇だな。俺も今度中学生になる」

「同級生だったっすか……何か運命的っすね」

 

 儚げに微笑んだ桃子は、そっと京太郎から離れた。自分の身体をあちこち眺める。佳織に見失われた状態が今も続いてはいないかと、気が気ではなかったのだ。

 

 そんな京太郎を見て、桃子はくすくすと小さく笑う。

 

「大丈夫っすよ。さっきのは私がくっついたから巻き込まれただけっす。今の京さんは普通に見えるはずっすよ」

「はずってのが怖いな。突然消えたこと、どうやって説明しよう」

「幽霊と友達になったって正直に言えば良いんじゃないっすかね」

「証拠を見せろって言われたらどうするんだ……」

 

 何しろ、桃子は佳織には見えないのだ。佳織からしたら京太郎がいきなり幽霊の話をしたと思ったら、突然消えたようにしか見えないだろう。まさしく現代の神隠しである。早く佳織を捕まえないと、行方不明扱いで警察のお世話になりかねない。そのためにも証拠は必要だった。

 

「あ、じゃあ一緒に写真でも取るっすか? 携帯、写真取れるっすよね?」

「そりゃあ取れるが……幽霊なのに写真に写れるのか?」

「私は機械とは仲が良いんっすよ」

「現代の幽霊は融通がきくんだな……」

「ほらほら、もっとこっちに来るっすよ」

 

 不必要なまでにくっついてきた桃子はついでとばかりに、京太郎の首に腕を回した。傍からみたら恋人にでも見えるだろう。普通、女子はここまで男子に接触しないだろうが、桃子は何だか嬉しそうだった。美少女にくっつかれて悪い気はしないが、先ほどまで幽霊と思っていた少女と思うと、縁起でもない気はする。勝負運の悪さは自他共に認めるところだ。良いことがあると、直後に何か不幸でも起こるのではないかと気が気ではなくなるのだった。

 

「いくぞ。東横はこのままで良いか」

「あ、私のことはモモで良いっすよ。友達ができたらそう呼んでほしいって決めてたっす」

「そうか。じゃあ今度こそいくぞ、モモ」

「OKっすよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時の写真を眺めながら、当時を思い出す。

 

 あの写真を撮って連絡先の交換をした後大急ぎで佳織をおいかけ、パニックになっていた彼女に写真を見せて説得した。写真だけを見ればただ彼女といちゃついているだけにしか見えないが、モモの特徴が智美の聞いていた噂と合致したため、どうにか佳織は信じてくれた。

 

 その後、真面目に聞きこみをしてたらしい智美にも写真を見せ、何故か京太郎にしか見えなかったこと、佳織の前で消えたことまで含めて話した。智美はワハハーと笑いながら、しかし京太郎の荒唐無稽な話を信じてくれ、京太郎の写真で幽霊は見つかった、ということにして今日の目的は達成したと、解散を宣言した。

 

 見つかったことでどうでも良くなったのか、それから佳織や智美から幽霊の話題が出ることはなかったが、京太郎とモモの関係はそれからも続いた。住むところは離れていたが、連絡は頻繁に取り合ったし、時間ができた時にはモモの方から会いにきたこともあった。同じ学校だった咲や照とは比べるべくもないが、中学時代に知り合った友達の仲では、相当に仲の良い部類に入る。

 

「どうしたの、モモちゃんの写真とか見て」

「……あいつ鶴賀に入ったとか言ってたからな。今頃どうしてるかと思って」

 

 携帯を閉じ、ポケットに突っ込む。

 

 あれで麻雀の得意なモモだが、立地の関係から選んだ高校は麻雀部があるんだかないんだか良く解らない鶴賀だった。モモが入学してから佳織に聞いたところによれば、智美が部長となって発足したばかりだという。

 

 とりあえず部が存在していたことに安堵する京太郎だったが、麻雀部を取り巻く環境は芳しいものではなかった。部員が智美と佳織を含めて四人しかいないらしい。部として存続はできるが、これでは団体戦に出られないということで目下部員を探しているところだと言う。モモに入ったらどうだ、と勧めてはみたが、あまり乗り気ではないようだった。

 

『京さんみたいに私を見つけられる人がいたら、入っても良いっすよ』

 

 というのがモモの弁だ。入る気はないと言っているように思えるが、モモのステルスはおそらく体質によって発現している。春や良子のように本職の巫女や、あるいは衣や透華のように強い異能の力を持っていれば見えないこともないかもしれないが、そういう特殊な人間が偶々モモと同じ学校にいる可能性は極めて低い。

 

 もったいないと思わないでもないが、何をやるかというのは本人の自由だ。京太郎とて、お前は麻雀は向いていないからやめた方が良い、という類のことは何度言われたかしれない。乗り気でないモモの気持ちも、解らないではなかった。

 

「言われるままに連れてきたけど、お前、本当に大丈夫か?」

 

 麻雀の実力は申し分ないが、咲は見た目の通りに人見知りをする性格である。中学でも結局部活には入らずに京太郎とばかり過ごしていたし、友達と言える人間は片手で数えられるほどしかいない。先ほど名前の挙がったモモなどが、その代表だ。

 

 そんな咲が、全国で照と戦うという目標を持ち、麻雀部に入るという。保護者を自認している京太郎にとっては大きな進歩だったが、同時に心配でもあった。上手くやっていけるかどうか、友達はできるか。気分はまるで父親である。昨日話してみた感じ皆悪い人間ではないが、咲と合うかどうかはやはり本人が話してみないと解らない。

 

 仲良くやっていけるかは、まだ未知数なのだ。その確認の意味で京太郎は訪ねたのだが、咲は小動物のような円らな瞳に確かな決意を持って、頷いてみせた。

 

「大丈夫。お姉ちゃんと戦うためだもん。私、頑張るよ」

 

 心配ではあったが、京太郎はそれ以上何も言わなかった。黙って咲の頭をぽんぽんと撫でると、麻雀部のドアに手をかける。

 

 

 

「それじゃ……ようこそ、お姫様」

「……京ちゃん、それ恥ずかしくない?」

「こういう時はノリなんだよ。照さんだったら真顔でよきにはからえとか言うぞ」

「お姉ちゃんはちょっと不思議さんだから、私とは違うの!」

「くそ、お前がそんなこと言うから俺まで恥ずかしくなってきた。いいから入れ、入れ」

「押さないでよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




京ちゃんだけモモを見えた理由については後々明らかになります。

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