第六特機にはやてが出向して数日、特別捜査官任務から外れたことで彼女の体が休まり、丁度学校も冬休みに入った日がユニゾン・デバイス製造の開始日とされた。
「ここに寝ころんだらええんですか?」
「そうよ。
ほんとに寝ちゃってもいいわよ?」
「お言葉に甘えさせて貰いますー」
「はやてさん、がんばれー!」
「ありがとうなー」
作業自体は二度目とあって、マリーにも幾らか余裕がある。
逆にアーベルは初めてで、邪魔をしないように注意深く見守っていた。
手順は知っていても、ユニゾン・デバイス開発についてはマリーが主でアーベルが従である。
「うん、もう安定しました。
はやてちゃん側の余力を大きく取っていますから、アーベルさんの時より魔力管理は安全度を高く設定できそうです」
「今更だけど、やっぱり無理しすぎてたかな……」
「変換効率もよくなかった分、許容値の最大近くまで頑張って貰いましたもん」
自分は5割の魔力を提供していたが、はやての場合は2割の提供ながら新ユニゾン・デバイスの魔力量設定は最大AAと、かなり力を余していた。
はやてを魔力提供者としたユニゾン・デバイスは、『リインフォース・ツヴァイ』と名付けられることに決まった。リインフォースの妹分だからこの名前とはやてが告げたとき、リインフォースも嬉しそうな様子で『では姉の私はリインフォース・アインスですね』と返している。容姿の方も、リインフォースの子供時代を類推したものとなった。これならば闇の書と同一視されまいと、関係者にも話を通してある。
ちなみに製造開始後はクララがはやてのモニタリング管理を行うので、リインフォースはしばらく表に出られない。彼女がリインフォース・ツヴァイとまみえるのは誕生後しばらく、ツヴァイの人造魔導魂が安定期に入ってからになる予定だった。
仕様は魔力量A+からAA級の古代ベルカ式支援型融合騎とされ、同時にはやての莫大な魔力を効率よく運用するために、ユリアではベルカとミッド1系統づつだった駆動系をベルカ式連動並列4系統+ミッドチルダ式2系統とし、フレームや駆動部、魔導魂外殻にもはやての大魔力に耐え得るよう大幅な強化が行われている。
単体での戦闘能力向上は、検討こそされたが特に重視する必要はないと結論されていた。それでも魔力量A+からAAと言えば本局武装隊でも目立つほどの魔力保持量であり、エース級とは言えないが十分以上の能力である。
細かな部分では、ユリアの稼働データもフィードバックされているし、専用のリンクも設定していた。
……無事に作業も終了したが、S級にはS級なりの問題も出た。
「アーベルさんの時は魔力供給ラインが細くなり過ぎないかって心配したこともありましたけど、はやてちゃんだと過剰供給の方が心配です」
「だなあ。
ベースもAA狙ったから、安定期までに2ヶ月と見積もったのは正解だったね」
はやてには念のため魔法の使用を極力避けてもらい、その上でアーベルの時には必要としなかったブレーカー機構も取り付けていた。最初から分かっているのに提供者の魔力供給が多すぎて機械やユニゾン・コアが壊れましたなど、言い訳にもならないのである。
▽▽▽
年が明けて新暦67年1月。
予定より二日遅れで、調整槽からリインフォース・ツヴァイが出されることになった。
はやてには可哀想だが、機密の塊である技術部は用でもないと人の出入りには制限もあり、遊びに来るというだけで許可を出すわけにもいかない。なのはやフェイトどころか、今回はヴォルケンリッターの来訪さえ最初から断っている。
なのは達が来られるのは第四技術部入り口まで、それに対してはやては本棟5階から動けない。通信は許可されていたが、アーベルがすずかからの手紙と引き替えに、はやての用意した地球向けビデオメールをなのは達に手渡しするような場面もあり、この時にユリアも紹介している。
「アーベルさんから先に聞いとったけど、完全にこの階から出られんとなると結構きつかったです。
車椅子時代で慣れてると思とってんけどなあ……」
「……もう1回、頼むね」
「はーい。
また勉強道具持ってきますわ」
古代ベルカ式Sランク魔導師の彼女はデバイスのテスターとして是非とも第六特機に欲しい人材だが、人造魔導魂形成のために魔法の使用が制限されている現状では、調整槽の傍らで安静にして貰うのが一番の仕事である。
事務仕事を無理矢理作り出してもよかったが、そうなると今度は課の方の仕事が無くなってしまう。おかげではやてに対して第六特機から与えるような仕事は、特になかった。
そこで事情を話してユニゾン・コア調整中は好きにしていいと伝えると、はやては学校の宿題を早々に終わらせ、資格試験の勉強を始めたのである。
取り敢えずと彼女が手を着けたのは、小隊指揮官資格だった。
各種ある前線士官向けの資格では基礎中の基礎で、士官学校の指揮官養成コースでは卒業要件にも入っているが、戦術の構築、状況分析、人員配置、各種書類の作成から予算の適切な処理まで一通りの内容が包括されているだけに、いきなりとなると敷居が高い。前線士官として出世するなら最初の難関とも言える資格であり、足がかりでもある。
はやては贖罪に奔走し、同時に組織から翻弄される家族を守る為、出世を決意したようだった。小隊指揮官資格が取得できたら、次はキャリア───幹部候補を目指すと息巻いている。
「余計に2日掛けたけど、安定して良かったよ。
人造魔導魂B+とAAの差、ってところかな」
「極初期、ユリアの時に比べて成長が遅かったのは、形成時の基礎構造がはやてちゃんの大出力に対応する為だったから仕方ないですけど、予想より時間がかかっちゃいましたね……」
「大器晩成言うやつですねえ」
「自分で言っちゃうし……」
それぞれに口は動かしながらも、作業の手は止めない。
リインフォース・ツヴァイの再起動の終了を確認し、調整槽の蓋を開放する。
「……?」
「おはよう、お寝坊さん」
リインフォース・ツヴァイはふらふらと調整槽から浮かびあがり、はやての元に浮いていった。
何もないとは思っていたが、ほとんどユリアの初回起動と変わらない様子に、アーベルもユリアとともにほっと一息つく。
「大丈夫みたいですね」
“はい、こちらも問題ありません”
「ユリアは何か感じる?」
「んー……わたしとロードみたいに、はやてさんと同じ魔力のにおいがします」
「それが感じ取れるなら十分だよ」
はやての腕に抱かれて眠るリインフォース・ツヴァイを、ユリアがのぞき込んでいる。
また新たな子育てが始まるなと、アーベルは苦笑した。
▽▽▽
三日ほどは順調ながらも気が抜けず、ユリアの時と同様に昼はマリー、夜は自分とモニターを続けていた。
『マイバッハ課長、こちらは第四技術部受付です』
「はい、なんでしょう?」
『本局総務部のリンディ・ハラオウン中将がいらっしゃっています。
面会のご予約はないんですが……』
「それはまた……。
ともかく、すぐ行きます。
応接室を一つ、押さえて貰えますか?」
『了解しました』
そりゃあ本局の偉いさんが来ればアポ無しでも話を通さざるを得ないだろうなと、若干冷や汗の出ていた事務員に同情する。
「ユリア、おいで!」
「ロード?」
『はやてちゃん、今大丈夫?』
『はいな、アーベルさん?』
内線ではやてを呼びだし、下にリンディが来ている事を教える。
『そら挨拶しとかなな……。
着替えたらすぐ行きますから、アーベルさん時間繋いどいてください』
アーベルはユリアを肩に乗せ、そのままエレベーターに乗った。
受付ロビーに到着して見回すと、リンディよりも先にすずかの姿が目に入る。
「すずかちゃん!?」
「あ!」
「アーベルさん!」
「こっちこっち!」
すずかの他にもアリサ、なのは、フェイト、アルフの姿がある。
仕事でここを離れられないアーベルやはやての為に、リンディがサプライズで手配してくれたのだろう。
軽く会釈して、ユリアを促す。
「ほらユリア、ご挨拶」
「はい、ロード!
第六特機課所属、ユリア・マイバッハ三等空士であります!」
……何故か拍手が送られた。
ユリアはすずかの方を見て、嬉しそうな顔をしている。やはり客人の中では、一番気になる相手なのだろう。
「本局総務部、リンディ・ハラオウン中将です。
はじめまして、ユリア」
「えーっと……わたしたちもいいのかしら?
私立聖祥大学付属小学校4年生、アリサ・バニングスよ。
よろしくね!」
「同じく、月村すずかです。
会えて嬉しいよ、ユリア」
「わたしとフェイトちゃんはついこの間、会ってるの。
はやてちゃんには会わせて貰えなかったけど……」
「すずかのお手紙持ってきた時だね」
「だけど、ほんとにすずかそっくり」
「そうだね。
ユリア、おいで」
「はい!」
すずかが両手の平を差し出すと、ユリアはその上にちょこんと座った。
「ずっとずっと、会いたかったんだよ」
「わたしもです!」
ああ、これが見たかったのかもしれない。
アーベルは二人を見て微笑んだ。
「お待たせやー!
リンディ提督、お久しぶりです。
みんなも来てくれたんやね、ありがとうな」
「マイスターはやて、おきゃくさま?」
「はやてちゃん!」
「この娘がリインフォース・ツヴァイや。
このお正月に生まれたとこやから、大目に見たってな」
大勢の客にきょとんとするリインフォース・ツヴァイ───リインに、客人達の笑顔はさらに大きくなった。
さいどめにゅー
《リインフォース・ツヴァイ》
技術本部第六特機製古代ベルカ式ユニゾン・デバイス性能評価試験機SRD6-UDX-02、愛称はリイン
ミッドチルダ式・古代ベルカ式両対応の中~遠距離支援型で人造魔導魂出力はA+、魔力提供者は八神はやて
Sランク魔導師素体ユニゾン・デバイスの実証実験機も兼ねており、大出力にも耐える強固な設計が特徴