最近のデバイスはわがままで困る   作:bounohito

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第三十九話「試用試験」

 

 

「いよいよ来ましたねえ」

「ああ。

 ……とは言ってもパーツの準備は既に出来ているし、整備台も中古ながら届いていたからね」

「あれは助かりましたよ。

 マイバッハ工房様々です」

「だからかな、今更感が強いよ」

「あはは。

 気分はもうユニゾン・デバイスの方に向いてますもんね」

 

 マイバッハ工房のプラントで製造された非人格型古代ベルカ式デバイス・コアの最初期ロット10個のうち、3つは第六特機に回された。所属する研究者1人につき1個と実に分かり易い。

 

 解析や資料集めはかなり前に終わっていたから、設計も早くに完了してパーツの発注も済んでいた。基本の動作プログラムなどは、今回は剣型とあってレヴァンティンから流用されていたし、デザイナーの個性が出て一部現代風にアレンジあるいはオミットされた部分もあったが、構成も似通っている。

 後は実際の組み上げと、本格的な試用試験前に所定の性能が出ているかどうかテストを行うのが、アーベル達の仕事であった。

 

 今回は競争試作という型式だが、本命はアーベルの父ディートリヒ、対抗で祖父メルヒオル、大穴が弟ゲルハルトとアーベルは見ていた。ミッド式なら父ともいい勝負が出来る自信はあったが、本職の上に整備適性を持つ3人相手には少々分が悪い。

 

 もっとも、第六特機の担当は騎士団ではなく管理局側で、試作機は本局が預かることになっていた。

 

「流石にもう1個くれとは言えなかったなあ……」

「はやてちゃんの分ですか?」

「うん」

 

 いかにアーベルでも3つあるから1つ流用、というわけには行かず、次回分から1つ回して貰えるように話は通してあった。こちらも管理局の取り分だが、そのあたりはクロノとリンディに手を回して貰っている。はやて自身のSランク魔導師という肩書きも、この際は有利に働いた様子だ。

 

「まあいいか。とっとと仕上げてしまおう」

「そうですね」

 

 気分はともかく、ようやく実機という形で世に示せるのだ。

 前進には違いなかった。

 

 

 

 ▽▽▽

 

 

 

 翌日、アーベルは第六特機製のベルカ式デバイスをテストすべく、白衣に訓練着で技術本部の持っている射爆場に立っていた。……バリアジャケットのデザイン変更を忘れていたが、いい代案も思いつかなかったのでそのままである。

 

「アーベルさん、こっちは準備完了です」

「はいよー。

 クララ?」

“デバイステスター起動、システム同調しました”

 

 マイバッハ工房時代、必要に迫られてクララのテスター機能を古代ベルカ式にまで対応させた時は今回の設計以上に面倒だったが、今となっては懐かしい思い出だ。

 

 手の上に、小さなペーパーナイフのようなキーホルダーを乗せる。

 

「『SRD6-NP01』、起動」

 

 素っ気ない型式名称で呼ばれたアーベル設計のデバイスは、一瞬でその姿を現した。

 外観は反りのない片手剣で、鍔にコアを表す丸い宝石様のデザインをあしらっただけの、シンプルなアームドデバイスである。

 

 ぶん、と格好をつけて振ってみるが、決して様にはなっていない。

 

 ……本当ならば、レヴァンティンの主人シグナムを呼んで使い具合を聞きたかったのだが、彼女が予定を明けられるのは来週になると聞かされていた。

 

 ちなみに古代ベルカ式魔術への適性が中途半端なところにクララによるテスタープログラムが間に挟まり、デバイスの方も汎用の魔導回路で非効率と相まって、今日のところは魔力量換算で最大Cランクとミッド式より4段階も落としたテストしか行えない。動作試験としては微妙だが、やらないよりはましと割り切らざるを得なかった。

 

「せい……のっ!」

 

 とりあえず幾つかスフィアを切り刻み、マリーと意見を交わして一旦テストを終了する。

 

「今のところは予想通りですねえ……」

「魔導回路を汎用に設計したせいもあるけど、やっぱりパワーがないなあ」

「本試の時はゲルハルトくんが調整してくれる予定なんですよね?」

「うん。……それまでは仕方ないか。

 はやく丸投げしてしまいたいよ」

 

 続いてマリーの設計による『SRD6-NP02』のテストも行う。

 こちらはNP01よりも幅広の長い刀身が特徴で、両手持ちとなっていた。

 

「……重い」

「えー!?

 でもでも、レヴァンティンより軽いはずですよ?」

「僕を本物のベルカ騎士といっしょに考えないでよ……」

 

 何せ関係する担当マイスターへと配付された試験機の要求仕様書は極薄く、『種別は非人格型古代ベルカ式アームド・デバイス』『形状は剣』『実用強度はAAランクに対応』『単発式カートリッジ・システムの搭載』『開発予算はデバイス・コアとカートリッジ・システムを除いて1機当たり3000万クレジット以内』と、それだけしかアーベルは記していなかった。

 当初からハードルを高くしすぎては、多分ろくでもないことになる。今後を占う意味でも、自由度を高くして可能性を追求すべきだった。

 

「次が本番ですね」

「この為にシグナムを呼びたかったんだけどな……」

 

 NP01の薬室カバーを開き、慎重にカートリッジを装填する。

 カートリッジ・システム単体での静地試験は既に行われていたし、基本的にはレヴァンティン搭載のシステムを模倣して弾倉を外しただけの量産原型で、信頼性が当初より重視されていた。

 

「NP-01、カートリッジ・ロード」

 

 薬室内でカートリッジが爆発、濃密な魔力でNP-01の刀身が覆われる。がしゃんと排莢された撃発済みカートリッジも、濃い紫色の魔力残光を残して地面に落ちた。

 

 ベルカ式の標準カートリッジは、総魔力量こそCVK-792系統と大して変わらないが、瞬発力が違いすぎる。……アーベルには、それがはっきりとわかった。

 

 だが、今更止めるわけにも行かない。

 

「火炎直撃……」

 

 ベルカ式独特の、中央に剣十字を戴いた三角形の魔法陣がアーベルの足下に展開される。

 

「フレーメン・ヴェルファー!」

 

 フレーメン・ヴェルファーは騎士団でも使われ、近代ベルカ式にも既にエミュレートされている基本的な古代ベルカ式の攻撃魔法だ。火炎属性の直射型射撃魔法で、威力は術式に込められた魔力量に依るから、このテストにもうってつけだった。

 

 トリガーワードと共に、NP-01を100メートルほど先のターゲット・スフィア目がけて振り抜く。

 猛禽とも太い鏃とも見える炎の魔法が、高速で飛んでいった。

 

 爆散。

 

 威力は申し分なさそうだが、果たしてどうだろうか。

 NP-01から魔力が霧散し、常態へと復帰する。

 

「アーベルさん、今のフレーメン・ヴェルファー、AAは出てましたよ!」

「そんなに!?

 ああ、でも僕の側のロス考えてもそのぐらい行くか……」

“マスター、NP-01の魔導回路に不具合が発生しました。

 物理部分に複数箇所の亀裂が見られます”

「自動修復……って、ああっ!?

 そんなもんつけてない……」

「人格式じゃないと、あの手の細かなプログラムはコントロール出来ませんからね……」

「マリー、NP-02のカートリッジ試験はどうする?

 壊れると分かってて続けるのもなあ」

「そうですねえ……」

“部分的にはSランクに匹敵する魔力流量が認められました。

 想定以上の負荷が破損の原因です”

「……汎用型の回路は再設計の必要がありそうだね」

「はい……」

 

 ……今日のところは、アーベルの敗北かも知れない。

 その日のテストは中途で終了し、二人で射爆場の片付けを行う。

 

 ゲルハルトがプラントに取られていなければ魔導回路の適切な調整なども短時間で行えたのだが、あちらも余人に任せることなど出来なかった。

 またマイバッハ工房にもカートリッジ・システム本体の試作や試験を頼んでいたし、いまはアーベル同様に古代ベルカ式デバイスの設計製造にも忙しいだろう。

 

 本局にも課員の増員───出来れば古代ベルカ式に適性のある魔導師───を要請していたが、そう簡単に見つかるはずもなく、これは教会に相談して一時的に騎士か騎士見習いの従者を派遣して貰う方がいいかもしれないと、技術本部もアーベルも判断していた。

 

 それにしても、本局は第六特機が作り上げたデバイスを3つとも預かると言うことだが、一体その先、何処の誰がテストをするのかは開発責任者のアーベルでさえ調べがつかない『機密』である。

 その為にも汎用型として仕上げざるを得なかったのだが、なんとなく、あまり楽しくない予想がアーベルの脳裏にはちらついていた。

 

 


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