最近のデバイスはわがままで困る   作:bounohito

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第二十六話「無限書庫司書室」

 

 

 無限書庫を訪ねた翌日、アーベルは再びそちらでユーノと向かい合っていた。

 マリーには呆れられたが早速試作機2機を仕上げ、新たに『司書魔法』と名付けた術式をひっさげての訪問である。

 

 事務用デバイスなら、戦闘に耐え得るような設計も必要ない。今回は使う魔法もほんの数種類と限られているから、内部の効率化も計りやすい。

 それでも、元になった術式プログラムを可能な限り分割して低魔力消費の直列術式───並列動作部分を極力減らして単位時間当たりの消費魔力をギリギリまで押さえ、作動下限付近では更に術式運用速度を落とすことで安定した動作を確保した───を組み上げ、間に合わせている。 

 

「え!?

 もう出来たんですか?」

「レイジング・ハートやバルディッシュの改造に比べれば、全然大したことないよ」

 

 講義中だったのか司書が全員揃っていたが、デバイスと改良された術式の方が重要とのことですぐに通されている。

 

「こちらはいつも僕がお世話になっている、技術部のアーベル・マイバッハさんです」

「皆さんはじめまして、第四技術部第六特機課長、アーベル・マイバッハです。

 頻繁にお邪魔すると思うので、今後ともよろしくお願いします」

 

 苦笑したユーノが、アーベルさんは僕よりも偉い二佐相当官ですから失礼のないようにと付け加える。ちなみにユーノは司書室長として、やはり二尉待遇の文官になっていた。

 

「ちなみにマイバッハさんは司書資格をお持ちです。

 皆さんが使う予定の司書用デバイスと、魔法術式の改良もお願いしました。

 と言うか、お願いしたのは昨日なんですけどね……」

 

 場が一瞬だけざわめいて、緊張に代わって尊敬のまなざしを向けられたアーベルはたじろいだ。

 

「では、デバイスの説明をお願いします」

「了解です」

 

 無論アーベルもユーノ相手とは態度を切り替え、彼女たちには顧客や士官学校生を相手にする気分で応対する。

 

「えー、皆さん注目して下さい。

 とりあえずこちらがタイプⅠ、魔力量FからEの魔導師に対応した試作の司書魔法特化型ストレージ・デバイスです。

 登録魔法は軽量化した検索魔法、翻訳魔法、読書魔法、記録魔法の四種だけですが、その代わり平均魔力発揮値が100あれば確実に作動、余剰魔力は全て処理速度のアップに回せるように設定しました」

 

 司書用デバイスの見た目は両方とも薄型のブレスレットで、メタリックな外装にナンバリングがちらりと見えるシンプルな形状だ。待機形態がそのまま使用形態になるので、杖や剣に変形はしない。

 

「このタイプⅠは、うちの司書さん全員が使えますね」

「うん。

 微少魔力の運用については前にちょっと仕事で……って、それはまあいいか」

「マイバッハ課長、質問してもよろしいですか?」

「はい、どうぞ?」

 

 新人らしくまだ制服に着られているという感じの少女が、元気よく手を上げた。

 

「魔力発揮値100でも動くとの事ですが、例えば500の場合とでは速度アップの他にどのような差があるのでしょうか?」

「概ねありません。

 しかし投入される魔力が100ぎりぎりだと、かなり処理が重くなります。もちろん、スキャナを使って手作業で読み込むよりはよほど早いのですが……。

 元はAランクの魔法を細かく分割することで動かせるように術式を組んでいますので、その点はご了承下さい。

 ランクE対応のチャンバーにチャージャーを組み合わせてあるので、魔力をある程度チャージしてから使うという裏技もあります」

「ありがとうございます」

「これなら仕事の進みが全然違うと思います。

 ぼくも低魔力消費の読書魔法を組んでみたんですが、B位までしか落とせなかったんで……」

「ユーノ室長は大魔力を効率的に活かす方が得意ですから!」

「そうですよ! 落ち込まないで下さい!」

 

 ユーノは既に、司書達の心をがっちりと掴んでいるらしい。

 見かけが頼りないので支えなきゃと思われているのか、配属された司書が全員女性でしかもユーノより年上なおかげで弟認定でもされているのか、微妙なところだが……。

 

「それからこちらのタイプⅡは魔力量D以上の人向けで、先ほどの四種の魔法の他に、統合型の司書魔法が入れてあります。

 魔力は相応に消費しますが、かなりの速度で処理が可能です。もちろん、マルチタスク対応にしてありますので、必要に応じて切り替えて下さい。

 室長、こちらは各術式を入れた記録媒体です。

 例のAランクバージョンも同梱してありますので」

「何から何までありがとうございます」

「自前のデバイスを持ち込んでいる人は、ユーノ室長から借りてこちらからコピーしてくださいね」

 

 一応実際の動作を見てからということで、書庫内に移動する。

 第六特機と同じくまだ実働にはほど遠いのだが、彼女たちからも新しい仕事への高揚感は感じられた。

 

「わ、はやっ!?」

「スキャナよりいいね!」

「私にもできましたー!」

「おおっ、アンリエットすっごーい」

「次、あたし!」

 

 動作は問題ない様子だが、姦しいことこの上ない。

 女子校の教室に放り込まれたかと錯覚しそうになる。

 

「昨日は検索魔法だけ覚えて貰ったんですけど、検索範囲狭めても消費魔力が多すぎて、主任のメルヴィナさん以外へろへろになっちゃったんですよ」

「デバイスの支援無しだと更にきついか。

 本格的に考えようかな……?」

「何をですか?」

「魔力電池を使った司書用デバイス。

 ……司書さんたち見てて思ったんだ。

 戦闘魔導師が魔力電池をバックアップ以外に使わないのは瞬間出力が低すぎるからだけど、ここでなら案外使いやすいかも、って。

 例えば武装隊だと魔力量Bランク───魔力発揮値3万4万あたりが最低ラインで、そこに魔力電池の魔力50や100を足してもあまり変化無いけど……」

「……あ!」

「でしょ?

 100に100を足せば倍になるよ」

「行けると思います!

 それに魔力電池なら、帰りに魔力封入器と接続しておけば毎日使えますよ!!」

「……それ、いただき。

 じゃあ、早速その線で考えてみるよ。

 今のやつはどうしようか?」

「ぼくもさっき考えていたんですが、試験内容の見直しも含めて、司書資格の試験用に使いたいと思います。

 そっちは魔力電池無しの方がいいかなって」

「了解」

 

 使用感も含めた問題点を司書達から聞き取り、アーベルはあれこれと改良案を考えながら第六特機へと戻った。

 

 

 

 ▽▽▽

 

 

 

 司書用デバイスは翌日までに改良と修正を済ませ、魔力電池搭載型に対応したチャージクレードルもおまけで作って共に数日の試用期間を取っている間に、アーベルの元には全く別の角度から新たな問題がやってきた。

 

『アリサも念話使えないかなって』

『一人だけなしはかわいそうなの』

『ものすごい勢いで食いつかれてしもたんです……』

「いや、念話補助アクセサリーがあっても、使えるかどうかは魔力次第なんだけど……」

 

 本局内から通信を繋げてきたのは、なのは・フェイト・はやての魔導師三人娘である。

 そう言えば彼女たち仲良し五人組で一人だけ、外国に行っていたので先日のバーベキュー大会に参加していなかった子がいたなと思い出す。

 

『あんな、アーベルさん』

「うん?」

『すずかちゃんからも宜しゅうに言われてるんですけど、何とかしてもらわれしませんやろか?』

「……」

 

 それを言われると、非常につらい。

 

 いや、嬉しいには嬉しいのだが、目の前の何かを期待する少女魔導師たちを見ていると、喜びよりも、拒否は出来ないのだろうなという義務感が先に来る。

 ……もう1機追加で念話補助アクセサリーを用意するとなると少しどころではない出費になるが、そこはもう考えても仕方がなかった。

 

「あー……週末までにこっちも準備調えておくから、アリサちゃんも含めて日曜日の予定、フリーにしておいてくれるかな?

 それと場所ははやてちゃんの家、借りてもいい?」

『了解です!

 あ、うちの家、他の人にも転送使えるように許可降りたんで、アーベルさんも大丈夫ですよ!』

「そりゃ助かる」

『うちの子らが大人しゅう……やのうて、真面目に頑張ってくれたみたいで、ロウラン提督が計ろうてくれはったんです!』

「そっか……。

 よかったね、はやてちゃん」

『はい!』

 

 出撃待機と更生教育の両立はきついだろうに、守護騎士達も頑張っているようだ。

 

 だがアーベルは、ここまでの会話がほぼ無意味……いや、単に理由を付けてすずかに会いたかっただけと気付いてしまった。

 自分で自分を騙してどうしようというのか、情けないこと甚だしい。

 

「……ところでさ」

『はい?』

『どうしたんですか?』

 

「実はすずかちゃんから指輪をちょっと借りてアリサちゃんが試してみれば、一発で念話可能かどうかわかるんだけど……」

 

『……あ』

『ああーっ!?』

『それもそうや。しもたな……』

 

 まあ、今週は大丈夫だなと頭の中の予定表を参照し、後で連絡頂戴ねとアーベルは通信を切った。

 

 ……実はここからが大勝負なのである。

 

 

 

 アーベルは数日の内に小改良を加えたアリサ用のペンダント型、すずか専用として『特別製の』リング型と、2機の念話補助アクセサリーを作り上げ、更には法務に詳しいクロノ、こういう場合何かと役に立つエイミィも引き込み、リンディの承認……というか後ろ盾を得て仲良し五人組にはばれないように極秘の計画を完璧に仕上げた。

 

 

 

「ほんと、何やってるんだか……」

「はい?」

 

 不思議そうなマリーの視線を受け流し、アーベルはその週最後の日報───こんなものも課長になった途端容赦なく量が増える───を付けはじめた。

 

「……いや、うん、何でもないよ」

 

 幸いアリサの方も補助があれば念話が使える程度には魔力があった様子で、気楽な気分で八神家を訪問できる。

 

 あとはまあいつも通り、なるようになるだろう。……と、思いたいアーベルだった。

 

 


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