織田信奈と正義の味方   作:零〜ゼロ〜

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それぞれの正義

 矢を放ち、少女のもとへ走り続ける衛宮士郎。その顔は鬼気迫るものを感じさせるほどである。

 

 

 

「間に合わないかもしれない」

 

 

 

 そんな不安感を必死に振り払い、胸から溢れてくる感情を必死に飲み込む。

 

 

 

────お前には何も護れない。今までに何人を殺した。何人を見捨てた。

 

 

 

 まただ。頭に声が響き、強烈な吐き気と眩暈が追い打ちのように体を廻る。記憶がないはずなのに、その言葉が身体を凍てつかせていく。

 怖い。『何も護れない』という言葉が脳内を反復し、自分の心すら潰そうとしていく。

 それでも前に進み続けなければ。あの少女を護るために。こんな世界は間違っている。そう信じて、一刻も早く。

 

「どうにか間に合ってくれ…!」

 

 そう願い、ひたすら前へと進み続けた。

その願いは、とある男の存在によって叶えられることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前に殺されそうな少女がいる。

 この事態を目にした良晴は、自分に出来ることを必死に考えた。

 自分に武力は全くない。ここで何も策無しで乱入しても意味はない。

 この場を一瞬で自分のペースに持っていく。そんな奇策が必要だ。

 

「そうだ、驚かせて警戒させればいい。俺にはコレがあるじゃないか!」

 

 学生服に収まっていたスマートフォンを操作し、音楽アプリを起動。ダウンロードコンテンツ、「合戦ボイス」を選択。音量最大へ変更。

 準備完了。今救けてやるぜ、可愛い子ちゃん!!

 スマホを学生服のポケットにしまい、勇敢に乱入を仕掛ける良晴。超絶名作である『織田信長公の野望』の購入特典というだけあって、臨場感と緊迫感を感じさせるような良い音である。

 ズボンから鳴り響く、法螺貝の重低音と男どもの決死の声と共に、良晴は少女のもとへと駆け付けることに成功した。

…したのだが。

 

「えっ?」

 

あぁ、俺が何をしたって言うんだよ。

なんで満タンに充電されてないんだよ…。

なんでバッテリーがこのタイミングで切れるんだよ……。

 

「おい、坊主。さっきの奇妙な術はもう終わりか?」

 

 早速詰んだ。この展開までは考えていない。ここで弱みを見せた瞬間に殺される。後ろにいる少女も一緒に。

 それだけは駄目だ。

 ハッタリでもいい、この状況で保ち続ける他はない。

 

「一先ず、アンタの視線を引き付けられたんだ。それで十分じゃないか?」

 

「ほぅ。まだ策があるって言うのか?素性のしれない相手ほど、相手にするのは嫌なもんだな」

 

 良晴は精一杯の虚勢を張り続ける。彼の予想通り、何をするかわからない相手を前に男武者は動き出せないようだ。

 さて、このままどうやり過ごすか。

 今のままでは非常にまずいことは明白。

 「玉避けのヨシ」の二つ名を持つ良晴としても、刀を避け続けることは不可能。少女を護りながらだなんて無理が過ぎる。

 ここは、なんとしてでも嘘を突き通すしかない。

 女の子を死なせたくない。そんな気持ちの表れだろうか。彼は死の恐怖を感じておらず、彼の瞳は爛々と燃えていた。

 

「いい目をしてるな。体つきは全然だが、心と肝っ玉は一人前だ」

 

 その瞳に何か思うところがあったのだろう。男武者は笑顔でそう言い、刀を構える。

 ヤバい、嘘がバレた。

 そう直感し、ひたすらに信じ続ける。

 早く来てくれ、五右衛門…!!

 

 

 

 

 

 

 

「よく時間を稼いでくれたな、学生服の少年。後は任せてくれ」

 

──────────刹那。

 良晴と信奈の後ろから一人の男が走り抜け、良晴と男武者の間に立つ。

 その青年は3人にとって、謎の服装に身を包んでいた。

 紅の射籠手を左腕に着け、黒のズボンに白の帯で締め付けている。腰にぶら下がった赤くて大きい宝石は、純白のマントによって見え隠れし、赤銅色の髪色が炎にも思えた。

 戦国の世の2人にとっても、未来人である良晴にとっても、あまりにもこの場には不釣り合いな男。

 

「今日は弓兵といい、黒装束の坊主といい、お前といい、乱入者ばっかりだなぁ、おい!」

 

「矢で少しでも時間を稼げれば、なんて思ってたんだけどな。戦う術のない男が人を守る為に戦おうとするなんて、本当に見上げた根性だ」

 

 その発言に2人は息を呑む。

 あの凄まじい狙撃をした男。神がかり的な腕を持つ弓兵が、「単身」で乗り込んで来たのだ。緊張しない訳がない。

 

「あの弓はお前か。確かに軽装だな。鎧はいらないのか?」

 

 そんな中でも、男武者は楽しそうに話し続ける。好戦的な性格ではあるのだが、それ以上に興味心に忠実な男らしい。

 

「何せ弓兵だからな。身軽さが一番だ」

 

「そうか。じゃあ、弓兵が何故此処に?」

 

「…少女が戦場に立つなんて間違っている」

 

 そう言いつつ、チラリと信奈の方を見て続ける。

 

「お前、その少女を殺そうとしたな?」

 

 周囲の気温が一瞬にして下がった感覚が皮膚を襲った。

 凄まじい殺気に、良晴は声を出すことなんて出来やしない。衛宮士郎の目は真っすぐと、男武者を見つめ続ける。

 

「あぁ。それが戦国の世の定めだ。したいしたくないでは通じないし、そうしなければ生きられない」

 

「そんなものは知らない。俺は、俺の信じる道を行く。血生臭い戦場は、男だけで十分だ」

 

 きっぱりと告げる青年。

 その言葉には強い信念と意志を感じ、揺らぐことなどない。

 

「…そうかい。じゃあ、言葉じゃ埒が明かないな」

 

「そうだな」

 

 そう言いながら、再び視線を外した衛宮士郎は信奈と良晴へと視線をずらす。

 二人を見据える青年の目は温かく、少しの安心感を感じていた。

 でも、何故だろうか。

 彼が儚く見えてしまうのは。

 

「俺がこいつの相手をする。二人はその隙に逃げてくれ。此処に来るまでの途中、小さな忍びに応援を呼ぶよう頼んだから、そんなにせずに合流できるはずだ」

 

 小さな忍び、という単語に良晴は反応した。五右衛門がいなかったのはそんな理由だったのか、と1人納得。

 

「…あんた、弓兵でしょ?この男はかなりの手練れよ。死にたいの?」

 

 信奈は精一杯気丈に振舞ってはいるが、声が震えている。自分を救けてくれた人物が、またしても命を懸けようとしているのが怖い。死んで欲しくない。そんな気持ちが士郎へと伝わり、彼は柔らかい笑顔を向けた。

 

「大丈夫だ」

 

と。

 そんな彼の思いに答えないわけにはいかない。

 さっきまでは大丈夫だった脚には力が入らず、震えが止まらない。

 自分が死ぬのは構わない。でも、人を犠牲にしてしまうのは死ぬ以上に怖い。

 それでも。

 

「わかった。俺はこの子を連れて逃げよう」

 

彼は決意した。

 俺と少女が生き延びるには、そうするしかないと。震える声で、そう口にしたのだ。

 他人を犠牲にするかもしれないという危険な選択肢を選び、すべてを青年に託すしかない。

 でも、これだけは伝えなければ。

 

「必ず仲間を連れて来る。それまで生きてくれ」

 

 目の前の青年はこちらを見ることはなく、ただ前を見据えて頷くのみ。

 彼の背中は非常に大きく、頼もしく映る。まるで、「任せろ」とでも言うように。

 こういった人のことを、俺たちの世界では何て称するんだっけ………。

 あ、思い出した。

 俺も小さな頃に憧れた、あの存在。

 

「頼んだぞ、正義の味方!」

 

「絶対生きてよね!お礼言ってないんだから!」

 

 そう言い残し、少年と少女は走り出した。

 遠くへ。より遠くへと。少しでも早く増援を呼ばなければ。あの青年を死なせない。ただ一心にそれだけを考え、戦場を駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「正義の味方…ねぇ。女を斬ろうとした俺は悪だな、間違いねぇ」

 

 面白おかしそうに語る男武者の目は真剣でいて、どこか寂しそうにしている。こんな世の中を忌み嫌う気持ちが見え隠れしているのだが、士郎はそれに気づくことなどできない。

 

「…お前、なんで辛そうにしているんだ?」

 

 それは男武者にとって純粋な疑問だった。少女のために命を賭して戦う男は、彼の目には「正義の味方」に映るだろう。産まれたときから定められた道を歩き続ける俺とは正反対だな、とは自分でも思っていることだ。

 そんな男武者と対峙する青年は、何故か苦しそうに、辛そうにしていたのである。

 

「正義の味方か…。何故だろう、妙に泣きたくなる」

 

 彼から零れた、微かな声。彼は己のことを嗤っていた。

 まるで、そんなものなど幻想に過ぎないとでも言うように。

 しかし、青年はそのことに気がついていない。自分の声に驚いたのだろうか。表情を歪めていたのが、一瞬にして困惑の表情へと変わっていた。

 彼の行いは間違いなく『善』であり、辛そうにする目の前の男は少年にとって、まさに「正義の味方」であるはずだ。

 何故、そんなに辛そうにするのか。俺には理解できない。

 

「俺は、そんなたいそうな人間じゃない。それでもだ。…俺は護りたい人を護る」

 

 声だけで伝わる悲しみ。

 それと同時に伝わってきた、鋼のような意志。

 

「そうか、お前の意志は確かにわかった。その通り、俺は『正義の敵』だろうさ。しかしなぁ!?俺にも『俺なりの正義』がある。護りたいならば、自らの敵を殺すしかないだろうよ!」

 

 俺にも護らなければいけない人たちがいる。

 俺にも『俺なりの正義』があり、折れるわけにはいかない。

 故に、俺は戦おう。

 少女の命を奪おうとする“悪”にでもなってやる。

…みんなを、仲間を護れるならな。

 

「今川家家臣・鵜殿義輝、いざ参る!」

 

「衛宮士郎。行くぞっ!」

 

お互いの『正義』を懸けた戦いの幕が切って落とされた。




ノッブ「オマケのコーナーなのじゃ!」

沖田「いやぁ、昨日はいろいろ驚きましたねぇ」

ノッブ「昼過ぎたあたりから、閲覧数が1時間で200とか越えておったのぅ」

沖田「バグかと思いましたよ…」

ノッブ「一時期は日間ランキングにも20位にランクインしてたしの!」

沖田「それと同時に、お気に入りと低評価の嵐になりましたね…。やっぱり、士郎さんの在り方に不服な人も多かったのでしょうか。アンチ・ヘイトタグは付けてるんですけどね…」

ノッブ「まぁ、この作者は文章力皆無だから是非もないよネ!」

沖田「出来れば、評価と一緒にコメントお願いします!直せるところは直していきたいんですよ」

ノッブ「で、じゃが。今回の士郎はかなり病んでいるようじゃの?」

沖田「『正義の味方』って呼ばれたら、気付かないうちに嗤っていたってのがキテますよね…」

ノッブ「彼の過去が解明されるのはいつになるのかのぅ」

沖田「原作と比較すると、まだ1巻の40頁くらいですからね」

ノッブ「なかなか長くなるが、みんなよろしくの!」

沖田「鵜殿長照さんの『俺なりの正義』も気になりますね。楽しみです」

ノッブ「作者曰く、『織田信奈の野望を知らない人がいるかは解りませんが、そのうち人物紹介を設けます。オリ武将もいますので』らしいのじゃが!」

沖田「オリ武将出すなら、それくらいやってくれた方がいいですもんね」

ノッブ「そういえば、良晴が大分落ち着いてるんじゃが、じゃが!」

沖田「1巻の時ってアホみたいにテンションが高かったですよね。作者曰く、『1巻のテンション高すぎて読むのが辛い』らしいです。えぇ…」

ノッブ「と、とにかく次回もよろしくの!」

沖田「ご感想や質問などお願いしますね!」

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