織田信奈と正義の味方   作:零〜ゼロ〜

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少女の夢

 少女は、今までにないほどの窮地に追い詰められていた。

 織田軍が優勢になったことにより、尾張兵士の士気が上昇。皆が敵の首を1つでも多く取り、武勲を挙げようと躍起になって本陣を守るはずの兵士も我先にと前線に向かってしまい、いつの間にか織田本陣にて少女を守る者は誰一人とて居なくなっている。

 

 

 

 これを狙っていたのだろうか。

 今川軍の突撃隊によって織田本陣が奇襲され、少女1人が少数精鋭である男武者9人を相手にしなければならない事態へと発展していた。

 

(わたしの剣の腕じゃ、9人の相手は無理ね。どうにかしないと…)

 

 彼女は1人、思考を巡らせる。

 誇れることでは決してないのだが、少女は剣術をあまり得意とはしていなかった。馬も殺されてしまい、逃げることは不可能。

 

(……なら、生きるためには戦うしか無いわね。時間稼ぎでもなんでもして、六や足軽が駆けつけてくれるのを待つのみよ)

 

 それほどの危機なのだが、いつも以上に肝が据わっていて、頭の回転がいつも以上に速い。

 逃げることは不可能。

 自分の刀の腕に賭けるのは無謀。

 ならば、無謀でも。どれだけ厳しくても、一筋の光を掴めることを信じる。

 覚悟を決めて抜刀した刹那────

 

 

 

 

 

 

 

 

────突如、目の前の武者の1人が倒れたのである。

 

「「なっ!?」」

 

 その事を想定などしていない少女と今川兵が同時に声を上げるほど、急激な展開であり、「いつも以上に頭の回転が速い」だなんて感じていた脳みそも、目の前で起きた出来事を処理しきれないでいる。

 困惑している最中、時にして3秒ほどだろうか。悲鳴を上げることも出来ないまま倒れていった。

 

「矢………!?」

 

 少女はようやく、目の前の男たちが弓矢によって屠られていることに気が付くものの、矢が飛んでくる方向には人影がなく、その方角に存在するのは林のみ。 その林は400mほど離れているので、弓による狙撃など不可能に近い。仮に当たったとしても、急所に当たらない限りは怪我すら負わせられない距離である。

 それなのに、矢は1本も外れることもなく、正確に鎧の繋ぎ目を射ぬいていたのだ。

 

「嘘でしょ!?ここから林の場所までなら、弓の射程圏内ギリギリのはず。それなのに、1本も狂いなく相手の急所だけを射ぬくなんて………!!」

 

 まさに“神業”とも言えるかもしれない腕に舌を巻いている間にも、矢は放てれ続る。

 いつの間にか、男はたった1人になっていた。

 

「……ふぅ。もう矢は飛んでこないようだな。これ程の弓使い、見たことも聞いたこともない。お姫さま、このような逸材をどう発掘したのか教えていただきたいな」

 

 男武者はそう言いつつ、抜刀。刀をおもむろに構え始める。男に合わせて信奈も自らの刀を抜いた。

 

「さぁ、本当に記憶にないわね。どうせならアンタも始末して欲しかったんだけど」

 

「違いねぇ。どんな猛者とも言えど、遠くから矢を急所に当てられたらどうしようもない。その点、さっきの弓兵は化け物だな」

 

「何言ってるのよ。アンタの姫様だって、“海道一の弓取り”だなんて称されてるのに」

 

「自称に決まってんだろ。馬ですら満足に乗れないんだぞこっちは」

 

 お互いに軽口を叩きあいつつも、刀を構え続け、警戒しあう。

 少女は思わぬ伏兵であった謎の弓兵により、生き延びる細い道が広がったことを直感した。

 最初から、9人に囲まれた時点で負けは確定的。どうにか1対1にまで持っていかないと、時間稼ぎすら出来ないことには気づいていたのだ。それでも、少しの可能性にも縋らなければならない。

 ありがたい誤算によって、1対1へと持っていけた。

 ならば、後は彼女が戦闘で生き残るべく戦うだけである。

 

「お遊びはここまでよ。わたしは織田家当主・織田信奈。全力で来なさいっ!」

 

「応さ!今川家家臣・鵜殿長照、推して参るっ!」

 

 名乗った瞬間、正眼の構えをとっていた鵜殿長照が踏み込み、大きく袈裟斬りを仕掛ける。

 信奈もそれに反応し、何とか刀で受けることが出来た。

 出来たのだが……。

 

(この男、強いっ!?)

 

 剣筋だけで理解できるほどの実力。

 刃が一切ずれることなく切りつけられた一撃。それを何とかして受けたものの、実力差が歴然としていることには変わりない。

 やはり、相手の方が自分よりも剣の道に長けていることを悟る。

 それでも負けるわけにはいかない。

 ここで負けてしまえば、天下布武を広めて戦国の世を平定し、平和な世にすることも。海を渡って、日ノ本の外の世界を見ることも出来なくなってしまう。

 

「絶対、こんなところで負けるわけにはいかないっ!」

 

「良い目付きだな、姫様よぉ。その意気だ」

 

 夢を失ってはいけない。

 わたしが終わらせなければ、戦国の世は後100年は続くのだろう。

 その100年の間、どれだけの人が死ぬのだろう。どれだけの人が苦しむのだろう。

 そんなことはさせない。

 早く天下を統一しなければ、西洋の国々と対抗することも出来ないだろう。

 国民が何もかもに疲れているような時に攻められたのなら、抵抗することすら出来ずに植民地となるだろう。

 そんなことは絶対にさせない。

 自分の体に、普段以上の力が湧いてくるのがわかる。

 今までは相手の剣戟に防戦一方だったのだが、今では時折反撃までしていた。

 地上に響くは金属音。

 ギンッ!ギンッ!と鈍い金属音が鳴り響く。

 信奈も必死に腕を振るい、刀で斬りつけるものの、相手の方が上手であり、徐々に圧されていく。

 幾度となく繰り返された剣戟の果て、悲鳴を上げたのは信奈の刀だった。

 

 何度となく鵜殿長照の剣を受けていた弊害がここで来てしまった。

 今まで生み出していた音とは違う、「ガンッ!」という鈍く、耳が痛くなるような音。それと同時に、刀の鍔と繋がっていたはずの刀身は弧を描いていき、地面へと突き刺さった。

 剣戟にて自らの身を守ってくれた刀が折れてしまったのである。

 ついに武器すらも失った信奈には、もう抵抗する手段は残されてなどいなかった。刀が折れたことは死刑宣告にも近い。走って逃げることも出来なければ、戦う手段すらも残されていない今、刀が折れたことは死刑宣告と言っても差し支えない。

 

「勝負はあったぞ、姫様。俺相手に良い勝負するとは夢にも思わなかった。うつけ姫と言われているにしては可笑しな話だな」

 

「うつけ呼ばわりしてる奴等は、わたしの考えについていけない馬鹿ばっかりよ。効率的なものを選ぶのは時間が勿体ないから。なんでそんな簡単なこともわからないのかしらね」

 

 藁にもすがるように軽口で対応したのだが、返答を聞いて男は「へ?」という顔を浮かべるや否や、大笑いし始めた。彼の中で疑問に思っていた点と点が繋がったのだろう、謎が解けてすっきりとした顔をしている。

 

「…それを聞いて理解した。お前は天才と言われる類いの人間だな。考え方が合理的すぎて理解してくれる人間が周りに居てくれず、織田家の中でも異端児扱いされている訳か。誰か一人でも真にお前を理解できる奴がいたのなら結果は違ったのかもな」

 

「そうかもね。まぁ、もう終わってしまったことだけど」

 

「姫様。アンタは姫武将だから、出家さえすれば命は助かる。でも、するつもりはないんだな?」

 

「えぇ、無いわ。夢が叶わないのなら生きているだけ無駄よ」

 

 即答とはまさにこの事。自分が戦うのは日ノ本の全ての民のためであり、更にいうのなら自身の夢のためであり、それができないのであれば彼女にとって生きている意味など無い。考えてみれば簡単な話である。

 

「了解した。………糞が。女の子を斬らなきゃいけない現世を、俺は呪うぜ」

 

「アンタ、話している限りだといい男ね。顔は好みじゃないけど」

 

「……これでも結婚して子供もいるからな。求婚されても断らせて貰うぞ」

 

「誰もそんなこと聞いてないわよ」

 

「年下の少女を斬らなきゃいけないとは嫌な世の中だ。女の子が花を見ている間に男が血なまぐさい殺し合いをする。これが一番だろ」

 

 恐らく、鵜殿長照本人ですら自分の声色に驚いたのだろう。

 苦虫を噛み潰したような苦い表情を浮かべ、そう呟いた。

 戦に明け暮れる戦国の世。跡取り不足のために、女でも戦場に立たなければならない狂ったこの世の中を心底怨み、蔑み、悲しんでいたのだ。

 

「気にしなくていいわ。わたしの実力不足なだけで、アンタは悪くないのよ。さぁ、斬りなさい」

 

「辞世の句はいいのかい?」

 

「うつけ姫が辞世の句を用意していると思うのかしら?」

 

「思わねぇな」

 

 こちらも即答。流石に失礼じゃない、と信奈も吹き出しそうになるのを必死に堪えた。こうして殺されそうになっているのにも関わらず笑えるあたり、肝の座った人物である。

 

「じゃあ、バサッと────」

 

 最後まで、その言葉が紡がれることは無かった。

 

「ちょっ!?ちょっと待てぇぇぇい!!!」

 

 近くから叫び声が上がり、突如として法螺貝の重低音と、男武者たちと思われる声が響き渡り、大地を揺るがす。

 

「なっ!?織田の援軍か!?」

 

 鵜殿長照と信奈は動揺しつつ、辺りを見渡すものの、響き渡る音から推測できるような人数は確認できない。信奈と鵜殿長照の間に滑り込んできたのは、黒装束に身を包む、猿顔の少年のみ。音は、どうやら少年の懐から出ているらしい。どういった仕組みであの音が出るのか、彼はどう現れたのか、何故そんな変な格好をしているのか、彼について興味が尽きることなどない。

 

「おかしな格好をしているが、この女の子は美人と見てとれたぜ!可愛い女の子が死ぬなんて、勿体ないじゃねーかっ!!?」

 

 カッ!と目を見開き、そんな阿呆みたいなことを言い放った少年。そんな少年を目の前にして、

 

(大丈夫なのかしら……………)

 

と思ってしまうのも仕方がないと言えよう。

 さっきまでとは違う、なんとも言えない微妙な空気が流れたのは言うまでもない。




ノッブ「オマケのコーナーなのじゃ!」

沖田「ついに、織田信奈さんと相良良晴が出逢いましたね!」

ノッブ「そうじゃな。てっきり良晴は出てこないものと思っていたのじゃが…」

沖田「作者も、当初はそのつもりだったらしいですよ。ただ、どうしても問題があって…」

ノッブ「問題?」

沖田「士郎さんじゃ、信奈さんの第六天魔王化を防ぎきれない、と」

ノッブ「まぁ、あんまり言いたくないんじゃが…。士郎って体が勝手に動いちゃうことも多いし、闇深い系主人公じゃし」

沖田「なんだかんだ言っても、信奈さんを押さえることが出来るのは良晴さんだけ、と考えて出演して頂いたみたいですね」

ノッブ「なるほど、そうであったか。……で、鵜殿長照とは誰じゃ?本編では出ていなかったような気がするのじゃが」

沖田「今川の有名な武将さんですね」

ノッブ「オリキャラじゃないか…。タグは入れなくても良いのか?」

沖田「原作に+αで衛宮士郎さんが入ってるんですから、どうしてもオリ武将を入れないと話が繋がらないんですよね。そこまで積極的には加入させませんが」

ノッブ「既存人物のみだとキツイからのぉ…」

沖田「物語に面白さを出すために、オリ武将をぶっ込んだりすることもありますしね。そういう事です」

ノッブ「…つまり?」

沖田「衛宮士郎というイレギュラーがいる時点でオリ武将参加しないと話が繋がらないのは必至!わざわざタグ増やしてパンパンにしたくない!」

ノッブ「うわぁ………暴論。謎のタグ、『智の満点娘と武の正義ノ味方』を消せば――――」

沖田「無理です」

ノッブ「え、あの――――」

沖田「無理です」

ノッブ「コホンッ!それはともかく、高評価・お気に入りしてくれた方々。読んでくださっている方々。本当にありがとうなのじゃ!」

沖田「赤ゲージ乗ったことで、作者も滅茶苦茶驚いてましたからね…」

ノッブ「これからもよろしくなのじゃ!」

沖田「質問、感想などはコメントよろしくお願いしますね!また次の話で!」

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