織田信奈と正義の味方   作:零〜ゼロ〜

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衛宮士郎と織田信奈
目覚め


 生命の息吹を感じさせる風が吹く丘で、衛宮士郎は目を覚ました。酷く頭が痛くて、強い吐き気が襲ってくる。

 

「………随分と長い夢を見てた気がする」

 

 頭には霧がかかっていて、自分が何故野外で寝ていたのか、一切思い出せない。疲れているのだろうか。それとも、寝ぼけているだけなのだろうか。一向に頭痛は和らぐことなく、意識もはっきりとしなかった。

 

「はぁ。俺もしっかりしないと駄目だろ。何やってんだよ」

 

 独り言を溢しつつ、ゆっくりと体を起こしながら立ち上がり、丘の上から辺りを見渡す。景色を見れば、なんでここで寝ているのか思い出せるだろう。そんな希望的観測を胸に抱えて。

 

 眼下に広がるは、おびただしい数の死体。

 

「…なっ!?」

 

 風に乗せられて来たのは錆びた鉄の臭い。のどかに花を咲かしているこの丘には、全くをもって不釣り合いな光景。衛宮士郎はただただ絶句し、思考が停止していくのが自分でもわかる。

 周りを警戒しながら丘を降り、転がっている死体を確認していく士郎は再度絶句してしまう。

 時代劇や大河ドラマでしか見ないような古い鎧を身に纏い、体には無数の傷痕。刀で斬られ、槍で刺突され、弓矢によって射られている。一般の人間が見たならば、間違いなく目を背けたくなり、失神しても仕方のない光景。それを前にしても、生々しい死体を観察して、自分の置かれた状況を理解しようとする士郎は明らかに異常であり、そこを疑問に思うべきなのだが…。本人はそこまで意識がいっておらず、状況把握でいっぱいいっぱいのようだ。

 

「………なんでさ」

 

 周りの死体と光景を見て推測できたことは、自分が今いる時代が“戦国時代”であるということ。

 落ちている旗から推測するならば、この戦は“織田軍”と“今川軍”の合戦であるということの2点である。

つまり………

 

「タイムスリップ」

 

してしまったらしい。

 そんな非科学的なことがあるのか?と疑問に思ったのだが、そもそも“衛宮士郎”という存在が此処にある。この事実によって、非科学的だなんて言うのがお門違いであり、それを受け止めなければ前に進むことは出来ない。あり得ないだなんて言う暇があるなら、そんな状況を受け止め、元の時代に戻るために努力するのが正しいだろう。努力といっても、何をどう努力すればいいのかは全くわからないのだが。

 もう死体には観察するべきことは無い。この戦場で散っていった多くの武者たちに、最大限の敬意とご冥福を祈ろう。そう思い、士郎は永遠に眠る武者たちに黙祷を捧げる。そんな男の姿は、辛く悲しい光景に見えたという。

 

 

 とりあえず、自分の眠っていた場所に何かあるのではないか。そう疑問に思った衛宮士郎は、先程まで眠っていた花の咲き誇る丘へと足を運び、辺りを散策する。

 

「ん、あれは…」

 

 士郎がよしかかって眠っていた木の裏側に影があるのを見つけると、その影の正体を暴くべく、彼は迷うことなく木の麓へと歩いていった。

 もしかしたら思い出せない過去に繋がる、大きな手がかりがあるかもしれない。そう思いつつ、小さくない希望を抱きながら鞄を開ける。

 

「いろいろな調味料と中身の入ってない水筒。簡単な着替えに………裁縫道具、か。調味料がこんなに入ってるのも謎だな。俺は料理が得意だったのか?」

 

 確かに、料理や掃除などの家事仕事は得意だった気がする。しかし、何故こんなにも豊富な調味料が入ってるんだろうか。料理好きが旅をするにしてもこんなに調味料を持ち歩くとは考えにくく、肝心のフライパンや鍋などの調理器具類は何一つ入っていないことに違和感を覚える。

 それに、自分の今の格好も突っ込みどころが満載だった。真っ黒で異様に軽いブーツに、黒のズボンを白の帯で縛っている。上半身は服を着ておらず、纏っているのは、左腕の射籠手のみ。その上から白い外套(マント)を羽織っている。明らかに一般人の格好とは程遠い姿に唖然としてしまった。

 他にも何か入っていないのだろうか。これだと自分が「家事の得意な男」という事以外はわからないじゃないか!という、若干の焦りを感じつつ手を鞄の中に入れて物品を探す。

 

「…ん?何か手に当たったぞ」

 

 なんだこれ?と鞄から取り出したのは、黒くて長方体の箱。怪しく思い、箱を軽く振ってみるものの、カタカタという音しか聞こえてこない。

 開けてみるしかないのか。自分でもよくわからないのだが、箱を開けようとする自分の手が、指が、自然と震えてしまっている。この箱には、それほどまでに大切な物が入っているのだろうか。もしかしたら記憶が戻るきっかけとなるかもしれないし、そうはならなくとも自分の素性ならわかるかもしれない。少なくともこんなことで怖がる必要は無いだろう。

 震えてしまっている指で慎重に箱の角を掴み、若干の恐怖と、今度こそは…という期待を胸に、箱を開け、中身を見る。

 

「……………赤い宝石?なんでこんなものが俺の鞄に…」

 

 出てきたのは、真っ赤に燃えるような赤い宝石。宝石のことなどよくわからない士郎でも、この宝石がどんなに大きくて、どんなに希少なのか。それぐらいは理解できた。

 男が持っているにはかなりの違和感がある、大きな赤い宝石。ネックレスにするためなのか、それには銀色の鎖が通されている。

 自然と伸びた手で宝石の鎖を手に取り、赤い宝石を目の近くで見た瞬間。

 

「あ……れ、…な………んで…なみだ……なん…か…………」

 

 熱い涙が、止まること無く流れ続けていることに気づいた。

 何故涙を流しているのかはわからない。この宝石には、大切な思い出が詰まっているのだろうか。この状況に若干の歯がゆさを覚え、そんな自分に嫌気が差す。

 思い出すことが出来ない、とても、とても大切な思い出。そんな記憶に思いを馳せ、太陽のヒカリにより深紅に輝く宝石の鎖を腰に巻いている帯に括り付け、鞄を背負いながら前に進む。

 涙の理由はわからない。でも、この理由を、思い出を思い出す。

 そのために、衛宮士郎は前へと歩みを進めた。

 

 確かな信念と、決意を胸に。

 

 太陽はそんな男を祝福するかの如く、燦々と道を照らしているのであった。




ノッブ「おまけのコーナーなのじゃ!」

沖田「さぁ、ついに物語が始動し始めましたねー。作者の仕事が遅すぎて、待ってくださってた方々には申し訳ないです」

ノッブ「センター試験まで残り100日切ってるのに、SSなんて書いてる暇なんてあるのかのぅ?」

沖田「数少ない息抜きということで楽しんでるっぽいですよ」

ノッブ「まぁ、それはさておき。遂に士郎が戦国の世に!士郎は記憶を失ってるみたいじゃが、大丈夫なのか?」

沖田「一般常識については覚えてるみたいですね。魔術の事については全く覚えてないみたいです」

ノッブ「早速詰んでいるのじゃが…」

沖田「手もとにあるの資料によりますと、服装はFGOのリミテッド/ゼロオーバーをイメージすれば大丈夫、とのことですよ。あれ、格好いいですよね」

ノッブ「このコーナーは基本的に、この話の解説や、前回のコメントで寄せられた疑問点などの回答をするらしいのじゃ!どしどしお便りよろしくネ♡」

沖田「うわぁ~。可愛く言うのは反則ですよ?本当に可愛いですけど」

ノッブ「通算UAが3000超えたみたいじゃし、作者も高評価貰って嬉しがってたのぅ」

沖田「皆さん、本当にありがとうございます!コメントや評価、脱字報告お願いしますねっ!また次回の話でお会いしましょう!」

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