織田信奈と正義の味方   作:零〜ゼロ〜

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 思った以上に長くなりそうなんで前編後編に分けますね。
 大まかな展開とかは考えてるんですけど、細かい設定はまだ練れてないんです。そこについてはご了承ください。


一日目の終わり 前編

「ふぅ…。やっぱり座りっぱなしは疲れるな。信奈、これで良かったのか?」

 

 一時間程だろうか。長時間だとは言えない程度のものではあるのだが、散々座って無表情でいるのは身体になかなか響くものがある。ようやく身体を伸ばせる、そう喜びながら、ゆっくりと立ち上がり信奈へと話しかけた。

 

「ええ。今回の戦は両軍とも痛み分けだから、自分たちが得をしたことと損害を受けたことの二つを明らかにしなきゃいけなかったのよ。領地を奪ったわけでもないし、活躍した家臣にですら褒美を渡せないんだもん。一番の収穫である、『敵将の鵜殿長照を討ち取った!』ってことを言って、文句言いにくくさせて貰ったわ」

 

 ふふん、と鼻を鳴らす信奈。言っていることは正しくそうなのだが、彼女が行ったのなら悪魔の所業に見えるのが不思議である。褒美の話になると士郎の話を挙げて、不満を感じる人たちに先手を打ち、そのまま押し切ってしまった。流石に周りの武将が可哀想に感じられたのも仕方がない。

 

「…今回の織田軍は鵜殿長照の策に嵌められたからな。多くの足軽が死んだし、敵将を討ち取った人物を織田家に迎え入れることを強調して文句を言いにくくしたのか」

 

「本当に活躍した人には褒美をあげたわよ。あの混沌とした前線で指揮をして、なんとか部隊を崩壊させるのを防いだ六とかね」

 

 少し目を逸しながら語る信奈を見るに、彼女は彼女なりに申し訳なく感じていることが伝わってくる。とは言っても…………

 

「味噌煮込みうどん半年分か。見た感じ、『これ以上に嬉しいことはない』と言わんとばかりの顔してたからな。幸せそうで何よりだ」

 

…………武勲賞が味噌煮込みうどんってどうなんだろうか。更に突っ込むならば、それで幸せに感じている勝家も大丈夫なのだろうか。そう苦笑いしてしまう士郎。ちなみに彼は、褒美を与えられることを皆の前で断った。武勲賞と敵将を討ち取った人間が大したものを受け取っておらず、なかなか不満を口に出せない人物が不憫である。

 

 重臣を集めての評定の終了後、信奈と士郎は二人きりで話をしていた。本来は重臣しか呼ばれないのだが、今回は即戦力であり鵜殿長照を討った士郎を紹介する為もあって呼ばれたのだ。

 二人の会話の内容通り、織田家には褒美となるような領地などない。今回の損害で受けた被害と、衛宮士郎という鵜殿長照を討ち取ったほどの即戦力の参入、武勲賞の柴田勝家が味噌煮込みうどんで満足している。このような様々な要因によって褒美についての文句が一切出なかった。

 文句が出そうになったときに必ず手助けを入れる丹羽長秀の働きも大きい。彼女の働きによって文句を押し留めた武将もいる可能性は十分にある。

 

「さぁ、もうそろそろ六やサルを呼んでもいい頃ね。急にみんなと話がしたいだなんて、どうしたのよ」

 

「話したいことがあるんだよ。俺のことと、良晴のことだ。そうだな…信奈が心の底から信頼している人なら何人か居ても構わない。この話はあまり聞かれたくないしな」

 

「へぇ、何か大事そうね。心の底から信頼している人なら、呼ぶのは六の他に万千代を呼ぶわ」

 

「わかったよ。よろしく頼む」

 

 

 

 

 さぁ、話を少し戻そう。

 完全に日が落ちた頃、織田軍の本拠地である清州城に信奈たち御一行はたどり着いた。馬に乗っていたこともあり、まだ体力に余裕がある勝家と士郎、信奈は元気なのだが、肝心の良晴はぐったりしたまま。男子高校生だとは言えども特別運動している訳でなく、今日一日は人生で最も走り、最も命の危険を感じ、最も近くで人の死を見たのだ。おまけで信奈の照れ隠し(?)にも付き合ったことにより、身も心も疲労困憊していた。

 城の入口付近には、彼女らを迎えようとしているのか、一人の女性が立っている。しばらく立っていたのだろうか、彼女は信奈を見つけるや否や、すぐさま駆け寄って微笑んだ。

 

「お帰りなさいませ姫、柴田どの。よくぞご無事で、七十点です。あら。そこの赤い髪をした殿方と、黒装束の少年は一体…?」

 

「紹介するわね。この赤いのが鵜殿長照を討った野武士で、黒いのがサルよ」

 

「衛宮士郎だ。好きに呼んでくれて構わない」

 

「俺はサルじゃなくて相良良晴だっ!アイアムアヒューマンビィーイング!」

 

 士郎と良晴の方を向き、「はて?」と首を傾げた彼女に対し、わりと大雑把な説明をする信奈。赤いのと黒いの、なんて言い方からは犬かなんかを紹介しているかのようにも感じられる。士郎は全く気にせず、良晴は文句を垂れながら彼女へと簡単な自己紹介を済ました。

 

「佐々どのが仰ってたお二人でしたか。お二人ともお疲れ様でした。八十点を進呈しましょう。二十点の差分はサルどのの難解な言語と、士郎どのの風変わりな服装ということで」

 

「採点癖…?織田家の人たちってキャラ立ちすぎだろ」

 

 良晴が呆れ果てたような表情に変わってしまい、士郎自身も内心では頷いてしまう。織田信奈に柴田勝家、佐々成政などといった姫武将は皆キャラが濃かったのだが、目の前の女性も例外ではなさそうである見た目から判断するに二十そこそこぐらいの年齢で、勝家や信奈にはない「大人の魅力」が備わっているようだ。決して淫らかな雰囲気を醸し出している訳ではなく、むしろ「クラスを纏めてくれる、大人な雰囲気の委員長」と言ったところか。深い藍色の髪は艷やかで、月の光を浴びて美しく光っている。袴は脚──特に太股──を意識しているのだろうか。本人から醸し出す雰囲気とは違う大人な雰囲気が強調され、不均一なコントラストを生み出していた。

 

「申し遅れました、丹羽長秀と申します。お二人ともよろしくお願いしますね」

 

 彼女──丹羽長秀──はニッコリと微笑み、その笑顔はとても。衛宮士郎の目にはとても美しく見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お邪魔するぞ、信奈」

 

「サル、お前なぁ…。本当に首を斬り落とすことになるぞ。失礼します姫さま」

 

「長秀です。失礼いたします、姫さま」

 

 少し時間を空けて、三人が入ってきた。まだ出会って一日と経っていないのだが、良晴と勝家の言い合いが板についてきたのが何とも言えない気分にさせてくれる。長秀はそんな二人と対照的で、静かに部屋に入ってきた。これが最年長の余裕という奴なのだろうか。

 

「よく来たわね。まぁ、とりあえず座りなさい。士郎から話があるみたいだから」

 

 頷きながら座る一行。上段の間に座る信奈を見上げる形にして、壁に合わせて良晴、勝家。その向かいに士郎、長秀という形になっている。

 

「じゃあ士郎、話をしていいわよ」

 

 そう言いながら、どこから用意したのか大きなフライドチキンに齧り付く信奈。そもそも戦国時代にフライドチキンなんてあるのか?とも士郎は思ったのだが、かの有名な"織田信長"が"織田信奈"となっている時点で気にしてはいけない。

 

「ああ、ありがとう。まず初めに言っておくとするとな────」

 

 真っ直ぐな目で正面の勝家の目を見つめる士郎には、勝家がそわそわしているのが簡単にわかる。その一方、良晴は士郎の言わんとすることを察しているみたいだ。どっちみち、この事を言わなければ、後々要らぬ軋轢を生む可能性があるのだから言わなければならない。

 

「────俺と良晴は、未来から来たんだ。今から約450年ほど先の未来から、な」

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然衛宮が言ったことが、理解出来なかった。元々あたしは頭が良くない。これは自覚しているんだけど、理解するしないの問題じゃない。

「未来から来た」

こんなことを突然言われてみても、急に理解することなど出来るはずがないだろう。

 そもそも、未来から来ることなど出来るのか?そんな思いが頭を過ぎる。

 もう無理。頭が限界だ。

 

「………へぇ、サルと同じくあんたも未来人って言うのね?」

 

 姫さまは玩具を見つけたような、口元を釣り上げてニヤリと笑い、衛宮に話しかける。

 

「証拠を出せ、と言われたら難しいけどな。取り敢えずコレを見てくれ」

 

 そう言いながら、持っている鞄を物色する衛宮。そんなに時間が経たないうちに、ヘンテコな物を取り出した。

 

「これは?」

 

「あ、士郎さん!それって…!?」

 

「そうだ、良晴。これは醤油っていう、この時代にはない調味料だよ」

 

 言い終わると同時に、衛宮はあたしを見て、その容器を渡してきた。見たことのない手触りのそれはカサカサという音を立て、それだけでもこの時代には無いものだと実感させた。

 

「え、衛宮。これって…?」

 

「魚とか、色んなものにかけて食べる調味料だよ。汎用性が高いから、様々な料理に使える」

 

 「料理」という単語を聞いたからだろうか、急に腹が減った感覚に呑まれ、ぐぅと腹が鳴ってしまい、慌ててお腹を押さえる。少し恥ずかしいが仕方がないだろう。昼だって警備をしていたんだ。なかなか飯を食べる時間なんてなかったんだし。

 彼は少し笑うと、どこから取り出したのか白い食器を取り出し、容器の蓋を開けて醤油と呼ばれた液体を見せてくれた。サル以外の皆は興味津々、そういった感じで覗き込んでいる。

 

「"醤油"ですか、確かに聞いたことがありませんね。見たところ、真っ黒で食べられるようには見えないのですが………」

 

「ふ、ふ、ふ。醤油とは奥が深いものだぞ。これさえあればご飯だって食べれるんだからなっ!」

 

 自分で用意した訳でもないのだが、何故かドヤ顔で宣言するサル。普段なら腹を立てるのだろうが、今は全くを持って気が回らない。

 

「ご、ごはんが美味しく食べられる…だと…!?」

 

 この黒い液体で、ご飯が美味しく食べられると聞いては黙っていられない。ただでさえお腹か減っているこの状況、それ以上に放置されてしまえば餓死してしまう自信がある。少なくとも、今のあたしには。

 

「…良晴、ご飯にそのままかけるのは止めろ。高血圧になるぞ。信奈には許可を取ったし、後で醤油を使った料理でも作るから食べたい人は言ってくれ。人数分作ろう」

 

「本当かっ!?」

 

 自然と口が動いてしまった。身体も乗り出してしまっている。まあ、問題はないだろう。元々ご飯をご馳走してくれると約束はしてくれていたのだ。問題はない。それよりも、涎が止まらないのをどうにかしてくれ。姫さまの前なのに、こんなはしたない姿を見せてしまうなんて…。

 見たところ、他の皆も食べたいようで少し安心してしまう。別にあたしだけが食い意地張ってる訳じゃないからな。うん。

 

「良晴のことに関しても、だ。良晴の格好も"学生服"って言ってな、未来の人間が着ているものなんだよ」

 

「ほら、信奈にはさっき見せたろ?これは未来のアイテムだよ」

 

 サルはそう言いながら、姫さまに向かって何かを投げつけた。危なげなくそれを掴む姫さまは半ば確信しつつ、それを見る。

 

「これは……南蛮カラクリ?」

 

「いいや、スマートフォンって言って、時計とか色んな機能がついてるんだよ」

 

 またもや聞き慣れない言葉。よくわからないけど、凄い代物らしい。現に、姫さまの瞳が爛々と輝いている。

 

「それでは、士郎どののその服装は、未来での標準的な服装だと言うことでしょうか?」

 

 首を傾げながらの長秀の質問。それを受けながら、衛宮は眉を寄せて少し考えた後に

 

「いや、違うはずだ。とは言っても俺にはわからないけどな」

 

とだけ答えた。これはなんとなく、あたしでも察することができる。あいつは村で、悩みながらも話してくれたんだ。記憶力のないあたしでも、流石に覚えている。

 

「わからない…?それは何故でしょうか」

 

「これも言わなきゃいけないことなんだけどな。俺、記憶喪失なんだよ」

 

 彼は記憶を失っているようだ。嘘かとも一瞬疑ったものの、彼からは嘘の気配が一向にしない。何より、嘘をついて得られる信頼より、嘘をついてバレたときに失う信頼の方が圧倒的に大きいのだ。

 

「はっ!?それって大変じゃないの!」

 

 皆驚き、次々と士郎のことを心配する声が挙がった。未だに未来人だと信じられるわけではないが、記憶喪失だなんて自体が大きすぎる。生活の心配をされるのは当たり前だ。

 

「自分の記憶はなくてさ、覚えているのは一般教養と、そして────」

 

 誰しもが、彼の言うことに耳を傾けた。彼は少し息を吐き出すと、おもむろに口を開き────

 

「俺は、魔術師だということだけだった」

 

 爆弾を落としたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔術師だって!?士郎さん、マジかよ」

 

 誰一人として言葉を発することが出来ず、静寂が訪れたこの場で最初に声を出したのは、同じ未来人である相良良晴だった。相変わらずの小並感な感想だが、これはご愛嬌ということで。

 魔術師。作品によっては魔法使いとも言えるだろうか。彼がいた世界において、誰しもが聞いたことのある職業だろう。かの有名なドラクエ、FFなどでも馴染みのある職業だ。それについて問題はあるまい。剣士職とは違った格好良さがあり、知的な詠唱なども相まって憧れる人も少なくないと聞いたこともある。

 だが、それはあくまでもゲームでの話だ。手や杖から地獄のような煉獄を生み出したりだとか、敵に氷塊をぶつけたりとか、そんなことが現実に起こるはずもない。いや、科学的に起きてはいけないことだ。いくら文系脳(というよりは理系が壊滅的なだけ)の良晴でも、非現実的であることぐらいは理解できた。

 

「はあ?何よ"魔術師"って。陰陽師とか妖術師みたいなもんなの?」

 

 今までにこやかだった信奈も一転、何とも言えない渋い顔を見せている。そもそも彼女は迷信臭いことを嫌う傾向が強い。

 

「近からずも遠からず、ってとこだな。とは言っても、俺は魔術師として三流以下だ。良晴が想像しているような、炎を飛ばしたり、風を起こしたりは出来ない」

 

 そんな周りの反応が目に見えていたのか、士郎は良晴に釘を差しておく。変に期待されたくないのもあるが、そもそも無闇に投影魔術を使う気はあまり無かった。

 

「では、魔術というもので何が可能なのですか?」

 

 口元を扇子で隠しながら質問をする長秀。

 

「俺が出来るのは剣や槍などの投影。簡単に言えば、武器とかを作り出すことだ」

 

「うぉぉぉ!魔法使いと剣士のいいとこ取りじゃねーか!カッコいいぜ!」

 

 あはは、と苦笑いするしかない。むしろ、魔術師としての行動といえば、投影と肉体の強化程度だけだ。投影魔術を用いて肉弾戦をしなくてはいけないなんて、魔術師としては異端中の異端である。カッコいいと言われるようなものでない。

 

「じゃあ、何もないところから双剣を取り出したのも、魔術ってやつなのか!?」

 

「ああ。その通りだよ、勝家さん」

 

 信じられない。とても、信じられないことだ。それでも彼に嘘の気配など感じられない。

 だからこそ。士郎の話を聞いていた人は皆、納得する他なかった。

 

「………納得してくれたみたいだな。俺がこんな話をするのには理由がある。このことを隠していても良かったけど、後でわかったことで変な軋轢を生みたくなかったんだ。そのことを考えてほしい。俺からは、これだけだ」

 

「じゃあ、料理作るから待っててくれ。長秀さん、厨房までの案内をしてくれないか?」と、その場を離れる士郎。彼の言葉に頷き、歩きはじめる長秀。

 残された三人は皆複雑な表情をしていたのだった。

 夜はまだまだ続く………。




 ドラクエにFF?ああ、ドライブクエストにファイナルファンタズムですよ(白目)
 僕の悪い癖なんですけどね、すぐ視点を変えちゃうんですよ。視点変更の部分はわかりやすく空欄取っていますので、大丈夫だとは思いますが…。
 部屋で座ってる状況が説明しにくかったです。てか、表現が下手過ぎて伝わっていないかと。

    信奈
──────────

勝家      士郎

良晴      長秀

って感じですね。脳内変換お願いします。
 色々と話したいことはあるんですが、今回はここまでということで。質問などはコメントしてくれれば答えられる範囲内で答えますよ!
 あ、それと1月の途中で投稿出来なかった理由+FGOのアカウント復旧をした話を活動報告のとこに書きました。興味のある方はそちらもどうぞ。FGOデータ復旧の仕方や、実際に申請したときにどう書いたのか、などを書いてあります。どなたかの助けになれば幸いです。
 ではでは、感想お待ちしてますね(ニッコリ

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