...おはよう。今、起きたのだが、なぜ私はアクアに抱き着かれているんだ?
私を抱き枕にして大丈夫だっただろうか。無意識に泡液を分泌していなかっただろうか。
濡れていないところを見るに大丈夫だったみたいだが。
ところで今はどれぐらいの時刻だろうか。夜か?
そもそも此処は何処だ?アクアが寝ているから安全だとはわかるが。
窓は..ないな。カズマ少年は...うむ..寝ているな。
足元は藁か?部屋ですらないのか?なぜこんなところで寝ているんだ。
「うう~ん..おはようアクア、タマミツネ」
おお、起きたかカズマ少年。ここはどこか教えてくれないか?
「ここが何処かって?馬小屋だよ。宿が取れない奴らはここで寝るんだ」
馬小屋?そんなとこで寝ていたのか。それほどまでにゼニーがないのか....。
泡液でも瓶詰にして売るか?そこそこのゼニーにはなるだろう。
というかこの世界の通貨はなんだ?ゼニーか?円か?ユーロ?ドル?
それとも私の知らない通貨だろうか。
それを聞きたいが喋れないからな、私は。鳴き声をあげることしかできない。
「おい、なにエリスがないやつを見る目で見てるんだ。そこそこはあるからな」
おや、そんな目で見てしまっただろうか。ところでエリスとは通貨かなにか?
ここではエリスという通貨なのか?
「ん?何が気になるんだ?」
カズマ少年がさっき言ったエリスとやらだ。ところでアクアはいつ起きるんだ?
「エリス?この世界の通貨で女神さまの名前だ。アクアは俺が起こさない限り起きないぞ」
......そういえばなぜ会話できるのだろうか。心がよめるのか?
そういう神器でも見つけたのだろうか。それともそういう能力を持っているのか?
「いや持ってないからな。ちょっと予測してみただけだ」
なに簡単にできるように言ってくれてるんだ?できるわけないだろう。
何気に優秀じゃないか?カズマ少年。
「なぁに話してるの..かずま..たまみつね」
アクアが起きたようだ。起きないんじゃなかったのか?
まぁどうでもいいか。
「起きたか。ギルドに行くぞ」
「ええ~~めんどくさーい」
「いいから行くぞ」
~~~~~~
「なぁ。スキルってどう習得できるんだ?」
スキル?そういうものもこの世界にはあるのか。
面白そうだな。私も使えたらいいが。
「スキル?それはカードに出てる、習得可能なスキルっていうところから取れますよ」
「そんなのないぞ」
「あれ?..ああ。カズマは冒険者でしたね。冒険者は誰かにスキルを教えてもらわないと覚えられないんですよ。まず目でみて、使用方法を教えてもらうとポイントを使って習得できるのです」
「なるほど。ということはいろいろできるのか。アクア、何か俺が使えそうなスキルはないか?できればあまりポイント使わない奴で」
「しょうがないわねー。特別に教えてあげるわ。とっておきのやつをね!」
そういえばそのスキル?とやらは一回しか見てないな。あの爆発がスキルだろうし。
アクアはどんなスキルを持っているのだろうか。
「~~あら不思議!コップの水を吸い上げた種は....」
考えている間に見逃してしまったようだ。どんなスキルだったのだろうか....。
おや、カズマ少年が怒鳴っている。お気に召さないスキルだったようだ。
「あっはっは!面白いね君!君がダクネスの入りたがっているパーティーの人?有用なスキルが欲しいんでしょ?盗賊スキルなんてどう?」
誰だろう。まったく聞き覚えのない声と名前だ。ダクネス?誰だそいつは。
昨日の女性か?だとしたら声の主は誰だ?
...銀髪の少女か。隣にいるのは昨日の女性だな。だとしたら彼女がダクネスか。
「盗賊スキルってのはね。罠を解除したり敵を感知したり、そういうのがあるんだよ。持ってるだけでも徳があるスキルでいっぱいだよ?かかるポイントも少ないしおすすめだよ?クリゾンビア一杯で教えてあげる」
「お願いします!すいませーん、こっちの人に冷えたクリムゾンビア一つ!」
私も見てみたいな。ついていくか。
~~~~
そこそこ移動したな。ここでするのか?
「まずは自己紹介といこうか。あたしはクリス。盗賊だね。こっちのがダクネス。昨日ちょっと話したんでしょ?ダクネスはクルセイダーだから君に有用そうなスキルはないと思うよ」
「ウス!俺はカズマって言います。こいつはタマミツネです。クリスさん、よろしくお願いします!」
「へぇぇー見たことない生き物だね。どこらへんで見つけたの?」
「ジャイアントトードがいる草原です」
「ふーん?そうなんだ。まぁそれは置いておいて、まずは敵感知と潜伏をいってみようか。罠解除とかは、こんな街中に罠なんてないからまた今度ね。じゃあ...ダクネス、ちょっと向こうに向いてて?」
「分かった」
言われた通り反対を向いたな。ここからどうするのか。
...樽に入っていったな。...あれが潜伏なのか?なんというか....想像していたのと違うな。
ああ...。頭に石を当てられて怒ったダクネスによってクリス入りの樽が転がっていく.....。
「さ、さて次はあたしの一押しスキル、窃盗をやってみようか。これは、対象の持ち物を何でも一つ奪い取るスキルで、しっかり握っている武器だろうが、ポケットに隠してるエリスだろうが、何でも一つランダムで奪い取る。スキルの成功率はステータスの幸運値に依存するんだ。いろいろと使い勝手があるいいスキルだよ」
幸運に依存するのか。私には使えないから関係はないが。
「じゃあ、君に使ってみるね?行ってみよう!『スティール』ッ!」
「あっ!俺のサイフ!」
サイフを取られるとは運がないな、カズマ少年。まぁドンマイと言っておこう。
「ねぇ、このサイフを使って勝負しようよ、窃盗スキルを使って。あたしのサイフがとられるか、君がサイフを取り返すか。もしくは別の高価なものを奪うか。どう?勝負しない?」
おや?何やら勝負をするようだ。別にデメリットはないだろう。受ければいいんじゃないか。
「...よし。その勝負乗った!何盗られても泣くなよ?」
「いいね君!ノリのいいひとは好きだよ!さぁ、何が盗れるかな?サイフか、四十万エリスはくだらないナイフか、それともさっき拾ったそこら辺の石か!」
「汚いぞ!そんなのありかよっ!ああ畜生!やってやるよ!『スティール』ッ!」
おお。成功したようだな。何を盗ったんだ?
「...なんだこれ?」
.....寄りにもよってそれか。確かに装備品も奪えるのだろうが、それはなぁ。うむ。ご愁傷様、クリス。
「ヒャッハー!当たりも当たり、大当たりだあああああ!」
「いやあああああああ!ぱ、ぱんつ返してえええええええ!」
おめでとう。カズマ少年は冒険者から変態に進化した!
~~~~
私たちがギルドに戻ると、アクアを中心に大きな騒ぎになっていた。
どうやらアクアが芸を披露していたようだ。
「ねぇカズマ。その人どうしたの?すごく落ち込んでるけど」
「うむ。クリスは、カズマにぱんつを剥がれた上に有り金むしられて落ち込んでいるだけだ」
「おいあんたなに口走ってんだ!まて、待てよ。間違ってないけど、ほんとマテ」
やっていることは、完全に犯罪である。
「公の場でいきなりぱんつ脱がされたって、いつまでもめそめそしてちゃだめだね!ダクネス。あたし、悪いけど臨時で稼ぎのいいダンジョン探索に参加してくるよ!有り金うしなっちゃったしね」
ものすごい勢いでカズマ少年に向けられる女性陣の視線が冷たくなっていく。
これはもう手遅れじゃないだろうか。とりあえず私は避難させてもらおう。
テーブルに乗ってと。....あ。誰かに持ち上げられた。
「あの...昨日から思ってたんですが、アクアさんたちが連れているこの生き物。なんですか?」
カズマ少年に集まっていた視線がこちらに向けられる。それよりも私を持ち上げているのは誰だ?
...知らない女性だ。逃げたりしないから下ろしてはもらえないだろうか。足が浮いて落ち着かない。
「確かにそんな形の生き物、見たことも聞いたこともないですね」
それはどうでもいいから下ろすか、なんかしてくれ。視線と相まってさらに落ち着かない。
「タマミツネという種族だそうですよ。カズマの故郷にある物語に出てくるモンスターらしいです」
「タマミツネ?聞いたこともないな。なぁみんな」
「ああ(ええ)」
「そんなことはどうで『緊急クエスト!緊急クエスト!街にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まってください!繰り返します。街にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まってください!』...」
緊急クエスト?古龍でも攻めてきたのか?なんにせよ、何かあることは確実だな。
ここ最近は騒がしい。静かだが豊かな竜生を送るつもりだったのにな..。
面倒くさい、非常に面倒くさいが頑張るとするか。