古城くんは基本けだるげ   作:トマボ

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うーん。導入だけで不況を買ってしまったようですね。
それとも駄洒落が寒すぎて怒らせてしまったのか!?

両方ですか…そうですか。さーせんでした。

気を取り直して続きです。


別枠 如何なる時でも平常運転2

10月某日。本土ではハロウィンフェスタが開催され、それに伴いこの絃神島でも、その恩恵にあやかり観光客でごったがえしになるイベントの最中である。

 

何故ここまで客が集まるのかというと、島をあげてのお祭り騒ぎとするべく企業がここぞとばかりに手を取り合って大きなイベントとして盛り上げているのもあるが、ここは正真正銘の魔族特区なのだ。言い方は悪いが、本物が普通に暮らしている場でそれに類似したイベントを行えばそれは盛り上がるであろう。

 

観光客は仮装を楽しみ、売り子はロウソクやお菓子を配り、紙コップで血の色に染めた飲み物を提供している。本来の行事からは遠く離れた様子だが、珍しくもない光景であろう。

 

この時期には、監獄事件やらなんやらと忙しくなってきたりした気もするが、時間を気にしたら負けだ。

 

例え島で事件が起こったとしても、我らが主人公…と呼んでいいのか不安になる様子の古城くんは恐らく事件が起こったことにすら気づかず普通に寝ている時間だからである。

 

前にも誰かしらが語っていたかもしれないが、夜行性の性質を獲得している筈の古城くんは夜は夜で普通に熟睡している。

 

昼と夜ではまた別寝らしい。きっと、甘いものは別腹のような話であろう。

 

そもそものところ、古城くんがこの島で事件に巻き込まれるような事態になったならば、とても冷静に警察やアイランドガードと呼ばれる優秀な部隊の人々に任せるであろう。

 

どれだけ偉い称号を持っていたとしても、周知されていない限りは意味もなく、どこまでも彼は一般市民でかつ高校生であるのだ。

 

積極的に首をつっこみたがる者の気は知れないので、枕に顔を埋めたくなるお年頃なのだ。

 

 

 

さて、話が変わるようで申し訳ないのだが、普段人混みを嫌い、満員電車でも席を譲られる側の人間がとても混んでいる場所に来たらどうなるだろうか。

 

普通に人酔いするだろう。

 

 

そんな訳で現在ごった返しの人混みに揉まれて死にかけになっている古城は、一緒にきた妹や友人達とはぐれてしまっていた。

 

 

「気持ち…悪っ……。」

 

 

ベンチで横になっていたが、いっこうに悪寒が引く気配がない為ヘルプを求めたのだが、あいにくと皆丁度始まったパレードに夢中で古城に気づく様子は無い。

 

携帯で場所を伝えたいが、回線が混雑しすぎているのか繋がらない為、手詰まりとなっていた。ちなみに、イベントを楽しみにしていた藍羽さんはこの混雑を見越してバイトに駆り出されているのでここにはいない。

 

現在発生している回線の混雑による電波障害とは別の謎のノイズに対して罵詈雑言を浴びせながらも必死に対応していたりする。

 

現在古城が体を預けているベンチだが、もちろん街路樹が並ぶ大通りからもすぐ見える位置にある。街中でそんな場所は多くはない為、密かに、健全にイチャつくカップルが周りのベンチを占拠していた。

 

古城が来るまでは。

 

普段なら、見るからに体調不良で、街で見かけたら誰でも心配するようなひ弱そうな学生の古城は、自分達だけの世界にいる恋人達ですらも雰囲気云々など後でと、心配されるのであるが、今発生している謎のノイズにより、負のオーラとでも言うべきだろうか。人を思いやれる人々の心に少しだけ靄をかけてしまっていた。

 

その為、カップルが並ぶベンチ軍の真ん中に一人寝そべって唸っていた古城の周りから段々と人が居なくなるまで時間はかからなかった。

 

 

その為現在ひさびさにぼっち状態の古城くんの完成であり、なんとなくそれを察した妹と友人は冷や汗を浮かべて古城を全力で探し始めた。

 

誰かが見ていないと心配で仕方の無いある意味赤児よりも目が離せない古城くんだった。

 

 

「軽く鬱になってきた………。このまま寝ちまおうかな……」

 

暫くの間そうして唸っていたが、よくよく考えてみれば、早寝早起きのご老人よりも早く寝て遅く起きる古城は、もう寝ていもおかしくはない時間帯であり、律儀にお化けの行進に付き合っている義理もなかった。

 

 

「いやいや、流石に俺でも家に帰ってから……zzz」

 

 

一瞬、常識のようなにかがまともなことを囁いたのだが、眠気には勝てずそのまま寝始めてしまった古城。気温は低くない為凍死することは無いがあまりに無防備な状態であることに変わりはない。

 

 

 

さて、ここで謎のノイズと化し、届けられた怨念(笑)の登場だが、実はもうその影響を一帯に広めていた。

 

第四真祖である少年に重なる不幸の連続や仮装に紛れ込んでいた本物の妖物、島の管理公社に与える電波障害や機器への干渉、そのどれもが微々たるものであった為、ギリギリ騒ぎにはなっていない。

 

島の社畜…もとい巡回兵達の頑張りや能力持ちの矢瀬さんなどは見かける度に密かに始末に動いていた。霊的素質を持った凪沙さんなどはそもそも今現れているモノとはレベルが違うため気付いてすらいないが、彼女が兄を探して動き回るほど近くに寄られた怪異達は軒並み消え去っている。

 

 

島が平和で結構なことであるが、元凶からすればこんな筈では無いと、叫びたくなる状況だった。

 

ここにたどり着くまでに言われた言葉が思い出される。

 

 

ーー実体となれるだけ力が集まったのだからもう満足であろう?寄せ集めにしてはよくやったものよ。

 

 

自分達を終わらせた相手に舐められたままで、一矢も報いれず終わることが出来るのであればそもそも未練としてこんなモノにはなっていないのだ。

 

後戻りなど出来ようもなく、一晩しか持たないその身をもって、その抗いに意味を持たせよう。

 

 

スヤスヤと眠っている少年だけに、全てを差し向けることで、街の現象は消え去った。

 

後に残るのは大いに盛り上がりを見せたハロウィンフェスタである。

 

 

ノイズが消え去った為に、通信も少しだけ復旧し、後は時間の問題となったが、『今どこにいる?』と打とうとして、『居間床にいる!』と打った古城のメールも妹や友人達に遅れて届いた為、先に家に帰ったという旨の誤解を与えていた。

 

 

邪魔はもう来ない。

 

 

だが、散々四方に力を使い、再び集まり人払いをし終え、第四真祖を逃さないための空間を作った時点で既に尽きていた。

 

後はもう誰が見てもイベントの一部にしか見えない百鬼夜行のそれである。

 

不死身の真祖に絶望を与えられるほど、身を焦がすこともできないであろう。

 

最後にできることと言えば、寝たままの少年を力尽くで起こすことぐらいである。また気づかれないままに終わることは許されない。

 

カボチャの頭に火を灯し、流した血の涙を手形にし、西洋も東洋も入り混じったカルチャーショックと恐怖で2度驚愕できるお化け屋敷(屋外)は、やがて古城に襲い掛かる。

 

殺しきることはできないのが確定された凶刃が長い旅の最後に振り落とされる。

 

 

しかし、その刹那、ごろんと寝返りを打ってベンチから落ちる少年と、ベンチに突き刺さる血塗れの刃物。

 

「…うー…zzz」

 

普段ベットから落ちても目覚めない彼が今も目覚めないのは通常であるが、怨念どもは怒り狂って再び刃を向けた。

 

すると、突然スッと立ち上がり首を項垂れたまま歩み始める古城。

 

少しだけ戸惑ったが、ここぞとばかりに振られる刄や火の粉に降りかかる黒い靄

 

起きていれば鈍い反応の古城には避けられる筈もない……のだが、何故か全く当たらない。

 

ふらりと揺れて斧を躱し、掴かむ腕は払われる。炎がまえば風を切られ、黒い靄には腰の入った回し蹴りが決められて払われてしまう。

 

 

軽快に動くことなど考えられない様子の少年が、何故ここまで強いのか。

 

薄れる思考ではもう考えられず、怨念は誰にも知られず消え去った。

 

ーーああ、それでもやはり、最後はきちんと向き合ってくれた。

 

相手にもされなかった者どもの残り滓は少しだけ暖かい気持ちを持って自壊していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

元凶は消え去り、残りは残党であるのだが、さて、どうして古城くんがここまで予測できない動きをしているのか。

 

 

 

 

「…zzz……ひっく…」

 

 

 

 

端的に言えば、酔っていた。

 

 

 

街で配っていたお菓子の詰め合わせに、入ったアルコールの入ったチョコ菓子やほぼ完全に飛んでいる筈の無料の試飲サービスの飲み物を飲み、人に揉まれてここにきた古城。

 

同じものを口にした人にはまったく影響はない。

 

当然、妹や友人達、クラスメイト他も含む。

 

 

 

気分が悪くなり、すぐに眠気が来て、酔うほど強くなる

 

 

なんて、武術もあるらしいが、これはそんな類のものだが我流である。動き回って外気に触れていれば当然すぐ冷めてしまうほどの酔いであったので、自然と目も覚めてきた。

 

 

ふと目を覚ませば、目の前には仮装の倒れたお化け達。

 

しかし、やけにリアルで倒れたものは徐々に消えていっている。

 

 

…………?

 

 

 

そこまで考えて、古城は白目を向いて気絶した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、家に向かう途中で偶然発見され、矢瀬に運ばれた古城はなんとかことなきを得たのだが、それから暫くの間、家でも学校でも、妹や友人達の腰に抱きついて離れない古城が目撃されたという。

 

 

 

 

 




ホラーには弱かった。
寝ていた時は瞼を閉じていた古城さんでした。


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