古城くんは基本けだるげ   作:トマボ

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遅れてすんません。法事やら講演会やらなんやらあってと言い訳しつつ、ぼちぼち不定期ですがまたどうかよろしくお願いします。がっつり空くこともありますが何卒ご容赦を(おい






登校がんばる古城くん

息を吐けば白く、吸い込めば眉をしかめる朝の冷えた空気に嫌気が指し、今日も二度寝を決め込もうとしたが、始業の鐘は待ってはくれない。

 

社畜では無いが、学生である古城にサボりなど許されず(主に妹に)、布団を剥がされ、逃げ込んだ先の大きめのコタツをひっくり返され、最終手段のトイレに籠城を決め込もうとしたが、家庭内ヒエラルキーの最下層にいる古城にはプライバシーも人権もあったものではなく、昔ながらの硬貨で鍵を捻じ上げるやり方で扉は開かれ、用を足した後の下着姿のままで放り出されてしまった。

 

冷たい玄関先で、口にトーストを突っ込まれている間に、ボタン式の上着と降ろされたままだったズボンを回収され、素早く制服姿に換装される。

 

健気にも無言でひたすら毎日兄の身支度を代わりに行う凪沙さんは天使である。

 

島のどこかでは、作者と同じくそんな電波を受信しながら何名かの過能力者達が幸せな気持ちになっていたりしたかはさておき、凪沙は襟の内側にカイロを挟み、古城の首に長めのマフラーを巻く。

 

朝の状態の古城が一動作をする間に、妹は3〜5倍程度作業が進んでいる。もしかしたら、どちらかが時間制御でも習得していたりするのだろうかと思う光景だった。

 

 

待ったをかける間も無く無言で鞄を持って来てくれた妹に対し、靴を履かされながら古城は哀愁を漂わせながら思う。

 

(凪沙…最近朝は無言だな……。).

 

兄としては兄妹としての会話が無いなと、寂しく思いながらも、ほぼほぼ自業自得であるので何も言えない。

 

 

実際最初の頃は反論していた気も……いや、記憶には無いが、きっとあったと思う。

 

 

「あの、凪s」

「遅刻するよ?ほら、早く行った行った!気をつけてね」

 

 

「よr」

「夕飯の買い物は特に無いから大丈夫だよ。煮込みハンバーグね。」

 

 

「かz」

「起きる直前の体温でも平熱だったから大丈夫。」

 

 

「………。」

「浅葱ちゃんもう少しで来てくれるみたいだよ。」

 

 

「…行って来ます。」

「行ってらっしゃい古城くん。」

 

 

訂正、会話が必要無いだけだった。もしかして怒っているのではないかと勘ぐったが、呆れられててはいても怒っているならばこの妹ならば真っ直ぐに伝えて来てくれるか、と思い返す。

 

この優しく、暁家自慢の妹に逆らうなどという選択肢は存在しないし、最近魔王みたいに言われているけれど、やはり可愛く、愛らしい、笑顔が素敵な自慢の妹に嫌われたりしたらお兄ちゃんは立ち直れないので、さっさと学校で休もうと決めた古城。

 

いつもならば扉の前でもう一悶着ぐらいはあるのだが、素直に歩み始める。

 

(早めに折れた方が労力少ないしな(ボソっ))

 

ドアを開けた瞬間から感じている冷気に負けたわけじゃない。戻れないから進むだけである。ほんの少しだけ生まれた黒い反骨心など数秒で消し去っていつもの調子に切り替えると、本人からすれば早歩き、周りからすれば錆びたベルトコンベアー並みのスピードで通路を歩く。

 

 

意気込んでも学校までは遠いもので、何度心が折れそうになっただろうか。何度その歩みを止めそうになるだろうか。何故朝は来るのか、どうしてそんなに眠いのか。もしもし亀よ、亀さんや。いやいや、兎さん。それチートすぎひんか?…さよか。

 

自分の心を一番知っている自分自身に聞いてみてもその答えは帰ってこなかった。だから、これはきっと世界の誰にも分からない。だって、(俺/古城くん)にも分からないのだから。

 

毎朝通学にそんなに考え込むやつ居ねーよなどと突っ込んではいけない。通勤するのに目のハイライトを犠牲にしなければならない会社員だっているのだ。

 

だが、結局は行かねばならないのだ。腹をくくろうではないか。

 

仕方ない、と、冷たい空気を吸い込んで、今日も元気にダラけよう。

 

 

 

 

 

 

 

________

 

 

 

 

 

 

 

心の中で格好つけたは良いが、階段を下りながら吸い込んだ息が思っていたよりも冷たかったためか、「ヒュー、カフッ…」と、呼吸が荒ぶる古城。

 

早くも若干きつくなってきたのか思考がネガティブ側に戻り始めたのもそこそこに、ふと思い返す。自分の兄としての威厳というものは、いったい何時頃から消えてしまったのだろうか。凪沙は何時頃から真祖の眷獣を従えるようになってしまったのか。

 

昔からかもしれないが、一縷の望みにかけて思考の海へと潜ってみる。

 

 

思い返す。

 

 

幼い頃……兄の背中を追いかける可愛らしい妹だった。

 

 

思い返す。

 

 

小学生……やんちゃをしていた。心配そうにしながらも自分の背中に顔を隠していた人見知りする方の子だった。

 

 

思い返す。

 

 

中学生……同時期に運動部に入った。…バスケが…したいです。

 

 

思い返……うん?何かを受信したような…気のせいか。

 

 

高校生……というか今だが。今…よりも少し前、何かがあった…ような。それこそ、忘れてはいけないような大事な、大切にしなければならない何かが「おっはよー!古城!」

 

そこで、思考を遮るように誰かが登場する。

 

''寒い時こそギュッとたい''などと書いてある乙女な雑誌の記事を間に受けて勇気を出して抱きついてきた藍羽浅葱嬢である。

 

後ろから抱きつかれた為に、背は高いが猫背で項垂れている古城よりも浅葱の方が頭は上に来るため、古城の視界には染めた色だがしっかりと手入れの行き届いたさらさらとした金髪が広がる。

 

何気に羨ましいシチュエーションに通りがかりの男子学生は目元に涙を浮かべながら走り去っていった。

 

視界いっぱいに広がる金髪を見て、何かが浮かびかける。

 

 

そう、確かこんな透き通るような金色の……

 

 

そこまで考えて、テンパったせいでいつも以上に力が入っている浅葱さんによって古城くんの膝の方が先にガックリと折れてしまい、今度こそ没頭していた記憶漁りから引き戻された。

 

 

「浅葱……重い…。」

 

「なっ!?違うわよ!正月食べすぎたりなんかしてないわよ!?

 

「…言ってない。」

 

「違うのよ、温かいものが美味しいなんて珍しいのがいけないのよ。財布の減りが早いことに気付いた時には遅かっただけで、その後はちゃんと戻したわよ?だから、増えてななんてないから。大丈夫だから。そうよ、大丈夫、大丈夫。」

 

「…聞いてないな。」

 

 

 

 

何を考えていたのか忘れたので歩み始めた古城の居ない方向へ顔を向けて言い訳しながら隣を歩く浅葱とともにゆっくりと登校していく。

 

本土ならば、季節柄何も不思議ではないこの季節。だが、常夏の島に発生したとあれば、嫌な予感が溢れ出すような、真冬の寒さ。

 

絃神島は今日も不思議であふれています。まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「おかえり、凪沙。」

 

「ただいま!古城君。今日は寒かったねぇ〜。お互いにお疲れ様。」

「風呂沸いてるから入っちまえよ。」

 

「お、気がきくね。ありがとお兄ちゃん。」

 

「偶にはね」

 

「じゃあ、先に貰っちゃうね。」

 

「あいよ。……あっ!」

 

「どうしたの?」

 

「…金のエンゼル。交換してなかった。」

 

「え!?出たの!?」

 




寒さの理由ですか?きっとしまい忘れた眷獣とかじゃないっすかね(すっとぼけ

⚠︎スタッフ一同(矢瀬さん他)が頑張って元に戻しました

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