古城くんと本編の暁古城少年とが大変分かりづらいと思いますが、ご容赦を。
次回とか?
早帰りの日。うっとおしい日差しが丁度天辺に登ってきた時間帯。部活がある生徒以外は、とても喜び我先にと帰っていく中、パーカーを着た少年はだるそうに歩いていた。
木陰から木陰へと移動を繰り返しながら、強い日差しをなるべく避けるように帰ろうとするが、周りに隠れる場所もない校門付近ではどうしようもなく、フードを目深に被ることが精一杯の抵抗だった。
しかし、余計に暑かった。
そんなトボトボと歩く少年に、背後から近づく制服姿の人影。
足音を殺しながら、背後から一気に抱きついた。
「やっほー。古城君。あ、間違えた。せ〜んぱい!お元気ですか!」
「うおっ!?(姫柊よりも高い声、そしてこの呼び方。凪沙の声じゃない。それに、明らかに大きい…どことは言わないが柔らかい感触)………零奈か?」
「おお〜〜!さっすが古城君だね。分かっちゃうんだ。でも、ふっふっふ〜?今、どこで判断したのかな〜?」
うりうり〜、と身体をよじって楽しそうに体重をかけてくる零奈。言うまでもなく、未来から来た吸血鬼の少女だ。
ある事件の折に、姫柊雪菜の未来を変えるために過去の時間に飛び、古城の顔見知りの錬金術師や過能力者の母などに協力をして貰いながら、雪霞狼という槍を強化する手伝いをしたのが彼女である。
吸血鬼であるためか、歳相応の溌剌とした性格を持ちながらも、容姿もスタイルも歳相応とは言い難いレベルであるため、少年心を前面に押し出して行動する中で、一体何人の同年代の少年達の心に傷を負わせてきたのだろうか。
そして、大人びてはいても歳相応の感性を捨てきれない暁古城。多少は慣れてはきていても、心拍数は上がるに上がり、鼻からは熱いものが込み上げていた。
「重いから離れてくれ。」
「ちょっと!女の子に重いなんて失礼だよ?はい、ティッシュ。」
「おう、あんがと。」
年齢的には上の筈なのだが、あえて触れない少女の対応の方が紳士だったのは言うまでもない。
「きつかったら…言ってね?」
「言えるか!!!?」
訂正、悪戯好きなだけかもしれない。
所変わって、暁家。そのリビングで、古城と零奈は麦茶を飲んで寛いでいた。
実はあれ以来、術式結構複雑だったんちゃうの?とか、あんまり過去に影響与え過ぎちゃまずいんじゃなかったん?とか、ツッコミを入れられるほど、普通に過去に遊びに来ていた。
美人に目がない妹による甘やかしと餌付けの賜物とも言える。
世話になっていた人物の若い時から変わらない猫可愛がりに対してすぐに心を持っていかれた零奈。
ソファに沈み込んで、ダラっとしている姿に、流石の古城も苦笑しか浮かばなかった。
そのままではどこかの誰かとキャラが被るぞ?シャキッとしなさい。シャキッと。
「それで?今日はなんかあってきたのか、それとも遊びに来ただけか?」
「あ!そうだった。ん〜、半分正解かな。遊び半分でドクが酔っ払った時の発明品を持ってきたんだ〜。」
若い時の古城君が懐かしいんだってさ〜、と嫌な台詞を言う零奈。
古城は、藪蛇だったかと若干後悔した。
未だに未来の人物関係はあやふやにしか教えてもらっていないため、誰が誰なのかは分からない。
そのため、余計に不安しかない。
「じゃーん!名付けて、1日だけ未来コレールだよ!ちなみに、試作品のテストのアルバイト兼乗り気になっちゃった萌葱ちゃんのお願い兼ドクからの個人的なお小遣い稼ぎだから、古城君に拒否権は無いよ!」
そう言ってオモチャの銃のような何かを取り出した。
「いや、酔っ払っいが作ったもの俺で試そうとすんなよ!?」
「えー、可愛い美少女の頼みだよ?ま、安心してよ。危険は無いらしいから……たぶん。」
「おい!そこはちゃんと言ってくれ。物凄い不安しかないんだが。」
「まあまあ、時間も押してるしね。それじゃあ、私もすぐ戻るからさ。それに、明日休みでしょ?書き置きもしといたから平気平気。最悪何か起きても安全装置が働いてこの時間に帰ってこれるから大丈夫ダヨ…きっと。」
「じゃ、行くよー。バーン!」
「ちょっ、待っ」
「あ、新鮮な反応が見たいから若干催眠術式かけて記憶弄るね?って言い忘れた。まあ、いっか。私の説明が抜きになるくらいだし。」
そして、暁古城は未来へ跳ん……だ筈なのだが、まあ、試作品だからネ。仕方ないね。
暁古城は現在過去最大の難関に立ち向かっていた。
彼は、今までに幾度も、それこそ一般人であれば数秒に1回は死んでいてもおかしくはないような修羅場をくぐり抜けてきた経験がある。
比喩ではなく世界を滅ぼしかけた原因を、しかも暴走しているソレを、一介の高校生だった少年が、泡を食いながらもなんとか食い止めてきたのだ。
原因の一部を背負っていないとも言い切れないわけではあるが、それでも多くのものを救ってきたことは事実だ。
別段少年はそれを誇るつもりも無いし、止められるだけの力があったから、当たり前のことをしてきただけ。
彼は、そう考える。
過去、ただの高校生だった彼はそう考える。
現在、ただの真祖である彼はそう考える。
未来、ただの王となった彼はそう考える。
( だが、あくまでこれは、あり得たかもしれない世界の一つだ。 彼がどんな歩みを進めていくのかは、まだ分からない。)→メタ発言
力に伴う責任なぞ、周りが騒がなければ別段意識することもないように、彼はこの先もずっとゆったりと暮らしていたであろう。
だが、場所も因果も時もそれを許しはしないのは言うまでもなかった。
そして、受け取っただけのただの短い間の記憶を、儚いだけの僅かな時間を、もう無くしたくないと、そう思う限りずっと、彼はこの先も厄介な事に関わり続けていくのだろう。
例え、不死身の己がいつか思い悩む日が来ようとも、この先の選択が理不尽なものであっても、自分で選んだものだから。
日差しに弱いただの真祖な高校生は、今日もそうして朝を迎えたのだ。
だから、と、少年は現実逃避気味に考える。
俺は今日も頑張って起きた。明日からもそのつもりだ。
ツッコミを入れたやつには普通の低血圧の何百倍辛いか教えてやりたいものだ。
だから、な?
世界よ、もう少し俺に優しくしてもいいんじゃないか?
同じベットで自分の腹に抱きついて寝ている自分そっくりの物体を見ながら、暁古城は大きな溜め息を吐いた。
古城君の場合。
「やっほー!古城くん!ってうわああ!?」
「ごふっ…」
「大丈夫!?ごめんね古城君。つい、古城くんが歩いてる姿を見たら嬉しくって。」
「大丈夫だ。良いんだよ。それが、俺だ。」
「コールドカプセルで昼寝なんてするから……うう…ぐすっ…」
「泣かないでくれ。そして、上から退いてくれ…うう…助けて…矢瀬……がふっ…」
ほんの少し後、駆けつけた矢瀬が見たのは、泣き疲れて抱きついたまま愚図る少女と、潰される少年の姿だった。
片手はどこかへ助けを求め、もう片方の手を背中に抱きつく少女の頭に乗せて、泣きやませようとしていたことが分かり、目頭が熱くなった。
ああ、この友人の気遣いが無駄にならないことがこの世にもあったのだな、と男泣きするヘッドホン少年。
久々の暖かい背中に甘える少女。
初めて、直接的に人への気遣いが無駄にならなかったことに、安堵した下敷きのままの少年は、とても安らかな顔をしていた。