桜ちゃん、光の戦士を召喚する   作:ウィリアム・スミス

17 / 35
-143:32:49


桜ちゃん、襲撃する

 その惨状を見た“守護者”には、これから何をするべきか直ぐに分かりました。

 

 向かうべき場所も、排除するべき敵も、まるで誰かに導かれたかのように理解出来ます。

 

 少女には“声”が聞こえていました。不安の、恐怖の、嘆きの、悲しみの、“誰かの声”が……。

 

 その“声”に導かれるままに少女は歩き出しました。“声”が望む願いを叶えるために……。

 

 少女を突き動かしているのは果たして使命感なのか、あるいは他の“何か”なのか……それは誰にも分かりませんでした。

 

 

 

 

×       ×

 

 

 

 時臣さんから聖杯戦争の真実を教えて貰った桜ちゃんを待っていたのは、変わり果てた姿になったハイアットホテルでした。

 

 連続殺人犯がようやく片付いたと思ったら、今度は爆弾魔です。いくら戦時中だとはいえ、流石にこれは見過ごせません。可及的速やかに除く必要があるでしょう。

 

 桜ちゃんは様々な状況証拠や街の人たちの目撃情報から、『黒コートの爆弾魔』を、先日、倉庫街で眠らせた『衛宮切嗣』さんと同一人物であると断定しました。早速桜ちゃんは、彼の味方だと思われる舞弥さんが泊まっていたビジネスホテルへと向かい捜査を始めます。

 

 舞弥さんが泊まっていたビジネスホテルの703号室は、物理的にも魔術的にも厳重に施錠されていましたが、霊体化可能なハサンさんと、様々な技能を使いこなす“女の子”の技術の前では、開いているのも同然でした。

 

「ハサンさん、出番です」

「心得た!」

 

 霊体化したハサンさんが壁をすり抜け中に侵入すると、部屋の内側からロックを解除します。あっさりと開放された扉をくぐり抜けると、桜ちゃんは室内へと入っていきました。

 

「……誰もいない。でも、いろいろある」

 

 部屋の中に人影は見当たりません。どうやら不在にしているようです。非常に残念極まりないですが、いないのであれば仕方ありません。その代わりと言っては何ですが、部屋の中には大量の“危険物”が置かれていました。

 

「銃に弾薬に爆薬に毒薬……どうやらホテルを爆破したのは、この部屋の主で間違いないようだな」

 

 慎重に部屋を物色しながらハサンさんがそう言います。

 

 部屋の様子はさながら戦争にでも来たかのような様相でした。実際、聖杯戦争という戦争に来ているのですから、あながち間違いではないのでしょう。ぱっと見ただけでもコレだけあるのですから、きっともっと隠し持っているはずです。

 

「しかし、肝心の爆弾魔は何処に行ったのか……ここで待ち伏せでもするか?」

 

 ハサンさんの提案は実に理にかなったものでした。これだけの武器弾薬を保管しているのですから、遅かれ早かれ犯人は補充のために戻ってくるでしょう。

 

 しかし、どうやら桜ちゃんの意見は違っていたようでした。

 

「その必要はないと思います」

 

 そう言って桜ちゃんが指差した先にあったのは、壁一面に貼られた冬木市内の地図でした。

 

 至る所に顔写真やメモが貼られ、桜ちゃんには意味不明な線やマークが記入されています。その左下の森林地帯に、見覚えのある二人の女性の顔写真がありました。切嗣くんが味方をしていると思われる、二人組の美女たちです。

 

「……なるほど、森の中にある『御伽の城』か。どうやら次の行き先は決まったようだな」

 

 そうして桜ちゃんたちは次の目的地を目指し、切嗣くんたちの隠れ家を出ていくのでした。もちろん、部屋にあった危険物を全部回収するのは忘れません。

 

 

 

 

×       ×

 

 

 

 アイリスフィールさんがその異変を感じ取ったのは、アインツベルン城のサロンで切嗣くんたちと作戦会議をしている時でした。

 

 ただでさえ体調が優れなくて少しばかりイライラしていたのに、そんなのお構いなしにギスギスするマスターとサーヴァントに向かって、アイリスフィールさんは精一杯苛立ちを隠して報告します。

 

「二人とも、侵入者よ!!」

 

 その鶴の一声は実にてきめんな効果を発揮しました。さっきまでギスギスしていた両名のわだかまりが嘘の様に消え、流れるような動きで迎撃態勢に入ります。その切り替えの速さは、流石一流の戦闘者だと言わざるを得ないでしょう。

 

「アイリ、侵入者の数は?」

 

 テキパキと戦闘準備を整えながら切嗣くんが聞いてきます。アイリさんは意識を集中させて、切嗣くんへの返すべき回答を探しました。

 

「一人……いえ、二人だわ。北東の方角から真っ直ぐこっちに向かって来ている! 凄いスピードよ!!」

「クッ!? セイバー!」

「了解した!」

 

 切嗣くんがそう叫んだのと同時に、解き放たれた弾丸の如く猛スピードでセイバーが飛び出していきます。何気にマスターとの初めての会話だった気がしますが、主従共々己のやるべきことに意識を向けていて、そのことに気付けていません。

 

 敵の移動スピードからして、偶然迷い込んだ一般人である可能性は限りなく低いでしょう。間違いなく英霊クラスの襲撃です。

 

「アイリ、侵入者の姿は捉えられるかい?」

「ごめんなさい切嗣。まさかこんなにも早く敵の襲撃があるなんて思ってもいなかったから、結界との同調が上手くいっていなくて……」

「いや、準備不足は僕も同様だ。君の落ち度じゃないよ」

 

 時刻はまだ正午にもなっていません。切嗣くんに至っては、お城に到着したばかりで碌に戦闘準備も済んでいませんでした。疑いようもなく、完全に不意打ちを食らった形です。

 

 しかし、そういった面で考えれば、咄嗟にセイバーを出撃させたのは実に良い判断だったと言えるでしょう。斥候にしろ足止めにしろサーヴァントにはサーヴァントで対抗するのが定石です。準備不足で少しでも時間が欲しい切嗣くんたちにとって、ベストではなくともベターな選択肢でした。

 

「敵の移動速度と人数からして、侵入者はおそらくランサーかライダーだろう。ランサー陣営の捜索を頼んだ舞弥から連絡が無いところ、侵入者はライダーの可能性が高い」

 

 セイバーの容態が回復に向かっていない時点で切嗣くんは、ランサーのマスターが生存していることを確信していました。ですが、少なくとも相当な打撃を与えたことは確かなはずです。戦闘行動を取るにはまだ幾ばくかの時間が必要なはずでした。

 

「こんな白昼堂々攻めて来たということは、よっぽどセイバーが弱体化しているのが好機とみたのかしら……」

 

 最優のサーヴァントであるセイバーを有し、始まりの御三家でもあるアインツベルン陣営は、この聖杯戦争の最有力優勝候補であるのは疑いようもありません。その優勝候補の一角が弱っているのであれば、このチャンスに潰そうとしても可笑しくはないでしょう。 

 

 この拠点が看破されたのも『アインツベルン』の知名度を考慮すれば不思議なことじゃありませんでした。むしろ聖杯戦争に挑む者ならば、この城の存在は知っていて然るべき事象です。

 

 日中とはいえここは郊外の森の中。神秘が露見する心配もなければ秘匿する必要もありません。ド派手なライダーの宝具であっても十全に全能を発揮できるはずです。

 

「確かにこの条件下なら、こんな時間に攻めてきても不思議じゃない」

 

 日が出ている間は極力戦闘行為は行わないという聖杯戦争の暗黙の了解を逆手に取った、実に“あの大王”らしい鮮やかな戦略だと言えました。

 

「アイリ、他に侵入者の気配は?」

「今のところ無いわ。侵入者は()()だけ……」

「だったら話は早い」

 

 セイバーがライダーを引きつけている間、切嗣くんがヤるべきことはただ一つだけです。セイバーとの戦闘に夢中になって無防備となったライダーのマスターを狙って、そして……。

 

 切嗣くんの頭の中で、次々と具体的な戦闘プランが浮かんでは消えていきました。その中で最善の策を切嗣くんは模索します。

 

「兎に角、セイバーが時間を稼いでいる間に準備を進めよう」

 

 準備不足ははっきり言って否めません。先手を打たれたのも相当な痛手でした。しかし、ここはアインツベルンのホームグラウンド。そして、迎え撃つは最優のサーヴァントと最強のマスターです。どちらが優勢でどちらが劣勢かは素人でも明々白々でした。

 

「僕がいるタイミングで攻めてきたのは運が良かった。元々使う予定はなかったとはいえ、ここの備えは並の要塞以上──籠城するにも狙撃するにも持ってこいだ」

 

 さしものライダーとはいえ、音速を超えて飛来する弾丸からマスターを守ることは至難の業でしょう。

 

 この事態に至っては、先日ランサー陣営への狙撃が失敗したことは僥倖と言えました。流石の大王であっても、まさか誉れ高き騎士王のマスターが自他共に認める外道だったとは思いますまい。

 

 ある意味このシチュエーションは、切嗣くんが理想としていたシチュエーションであると言えました。眩いばかりに輝ける騎士王の威光に誘われた虫たちを、薄暗い陰湿な暗殺者が仕留めていく、そんな理想的なシチュエーションに。

 

 そして切嗣くんは『迎え撃つ』という判断を犯しました。きっと侵入者が()()だったという報告が、切嗣くんの判断力を鈍らせてしまったのでしょう。

 

 アイリさんもアイツベルンの結界も決して万能ではありません。察知できない存在や、抜け道は確かに存在していました。ましてやアイリさんの体調は万全でない上に術式との同調が不安定です。

 

 結界をすり抜ける()()()()()が一人や二人いても可笑しくはありませんでした。

 

 そう、侵入者は二人だけではなく、もっといたのです。

 

 

 

 

×       ×

 

 

 

 疾風の如きスピードで森中を駆けるアルトリアさんを最初に襲ったのは、不可視の斬撃でした。

 

 音も気配も殺気もなく放たれたその一撃を、未来予知じみた直感で間一髪のところ回避してみせたアルトリアさんは、謎の襲撃者をその目で捉えます。

 

 予想以上に早い会敵──彼女が目撃したのは、浅黒い肌で白い髑髏の仮面を被った不気味なサーヴァントでした。日中だというのに薄暗い森中では、その姿はまるで影のように揺らいで見えます。

 

 その異様な風貌に、アルトリアさんは見覚えはなくとも聞き覚えはありました。

 

「その風貌にその気配……貴様、もしやアサシンのサーヴァント? 死んだのではなかったのか!?」

 

 切嗣くんと同じ理論で同じ結論に至り、襲撃者をライダーであると推測していたアルトリアさんは、まさかの襲撃者の正体に動揺を隠しきれません。死んだと聞き及んでいたアサシンが唐突に姿を見せたのですから、無理もないでしょう。

 

 しかしそんな境遇の反面、アルトリアさんの心中では別の感情も生まれていました。『敵がライダーではなくアサシンのサーヴァントで良かった』という安堵の心です。

 

 右腕を負傷した今のアルトリアさんにとって、ライダーは非常に強敵と言える存在でした。たとえ万全の状態であっても苦戦は免れない難敵です。

 

 しかし、ステータスに圧倒的に劣るアサシンであるならば話は別でした。

 

 アサシンと比較し、基礎ステータスで圧倒的に勝るアルトリアさんにとって、この状況は俄然有利と言えます。特に不意の初撃を完璧に防げたのは、僥倖であったと言えるでしょう。

 

 姿と気配を消してでの完全なる不意打ち──暗殺者のサーヴァントにこれ以上の攻撃を繰り出すことは不可能な話です。その初撃を防ぎきった今となっては、アサシンなどどうってことない相手と言えました。後は暗殺者特有の宝具に注視すれば、アルトリアさんの勝利は揺るがないのです。

 

 それは正に『約束された勝利』と言えました。アルトリアさんの中にほんの僅かな油断と慢心が生まれます。

 

 しかしそれは戦場に立つものとしてあるまじき行為でした。目の前に居る暗殺者とて人智を超えた超常の存在であることを、アルトリアさんはほんの僅かな時間ですが忘れていたのです。

 

「油断したな? セイバー」

 

 不気味に佇むアサシンの姿が一瞬揺らいだかと思うと、アルトリアさんの耳元でそんな声が聞こえました。

 

 反射的に、鼓膜を振るわした方向に剣を向けます。アルトリアさんの聖剣がアサシンの双剣とぶつかり合い、激しい火花を散らしました。

 

「くっ……バ、カな?」

 

 アルトリアさんの表情に苦悶の色が浮かび上がってきます。信じられないことですが、エクスカリバーの剣先が少しづつですがグイグイとアルトリアさんの方へと向かってきているのでした。明らかに力負けしています。

 

 確かに油断はありました。慢心もしていたのかもしれません。しかし、そうだとしてもセイバーのサーヴァントがアサシンのサーヴァントに正面から押されることなど、有り得るのでしょうか? 

 

 腕力だけ見てもセイバーさんとほぼ互角かそれ以上──アサシンとは思えない恐るべき身体能力にアルトリアさんは舌を巻きます。

 

「その暗殺者らしからぬ豪腕。それが貴様の宝具か?」

「素直に答えると思うか? 騎士王」

「いいや! 聞いてみただけだッ!!」

 

 しかし、アルトリアさんとて伊達に『剣の英霊(セイバー)』をやっている訳ではありません。少しばかり気圧されましたが、冷静に対処すれば捌けぬ剣戟ではありませんでした。

 

 絶妙な力加減でアサシンの双剣を受け流すと、バランスを崩したアサシンに華麗な剣捌きで斬りかかります。ですが、その剣閃はアサシンを捉えることなく、虚空を斬ることになりました。

 

「……なるほど。貴様とてその名を轟かせた英雄の一角。確かに、アサシンだからといって侮ったのは私の落ち度でした」

 

 その人間業とは思えない見事な体捌きで自身の一太刀を回避してみせたアサシンに対して、アルトリアさんはそう評価を改めます。それに伴ってアルトリアさんの魔力が激しく脈動していきました。

 

「だが、それならば尚更先程の打ち合いで私を狩れなかったことを後悔することだな! これよりは私も本気でいく! 覚悟しろアサシン!!」

 

 気合一閃──もはや油断も慢心も彼方へと消えたアルトリアさんは、全力の魔力放出で加速しアサシンへと斬りかかります。その目にも映らない神速の突進はたとえ敏捷のサーヴァントであるランサーであっても回避は不可能に思えました。

 

 それでもアルトリアさんはアサシンから目を離さず正面に捉え、どんな回避や防御を企んでも直ぐに対応出来るように注視します。アサシンは動く気配はありません。だらんと起立し、まるで何かを諦めたかのように棒立ちしています。

 

「血迷ったか、アサシン!!」

「いいや違う。今度は私を“一人”だと侮ったな? 読み通りだ騎士王。​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​()()()()​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​」

 

 アサシンがそう言った瞬間──アルトリアさんの腹部に強烈な衝撃が走りました。アサシンからの攻撃ではありません。もっと別の場所の、別の存在からの攻撃です。

 

 “ソレ”が銃弾による狙撃であると気付くのに、大して時間は必要ありませんでした。自身のマスターのメインウェポンですし、なにより“ソレ”を皮切りに絨毯爆撃の如く銃撃がその身に降り注いだのですから。

 

「ば、馬鹿な……」

 

 サーヴァントにとって『幻想』も『神秘』もない近代兵器は全く脅威となり得ません。しかし、アルトリアさんに降り注いだこの銃撃は、そんな生易しいものではありませんでした。膨大な魔力と幻想の篭った銃撃が、アルトリアさんの体力をみるみるうちに削り取っていきます。

 

「ぐぁああああああああ!!」

 

 その弾丸に篭った幻想は、気高き理想の“剣”ではなく、誇り高き思想の“槍”でもなく、剣も槍も持てぬ力なき者たちの貫く意志の力でした。『竜』に抗うために生み出され、権力者に立ち向かうために継がれていった、弱き者たちへの頼もしき相棒です。

 

 雷属性の魔力を推進力に変換し、爆発的な初速によって撃ち出されたその銃撃は、竜の因子をその身に宿し、権力の象徴である“剣”の幻想であるアルトリアさんに、劇的な効果を生み出しました。

 

 生涯体験したことの無かった強烈な衝撃が、アルトリアさんに襲いかかります。休むこと無く雨あられと打ち付ける銃弾の中、霞みゆく視界でアルトリアさんはその姿を見ました。

 

「き、さまは……アンノウ……ン」

 

 その少女の姿をアルトリアさんは見たことはありませんでしたが、持ち前の直感スキルで見事に正体を見破ります。この背丈その容姿、あの倉庫街の戦いで征服王と金色のサーヴァントが言っていた『謎の少女(アンノウン)』で相違ないでしょう。

 

 紫色の髪をなびかせながら、アンノウンが近づいてきます。

 

「いっ、たい、何が、目的……」

「……汚物を、消毒?」

「消、毒……だ、と?」

 

 アルトリアさんはアンノウンを見つめました。

 

 感情の篭もらないアメジスト色の瞳がアルトリアさんを見つめ返してきます。その彩の無い瞳に、何か得体の知れない恐怖心を抱いたのはきっと錯覚ではありませんでした。

 

 自他共に最優のサーヴァントと認めるアルトリアさんの敗因は、なんであったのでしょうか。

 

 手傷を負っていたせいでしょうか?

 切り札を封じられていたせいでしょうか?

 手の内を知られていたせいでしょうか?

 相手が未知の存在だったからでしょうか?

 相性が悪かったせいでしょうか?

 二体一だったからでしょうか? 

 

 いいえ。決定的な敗因は、アンノウンを──『機工師』に着替えた桜ちゃんを前にして、開幕十数秒も無防備にその身を晒したのが原因でした。

 

 世紀末の如き火炎放射がありました。

 

 無駄に大袈裟なリアクションの曲芸撃ちがありました。

 

 突如出現した謎の機工兵装からの一斉射撃がありました。

 

 紫電を帯びた強烈な狙撃がありました。

 

 奇妙な軌跡を描いて飛来する無数の巨大な弾丸がありました。

 

 幾重にも反射する予測不能の跳弾がありました。

 

 膨大な排熱を纏った銃撃がありました。

 

 そして、その全ての威力が篭められた時限爆弾の炸裂と、支援兵器の自爆攻撃がありました。

 

「そ、んな……こんな、ところ、で……」

 

 たった数秒間に叩き込められた膨大なる銃撃の数々は、アルトリアさんの許容量を完全にオーバーするダメージを与え、無慈悲にもその意識を奪っていきます。

 

 遂にはアルトリアさんのその手から、彼女の愛剣がこぼれ落ちていきました。

 

 完全に意識を失うまでの間、まるで走馬灯の様にアルトリアさんの脳裏を駆け巡ったのは、かつて救うと誓った故国の光景と、誰よりも気高く誰よりも誇り高い騎士であった盟友の──『()()()』でした。

 

 

 

「■■■■■■■■■■■■ーッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




バーサーカー「きちゃった♡」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。