緋色に並ぶΑ   作:ノムリ

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懐かしの敵

 街で買ったスペイン名物でボカディージョを口に運びながら教授に依頼された仕事に向かう。

 今回の依頼はブツの奪取じゃなくて、人物の殺害。正確には人体実験を行っている研究所の研究者全員を一人残らず殺すのが依頼内容だ。

 

「少年ここから先は関係者以外立ち入り禁止だ。帰りたまえ」

「迷子か?親はどうした」

 

 親?そんなもんいねぇーよ。

 

 左手で腰にしまっているナイフケースからトレンチナイフを抜き。隠密行動ように今回用意してポケットに取り付けておいたカラビットナイフを指に引っかけ回転させながら刃を構える。

 

「ニシシ、見張り番ご苦労様でした」

 

 前に立つ見張り役の男二人の首をトレンチとカラビットでスパっと相手が反応できない速度で切り付けた。

 

「―――ッ―!」

 

「――――ァ―」

 

 二人は悲鳴も上げることなく絶命した。

 

「マスク忘れるところだった」

 

 ジャケットの内ポケットからフェイスマスクを取り出し組み立て口元に付ける。

「さて、お仕事と行こうか」

 

 ニシシ、と笑いながら真っすぐに歩みを進める。

 

@@@

 

「撃て!撃ち続けろ!」

 

「ガキ一人になにかってる!」

 

「化け物か!」

 

 大の大人が三人掛かりでアサルトライフルを撃ち続けるなかアスカは殺した建物や車、殺した兵士の体を壁代わりにして弾を避けながら柵を飛び越え、壁を蹴り、地面や壁を強く蹴っての反動を生かした立体的な移動をしながら攻撃を繰り返す。

 

 ただ、銃を撃ち続けるだけで殺すことが出来る程単調な動きはしていない。

 

「14人目!おっと!」

 

 兵士を14人目息の根を止め進もうとした時、足元に狙撃銃の弾が一発撃たれた。

 夜なことに加えて、あちこちからライトで照らされているせいでまともに居場所を探索することが出来ずにいた。

 

「狙撃手なら初弾で当てるべきだろ」

 

 久々にPO使うか。

 味覚と嗅覚を遮断。

 痛覚を半減。

 視覚と神経伝達系の処理能力を強化。

 

 POで視覚と神経系を強化した状態のアスカにとってアサルトライフルの弾も狙撃銃の弾も両方スローに映る。そしてナイフ二本で対処するのも分けないことだった。

 

 左腕を背中に回し手に持ったトレンチで背中に向けて撃たれた弾を弾き飛ばした。

 

「嘘だろ!」

 

 人間離れした技に驚いた狙撃手は二発目を撃とうとスコープを覗き込んだが、覗き込まずにアスアに弾を弾かれた瞬間に別の場所に移動を始めるべきだった。

 狙撃手は長距離が出来るのが強みだ。だが、居場所がバレてしまえば的になる。

 

 狙撃手が見たのはアスカの後ろ姿ではなく自分の居る方向に向かって走ってきているアスカの姿だった。

 恐怖に駆られ残弾数に気を使うことなく引き金を引いた。

 

 ダン、ダン、ダン、と看破入れずに響く狙撃銃の発砲音。

 

 そして引き金を引いても発砲音は聞こえなかった。

 

「クソ!弾切れかよ!」

 

 悪態をつきながらマガジンを取り外し新しいマガジンを付けよと動いた時に正面に影が差した。

 正面を見た時、そこに居たのは先ほど狙っていた少年―――アスカの姿だった。

 

「ニシシ、腕はいいけど判断ミスだな」

 

 その声を最後に狙撃手の意識は暗闇へと落ちた。

 切り飛ばした首が地面に転がる。

  

 建物の二階位の高さのる場所から周りを見回すと目に見える限りでも、まだ20人以上は敵が居そうだ。

 

「ナイフばっかりだと疲れるから銃使うか」

 

 トレンチとカラビットをしまい。

 数秒前に殺した狙撃手が使っていた狙撃銃を死体から奪いマガジンをセットして敵に照準を合わせる。

 

「頑張って生き残ってくれよな」

 

 敵の頭に狙いを付けて引き金を引いた。

 

 @@@

 

 弾を使いきった狙撃銃の銃身部分を握って肩に担ぎながら研究所の中を適当に進む。

 本来なら銃身が曲がるため持たないのだが、弾を使いきった狙撃銃は銃から棍棒へとチェンジした。

 

 道なり進み空いているドアを通り、部屋に入ると入口が勝手にしまり閉じ込められて状態になった。

 縦に伸びる筒状の部屋を中心に置き、それを囲むように作られてドーナツ型の研究室。

 上を見上げれば白衣を着た研究者が13人確認できた。

 

「外の兵士は子供1人に何をやっているんだ」

 スピーカーを通して研究者の声が聞こえてくる。

「丁度いい。H―24番の実験相手になってもらおう」

 

 向かいにあるドアが開き、そこから出てきたのは褐色の肌に適当に切ったボサボサの髪、理子に教えてもらったスク水という水着に似た形状でお腹の部分は丸見えなスーツを着た少女。

 

 アスカは顔には出さなかったが驚いた。なにせ一緒に研究所を脱出した26人のメンバーの一人でアルファベットのRを頭文字に使った子なのだから。

 

 なんで人体実験の研究所なんかにお前が居るんだよ。なあ、ルカ。

 

 研究者の命令にはい、と答えてルカは両手で持った銃剣を取り付けたAK47をアスカに狙いを定めて引き金を引いた。

 

 ダダダダダダダダダダダ!

 

 2丁から同時に弾が発砲される。

 肩に担いでいた狙撃銃を前に投げ捨て、POを使って痛覚を完全に遮断して余った処理能力を思考速度の強化にまわした。

 横に走りながら発砲され続ける銃弾を躱す。

 

「なんでルカがいるか疑問だが、考えるのは後だ。先にどうするか考えないとな」

 

 走りながら腰からトレンチを抜き、ポケットからカラビットを取り出し構える。

 

 撃ち続けたAK47の銃弾の嵐が止んだ。弾切れか詰まりを起こした分からないがここで逃せば次いつ接近するチャンスが来るか分からないと、アスカはルカに向かって一直線に走った。

 

 地面を力の限り蹴り、最高速度を出して距離を詰める。

 

 止んだ弾丸の嵐が再開した。

 発砲音と共に弾丸が飛んでくる。

 

 腕を顔の前でクロスする。

 銃弾は防弾ジャケットで防ぎ、出来る限り胴体に銃弾が当たらないようにする。

 残り二メートルまで近づいた頃に銃弾は撃ち尽くされ、ついて弾切れを起こした。

 

 今しかない!

 

 クロスさせていた腕を解き左腕を前に突き出し地面を蹴る。

 走っていた速度と最後に加速した速度を加算させて全力の突きをくり出した。

 

「当たれ!」

 

 トレンチの刃先はルカに肉体ではなく。

 盾の代わりとしたAK47二つを貫通した所で止まってしまった。

 

 動けなくなることを危惧したアスカは急いでトレンチを引き抜こうとしたが、真っ直ぐではなく斜めに刺さったトレンチは容易に抜けず一瞬体の動きが停止した。

 

 ……抜けねぇ!

 

 その隙をルカは見逃すほど甘くはなかった。

 2丁のAK47から先に外していた銃剣を二本構え、切り付けてきた。

 

 左腕はトレンチに刺さったままAK47の重みで自由動かせないため、右腕で銃剣二本を防ぐしかない。

 

「ッチ!」

 

 上から下に向かって振り下ろされて銃剣は切れに防弾ジャケットを切り腕にまで到達した。

 血が宙を舞うが、POで痛覚を遮断しているアスカは痛みによる隙は生まれない。

 

 ルカに腕を切られている間にトレンチを捨て、脇のホルスターからグロックを抜きルカに脇腹に銃口を向けていた。

 

 ドン!ドン!

 二発に銃声。

 二発の銃弾がルカの脇腹を襲う。

 横かの衝撃と痛みに怯んだ隙にカラビットを握りしめた拳がルカの顎先を掠める。

 

 二人の動きはそのまま数秒間止まった。

 先に動きを見せたのはルカの方だった。

 ルカは前のめりに地面に倒れた。

 

 アスカがやったの顎先を拳で掠め振動を与え、脳震盪を起こしたのだ。

 

 スピーカー越しに研究者の焦る声が聞こえる。

 それもそうだ。アスカは兵士を殺し侵入してきたルアも戦闘不能にされ、次に狙われるのは自分たちだと予想もつく。

 

 グロックをホルスターに戻す。

 床に転がったAK47に刺さったままのトレンチを引き抜き、閉じたままのドアを蹴って無理やり破り通路に出た

 

 ルカの事を聞きたいから偉い奴を一人残しておかないとな。

 

 研究者が逃げないように速足で研究室に向かった。

 

 その後は五分ほどで終わった。

 

 部屋中に飛び散った血。

 床に無残に転がるバラバラになった死体。

 

 椅子に座るアイカに土下座し続けている研究者が一人。

 

「H-24だっけ、あいつの詳細なデータが欲しいんだけどな~」

 

 踵で床をトンントンさせながら研究者にパソコンのデータを印刷させる。

 研究者も死にたくない一心で慌てて行動する。

 

「此方です」

 

 冷や汗を垂らし、震えながら印刷した資料を渡す。

 

 受け取った資料に目を落とす。重要となる箇所のみを高速で読み進めていく。

 

 捕獲前からな強力な兵士。薬物に対する耐性なし強制投入。感情の希薄が見受けられる以外副作用なし。薬物依存の危険性なし。その他23体の失敗作の課題点クリア。

 

「クズが」

 資料に返り血がかからないようにジャケットの内ポケットにしまい。

 立ったままの研究者の首元をカラビットで掻っ切って殺した。

 

 ゴト、と倒れる死体を蹴り飛ばす。

 

 今だ気絶したまま目を覚まさないルカを見下ろしながら連れて帰るべきかここで殺してしまうべきか悩む。

 

 ……どっちが正しいとか無か。助かるかは生んだろう、死にたいならその後殺しやればいいか。

 血の付いていない白衣を研究者の死体から毟り取って一階に続く階段を降り。

 

「お前の命はお前だけのもんだ。あり方は自由に選べばいい。助けるのは俺の勝ってだろ」

 

 脇腹から流れていた血は気絶している間に止まったようで既に傷口が回復を始めている。恐らく薬物の効果なのだろう。

 

 海苔巻きのように白衣に巻いて肩に担ぎ海岸に待機させてあるオルクスに向かう。

 

 教授に終わった事とルカの事を連絡しようとスマホを取り出すと電話が掛かってきた。

 

 着信をタッチして電話に出る。

 

『終わったようだね』

 

「なら分かってるだろ。保護の許可貰えるか」

 

『構わないよ。ただし責任は君が取るんだよ』

 

「問題ない。死にたいと言ったら俺が殺してやるさ」

 

『君は優しいけど冷たいね、それと帰ってきたら一つお願いがあるんだ』

 

「またか」

 

『君も驚く内容だ。楽しみにしていてくれ』

 

 プチ、と電話は切れた。

 驚くってルカに会ったばかりなのにこれ以上に驚くことなんてそうそうないだろ。

 


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