緋色に並ぶΑ   作:ノムリ

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訓練と過去

 リュパン…いや理子とブラドの一件から三週間が経過した。

 イ・ウーでは正式に理子を組織の一員となり、正直すっごいいやだがブラドも組織に入ることになった。

 

 でだ問題はブラドのではなく理子の方にある。

 長年監禁されて育ったため極度の人見知りだ。加えて教授にイ・ウーでも理子の世話を任された俺は勉強に礼儀作法、言葉遣い、戦闘技術と何から何まで面倒を見る必要がある。勿論風呂はイ・ウーの女性メンバーに土下座or取引をしてお願いしてる。

 

「脇締める!ナイフは振り回すな、剣じゃないだから動かす範囲は限定しろ!」

 

「分かってるよ!」

 

 そして現在は戦闘訓練の一つナイフの使い方を教えている。

 使っているのは俺の愛用していたタクティカルナイフを練習用に渡した。

 俺と同い年の理子だが、まともな食事を食べることが出来ていなかった分体は小柄で、どうしても武器を扱うには体に合った武器が必要になる。

 

「一回休憩を入れるか」

 

 理子の扱うタクティカルナイフを俺はゴムナイフで弾く。

 タクティカルナイフをは宙を舞いカラン、と地面に落ちた。

 

 悔しそうに睨んでくる理子を無視して準備しておいたペットボトルとタオルを理子に投げて渡す。

 

「水分補給はこまめに取る、ただし一気に飲み過ぎない。汗もちゃんと拭けよ」

 頭にタオルを被せたままペットボトルの水を少しずつ飲んでいく。

 

 やっぱりワンサイズ小さいタクティカルナイフ用意した方がいいか。

 イ・ウーで武器の仕入れなどをしている中国の秘密結社の藍幇《ランパン》の構成員の一人、ココに連絡して仕入れて貰えばいいけど、拳銃が、なかなかしっくりくるやつが無いっぽいんだよな。

 

 俺の使っているグロックを使わせたところ撃ちにくい、と不評だった。

 ココが来る時にワルサーを持ってきてもらって試し打ちさせて良かったらそのまま購入すればいいか。

 

「ねぇ、あんたはなんで理子に訓練つけてくれるんだ」

 

 女子があんた、って言うのはどうなんだろ、ジャンヌと夾竹桃(きょうちくとう)の所に度々連れていって女子に必要な知識は付けさせてるけど言葉使いが良くならないな。

 

「ブラドに俺が勝ったら理子の所有権は俺が貰うって契約して俺が勝ったから、現状俺のものなわけだ。お前は一人で生きていける程強くも無いし賢くも無いからな、だから一人で生きている最低限の事は教えてやる。一人前になったらそうだな……まあ、自由に生きればいんじゃね」

 

 ふーん、と聞いておきながら興味なさげに返事をする。

「あんたは自由なの」

 

 ―――俺は……。

 

「どうだろ、ある程度は強くなったと思てる。知識も得て一人で金も稼げるようになったし自分の道を選べるようになったからな。ある程度は自由ではあるかるな」

 そうあろうと約束したしな。

 

「理子の一人前ってどれ位なの」

 

「ん~。ブラドに捕まらずに生きていける位じゃね?今は俺の庇護下にあるからブラドも簡単には手を出さないけど、いつまでも守られているわけにもいかないだろ」

 

 俺とブラドが戦った日。教授に言われた通りオルクスで待機していた十分の間に教授は再び暴れ出したブラドを倒すことで従わせた。

 今のイ・ウーでブラドに勝てるのは教授と俺が五分五分って所だ。もう一度戦いたいなんてこれぽっちも思わないけど。

 

 そっかブラドに捕まらない位か、と小さく呟く。

 目標がある方が頑張れるタイプ方なのか。

 

「訓練始めるぞ」

 

「わかった」

 

 タオルとペットボトルを床に置きまた訓練を始めた。

 

 

 @@@

 

 今回は仕事ではなくプライベートでイタリアに来ている。

 

 なぜイタリアに来ているかと言えばココに頼んでおいた情報が入ったからだ、情報の内容はリュパンの当主が無くなった際に奪われていったリュパン家の宝もしくは使っていた武器の情報。

 どちらも理子にとって親の形見になりうるもので、理子がもっている十字架(ロザリオ)も母親から貰ったものらしい。

 

 建物と建物の屋上を移動しながら、なんでこんなことを自分がしているのか考える。

 

 最初は気まぐれだと思ってた。

 暇つぶしでもあった。

 でも、どっちも違うだろう。多分理子が羨ましいんだ。

 

 ”親の愛情”を知っている理子が。

 

 俺は名前すら貰えずに親に捨てられた。

 物心ついた時には兵士を育てる特殊な研究所に居た。ナイフも銃も体術も爆弾の技術も多くの事をそこで学んだ。

  

 そして同じように研究所に居るみんなと協力して作戦を考えて脱走した。

 脱走というよりは研究員全員をあらゆる手段を使って殺して逃げただけなんだけど。

 

 今でも鮮明に思い出せる。

 

 白い服に返り血を浴びながら目に映る研究員を片っ端から殺した。

 

 許しをこう声も助けを願う声も無視して殺して殺して殺し尽くした。

 最後には爆薬をありったけ使って全部を爆破して全部灰にした。

 

 燃える炎の中で自分たちの地獄は終わった事を実感しながらある約束をした。

 

 お互い思うままに自由に生きようと。

 

 街で出会っても他人の振りをしようと。

 

 お互いがぶつかりあったら全力で戦おうと。

 

 1200人居たのに最後には26人しか生き残れなかった。

 生き残った26人で心だけは一緒に居られるようにお互いアルファベットを頭文字として名前を付けあった。

 目に見えない繋がりを残したかったのだ。たとえ他人からバカらしいと笑われようとも。

 

 そして26人はそれぞれ自分の道を選んで進み始めた。

 

 だから親の愛情を知っている理子には出来れば目に見える繋がりを残してやりたいと思うのかもな。

 未練たらたらだな俺も。

 目に見える繋がりを欲しがるのは俺の悪い癖だと教授にも言われたし。

 

 ビルや家の屋根を伝いながら目的の家の屋根に到着した。

 

 家主は骨董品の収集家で理子の母親が使っていたデリンジャーが飾られている。今回はそのデリンジャーを盗m

……非合法なやり方で奪っていったんだから奪い返されても文句はないだろ。

 

 窓をコンパツのような道具を使って丸型に切り抜き手を通して鍵を解錠する。

 ゆっくりと窓を横に動かしながら中に人が居ないことを確認して、音をたてないようにゆっくりと足を床に下ろす。

 部屋の中を見回せば壺や絵画が部屋中に飾られていた。

 恐らく値段は高くてほとんどが非合法なやり方で手に入れたものばかりだ。

 念のために下調べをした所、犯罪、犯罪、犯罪のパレードだった。

 警察も金と権力の前では無力だ。

 

 部屋の中を物色していると目的の銃を発見した。

 ガラスケースの中に飾られいる銀色の小型の銃として有名なデリンジャーだ。

 

 デリンジャーは弾が数発しか装填できない代わりに小さく携帯性に優れ良く暗殺に用いられる。怪盗が仕込み持ち歩くにはうってつけの銃だったのだろう。

 俺もリボルバー型の弾が五発は入るデリンジャーを持ち歩いているしな、何度か助けられてこともある。

 

 ガラスを動かすとセンサーが反応して気づかれるけど、いっその事全部爆弾で吹っ飛ばすのもありか、と考えるが流石にまずいのでやめておく。

 悩みに悩みぬいた末に先にドアに爆弾を仕掛けておいて、ワザとガラスを割ってデリンジャーを手に入れて敵は仕掛けておいた爆弾でドカンすることに決めた。

 

 決まれば爆弾を設置しよう。

 ドアの足元に地雷式を置いて、外から押して開けるタイプのドアだから天井にも爆弾を設置するか。

 鼻歌を歌いながら細部に気を配りながら設置する。

 

 ものの十分で設置し終わり外を一度確認後、靴紐などの準備を済ませ行動に移す。

 

「ドキドキするもんだな。せーのっ!」

 

 パリン!とガラスの砕き飾られていたデリンジャーを掴み台から持ち上げると。

 

 プーーーーーーーーー!

 

 家中に鳴り響く音が鳴った。

 

 思ってたより大きい音だな。

 家のあちこちからバタバタと走る音が此方に向かってくるのが聞こえる。

 予想してたより対応速いな。

 

 盗人は戦うよりも逃げるぜ!

 

 窓を全開にして隣の屋根に飛び移り、颯爽と屋根から屋根へ移動する。

 

 窓から叫ぶ声が聞こえるが無視して速度を速めた。

 達成感を感じ、リュパンが宝を盗む理由は少しばかり理解できたかも、と思いながら海岸に待機させておいたオルクスに乗り込み海へと姿をくらませる。

  

 理子は素直に受け取ってくれるといいけどな。あいつ変な所で頑固だもんな。

 


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