緋色に並ぶΑ   作:ノムリ

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性格の悪い上司

 自動操縦で目的地いや、潜水艦だから目的艦になるのか。

 くだらないことを考えている間にオルクスはイ・ウーの中に入り海上に浮上した。

 

 ハッチが自動で開き、荷物を持って外に出ると立っていたのはイ・ウーでも数少ない同い年でそれなりに良好の関係を築いている世界的に有名な聖女様の子孫ジャンヌ・ダルクが居た。

 銀髪を揺らし現代には珍しい甲冑とその細い体に不釣り合いの大剣デュランダルを持っていた。

 

「流石教授だな。時間ピッタリだ」

 

「これから出かけるのか」

 

「ああ、少し野暮用でな。教授が部屋まで来て欲しい、と言っていたぞ」

 

 はいはい、と手と振ってジャンヌの横を通って通路を進んでいく。

 ジャンヌも無言でオルクスに乗り込海中に沈んでいく。

 差し障りの無い会話を終えてイ・ウーのボスの居る部屋に向かう。

 

 通路には絵画やら生物の全身骨格やらが飾られているが最初に見た時は何処の博物館だよ、と漏らしたものだ。それも数年居ればなれてくる。

 飾られている芸術作品を見ながら歩き進めていると目的の教授の部屋に到着したが、正直入りたくない。

 

 仕方ないとノックしようとすると中から

 

「入りたまえ」

 

 ノックしようとした手は下がりはぁ、と不満と面倒くさいというマイナスな感情を大いに含んだ溜息を漏らしてドアを開ける。

 

 部屋の正面に座る青年こそがイ・ウーのボスである教授—――シャーロック・ホームズご本人だ。

 本来なら100歳は越してよぼよぼの爺のはずなのだが、誰がどう見たって20歳前半のイケメンだ。

 理由は研究している色金の作用らしいが、俺がこの人を苦手なのは見た目ではなくその性格だ。

 

「要件はなんだよ」

 

「つれないな。偶には楽しくおしゃべりなんてどうかな」

 

「あんたと楽しくお喋りとは想像できないわ」

 

 首を横に振りながらムリムリと手も動かした。

 教授は苦笑いをしながら机に置いてあったパイプに火をつけながら話しを進めた。

 

「帰ってきて早々で悪いんだが一つ仕事を頼まれくれないかい」

 

 イ・ウーで教授の命令通りに動く人物など3~4人居るかいないか程度だ。

 イ・ウーはあくまで技術を教え教わりお互いを高め合う全員が生徒であり教師という学校に近い形を取っている。あくまで打算で繋がった集団だ。

 

 そんな中で簡単に命令を受けて動く人物なんてそうはいない。

 そしてまことに残念なことに俺はその3~4人の一人に入っている。

 別に望んで手伝っているわけじゃない、確かに気分で手伝う時もあるが基本いい感じに言いくるめられて行かされている。

 

「またか、またなのか!で、今度は何だよ!研究所から色金を取ってくるのか?ちょっとヤバイ研究をしてる研究所を消すのか」

 

「いや今回確保してほしいのは一人の女の子だ」

 

 教授が女の子をご所望とは変態か。変態なのか。

 

「名前は峰・理子・リュパン四世だ」

 

「リュパン?リュパンってあの怪盗のか?」

 

 プハ、と口から白い煙を掃き出しながら頷く。

 

「そのリュパンだ。どうやら曾孫がある人物に監禁されているようでね、連れて帰って来てほしんだよ。監禁してる人物は吸血公ブラド伯爵だ。名前くらいなら知っているだろ」

 

 ブラド。吸血鬼の貴族だとかゲームやらマンガやらでよく出てくるがまさか現実で吸血鬼なのかよ。てか何歳だよ100歳超えてたら教授みたいに性格悪いのか。

 

「吸血鬼とか実在するもんなんだな。魔女が居る時点で居てもおかしくなさそうだけどさ、その内鬼とか天狗と九尾の狐つか出てくるんじゃないのか」

 

 ヤバイマジで居そうな気がしてきたフラグを立てるのは辞めとこ。

 

「場所はルーマニハの奥地にある雪山だ。そこに城が建っていて峰くんはそこに居る、じゃあ後は頼んだよ」

 

「何が、頼んだよ、だ!ルーマニアまでどれだけ距離があると思ってんだよオルクスで行ったって3時間は掛かるじゃねえか!てか、吸血鬼にどうやって勝ってリュパンの曾孫を連れて帰ってくんだよ!」

 

 普通の吸血鬼の弱点はニンニク、日光、なんか杭だったはずだ。何百年も生きている吸血鬼がその辺の弱点を克服してないわけないからな。

 

 文句を言いつつも倒し方法を考えていると目も前でパイプをふかしていた教授を楽しそうにニヤニヤと笑っていた。

 

「君は文句を言いながらも頼みを受けてくれるからありがたいよ」

 

 イラ、としたが感情を抑えて床に置いておいた荷物を手に取る。

 

「荷物と武器を整理してオルクスで出るから仕事が終わったら連絡入れる」

 

「選別ではないが情報を一つ教えよう。ブラドは昔聖騎士(パラディン)のある技で弱点は目に見えるようにされたその箇所は四つあり、その四つを同時に攻撃すると倒せるそうだよ。まあ、頑張ってくれたまえ日隅(ひずみ)明可(あすか)くん」

 

 笑いながら手を振っている教授に何も返さずにさっさと部屋を出て自室に向かう。

 

 急いで自室に向かいながら装備は何も持っていくか頭をフル回転させながら考える。

 剣か銃か、はたまた爆弾を使うか。殺せないなら身動きを封じる罠を使うか。

 

 自室のドアを開けてベッドに手に持っていたカバンとアタッシュケースを投げ捨て、服を着替えながら口にレーションを加え装備の準備を始めた。

 

 腰にウエストポーチを取り付く中にスマホと小型のライトとピッキングツールを入れる。

 グロッグの整備と同時に棚にしまってあったP90を二丁取り出し50発入っているマガジンを四つ机の上に並べる。

 壁に掛けていたリュック外し中に入れていく。他にも引き出しに入れていた爆弾を数種類やワイヤーなど雪山で戦う事と吸血鬼という未知の敵と戦う事を想定した装備を準備していく。

 

 一式準備を終えてリュックを背負い部屋を出てオルクスの置いてる場所に向かう。

 機械を操作してオルクスを一台移動させる。やってきたオルクスに乗り込み目的地をルーマニアに設定して自動操縦をセットして後は着くの待つだけ。

 

 それまでは寝る。

 

 リュックを隣の席に置いて目を閉じる。

 あっちに付けば殺し合いの始まりだ。

 


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