今日は俺、キンジ、不知火、武藤の四人で
武藤は車から犯人が逃げないように監視。
キンジと不知火が入り口から侵入。
俺が出口やダクトから侵入。
グロックを構えながら安っぽいライトで照らされた基地の中を進んでいく。
『こっちは6人確保したぞ。そっちはどうだアスカ』
耳に取り付けたインカムからキンジの声が流れる。
「こっちも2人気絶させて壁にあった手すりに縛ってきたよ」
そうか、と返事を聞きながら各部屋を隅から隅まで見回す。
『書いてあった人数より多いね』
不知火の言う通りだ。
任務の情報を見た時は犯人の人数は7人と書かれていた。それが現在8人捕まえている。情報が漏れたか、それとも別のグループが合流でもしたか。
「どっちにしろ、犯人は逮捕するんだから変わらないだろ」
『だな』
「このくらいやがれ!」
手に銃を持った男が叫びながら物陰から飛び出してきた。
男が引き金を引く前に両肩を素早く撃つ。
男は構えていた銃を床に落とし痛みに動きが鈍る。
「痛ってー!クソ武偵め!」
ポケットからナイフを出そうと手をポケットに入れようと動いた隙に鳩尾に蹴りを入れて男を壁まで吹っ飛ばす。
ガン、と音を立てて壁に激突した男が気絶した。
『日隅くん、聞こえるかい』
「すまん。1人片付けてた」
おーい、と通路の向こう側に見える手を振っているキンジ。
「表口と裏口から入ってきて合流したってことは、全部見たってことだな」
「階段とか梯子は見当たらなかったしね」
「念のため、俺は来た道を戻っておくわ」
2人はから領解を得て、俺は来た道を見逃しがないか探しながら戻る。
所々錆びついた壁。
窓には雨戸で外を見ることはできなくなっている。
「窓を閉めるのはわかるけど、雨戸まで閉める意味あるのか。外から見られないけど、外を見ることもできないよな」
外を見られないということは今回のように武偵や警察が来た時に相手の動きを見ることができない。そのリスクを負ったうえで閉めておく必要がある理由……できれば違っているとたすかるな。
部屋に入り壁や床をノックする。
いくつかはと響かない音が帰ってくる。だが、その中でたまに音が響く。
「隠し部屋があるのか、入口はどこだ」
カーペットを捲るが階段はない。
棚を動かすも通路はない。
天井を照らすも梯子はない。
別の場所、もっと思いつかない場所に。
スイッチで扉を開閉するとしたらどうだ。
部屋から出て少し歩いた所にあったトイレ。
トイレの手洗い場の下を除くと小さい赤いボタンが一つ見つけ、ボタンを押す。
「こういうのって無性に押したくなるよな」
危険では無いかどうかの確信もないボタンを押す。
少し離れた場所からガタガタ、と音が聞こえてくる。
さっきの隠し部屋の扉でも開いたか。
音が聞こえた部屋に戻り壁を見ると壁はなく、代わりに明かりがない暗い部屋が見えた。
ポケットからスマホを取り出しライトを起動して暗闇を照らしながら部屋に足を踏み入れた。
階段を数段降りて部屋の奥まで辿り付く。
そして、その光景を見て溜息と犯人たちへの殺意が芽生えた。
部屋に隅っこで固まって座る少女と少年たち。
合計で八人いる。
ボロ布を身に纏い生気のない目をが此方を見上げている。
「外に奴らは全員捕まえた。お前らの家族はどうした」
8人は顔を付き合わせヒソヒソと話しをして結論が出たのだろう。リーダーらしき少女が話し出した。
「わ、私たちは、みんな売られたの、元々は十人いて昨日二人連れてかれた」
どの国でも人身売買は禁止されている、が、それはあくまで表ではだ。裏にいけば麻薬も人間も買える場所はいくらでもある。日本だってだ。
今回、捕まえにきた集団はその下請けの一つだったんだろう。
「二人については俺の方でなんとかしてやる、お前等はどうしたい。この国で暮らすのがいい。俺の知り合いが孤児院を経営してるからそこに行きたいなら連れて行ってやる。死にたいっていうなら殺してもいいぞ。自分たちで選べ、他人に委ねるな。それはお前等の命だ」
再び、ヒソヒソと会話が始まった。
「聞こえるかキンジ」
『どうした?』
「隠し部屋で子供を8人見つけた。親に売られてきたみたいでさ。今、これからどうしたいか決めさせてるから不知火と武藤をつれて迎えにきてくれ、流石に一人じゃ運びきれない」
『わ、分かった!待ってろよ』
キンジは慌てて通信を切っていった。
日本で人身売買は表だと珍しい部類だ。武偵でもそうそう見る事件でもない。
「あの、決まりました」
リーダーの少女が服を引っ張り声を掛けてきた。
「貴方の知り合いの孤児院に連れて行ってください」
「分かった。今から電話を掛けるからちょっと待ってろ」
ポケットからスマホを取り出し、電話帳の中から”GⅢ”と登録された電話番号に電話を掛ける。
僅か3コールで繋がった。
『あ、んだよ!アスカなんのようだよ』
相変わらず口が悪いな。
「頼みがあるんだけどさ、親に捨てられた子供を8人見つけたんだけどな、本人たちがお前の経営する孤児院に行きたい言っていうから頼むわ」
『お前は俺を愛護団体か、なんかと勘違いしてねえか!』
「いいから頼むぞ、あと二人売られた奴らもこっちで確保して送るからよろしく」
『おい!ちょっ』
プチッ、通話を切る。
なんか、喋ってたけど大丈夫だろ。
子供たちを見ると不安そうな顔をしてこっちを見上げている。
「大丈夫だとさ、明日には迎えがくるだろ。売られた二人も俺が確保して後から送るから心配すんな」
「お~い、アスカ」
タイミングよくキンジたちが到着したみたいだな。
「こっちだ。全員運ぶから手伝え」
一人子供を二人抱えて外に運び出す。
「よっこいしょっと、落ちないように掴まってろよ」
外に運びだすと既に日が沈みかけて、空は茜色に染まっていた。
キンジたちが連絡しておいた警察に子供たちを預け、俺の知り合いの孤児院で預かるからと説明をして一時子供たちは病院に運んだのちに孤児院まで連れていってくれるそうだ。
隣に立っているリーダーの少女に財布についている鈴のストラップを外し手渡す。
「隙を見てストラップの中にあるボタンを口に中に隠しておけ、噛み砕けば俺に報せが届くようになってる。外のからは回せば取れるからな」
耳元で誰にも聞こえないように説明をしてストラップを手に握らせる。
リーダーの少女は頷き返す。
警察官に手を引かれつれていかれる子供たち。
「お守りを渡すなんてかっこいいことするなアスカ」
肩に腕を置きながら声をかけてくる武藤。
「こういう所がモテるんだぞ武藤」
冗談を言いながら車の傍で待っている不知火とキンジの元へ向かう。
帰ったら売られた二人の行方をネイナに調べてもらうか。