書き方が安定せず、読み辛いかもしれません。
基本的にオリキャラ視点です。
「それじゃ、気を取り直しまして…次は[せばす]でいきましょう」
あんまり弄ると
魔王はその意図に気付いているのかいないのか、首を
見た目骸骨で中身ほぼ同い年のおっさんなのにどうしてこんなに萌えキャラが出来るんだろう。しかも素で。
──…魔王のくせにそんな動きすんなよなぁ…あ、さっきの流れで俺も真似たらこの人、本気で堕ちるんじゃね?くけけ。
「んん?あれ、次はアルベドじゃないんですか?」
「──…んー…まぁ、[せばす]は九階層の守護者みたいなものですし。[あるべど]は[えぬぴいしい]の[とっぷ]ですし?」
その答えになるほど、とやはりこちらの意図に気付いているのかいないのか、よく分からないまま頷いて納得していた。
アルベドは最後じゃないと正直に言って
ゲームが現実になってから真っ先に受けた、あの殺気。腰を据えてじっくりと考える暇はなかったが、それでも引っ掛かるものがあった。
…いや、子供達との会話で違和感が
子供達はいずれも純粋に創造者を尊敬…どころか崇拝していた。それは多かれ少なかれ、俺達にも及んでいる。心の底から忠誠心が湧き出ているのを
しかし、思い返せばアルベドには
──…ひと悶着ある未来しか浮かばねぇ…困ったもんだ。
隣に座る
何でもないです、と首を振って襖を見据える。何もないことを願いつつ、言い知れぬ不安を胸に抱えながら…。
──コンコンコンコン。
規則正しいリズムで4回のノック音が鳴る。
どうぞ、と入室を促せば入ってきたのは老執事。だが、服の上からでも分かる厚い胸板、幅の広い肩は一体どれだけの膂力があるのか。大昔に存在したという『鷹』の目を彷彿とさせる鋭い眼光は見たものを射竦めさせるだろう。
『老』を体現しているのは白髪と生え揃えた白ヒゲのみだ。
「失礼致します。お待たせ致しました、セバスに御座います」
家令もこなす執事として一挙一動に無駄がなく、また気品に溢れる。一礼するだけでもおよそ完璧と思えた。だが、そんな感動に浸る間もなく
「よく来ました。まずは席にお座りなさい」
「大事な話だ。席に座らなければ話すことは出来ない」
流石に主たる二人からこうも『まず座れよ』と言われたら頑固そうなセバスでも従わざるを得ない。彫りの深い顔には出ていないが、不服そうな雰囲気を滲ませながらも失礼致します、と大人しく席に座った。
「では、早速ですが…今から聞くことは私達にとってもあなたにとっても、とても重要なことです。嘘や偽ることはもちろん、言葉を選んだりせずに想いや考えを言ってほしいのです」
「忌憚無く述べてほしい。不敬などと考えることはない」
「ハッ。かしこまりました」
鋭い眼光は何を今更、と言わんばかりにこちらを見つめている。実際は決意を新たにしているだけなのだが、まるで睨まれているようだった。
「うむ…。話とは…ギルドメンバー達のことだ。姿を見せなくなって久しい。それについて想いや考えを述べなさい」
「特にたっちさんについて聞かせて下さい。最後に訪れたときのこと、それから今日に至るまで…」
やはり思うところがあるのだろう。一滴だけ汗がこめかみを伝い、白ひげの中へ吸い込まれていく。僅かに伏せた眼に先程のような力強さはなく、
言ってしまうことへの不敬と、言わざるを得ない忠誠への葛藤もきっとあるのだろう。
──…きっと不敬なのに言わなきゃいけないジレンマもあったんだろうなぁ。あの子達。
「…かしこまりました。私の創造主であらせられるたっち・みー様が最後にお越し下さいましたのは、4年と3ヶ月前で御座います。遠くより私を暫し見つめられた後、
たっちさんは家族持ちだった。夫婦喧嘩までして入れ込んでいたくらいだったが、やはり家族を取って引退した。現実でのテロも絶えなかったし、しょうがないと言える…爆ぜろとは思うが。
ただ、経緯を考えると見捨てられたと思われても仕方ない。一声でも掛けてくれていればセバスもここまで病まなかったかもしれない。
──…仕方ない。俺しか知らない
顔は青褪め、眼はどこか虚ろになっている。改めて口にしたことで絶望に打ちひしがれているのかもしれない。
うん、この子にも早くなんか言ってあげないとヤバい。
「…恐らく、その時だろうな。最後に私と話したのは…さて、一つだけ言っておく。お前達は決して見捨てられたわけではない。気になるだろうが、幾つか前提を話さなくてはならない」
「…やんごとなき理由があります。まず、私達のこの姿は仮の姿…本来の姿を持つ世界があります。私達は、普段はそちらの世界で生活をしていました…ここまでは良いですか?」
セバスは僅かに目を見開いて驚いているようだが、なんとか頷いて返答する。
「私達はその世界のことを
セバスも一言一句に驚いたり心配になったり色々と忙しそうだなぁ、と思う。それだけこちらの話を聞いており、また信用していることなのだが…。
──…やっぱり危ういよなぁ。
「──ただ…現在は現実との交流が断絶しております。行くことも来ることもきっと難しいでしょう」
「…そう、でしたか…至高の御方々ですら苦しまれるということは、余程の地獄なのでしょう。しかし、それでも微力ながらお力になりとう御座います…やはり、私達如きでは足手まとい、ということなのでしょうか…」
未だ眼光に力は戻らず、不安ばかりのようだ。
…セバスの居る階層は9階層。ここより下にいるアルベドや配下にあたるプレアデス達に出番は結局最後まで無かった。まぁ、あったら既に陥落しているも同然なので悪いことではないのだが、それも拍車を掛けている気がする。要は何もしていないから俺達役立たずだったんじゃね?って思ってるかもしれないってことだ。
「ふむ…そういうことはないと思うぞ。現実という世界はユグドラシルより上位に位置する世界だ。故にお前達を連れて行きたくとも連れて行けなかった…連れて行けるなら皆連れて行くはずだ」
「なればこそ…至高の御方々に届かずとも同じように世界を越えられる力が…私達にもっと力があれば…!」
──おいおい…一応、それ
「[せばす]、落ち着きなさい…仕方ありませんね。これは本人から固く口止めされていたことなのですが…」
《お、おい。なに言うつもりだ
《本人以外、私しか知らない秘密その一です。耳の穴かっぽじってよくお聞きなさい》
「耳の穴かっぽじってよくお聞きなさい。[せばす]、あなたは…たっちさんの
「…は?」
「今、なんと…?」
セバスは目が点になるほど、大きく見開いて驚きを顕にしている。隣の魔王の眼窩の光は小さく輝き、文字通り点になっている。
──ふふー。二人とも目を点にして驚いている。この瞬間はたまらんね。
「ですから、[せばす]はたっちさんがこうなりたい、という将来の自分なのです。あなたはたっちさんの
《おい、なんだその話。初耳ナンデスケド》
《ふふー、そりゃそうですよ。1ヶ月前にようやく聞けた新情報です》
ギルメンは少なからずNPC達に夢を詰め込んでいる。漢の浪漫、
悪を挫き正義を貫く初老で達人なナイスミドル。
それがセバス・チャンに込められた想い。
「私が、たっち・みー様の…理想…」
「そうです。あなたは
今のお前には失望したぞ、と言われたような顔だ。脂汗が滴るほど溢れ出し、体は震えて今にも倒れそうだ。しかし、目はまだ死んでいない。
《ちょっ、それは言い過ぎじゃ》
《まぁまぁ。見てて下さい》
幻滅される、と言われてこの世の終わりになりかけたが、起爆剤にはなっただろう。裏を返せば、あるがままにいることこそがたっちさんの理想だ。
震えていたセバスの体が
この時のセバス・チャンは、たっち・みーに見つめられていた時のことを思い出していた。遠くで見つめるたっち・みーからの視線が静かに語り掛けてくる。
──《俺の理想…俺は『お前』になってみせる…だから、このまま終わってくれるなよ?》
まるで今までの心の変容を予期していたかのようだった。あの時こう思っていたに違いない、という願望でもあったがそれはまさに今のセバスにとって希望足り得た。
──嗚呼、流石は至高の御方…私の心を試されていたのですね。愚かにも私はとんだ勘違いをしたまま、今日に至りました。しかし、赦されるならば今一度、あなた様の理想の体現者として振る舞いとう御座います。
そう願えば、タッチが頷いたように思えた。いや、確かに頷いてくれた。
セバスの眼に光が戻る。その眼光は、先程より鋭く力強い。体の震えは止まり、姿勢は変わらないはずなのに一回り大きくなったかのようにも見えた。
「…もう、大丈夫ですね。今のあなたを見れば、たっちさんは誇りに思うでしょう。そして、こうなりたいという想いをより強く持ちましょう」
「うむ、確かにそうだな…現実のたっちさんが歳を取ればこうなるかもしれないな」
「有り難き幸せ…そして、夜想サキ様。誠に有難う御座いました。お陰様で目が覚めました…
《[ぎるど]長。
《あっはっは。知るわけ無いじゃん》
にべもなく返され隣のハゲ魔王に冷ややかな視線を送り、さてどうするかと考える。しかし、考える時間はない。考える時間がないと考えるほど考えればかんがえる──
──…いっちゃうか。
「[せばす]や…
《これはまた強引というか雑にいったな…ファインプレーなのか、
《知ってる?知ったかぶりって一番恥をかく[ぱたーん]なんだよ》
今度は隣の
「…申し訳御座いません、夜想サキ様。今、なんと…?」
《うっは。これは恥ずかしい》
《》
「で、ですから…難しい言葉を使われても『母』は困ります。『母』は困るのです」
テンパってしまい、大事なことを2回も繰り返す羽目になってしまった。セバスは本気で困惑しているようで目が泳いでいる。隣のハゲは肩が
「[せばす]…私達は『家族』なのです。ならば、私が母であることに何の不都合がありましょう?」
《不都合しかないだろ。鏡見てみるか?》
《黙れ禿げ。火葬するぞ童貞》
《どど、童貞ちゃうわ!》
などと
「…私共も家族、と…しかし、それは──」
「──[せばす]。家族とは同じ『家』に住む『一族』だから家族なのです。先程、長が申した通り私達は
《そっかー…
《びっくりだよね》
隣の魔王からすんごい目力が飛んできているが、
セバスは感動しているのか、僅かに震えながら目頭を押さえている。よし、このまま押し通る。
「[せばす]や…今この時は、執事という職務は関係ありません。あなた達は私達の子供…私のことは『母』と。長のことは『父』と。そう思ってくれると嬉しい…ねぇ?」
「っ…う、うむ…そう、だな…仲間達に創られたならば仲間達の子供も同然といえる。それは当然私達の子供ともいえるな…違うか?『我が子』よ」
その言葉を受けたセバスは体中に雷撃が走ったのを確かに感じていた。これほどの幸福があろうか。
見捨てられたと思っていたらその逆、自分が御方の理想であるというのだ。それだけに留まらず、こちらにおわす至高の御方々は自分達シモベを家族と仰って下さった。あまつさえ御方々の子供である、と。
──なんと…なんと慈愛に満ちた御方々…これは、不敬などと思うことこそ不敬なのでしょう…。
もはや涙を止めることさえ厭わず、その涙は滂沱として流れ落ちる。感極まる心は、暗澹としていた精神を払拭させ見えるもの全てを神々しく映し出した。元々、目の前に神を超える至高がお掛けになっておられるのであまり変わらないが。そもそも、この部屋は至高の御方の自室だった。
──ここが…常世のシャングリラ、約束されたエデンの理想郷…」
意味不明な暴走をし始めたセバスを止めたのは、
「セ、セバスさん?感動中申し訳ないが、返事を聞かせてくれると父さん、嬉しいなぁ…」
鋼を彷彿とさせるセバスが粘土に変貌するのを目の当たりにした至高の御方は、あまりのギャップと先程の流し目にキャラが崩壊しつつあった。
根底は一般人なのだ、その失態を誰が責められようか。
《禿げ魔王崩壊中。所詮はおっさんか》
隣に座る
《うるせーこのクソジジイ!…いや、ババァ?》
《[ばばぁ]で》
《ア、ハイ》
道理であった。
混乱した場は何とか収まりつつあった。
まだ若干の混乱の状態異常を残していたセバスだが、誠に感謝の極み、至上の幸福で御座います。と返事はしてくれた。しかし、微妙に言葉を濁された感が否めない。それでも、野暮なことは言わない。子供が幸せならばそれでいいのだ。
──とは言ってもこのまま終わるのもなぁ。
「それは良うございました…ただ、欲を言えば一度でいいから[せばす]から母と、そう言われたいです。ねぇ?」
「…セバス、無理はするな。あくまで執事として生み出されたお前には負担が掛かろう…呼びたくなった時でよいぞ…いいか、抵抗を感じるならば無理をして呼ぶ必要はないからな?子供に負担は掛けさせたくない。それは『父』の望むところではない」
《こいつ…っ》
《ハン。同じ手は2度食わないと言ったでしょう》
白磁の頭蓋骨にドヤ顔が
それでも、自分の憂さ晴らしのためにここで引っ掻き回してセバスに余計な負担を与えたいとは思わない。子供に負担を掛けさせたくないという言葉は同意見だがムカつく。
「…お心遣い恐れ入ります。私は大丈夫です、『父上』…」
《おっふ》
《》
欲をかけば
「…『母上』もこの度は誠に有難う御座いました。心のつかえが取れたように思います」
そんなつもりはなくともセバスの心遣いが痛い。明らかな被害妄想ではあるが、視線に憐れみが含まれているような気がした。
「…ありがとう…母と呼んでくれて嬉しく思います」
「うむ。いつでもそう呼んでくれて構わんからな」
「ハッ…慈愛と慈悲に満ち溢れる『両親』の子供でいられることが出来て、セバスは幸せ者で御座います…」
一滴の涙が畳に垂れようと、微かな嗚咽が漏れようと二人はただ微笑ましく眺めて頷くのみ。
野暮なことは言わない。幸せならそれで良いのだ。
セバスの番が終わったので、ユリと交代になった。やはり、耳栓をさせて何があろうと絶対に入るな、と言い付けて、更に扉よりちょっと離れたところで待機して貰う。ユリの顔が心なしか残念そうだったのは言うまでもない。
「さて、いよいよアルベドですね」
「…そう、ですね」
結局、答えどころか足掛かりすら出なかった。最初は今までと同じような感じでいいだろう。何を考えているか、きちんと知らなければ何も言いようがない。しかし…
──本音で話してくれるか、なんだよなぁ。
殺気を向けるということは敵意を向けると同義だ。つまりは、『敵』とみなしているということ。
それは難しい話ではなく極々単純な話だ。自分にとって不快なら『敵』で愉快なら『味方』だ。生物における好き嫌いの原点でもある。
──《敵に馬鹿正直に手の内を晒すアホがいるか、このマヌケ》
あの殺意の目を向けて
しかし、隣に唯一のワイルドカードがいる。
彼にならきっと打ち明けてくれるはず。少なくとも言うことは聞くはず。害意はない…はず。
「?…どうしました?」
無意識のうちにまた目を向けていたらしい。
──あぁー…もうなるようにするしか無いなぁ…。
対面するその時まで不安は拭えない。いつだって『分からない』というのは不安と恐怖しか生まない。
襖の奥にいるであろう
──コンコンコンコン。
「失礼致します──」
──何だかやけに見つめてくるなぁ…まさか、惚れられた…!?
「それだけはないわー」
「…心を読まないで頂けますか」
「そっくりそのままかえすわー」
「ぐっ…!」
──つづく。
次回、メインディッシュ。
アルベドまでやっちゃうと多分、終わらなくなりそうだったので、今回はセバスのみです。
と言いつつ短かったら笑うしかないよね。
オリ設定補足。
セバスはリアルのたっちさんがモデルらしいので。
多分将来はこういうナイスミドルになりたいんだろうなぁ、リアルじゃ正義を貫くのが難しいからゲームのNPC(子供)に願望を託したんじゃないかなぁ、という妄想。