──私の〜前で〜撫でないで下さい~♪ってか。
大昔にいっとき流行ったらしい歌の一節を思い出しながら、目を閉じて未だ気持ち良さげなマーレに声を掛ける。
「そのままでもいいからお聞きなさい、[まぁれ]。──…私達は『家族』です。私は『母』でもあり、長は『父』でもあります」
「そうだぞ。だから、私達に遠慮なく相談してほしいし、頼ってほしい…勿論、その逆もあるがな?」
マーレはオッドアイの綺麗な瞳を白黒させて、こっちや撫でている魔王へ
「あっ、あの…か、家族…ですか?」
「ええ。勿論、生みの親は茶釜さんですが…私達にも親の務めを果たさせてほしい。少しでもあなた達に寄り添えれば、と思います…」
「嫌なら嫌だとはっきり言うのだ。不敬でもないし、それでお前のことを嫌いには決してならん…。──お前の意志を尊重しよう…どうだ?」
撫でられながら俯いて少し考えている。そういえば、他の子供達があまりにも感動していたから、本当にそれでいいのか聞いてなかったことを思い出した。…あー、でもやっぱり不敬だから止めますなんて言われたらお母ちゃんショックで倒れるかもしれん…。
やがてマーレが意を決したようにオッドアイに光を宿らせて、顔を上げた。
「あ、あの…で、では…──」
『うん?』
「──お、『お父さん』『お母さん』と…お呼びしても、いいんでしょうか…?」
『』
──…あぁ、ここが天国か。生まれてきて良かった。初めて親に感謝するかもしんない…。
アウラも良かった。だが、マーレも良い。姐さんは業の深い人だと思っていたが、違った。きっとこれを見越していたに違いない…。深謀遠慮とはまさにこのこと…。
などと意味不明なことを考えていたが、早く答えないとマーレの心が離れていってしまいそうだった。
元々涙目だったが、段々と眼のハイライトが失われ不安から絶望へ移行しつつある。本気で不味い。
「もっ…もちろんだ、マーレ。そう呼んでくれて、とても嬉しく…思うぞ…ぐっ」
《…お、おおおぉぉぉ!さす[もも]!よくあの[だめぇじ]から回復しましたね!》
《なんですか、
モモンガさんのお陰でマーレのハイライトが復活した。今では天真爛漫な笑顔が見られる…この子も、結構あれだな。意外と怖いな。
「…母も嬉しいですよ、[まぁれ]。さて、今の[まぁれ]にはとても大事な仕事を任せています。頑張っている[まぁれ]に私達の信頼の証として──」
「──この『指輪』を渡そう…ど、どうしたのだ?」
そう言ってモモンガさんは虚空から一つの指輪を取り出した。『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』だ。
だが、マーレの様子がおかしい。笑顔が失われ、顔は蒼白になり、目は見開いている。冷汗も見受けられ、
「そ、それは…リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン…う、受け取れません。至高の御方だけが持つことを許されているんです…ぼ、ぼく
「…っ」
《──サキさん、抑えて下さい》
沈静化も手伝って何とか心を落ち着かせる。
《…大丈夫です、二の足は踏みません…ですが、訂正はさせます》
《分かりました。くれぐれも慎重にお願いしますよ?》
その返答に目で合図を送り、マーレの
マーレは指輪を持つことは不敬と思っているのか、まだ
「[まぁれ]…なんか、などと言ってはいけません。それは[なざりっく]を…ひいてはあなたの母である茶釜さんの『格』を落とすことになります…同格、とまでは言いませんが、あなた達は私達に対しても誇りを見せるべきです…」
「そうだな…マーレはもっと自信を持ちなさい。
二人の言葉にマーレは徐々にだが理解の色を示した。流石に創った人がそうしているならば子供はそれを見倣ってそうするべき、と言われれば不敬とも思わないだろう。
何故なら
今までのあの子達の親への反応から
──…とは言ったものの、
そうならないように
「…分かってくれたようだな?これは
「もちろん、[あるべど]にも渡してもらいますから…ただ、あの子は順番にこだわりそうだからまだ内緒ですよ?隠蔽作業が終わるまで隠しておくこと。[あうら]にも悪いですから、そちらにも秘密です」
《え゛。マジですか》
《大[まじ]です。穏便に済ませたいなら、あくまであの子が一番最初ということにして下さいね》
嫉妬深さが一番顕著だろう彼女は、特にモモンガさんから貰えるなら順番には絶対こだわるはずだ。この辺も上手く調整しとかないと不和を呼ぶ。絶対。『アルバム』製作者としての勘なんてもんじゃない。
マーレは先程、そのアルベドに睨まれて怖さを実感したからだろう。
かわいい。
その後、マーレに改めて指輪を隠して持っているよう言いつけたら虚空を開いて、その中に指輪を大事そうに入れていた。
このことからNPC達にもアイテムボックスがあることが分かり、偶然だが検証が一つ終わった。ユグドラシル時代の装備や消費アイテムを恐らくこの子達は持っている。
それはつまり、タブラさんがアルベドに持たせたように──このことはあくまで想像だが──、他のメンバーが勝手に
その辺の消費アイテムやら装備品なら何も問題はないのだが
──…後でモモンガさんに相談するか。
「それでは[まぁれ]…ここで話したことやあったことはくれぐれも秘密です。それと[なざりっく]の隠蔽は大役ですが、焦らないように」
「…うむ。ナザリックの壁は広くて高い。アウラにもゴーレムなどで支援するよう伝えたから、上手く連携するようにな。草も生やす必要があるだろうし、MPが足りなくなったら『ペストーニャ』に言うといい。──…大変だろうが頑張りなさい」
「はっ、はい!ありがとうございます!し、失礼します!」
「…あの子達も[あいてむぼっくす]を持っているんですね」
「そのようです…どうします?持ち物検査でもしますか?私は反対ですが」
せっかく
「まさか。ただ、世界級を持っているかくらいは知っておきたいので、後で宝物殿の
「え…い、いや。わざわざ話を聞かなくても…まだ心の準備が…それに、確認するだけなら私が行って──」
「
何でこんなに嫌がるのか理解出来ない。
モモンガさんにとって黒歴史ということは知っている。
恥ずかしい?ふざけるな。
「自分で生んだ息子だろ…恥ずかしいとか嘗めてんのか」
「──っ」
骸骨の眼窩の光が驚愕で大きく広がる。何に驚いたのかまでは知らないが。
さっきから沈静化が鬱陶しい。
「今まで散々、俺の言動を見といてまだ分からねぇのか?…それでも家族を、息子を恥じるってんなら相手になるけど…?」
勝てるとか負けないとかではない。
「そう、でしたね…すみませんでした…」
「…いいよ…俺も言い過ぎた。でも、あんたの息子であることに変わりはない。それはじっくりと考えるべきだ…あの子は、恥ずかしがって貰うために生まれてきたわけじゃないだろ?」
あの子はモモンガさんが格好良いと考えて、ギルメンの姿を保存したくて創った。ならば、何を恥じる必要がある。
「そんなわけ、ないじゃないですか…あいつは、仲間達の…──」
「あー…分かった、分かりました。言い過ぎてすみませんでした。そんなに落ち込まないで下さいよ。…あの子も哀しみます。それは、俺の望むところじゃない」
「…」
やっちまったなぁ…どうも、この手の話になると歯止めが効かなくなる。次は
──…本当は疑うなんてことはしたくないんだけどなぁ…。
「ほら。次は[でみうるごす]の番ですよ。どうします?日を改めますか?そんな弱った姿を見せたら幻滅されますよ?」
「…うっさいわボケェ!誰のせいでこんな悩んでっ…──」
モモンガさんの怒声が止まる。何故ならば、目の前の
和室で正座しているから自然と下座になる。本当は土下座なら障子を開けて中庭でやるべきなんだけど、時間もないし、しょうがないね。
「…言い過ぎたのは本当に謝るよ。まぁでも、俺の気持ちも分かって欲しいかな…
「っ…いえ、こちらも怒鳴って申し訳ありません。ですが、面談が終わったら少しだけ時間を下さい…避けるような真似は絶対にしません。ただ…」
言質は取った。あとはその恥ずかしいとかいう感情を抑えてほしいだけだ。
言い掛けた魔王を手で制する。
「──ちゃんと向き合ってくれるなら今はそれでいいよ。
「…はい」
「それじゃあ…あんまり考えたくないけど──」
敵に回ったら一番厄介なデミウルゴス、いってみようか。
──コンコンコンコン。
鳴り響く4回のノック音。
「…どうぞ」
今までで一番緊張している。声が震えていないか心配だった。まぁ…
「お待たせ致しました。デミウルゴスに御座います…失礼致します」
たいへん落ち着いた耳触りの良い声が室内に響く。入ってきたのは赤い三つ揃えのスーツを着こなした悪魔、デミウルゴス。設定通りなら全く問題はない。万が一がただただ怖い。まったく、情けなくて涙が出そうだった。
「忙しいなかでよく来てくれた…感謝するぞ」
「『感謝』など畏れ多い…お呼び頂ければ、いつでもすぐに参上致します」
満面の笑みを顔に貼り付けて、社交辞令を述べる…いや、これ
なんか、今までで一番分かりやすかった。普通は逆のはずなんだが…何でだろうな。
綺麗な一礼を捧げて、その場に跪こうとするのを手で制する。
「心に留めておきましょう…[でみうるごす]、本題に入る前に席にお座りなさい」
「…かしこまりました。失礼致します」
一瞬、逡巡した後にデミウルゴスは申し訳無さそうな顔で
…これは正直意外だった。
──…まさか今の一瞬で、今までの子供達とのやり取りを悟ったのか?
可能性は高く思えた。そのぐらい、きっとこの子は普通に熟すだろう。ナザリック一の悪魔的知能は伊達ではないはずだ。俺達の予想を3周ぐらい軽く飛び越えるはず。
…やっぱり、ある意味一番怖いかも。
「それでは大事な話を始める…嘘偽りなく、正直に話してほしい」
「…あなたの思ったことや考えていることを言いなさい。どのような言葉でも決して不敬ではありません…言葉を濁さずにそのまま話してほしいのです」
「ハッ…かしこまりました。決して嘘偽りなどを申し上げず、言葉も濁さないことを至高の御方々に誓います」
…うん、やっぱりだ。この子は設定通りのようだ。
今は神妙な顔つきの固すぎる紳士の体が緊張から若干震えている。…いや、やっぱり歓喜かもしれない。口角がちょびっとだけ上がっている。意外と子供っぽいとこあるな。
「うむ。話す内容は久しく姿を見せなくなってしまった仲間達…ギルドメンバー達についてだ…」
「特に[うるべると]さんが最後に訪れた日、それ以降から今日に至るまで…想いや考えを打ち明けてほしい」
ほんの僅かに上がっていた口角が真一文字に結ばれる。顔もややうつむき加減だ。やはり、思うところはあるのだろう。
ひと呼吸分だけ、時間を空けてゆっくりと口を開いた。
「…かしこまりました。最後に我が創造主であらせられるウルベルト・アレイン・オードル様がお越し下さったのは3年と10ヶ月前で御座います…その時はしばらくの間、私をお見つめなさった後に『今日で最後、か…最高傑作ともこれで見納めと思うと寂しくなるな…。──俺は…結局、あいつと何も変わらなかったんだろうか?…だが、最後まで足掻いてみせる…』と仰って…第七階層からご出立なされました…今日で最後、とのお言葉に絶望し、最高傑作と仰って頂き、まさに天にも昇る気持ちにもなり…形容し難い思いでした…。──
片手で目を覆い、指の間から
一緒に立ち向かえない己の無力に嘆き、動きたくとも指一本動かせなかっただろうユグドラシル時代は、恐らくもっと悔しかったに違いない。
「…よくぞ言いました…辛かったでしょう」
「うむ…お前の疑問に答えよう。とは言っても、憶測も多分にあるのだが…。──『あいつ』とは、恐らくだがたっちさんのことだ。彼らは表面上は常に対立していたからな…」
「っ!…わ、私は何という…ことを…!」
あ、不味い。たっちさん(多分)のこと愚か者って言っちゃったからすんげぇ顔になってる。早く止めないと自害するぞ、これ。
「っ…落ち着け!デミウルゴス!不敬などではない!」
「…し、しかし…」
「──[でみうるごす]…良いのです。私達が赦します…これ以上の言葉が必要ですか?」
デミウルゴスの目が見開かれ、その眼孔にはめられた見事な宝石が露わになる。涙は滝のように溢れ、体は震え、その様相はまさに神を前にした敬虔な信者の如く。…この子からしたらあながち間違ってない例えだから困るのだが。
「お、おお…深淵よりも尚深い御慈悲に多大なる感謝と敬意を…!」
涙を流しながら五体投地で崇める悪魔。なんて絵面だ…ウルさんが見たら卒倒しかねんぞ、これ…。
「う、うむ…お前の忠誠はしかと見届けた。それで、話の続きをしたいのだが…」
「──ハッ、これは大変失礼を致しました。どうか、お願い致します」
なんて素早い変わり身。どこぞの守護者統括を幻視した気がした。
「それでどこまで話したか…ああ、ウルベルトさんが何故連れて行ってくれなかったのか、か…それにはいくつか前提を話さなくてはならないのだが…」
「そうですね…まず、[ゆぐどらしる]における私達のこの姿は仮の姿…本来の姿の世界というものがあります…」
「──…なるほど、流石は至高の御方々…そういうことでしたか」
驚くでもなく、
《ちょっ、サキさん!『そういうこと』ってどういうことですか!?》
《あははー。知るわけないでしょうが》
「…ふむ。どう理解したのか、教えてくれないか?何か齟齬があるといけないからな」
《おおっ、上手い!伊達に魔王やってませんね!》
《フッ…この程度お茶の子さいさいですよ》
「ハッ、かしこまりました。まず、『本来の姿の世界』とは恐らく至高の御方々が時折お話に出されていた『りある』かと存じ上げます。そして、ユグドラシルは至高の御方々にとって箱庭のようなものと愚考致しました。至高の御方々は『箱庭』における仮の姿をお作りになられ、それを操りご活動に励まれた…しかし、『りある』ではユグドラシルとは比べ物にならない程の脅威が現れ、至高の御方々はそれに対抗すべくそのお力を蓄えるためにお隠れになられた、と…私共では取るに足らぬとご判断なされたのか、それだけが残念でなりませんが…」
デミウルゴスが何か間違っていたかと不安を顕にするまで、ただただ呆けていた。
「…もしや、どこか間違っていたでしょうか…?」
「あ…いやいや、見事だ。流石はデミウルゴス」
「え、ええ…言葉の違いはありますが、大筋は合っていますよ…そうですね。いくつか補足しましょうか」
その言葉に姿勢を今一度正して、神妙な顔つきになる。…これ以上正しようもないと思うのだが。
「ハッ。是非ともご教授願えますでしょうか」
《サキさん、これ以上何を話すんですか…ちょっと言葉替えればもうほぼ正解じゃないですか》
《…一つ大きな誤解があります。このまま無闇に期待を大きくさせると後に必ず響きます…[ももんが]さんには申し訳ないですが…》
《っ…私は大丈夫です。ただ、あまり変なことは…》
それに目で返答をし、デミウルゴスと向き合う。
「…まず
「な、なんと…そのようなことが…しかし、少しでもお力になれないのでしょうか…?」
「…それはならん。彼らには彼らの闘いがあるのだ。それは自身の力で解決しなくてはならないものなのだ。──…助力したいのは私達とて同じだがね…」
相変わらずナイスフォローです、モモンガさん。しかし、やっぱり物理的にも無理だって言われると消沈するよな。さっきの笑顔はどこかに吹き飛んでしまったらしい憔悴したデミウルゴスが、そこにいた。
「…ウルベルト・アレイン・オードル様は…ご自身のお力のみで『悪』を成そうと孤軍奮闘されておるのですね…ですが…!」
「…不敬を承知で申し上げます。お気に障られましたらどうか、首を刎ねて下さいますようお願い申し上げます…。──お言葉ですが、我々は至高の御方々のお役に立つために存在しております。創造主の命の危機に我らが命を賭してでも御身をお護りできずして、『最高傑作』の栄誉は護れましょうか…!」
ああ、そうか。この子も親が死ぬのを…
…体は大人だけどまるで親離れできない子供みたいだ。まぁ…生まれてから10年程度だし、ろくに触れ合うことも出来ていないだろうから、しょうがないのだが。
「…違いますよ。あなた達は私達を護るために生まれたのではありません。忘れてしまいましたか?」
その言葉にデミウルゴスの表情が暗い方へと歪む。
「──…あなた達は[なざりっく]を…『我が家』を護るために創られたのです」
「!」
モモンガさんはそれに同意するように頷く。
「その通りだ。私達は保護されなくてはならないほど
「…しかし…私達はお役に立っておりません…先程、申し上げました通り…『ぷれいやあ』どもが攻め立ててきたときには呆気なく…。──口惜しいですが、呆気なく果ててしまいました…っ!」
歯を食いしばり過ぎて砕けた音が聞こえた。口の端から血が滴り、尚も食いしばる様子はかつての大侵攻を思い出しているのだろう。1500人による蹂躙。数の暴力。たかがNPC一人では歯牙にも掛けられない。しかし、だ。
「…『足止め』。私達が間に合うための…あなた達が役目を全うしたのです」
「…」
「うむ。はっきり言ってしまえば、あの人数に策なしで対抗など『二十』を使わない限り、私達でも難しい…あの時は、私ですら陥落の二文字が頭をよぎったものだ。しかし、お前達がいてくれたお陰で護り通せたのだ」
それを聞いたデミウルゴスが
「誇りなさい。あなた達は、十二分に…役目を全うしています。これまでも…。──これからも」
「…ありがとう、ございます…!──感無量に御座います…!」
耐え切れなくなり、ポロポロと涙が溢れる。俺達はそれを愛おしく、微笑ましく見ていた。
泣き終えたデミウルゴスはやはり、入室時と比べると纏う雰囲気が柔らかくなった気がする。
「…落ち着いたようですね。繰り返しますが、[ぎるめん]達が来れなくなったのは決してあなた達の力不足ではありません…現実での闘いに余裕が無くなってしまったからです」
「そうだな…彼らは今も闘っている。いつか、帰ってくる日が来るかもしれない…その時を迎えるまで無事を祈り、このナザリックを護るのだ」
「ハッ…しかと承りました。しかし、流石はモモンガ様と夜想サキ様で御座います…多くの至高の御方々がお見えになられない中でご健在でいらっしゃるそのお力、やはり──」
なんか言い出したぞこの子。
《ちょっ…またですかこれ。おかしくないですか》
《あー…なんとなーく、どこかで
そう、この話はスケールが大き過ぎた。ギルメンは現実を受け止め、俺達は
《…どうします?こんな立派なもんじゃないですよ、俺達。特に
《急に毒吐くの止めて頂けませんかねぇ…まぁ、何とかしましょうか》
「[でみうるごす]」
「──嗚呼、なんとすば…ハッ。如何なさいましたか」
頭では敵わない…考えるな。
──感じろ。
「私達は『家族』です。『母』は、あまり崇められても困ってしまいます。頼り頼られ、助け合うのが家族…。──[でみうるごす]。私のことは『母』と、長のことは『父』と…そう思って貰えると、とても嬉しい」
《
《考えるな。感じろ。心の赴くままにゆくのだ》
《あなたが…
《…[るび]がおかしくないですかねぇ…?》
見ればデミウルゴスは突然のことに呆けている。あまりの衝撃に
──
「[でみうるごす]…私達、家族の間に『不敬』など存在しません。嫌なら嫌だとはっきりとおっしゃいなさい」
「…そ、そうだぞ。どうしても主従の関係が良いというなら止めはしない…それは不敬などではない。子供達の『わがまま』をある程度は叶えてやるのも親の務めだろう」
《おぉっ!言いますねぇ》
《こうなったら破れかぶれですよ…》
デミウルゴスは
「──…わ、我々も…家族と…至高の御方々の子である、と…」
「そうだ。私達は…家族だ。違うか?『我が子』よ」
「…辛かったでしょう。苦しみも分かち合うのが家族です…苦しいときや辛いときは遠慮なく言うのですよ」
「…あ、ありがとう…ございます…『母上』…『父上』っ」
見た目は大の大人が、人目を憚らず泣いている。しかし、それを嗤う者などおらず、僅かな嗚咽と頭を撫でる小さな音だけが響く部屋を、温かい空気が満たしていた。
あの後のデミウルゴスは何度も泣いたことを恥じたが、なんのことだ、とモモンガさんがすっとぼけていた。
このイケメン魔王め…とか思っていたら有難う御座います、父上、と小さな声が聞こえた。
二人とも聞こえないふりをして今後の業務に励むよう伝え、今に至る。
「えがったえがった。入ってきた時と比べるとえらい雰囲気が良くなりましたね」
「そう、ですね…皆、少なからず自責していましたが…頭の良いデミウルゴスだからこそ、随分と自分を責めていたみたいでしたから、ね…」
本当にいたたまれなかった。自分の力量が足りなかったからこそ創造主が、ギルメンが離れていったと思い込んでいた。それは違う、と。現実の事情であって決して不満だからいなくなったわけじゃない、と。
まぁ、こんなことあまり考えたくはないが…。
──…飽きたやつがほとんどかも知れんけどな。
デミウルゴスの表情は晴れた。足取りも心なしか軽かった。しかし、どこか歯切れの悪いこの人は…。
「…[ぎるど]長。まさか自分を責めているわけじゃないですよね?」
「…え?」
絶対
「自分の力量が足りなかったから皆いなくなった、とかふざけたこと考えてません?」
「いや、それは…」
──はい、確定。
「考えてましたね?あなた馬鹿ですか?馬鹿ですね?」
「は?」
眼窩の光が強く輝き、一瞬だけ【漆黒の後光】や【絶望のオーラ】が噴き出たが気にせずに続ける。
「不満があるならもっともっと昔に空中分解してます。少なくとも、あなたと仲が良かった面子は随分と名残惜しそうに去っていきました。他の人も多かれ少なかれ、そう感じていたでしょう…。──社会人だから勝手に抜けた人はいなかった。それは違います。社会人でもそういうやつはいます。るし★ふぁーさんなんかその筆頭でしょう?」
「…それは──」
「──でも、
願望でも嘘でもいい。この人に絶望は味合わせたくない。この人に
「…」
「あなたも、もっと自分に誇りを持って下さい。[ぎるど]長としてでなく、[ももんが]さんとして…──」
「──
「…!」
ふふん。どうだ、この持ち上げよう。流石だね、俺。中身も女だったら
「…ズルいですよ。ここで本名を持ってくるのは…くっそ、中身おっさんなのに…」
「ふふー。私もまだまだ捨てたもんじゃないようですな」
「調子に、乗るな。──避けんな!」
「嫌ですよ。角が痛そうですし」
「はああぁぁぁ…」
骸骨の魔王が大きなため息の真似事をする。疲れたサラリーマンみたいな哀愁があった。
「随分と大きなため息ですね。何か悩みでも?」
「誰のせいだ、誰の…」
「むっ、ひどい人がいるもんだ。どこの美少女か教えて下さい」
「こいつっ…確信犯、だと…!?」
「あ、やべ」
「あとでシバく…絶対シバいたるからな…」
「なんで関西弁」
大きな骸骨の魔王と小さな鬼の姫の笑い合う声が、綺麗な和室に響き合う。一瞬だけ途切れることもあったが、いつまでも続きそうな楽し気な声だった。
「…中身が女だったら惚れてたでしょ?」
「…知るか
──つづく。
自分より頭良いキャラの台詞や敬語って難しいですね。
モモンガさんとおっさんがなんかイチャイチャしている件。某統括の嫉妬のボルテージが上限突破する…!