骸骨魔王と鬼の姫(おっさん)   作:poc

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萌え回。

例によって捏造多数。
双子に違和感あるかもしれません。

オリキャラ視点のみです。


本編6─家族面談らしい(3)

()()()、としばらく唸っていた骸骨の魔王(モモンガさん)鬼の姫(オレ)。結局、己らの設定など細かいことは後にして面談を先に済ませてしまおう、という結論になった。検証は後でなんぼでも出来るしね。

余談だが前の二人にお茶を用意していても、やはりどちらも手を付けなかった。座卓の上に残っている()()()お茶には茶柱が一本立ったままだ。

飲食不要及び疲労無効の装備を着けているために体調が変わらないせいで忘れていたり、()()()()と騒動があったりとそういうこともあったが、やはりこちらから促さないと絶対に手を付けそうにない。

まぁ雰囲気作りのために出しただけだから、どうということはないんだけども。

 

そんなことを考えながら座卓のお茶をユリに手渡して片付けて貰った。湯呑みを預かるときに顔を真っ赤にして()()()()と慌てていたが、何だったのだろうか。なんか支配者が自ら片付けるなどどーのお呼び頂ければ我々がこーのと言っていたが。

そういえばあの子も死者(アンデッド)だ。シャルティア含め何故にあんな顔色が出来るんだろうか…謎だ。

話してるから、はよ捨ててきてって強引に渡したらどこかへすっ飛んでいった。今までで一番早かった。

 

「次はアウラとマーレか…。─二人同時にやりますか?」

 

「んー…別々に行きましょう。多分、[まぁれ]の考えや想いが[あうら]の言葉に染まるか埋もれてしまうかと」

 

そう。あの二人は双子で姉弟。姉のほうが立場が強く、弟は姉の言うことによく従う。そのように定められている。()()()()と弱気な性格にされているのも拍車をかけていることだろう。

弟は姉に従順であるべし、とよくよく言っていた姐さんの言葉が思い出される。

 

「そうですか。それじゃ…アウラから行きましょうか」

 

「了解です。─ああ、そうそう。姐さんはご存命ですから」

 

その時。()()()、と魔王の首がこちらを向いた。今の動きはおっかなかった。

 

「そうですよ!何で聞いてなかったんだ俺!─生存が確認できたギルメンを教えて下さいよ!」

 

そういえば言っていなかった、と()()と手を打つ。眼窩に赤い光を灯す骸骨の表情は固い。骨密度も高そうだ。うまい。

 

「うまくねーし。早く教えなさい、この問題児(クソビッチ)

 

「了解しましたって…えぇと、少なくとも守護者達を創った方達は生きているはずです。半年以内に返事を頂いています」

 

「ふむ、他のメンバーは?」

 

どうだったかな、と天井を仰ぎ見るが温かな光も直接目に入ると眩しく感じられた。目を細めて、ふと正面にある金銀に彩られた見事な水墨画が描かれた襖を見やった。どれが良いか、『朱雀』さんによく相談していたのも今や懐かしい記憶だ。

 

「…朱雀さんは不明な人の一人ですね。あとは─」

 

覚えている範囲で各メンバーの状況…とはいっても『アルバム』作成の過程で、メールでの相談の返信が貰えたり貰えなかったりとその程度ではあったが。

因みに相談と言っても裏話程度の内容だ。『アルバム』を作るだけなら一人でも全く問題はなかったが、今だからこそ言える話とかそういうのもなるべく押さえておきたかったのだ。

愛する存在(ナザリック)をより深く知るために。

 

一通り話し終えて双子の面談はまず(アウラ)から、と決まったところで再開となった。さて、意外と大人びているアウラだがどんな想いを持っているのやら。

 

因みにユリは、あのあとすぐに洗った湯呑みを持ってきてくれた。お礼にお茶菓子をあげたらまた顔を真っ赤にして()()()()と慌てていた。かわいい。

 

 

 

 

 

─コンコンコンコン。

 

4回のノック音。全員の面談終わったら原因を調べてみよう、と密かに決意する。

 

「─どうぞ。お入りなさい」

 

やはり部下たるこの部屋の主が声をかけて入室を促す。

そっと顔を出したのは緊張を滲ませたアウラだ。失礼致します、と微かな不安げなの色を隠し切れず、しかし凛としてゆっくりと入ってくる動作は幼さを感じさせない美しさがあった。

だが、鬼の姫(おっさん)からすれば背伸びをしているようで微笑ましい。かわいいなぁ。

 

「お待たせ致しました。アウラに御座います」

 

一礼してすぐに跪こうとするが、それをモモンガさんが手で制する。アウラは不思議そうな顔で動作を止めた。やはり、かわいい。

 

「よい。まずは席に座りなさい…座らない限り、話をすることは出来ん」

 

「っ!─し、失礼します!」

 

流石モモンガさん。有無を言わせずに話を進めるつもりだ。怯えて震えながら座るアウラが少し可哀想だったが。…うん、かわいい。

 

〈伝言〉(メッセージ)。かわいい連呼すんな変態(おっさん)。んなこた分かってんだよ》

 

《…姐さんも良い仕事してますよねぇ》

 

()()()()と震えて待つアウラを前に好き勝手言い合う支配者(ダメ親)どもだった。

 

「─さて、アウラよ。これよりとても大事な話をする。いくつか質問をするが心して答えてほしい」

 

「あなたの考えや想いを述べて頂きますが、不敬だとかそういう事は考えないように。ありのままを言えば良いのです」

 

「は、はい!どのようなことでもお聞き下さい!」

 

アウラのオッドアイの瞳にはそれぞれ決意と覚悟の光が宿っていた。忠誠心から成せる姿勢だが、幼いアウラにはあまり()()()()()は出来ればやって欲しくない、というのが正直なところだ。

忠誠心からではない姿勢で、子供は子供らしくいてほしいと願う。

 

「…アウラにとっても辛いことだが、我が友人達…ギルドメンバー達がいなくなって久しい…そのことについて、だ」

 

「─…っ」

 

「最後にあった日のこと、それからのこと、そして今。─…言葉を飾る必要はありません。重ねて言いますが、想いや考えをありのまま言えばいいのです」

 

やはり辛い質問だろう。いくら大人びているとはいえ、アウラは子供だ。目に涙をためて、必死に口を結ぶ姿は見るに痛ましい。

僅かの間だが、沈黙が部屋を満たした。

 

「…最後にぶくぶく茶釜様の姿がお見えになられたのは5年と1ヶ月前です…。私とマーレを並ぶように立たせたあと『アウラとマーレは今日も可愛いね。…ごめんね』…とだけ、仰られて…頭を撫でて頂きました。その後、しばらく眺められてから…どこかへと、お出になられました。─…いつかきっと、また会いに来て下さると…それまで私とマーレで、第六階層を護るのだと…その想いで今日までお仕えして参りました…で、でも…いつしか私は、もう会いに来て下さらないのでは、と…お、お嫌いになって、しまわれ…たので…。─しょう…かっ…ぐっ…!」

 

途中から泣くまいと必死にまぶたを閉じて言葉を繋げていたアウラだったが、ついに涙が堰を切ったように流れ出す。()()()()と目尻から溢れる水の玉が頬を伝い、座卓の下に消えていく。むせび泣く声が胸中を抉った。

 

「─…[あうら]。ぶくぶく茶釜さんが、あなた達を嫌いになることはあり得ません。彼女は、ずっとあなた達のことが心残りだったと耳にしています」

 

「やむを得ない事情があったのだ。それを今から話そう」

 

二人の言葉を聞いて()()()()と目をこすり、覚悟を決めたように真っ直ぐで綺麗なオッドアイがこちらを見つめた。

 

「…かしこまりました。どうかお願い致します」

 

「うむ、まずは前提から話そう…。─実は我々のこの姿は仮の姿でな。本来の姿の世界というものがあり、そこからこの姿の中に入ってユグドラシルで活動をしていたのだ…ここまでは良いか?」

 

アウラはやはり驚愕に目を見開き、絶句している様子だがなんとか頷いてみせる。…俺やモモンガさん、ないし()()()()がこんなことを言われたら驚く前にまず相手の正気を疑い、言葉の真偽を確かめようとするだろう。

前の二人もそうだったが、忠誠心が高すぎるゆえに俺達の言葉を疑う、ということがないようだ。疑惑を晴らす手間がない分、楽ではあるが一方でとても危ういと思う。こういうのはちょっとしたことで瓦解したりするからなぁ…。

 

「もし分からないことがあれば遠慮なく聞きなさい。分からないことをそのままにすることこそ、不敬なのですから」

 

「…問題御座いません。どうか、お聞かせ願えますか」

 

モモンガさんの説明をなんとか飲み込めたのか、立ち直ったアウラにモモンガさんは頷いて続けた。

 

「うむ。─それで本来の姿の世界…これを我々は現実(リアル)と呼んでいるが、その現実は地獄を体現したような世界でな。生きるのに精一杯だったのだ…そして、その現実で死ぬと二度と生き返ったり、ユグドラシルに来たりすることは出来ない」

 

その時のアウラの心情はきっとこうだろう。自分の親が死んでしまった、だから会いに来れなくなった、と。

容易に想像が出来てしまえたほどに、オッドアイの視線が揺らぎ、絶望に染まった顔は青褪めた。

だから、そんなことはないと助け舟を出してやる。

 

「安心なさい。ぶくぶく茶釜さんは生きています。─…ただ、[ゆぐどらしる]に入る余裕がなくなってしまったのです。今もきっと生きるために必死でしょう」

 

「…ぶくぶく茶釜様は、今も戦っておられるのですね」

 

生きている、という言葉にやや安堵したアウラだが、緊張の色は落ちない。今も生死をかけた戦いを繰り広げているのだと、そう感じているようだ。()()、と歯軋りしているのは、その場に駆け付けられないことが悔しいのかもしれない。

生活が掛かっている、という点では『戦い』とそう表してもいいのかもしれない。

 

「口惜しいかもしれんが、彼女には彼女の戦いがある。我々が手を出すわけにもいかんのだ…今は彼女の無事を祈って成すべきことを成すのだ」

 

「…はい。─…いつか…いつか、また会いにお越し頂けますよね…?」

 

アウラの質問にモモンガさんは表情の変わらない骸骨のくせに難しい顔をして腕を組む。意味が分からないと思うだろうが、そう感じたのだからしょうがない。

 

─自分自身の葛藤もあるのかもしれないな。

 

「…それは難しいかもしれん。今現在、現実との交流が隔絶されていてな…」

 

「─現実(あちら)から来れるのか、()()()から行けるのかも不明なのです。少なくとも現時点でこちらから私達が戻ることは出来ませんでした」

 

「…それは…モモンガ様と夜想サキ様もいずれは、『りある』へお帰りになられる、と言うことでしょうか…?」

 

不安が極度に達して声が震えてきたアウラ。かわいいが言葉が悪かったな、といたたまれなくなる。現実に戻れたとしても、()()が残るならまたすぐにナザリックへ戻って入り浸ることは言うまでもないことだ。そもそもが仮に現実に戻れたとしても、また()()()に来れる保証はない。現状でそんな博打は絶対にご免だ。

…元々、ユグドラシルが終わったあとに『アルバム』を見て満足したら死ぬつもりだったのだ。

こんな素晴らしい場所は二度と無い。仮にメンバー全員が戻ってきて一から作り直したとしても、それは()()()()()()()()()。よく似た『まがい物』だ。

そんなのを見るくらいならナザリックとともに死ぬ、と覚悟を決めていたら奇跡が起きたのだ。離してなるものか。

 

「─ああ、そう心配しないで。私が…私達があなた達を置いていくことは決して有り得ません。ここは私達にとって帰るべき『家』…そして、あなた達の『親』です」

 

「あ、あ…そ、そんな…恐れ多いこと…」

 

突然に親だと言われて戸惑っている。

見た目が子供ということもあり、経験はないが連れ子ってこんな感じなのかな、と思う変態(おっさん)だった。

 

《むぅ…悔しいですが、まずまずの良い流れですので、良しとしましょう》

 

《うーん、あと()()()()って感じですかねぇ》

 

頬は赤く染まり、目は潤んでいる。今は()()()()している見た目は子供のアウラだが、しかしその割に大人びているとは思っていた。だが、栄えある守護者として甘えるわけにはいかない、でも親に甘えられなかった子供として甘えたい、と葛藤しているのがよく分かった。

 

「不敬ということはありません…それでも心配であるというならば─」

 

このタイミング、完璧だ。自分でも惚れ惚れしちゃうね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「[あ「─()()()…こちらへ、『父』の胸に飛び込んでおいで」

 

「モ、モモンガ様あああぁぁ!」

 

「」

 

アウラが叫び、隣のセクハラ魔王(モモンガさん)の胸元へ飛び込む映像がやたらスローに見えた。

あゝ、世は無情なり。やたら大人しいとは思ったが隣の骨はタイミングを伺っていただけなのだ。()()()()()()()を虎視眈々と…。

 

《…この変態魔王。虎視眈々と狙ってやがったな?》

 

《ふ、情報収集は基本中の基本です。二度も同じ手が通用すると思わないことです》

 

()()()()顔の骨がなんか言ってる。そういやこの骨、情報の処理と運用能力がやたら高かったな、とどこか遠くを見るような呆けた視線でじゃれている二人を眺める敗北者(おっさん)であった…。

 

 

 

 

 

ひとしきり堪能したセクハラ禿げ魔王(モモンガさん)の頭蓋骨は心なしか()()()()と艷やかになっていた。こっちの心は()()()()だが。

気を取り直して、落ち着いたアウラに話しかける。

 

「…[あうら]。無理はしなくてよいのです…何か困ったことや相談したいことがあれば遠慮なく言いなさい」

 

「─うむ。不敬など考えなくて良い…私達はそなたらの『親』だ。気軽に『父』や『母』として接してほしいと思う」

 

「はっ、はい…あの、えぇと…」

 

マーレのように()()()()とらしくない様子で耳まで真っ赤にしたアウラが言い淀んでいる。何か言いづらいことがあるのだろうか…。

 

─まさか、『女の子』の相談か?

 

《なにか不穏なことを考えてないかこのど変態(ファッキンビッチ)

 

《なんで考えが読めるんですかねこの[せくはら]魔王は…》

 

やがて意を決したアウラが顔を上げて、真っ直ぐなオッドアイの瞳で両人を見つめて口を開いた。

嵐の前のような静けさが部屋に漂っていたのはきっと気のせいではない。

 

「お」

 

『お?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『お父さん』…『お母さん』…」

 

『─ぐはっ!』

 

─これは…破壊力満点ですな…。

 

自信の表れであった凛とした眉はハの字に垂れ下がり、潤んだオッドアイが上目遣いでこちらを見ている。

頬は上気して赤くなり恥ずかしさからか肩をすくめて、指なんか()()()()しちゃってる。

見た目は男の子にされているが、本質はちゃんと女の子してるんだなぁ…と微笑ましすぎて鼻血が出そうになりながらいつの間にか抱き締めていた。

 

「やっ、夜想サキ様!?─モモンガ様!?」

 

《嗚呼…[あうら]も可愛いねぇ》

 

《…否定はしません…茶釜さんは間違っていなかったんや…》

 

モモンガさんも近付いて頭なんか撫でていた。《さらさら》とした質のよい綺麗な金髪が指骨にかき分けられて、見ているこちらも気持ち良くなりそうなほどだった。

 

 

 

 

 

 

あのあと、最初こそ戸惑いから慌てていたアウラだったがしばらくすると封じ込めていた、創造主(姐さん)がいないことで積もり積もっていた寂寥感が爆発したのか嗚咽から始まり最終的には大声を上げて泣いていた。

それを二人はなんとも言えない気持ちで方や抱き締めながら。方や頭を撫でながら眺めていたが、やがて落ち着きを取り戻したアウラは、シャルティアと同様にどこかすっきりとした笑顔を浮かべて綺麗なお辞儀をしたのだった。

そんなアウラに、伝え忘れていたゴーレムなどを使ってマーレを手伝ってやってほしいと頼んで任務に戻ってもらった。多くの魔獣を使役するアウラだ、指揮官としても優秀なはず。きっと上手く使ってくれるだろう。

 

因みにユリにはシャルティアの時の二の舞いにならないように耳栓をしてもらって、用事があるときはモモンガさんの〈伝言〉で呼んで貰うことにした。

耳栓だと万が一の対応に遅れてしまうなどと拒んでいる様子だったがお茶菓子を渡して黙らせた。また顔を真っ赤にしててかわいかったな。

 

「さて、次はマーレか…作業中だと思いますけど、どうしますか?」

 

「…()()()の方が大事だと私は思います。よっぽど危険な状況なら考えますけど、一、二時間程度なら他の偵察用[もんすたぁ]とかで周辺を見回りさせておけば大丈夫なんじゃないですかね」

 

マーレには先程出した壁周辺の隠蔽作業という現時点では最重要任務に当たらせていたわけだが、きっとマーレもアウラと同じような悩みを抱えているだろう。双子の弟だし。

守護者(あの子)達を見ていると俺達の言葉こそが最重要とか言い出しそうな勢いだったが…まぁ、その辺りの認識は追々として今は面談を終わらせるほうが先決だろう。

モモンガさんにデミウルゴスへの〈伝言〉で現在の状況確認とそろそろマーレの面談を行うために、その間の偵察部隊の編成や運用を行って貰うことやゴーレム等をアウラに貸してマーレの作業を手伝って貰うように伝えて貰う。

 

「…デミウルゴスは本当に優秀ですねぇ」

 

「どうしました?」

 

デミウルゴスが優秀なのは当然だ。ナザリックでトップを張れるほどの頭を持つのだから、俺達じゃ考えつかないことまで考えているだろう。

 

「さっき与えた命令のついでに警戒網の草案も作っていたようです。防衛時の指揮官として全て任せるって思わずぶん投げちゃいましたよ」

 

「おー…流石ですね。私なんか面談のことしか頭に無かったですよ」

 

創ったのはウルさんだが我が子が優秀なのは良いことだ、と()()()()と相槌を打つ。

 

「…まぁ、話してみて分かりましたが守護者達の抱えているものは意外と大きかったようですね」

 

「…ある意味、良かったと思ってますよ。何も感じないんじゃただの[ぷろぐらむ]と変わらないですから。─…思うことがあるってことはあの子達は紛れもなく生きているってことです」

 

「そう、ですね…」

 

モモンガさんにとってもこの時間は無駄にはならないはずだ。親ならばギルドメンバーの子供たちと触れ合う時間は多い方がいい。

 

「あ、そうだ。[まぁれ]に壁周辺の土掛けてもらってるなら何か良いもの渡しません?頑張ってるならちゃんと褒めてあげないと」

 

「そうですね。ナザリックの壁も意外と大きいですからね…うーん…信頼の証ってことで『指輪』を渡しますか」

 

時間が止まった。〈時間停止〉(タイムストップ)は掛けてないし時間対策はしているはずなのに、確かに時間が止まってしまった。一瞬、こいつ何言ってんの?って思わず蔑みの目で見てしまうほどに。

 

「…いやいやいや!なに勘違いしてるんですか!─『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』のことですよ!」

 

「ああ」

 

その言葉にようやく得心した。このハゲ魔王、さっきといい姉弟丼でも食べる気かとか思ってしまったのは内緒だ。

でも、その指輪はちと()()()()じゃないか?と心配になる。

ナザリックの急所を渡すのは確かに信頼の証としてはこれ以上ないと思うが…。

 

「またよからぬことを考えてるなこの変態(クソビッチ)。─…もちろん、外出の必要があれば誰かに預けさせますし、最終的には守護者全員に渡すつもりですよ」

 

「まぁ、それなら…」

 

一人だけだと不和の元だ。順番が出てしまうのはしょうがないが、頑張ったら褒めて貰えるという見本には丁度いいのかもしれない。

 

「…さて、それじゃマーレを呼びますか」

 

「了解です、お願いします」

 

さて、マーレとアウラは同じことを考えているのかいないのか。()()()()と内気なのは、あくまで設定だからだ。ああ見えて男だし、意外としっかりしているかもしれない。

 

 

 

 

 

─コンコンコンコン。

 

モモンガさんに〈伝言〉でユリにマーレを呼んで貰うように伝えて少しした後、4回のノック音が鳴り響いた。どうぞ、と声をかけて入室を促す。

 

「し、失礼します…お、お待たせしました、マーレ・ベロ・フィオーレです…」

 

「よく来ました…さぁ、まずはこちらに座るのです。─座らなければお話は出来ませんよ?」

 

跪こうとしたマーレの肩が跳ね上がった。かわいい。

姉のアウラ以上に()()()()と震えている。…これ演技じゃなくてマジの方だな。

 

「マーレ、何も心配はいらない。叱るなどそういったことではない、まずは腰を落ち着けて話そうではないか…とても大事な話なのだ」

 

「!…わ、分かりました。失礼します…」

 

まだ怯えた表情ではあるが、怒られるわけではないと知ってやや安堵しているのが伺えた。

しかし、この子も綺麗に座るなぁ。この子達が()()()()()()とされているからなのか、NPCは皆そうなのか、気になるところだ。

 

「さて、それでは始めよう。話というのは、ギルドメンバー達…特にぶくぶく茶釜さんについて、だ」

 

「─っ」

 

「まずは、あなたが最後に会った日のこと。そして、それから今日までのこと…辛いでしょうが、あなたの想いや考えを嘘偽りなく正直に話してほしいのです」

 

マーレが息を呑み、体の震えが大きくなる。目も大きく見開いているこの子にはやはり、辛すぎるか…。

 

「…マーレ。どうしても辛いというのなら今は…」

 

「いっ、いえ!大丈夫です!…は、話させて頂きます…」

 

モモンガさんに中止しようかと促されたがそれこそ不敬だとか考えでもしたのか、珍しく大きな声で否定した。一度だけ深呼吸して、姉のアウラとは色が反対の綺麗なオッドアイに決意を含ませて話し始める。

 

「…さ、最後にぶくぶく茶釜様がお越しになられたのは…ご、5年と1ヶ月前です…。お、お姉ちゃんとぼくを並ばせられたあと『アウラとマーレは今日も可愛いね。…ごめんね』…とだけ、仰られて…ぼ、ぼく達の頭を撫でて頂きました。そ、その後、しばらく眺められてどこかへと、お出になられました。─…き、きっと、また会いに来て下さる…そ、それまでお姉ちゃんとぼくとで、一緒に第六階層を護るんだって…思いました。─で、でも…もう何年もお会い出来なくて…ぼ、ぼく達のこと、お嫌いに…なっちゃったんでしょうか…」

 

最後の方には目も伏せて、目尻には涙が浮かんでいた。

だが、いくら男の()であれ、と設定されていたとしてもやはり『男の子』なのだな、というのが正直な感想だ。姉のように嗚咽を上げることなく、歯を食いしばり必死に耐えている。

 

─…マーレは強いなぁ。

 

「[まぁれ]…大丈夫です。ぶくぶく茶釜さんは、いつもあなた達のことを心配していましたよ」

 

「うむ、あれだけお前達のことを想っていたのだ。今更嫌いになるわけがなかろう」

 

その言葉にマーレの顔に笑顔が浮かんだ。本当にこの子達は純粋だなぁ。

 

「さて…それで、そのぶくぶく茶釜さんが来れなくなってしまった理由だが…まず、話さなくてはならない前提がある」

 

「─分からないことがあれば、いつでもお聞きなさい。不敬などと考えてそのままにすることこそ、不敬ですからね」

 

「は、はい!分かりました!」

 

二人の言葉を聞き逃してなるものか、とでも言いたげな鋭い眼をして()()()()と頷く。

 

「その前提だが…まず、ユグドラシルでの私達のこの姿は仮の姿だ。本来の姿をした世界、というものがあってな。その世界からユグドラシルに仮の姿を作り、入り込んでいたわけだ…ここまでは良いか?」

 

「は、はい…大丈夫です…」

 

おや?と思った。驚愕に染まるわけでもなく、理解出来ていないわけでもない。なんでこんなに落ち着いているのか。

 

─…まさか姿形はどうでも良いとか、そう考えているのか。

 

「うむ。そして、その世界…現実(リアル)と我々は呼んでいるが、その現実とは地獄と言ってもいい世界でな…常に生死が隣合う世界なのだ」

 

「─その世界からこちらに入る余裕が無くなってしまった…今も彼女は生きるために頑張っているはずです」

 

「そ、そうだったんですね…あ、あのぼく達が、その[りある]に行ってお手伝いをすることは…出来ないんでしょうか…!」

 

オッドアイの瞳に微かな炎を灯らせて、決死の覚悟を浮かべた男の顔だ。その覚悟に応えたいと思うが、残念ながら手段がない。

 

「…今は現実と交流が断絶していてな、手立てがないのだ…それに、現実での戦いとはユグドラシルとは異なり自分自身で何とかするしかなくてな…今の我々に出来ることは彼女の無事を祈りながら、すべきことをすることだ」

 

「彼女は強い。それはあなた達も知っているはずです…長の言う通り、今は無事を祈り、信じましょう」

 

「は、はい…ぼ、ぼくには自分だけでしなきゃいけない戦いっていうのは、よく分かりません…。─っでも、信じるしかないなら信じます!」

 

ああー…可愛過ぎる。垂れ気味のオッドアイに灯る決意の炎は未だ燃えている。()()()と握った拳は、力を入れ過ぎて微かに震えていた。

 

「…[まぁれ]。こちらへおいでなさい」

 

《あっ…ちょっと待ちなさいこの変態(クソビッチ)

 

《もう誰にも止めることが出来ないこの情熱…この子にも捧げましょう》

 

《意味分かんねぇ…》

 

もうマーレは目の前だ。下手に止めると不審がられると思ったのか骸骨の魔王(モモンガさん)は諦めたようだ。しめしめ。

 

「さぁ、『母』の胸の中に飛び込んでおいで…頑張っている[まぁれ]の頭を撫でてあげましょう」

 

「え、えと…あ、あの…」

 

むぅ、流石に急ぎ過ぎたか。目の前に来たのはいいが、撫でて貰うなど不敬だとか考えてるなこの顔は。

どうすればいいのか分からず、()()()()と戸惑っているマーレも可愛いがこのままではセクハラハゲ(モモンガさん)に盗られてしまう。

その時、閃いた。まさに天啓。

 

─…来ないなら自分から行けばいい!

 

言うが早いかならぬ思うが早いか。手を伸ばしたまま立ち上がり─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─マーレは偉いな。困ったことがあればいつでも『父』に頼りなさい」

 

「モ、モモンガ様ああぁぁ…」

 

「」

 

いつの間にかハゲ魔王(モモンガさん)がマーレの隣に座って頭を撫でていた。

 

─また…このパターン、か…フッ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《油断しすぎですよ負け犬(ビッチ)

 

《うるせーこの変態(禿げ)

 

どっとはらい。

 

 

 

─つづく。

 




原作では『それ』っぽい印象のマーレですが、何だかんだいって男の子、だと思います。

今更ですが、製作者の引退日などは完全に妄想です。

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