骸骨魔王と鬼の姫(おっさん)   作:poc

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今更ですがオリ設定多数です。

段々とオリキャラの奔放(暴走)ぶりが発揮されてきました。


面談前はモモンガさん視点、面談開始後はオリキャラ視点です。


本編4─家族面談らしい(1)

─そういえば、()()に入るのは初めてだな…。

 

そこは八畳一間の、他のメンバーの部屋と比べると少し()()()()()とした部屋だった。一段床が高く作られた部屋には、床の間というちょっとした空間が壁際にあるだけで、他に目立ったものといえば襖という布でできたドアと障子という紙─和紙というらしい─でできた窓があるくらいだ。

しかし、部屋全体が障子と天井に貼られてある和紙の中からの、〈永続光〉(コンティニュアル・ライト)の間接的で柔らかな光に包まれており、ある種神秘的で非常に落ち着いた雰囲気が漂っている。

 

「おー…落ち着いてて、いい感じの雰囲気ですね」

 

「そうでしょうとも。くつろげる空間を目指してこだわりましたからね」

 

ふんす、と腰に手を当て無表情ながらもどこか自慢気に語るは、はだけた服装の鬼の姫(おっさん)。隣にいるは大柄な骸骨の魔王(オレ)

日本人のマナーとしてこういう部屋には、二人とも履き物はちゃんと脱いで上がる。うーん、畳なんて現実(リアル)では見たことなかったけど…何ていうか、この独特な匂いといい感触といい…日本人としての魂が揺さぶられる気がするな…。

 

─…良いな、この部屋。ちょっと羨ましい。

 

「実は障子の向こうにちょっとした庭園もあるんですよ。まぁ、それはまたの機会ですね。─それじゃ、ちょいと高級座卓と高級座布団を置きまして…」

 

非常に気になることを言い捨てた鬼の姫(おっさん)がどこからともなく、表面が磨きぬかれた黒くて木目がある脚の短いテーブルと3枚の鮮やかでいて落ち着いた色合いの薄いクッションを取り出して各所にセットしていく。淀みない動作は随分と手慣れた感じがした。

そういえば、昔はいつも模様替えのために部屋に篭っていたな、とかつての光景が思い出された。

 

「─はい、終わり。あとはお茶とお茶菓子を用意すれば万全ですよ」

 

「…俺、飲食出来ないと思うんですが…」

 

新たな嫌がらせだろうか。確かに偉い人との会議や面談といった場面では多少はマシな飲み物とほんの少しだけまともな食べ物は出てきた。

上から食べていい、と言質が取れれば食べていたが、忠誠心の塊っぽい部下(NPC)がおいそれと食べるわけはないし…まさかサキさん(こいつ)、一人で楽しむつもりじゃなかろうな。

こちらの話を聞いているのかいないのか。ぽん、ぽん、と心なしか楽しげな様子でテーブルにお茶菓子セットを置いていく。自由か。ていうか何でお茶菓子セット(そんなの)持ってんだ。

 

「あー…雰囲気ですよ、雰囲気。それより現実になると[げぇむ]の食べ物って良い香りもするし、より美味しそうですよね。あとで食べてみますか?」

 

「話聞いてる?この問題児(ファッキンビッチ)

 

さっぱり会話のキャッチボールが成り立たず、思わず悪態をついてしまう。だが、奔放者(サキさん)はそれにも全く意に介さずに、のほほんと爆弾発言を落としてくる。…平常運転(いつものこと)だった、と昔を思い出して頭を抱えそうになった。

 

「あれ。『人化の指輪』、持ってないんですか?貸しますよ?」

 

「─…え?」

 

─人化の指輪ってあの()()()()()()()なアイテムか?

 

「ですから。人化の指輪が余ってるので貸しますって言ってるじゃないですか、この禿げ」

 

「ハゲじゃねぇ!…え、なんで持ってるんですか」

 

人化の指輪とは、もう何年も前にクソ運営から異業種に配られた文字通り人間種に化けられる異業種用の指輪だ。これがあれば、人間種のみしか入れない街に大手を振って入れる…と思うだろうが、実際のところ、デメリットがかなり大きい。

まず、職業レベルだけ残り、種族レベルが無くなる。人間種に種族レベルが設定されていないからだ。俺の場合、レベルが60まで下がる。

そして、基本的には人化の際に偽名を用いたり職業などを偽装したりする。隠蔽魔法やアイテムでそういった偽装をするのだが、場所によっては隠蔽禁止の区域がある。露天などは詐欺防止などのためにそういう所に多いのだが、うっかりそこに入ってしまうと気付かないうちに隠蔽魔法やアイテムが全て解除されてしまう。

そうなるとアバターにターゲティングする(ターゲットを合わせる)だけで本当のアバターネームがバレるのだ。ちょっと調べれば取得している種族なんかも簡単にバレる。

そして、指輪を外すには街外に出なくてはならない…そう、待ち伏せ(PK)だ。

人化の指輪を外す直前の弱っている状態でPK(プレイヤーキラー)されてしまう事件が多々あったのだ。俺や仲間もやられたことがある。

逆手にとってPKK(やり返)したが…それ以来、人化の指輪はデメリットが大きく、メリットを得るための労力が割に合わないとされて、超微妙アイテムとなってしまった。

今じゃ持っている異業種はいるのかいないのか、とまで言われていた。─そのためにある意味、希少になってしまった。PKされた時にドロップ(落と)してそのままにしてしまったのが悔やまれるな。

 

そんな希少(微妙)アイテムを何故この問題児(ビッチ)が持っているのか。それも複数。羨ましい。

 

「んー…要らないなら()()って言って[めんばぁ]から貰ってたんですよ。─…いつかの夢のために」

 

「…ああ」

 

()()()()直前の会話を思い出した。…人間種に種族レベルはない。逆を言えば、人間種のほうがより職業レベルの高い鍛冶師がいるのだ。自身の武器に世界級(ワールド)アイテムを込められるほどの。

そのために、予備も含めてずっと何年も取っておいたということか…。

 

「そういうわけで目出度く夢も叶いましたし、近いうちに宴会とかやりたいんですよね。やりません?」

 

「ほんと自由人(フリーダム)だなあんた」

 

─感傷に浸る暇もない。もしかしたら、さっきの雰囲気が雰囲気だっただけに、この人なりに気を使っているのかもな…。

 

どこか目がキラキラしている無表情の問題児(ビッチ)を見ていると、無性に腹は立つがお祝いはしてあげたいと思う。『アルバム』のお礼もろくに出来てないし。

 

「…まぁ、目出度いことは確かですし、考えておきましょう。今はその前に目の前の問題を─」

 

「よっしゃ、言質取ったで!…あ、沈静。絶対やりましょう」

 

前言撤回。やっぱ祝わなくていいんじゃなかろうか…。

 

 

 

 

 

 

 

面談の前準備を済ませた俺達は、床の間の前…いわゆる上座側にモモンガさんを座らせて、自分はその隣で正座だ。─この身体、正座が凄い馴染むな…いつまでも座っていられそうだ…。

こちらの準備も終わり、部屋の前で待機していたメイド─戦闘用メイドであるチーム六連星(プレアデス)の長女である『ユリ・アルファ』─にシャルティアを呼んでくるよう伝えたら、それはもう嬉しそうに凄い勢いでとんでいった。一瞬だけ顔を引きつらせていたが。

まぁ、実際はあくまで上品に、表情も表面上はキリッと澄ましていたが、それでも可能な限り速く歩いていったわけだ。それにしても凄い早歩きだったな。大昔にあったオリンピック?ってやつで1位が取れるんじゃねってくらい。

 

─…準備はこっちでするって言ったら死にそうなほど悲壮な雰囲気になったけど、終わったら守護者呼んで貰うから待ってろって言ったらパッと明るくなるんだもんなぁ…命令されるのがよっぽど嬉しそうだったな。

 

因みに、最初は自分は面談の対象外だと思っていたセバスが、緊急事態であるならば自分が扉の前で警護につきます、と執事という設定通りの言動でモモンガさんに食い下がっていた─俺からすると駄々をこねているように感じたが…まるで親から離れたくない子供のように。─のだが、セバスも対象だしそれなら戦闘力のあるプレアデスにやってもらうから、と言いつけたら渋々ではあるが了解したのだった。

 

「あー、緊張する…」

 

「気楽に行きましょう。多分ですけど、守護者達のほうがもっと緊張してますよ?」

 

あの忠誠心を間近で見たら、きっと誰だってそう思う。

俺達で言えば、社長か会長辺りに直に呼び出されるようなものだ。呼び出されることは元より、忠誠心なんかなかったがそれでもきっと、緊張はしただろう。

 

「いや、それはそうでしょうけど…営業と違って、こっちが上の立場で話すっていうのは初めてですし…」

 

「最初は()()()()()()()()()()()子に設定されてる[しゃるてぃあ]です。さっき話し合った通りに話せば、大丈夫ですよ」

 

そう。色々と設定がてんこ盛りのシャルティアだが、その中の一つに通称『ポンコツ』がある。()()にもよるが、忠誠心も手伝ってこっちの話に疑問はあまり持たないと思われる。

ただのプログラムだった(AIで動いている)頃は何とも思わなかったが、実際に動いて喋っているのを見てからだと…なんか貶してるみたいで、ちょっと嫌だが。

 

「…だと良いんですけどね」

 

話し合った内容とは主にギルメンの行方と思惑だ。

さっきはセバスが見捨てられたと思ってるみたいだったってモモンガさんに言ったら【漆黒の後光】に【絶望のオーラ】が溢れ出して、それはもう凄かった。外にいるユリが()()()って言ったらすぐに消沈したが。

ギルメンの行方だが、現実(リアル)の話を交えないと正直に言えないし、ちゃんと伝わらない。しかし、それを言って果たして大丈夫かは分からない。飽きてどっか行きました、なんてとんでもない。…その辺は割り切ってはいるが、やっぱりそれは無いと信じたい。

そもそも、()()は『悪』を掲げた異業種オンリーのギルドだ。1500人の人間(プレイヤー)が攻めてきたこともあるし、人間に対していい思いを持っているかと問われれば疑問が持たれる。

俺ら、実は人間なんだよねって言われるのは、俺らの親が実は宇宙人なんだよねって言われるようなもんだろう、きっと。忠誠心が高いあの子達では、ショックで寝込むやつがいるかもしれない。それはだめだ。

だから、人間ということは伏せて伝えることにした。それで…─

 

─コンコンコンコン。

 

4回のノックの音が響く。紙でできた襖なのに、なぜドアを叩いた音が響いたのかは謎だ。ほんとに。ナザリック七不思議の一つに入るな。

 

「…どうぞ」

 

部屋の主であり一応、魔王の部下という設定でもある俺が返事をする。すると、緊張でビクビクのシャルティアが、恐る恐る入ってきた。勿論、ちゃんと靴を脱いで、だ。

 

「し、失礼致しんす…」

 

「…座布団に…座って」

 

手を添えて促してやると、頭の中で糸が繋がった感覚がした。隣の骸骨の声が響き渡る。

 

〈伝言〉(メッセージ)!おいぃ!?それじゃ余計緊張するだろうが!》

 

《しょうがないじゃないですか。寡黙な美少女なんですから》

 

隣の骸骨の目配せが凄い。しかし、動揺が体に全く出ていないのは流石である。

いや、だってしょうがないじゃん。寡黙で通していたのが、いきなりフレンドリーになったらビビるじゃろ。

…って、なんで入口付近で跪いているの、この子。

 

「?…どうしたのだ、シャルティア」

 

「─はい…至高の御方々の前で座るなど…不敬かと存じ上げるでありんす…」

 

─あーそうかー。そう来るかー…それは想定外だったわー…。

 

モモンガさんも同じように思ったんだろう。ちょっと固まってる。そこまで忠誠心が高いとは二人とも想定外だった。本当に考えものだな、これ。

 

「…[しゃるてぃあ]」

 

「はひっ!?」

 

ビックゥ!という擬音がまさに当て嵌まる驚きようだ。そんなにビビんなくてもいいじゃない…。

 

「不敬など…ありません…我らは…『家族』です…」

 

《おいいぃぃ!?この問題児(クソビッチ)!!それは話が進んでからって言ったでしょおおおぉぉ!?》

 

《いやぁ…やっちゃいましたな》

 

《─あとで絶対しばく…絶対にしばくからな…》

 

不穏なことをプルプルしながら囁く骸骨はさておき、シャルティアの様子が変だ。この子もプルプル震えてる。まさか…。

 

「や゛、や゛ぞう゛ザギざま゛(夜想サキ様)あ゛あ゛ぁぁぁ…が、がぞぐな゛どお゛ぞれお゛お゛い゛でず(家族など畏れ多いです)ううぅぅ…」

 

─…やっべぇ、号泣。また涙と鼻水でグジュグジュな上に、ルビ振らねぇと何言ってっか全然わかんねぇ…。

 

収拾つくんだろうか、これ…と遠い目をして現実逃避してしまう。だが、そこは隣のイケメン魔王。スッと立ち上がる。

 

「シャルティアよ、良いのだ…さぁ、涙を拭いてそこに座りなさい」

 

「モ゛、モ゛モ゛ン゛ガざま゛(モモンガ様)あ゛あ゛ぁぁぁ…!」

 

さり気なくシャルティアの隣に移動して、取り出したハンカチで涙を拭いてやる魔王。この天然()()()め…ていうか、何でハンカチ(そんなの)持ってんだ。

流石に鼻水は自分で拭いたシャルティアは、まだ若干ビクビクと緊張が出ていたが落ち着いてきたのか、無理矢理落ち着かせたのか、取り敢えず元には戻ったようだ。

 

「…大変、失礼致しんした。それでは、こちらのお席に失礼致しんす」

 

綺麗なお辞儀をして、用意した座布団に正座する。こうして見ると、マジで教養のある淑女にしか見えないんだけどなぁ…。

 

「では、シャルティアよ。この度呼んだ理由…それは、我が友…ギルドメンバー達がここ、ナザリックを離れたことについて、だ」

 

「…っ」

 

─…まぁ、そうだよな。信じてた親がいなくなって、その事について改めて話そうってのはちょっと酷かもな…。

 

俺もモモンガさんも既に親は他界している。理由はそれぞれ違うが、人が生きるには厳しすぎる、あの腐った世界では感傷に浸る暇もなく生きるしかなかった。そういう意味では振り返る余裕があるだけ、この子達は幸せなのかもしれない。

モモンガさんは分からないが、少なくとも死別してからもう二十年近くも経っている俺は今更話しても後悔以外感じないだろうから…。

 

「…まず、あなたが…[しゃるてぃあ]が…どう考えているのか…聞かせてほしい…」

 

「─辛いだろうが、これは必要なことだ。嘘偽りなく、正直に答えてほしい」

 

「…かしこまりんした」

 

了解したシャルティアはぽつりぽつりと、話し出した。自分の想いや忠誠心を今一度、確認するかのように。

 

「…最後に、ペロロンチーノ様が私にお声をお掛けになられたのは…確か、3年と4ヶ月前だったでありんす…『もう会えないかもしれない。でも、いつかきっと会いに戻るから』と震えるお声で仰られていたでありんす…私はそのお言葉を信じて、お待ちして…ですが、何年経ってもお戻りになられない内に…ふ、不敬ですが…お、お亡くなりになられたのかと…うぅ…っ」

 

─…ああ、そうか。この子達は親が生きているのか死んでいるのかさえ分からないのか…。

 

俺も何人かは流石に分からないが、少なくとも守護者達の製作者の生死は確認しているから、まずはそれを教えてあげないとな…。

それと、ユグドラシル(プログラム)時代の記憶があるのか…。あれ、ちょっと待って。それじゃ、俺のロールって意味ないんじゃ…。

 

…いつかの記憶が呼び起こされる。あの時はシャルティアの前でペロロンさんとエロゲーの話で盛り上がっていた。そこに他のメンバーが現れ、やがてバカ騒ぎになり、何故か俺だけモモンガさんにドヤされるという凄惨な過去が…いやいや、それは取り敢えず後回しだ。今はシャルティアの話に集中しなくては。

ここは思考が混乱している俺よりもモモンガさんが適任だ。任せよう。

 

《[ももんが]さん。[ぺろろん]さんは生きています。まずはそれをうまいこと教えてあげて下さい》

 

《丸投げか問題児(クソビッチ)。まぁ、ペロロンチーノさんはこないだメールの返信を貰ってるんで、それは俺も確認済みです。何とかやってみましょう》

 

流石ギルド長。頼りになるお言葉を頂きました。

咳払いを一つして、魔王が静かに告げる。

 

「んん…。─そうだな。まず一つは、ペロロンチーノさんは死んではいない。それは確かだ」

 

その言に涙に溢れていたシャルティアの表情がパッと明るくなったが、続く言葉で困惑した顔を浮かべる。

 

「─だが、恐らくは…戻ってくるのは難しいかもしれん」

 

「…えっ」

 

「その日にペロロンチーノさんは私にこう話したのだ。『シャルティアを、俺の嫁をどうか、お願いします』、と…」

 

「─っ…そ、そんな…」

 

俺の()で反応したシャルティアだが、まるでこの世の終わりと言えるほど、目が大きく見開かれる。…事実として、この状況ではメンバーが戻ってこれるかは非常に難しい話だと思われる。まだ、探してもいないので何とも言えないところだが…。

 

「…さて、混乱しているだろうが、ここで幾つか前提を話さなくてはならない。…大丈夫か?」

 

「はっ…はい…」

 

「─今から話すことは…とても大事なこと…聞けば、理由が分かります…落ち着く時間が…必要なら…待ちましょう」

 

「いえっ、お待たせするなど滅相もございんせん…どうか、お聞かせくんなまし…」

 

現実(リアル)の代わりになるように例えて話すのは難しいが、頭の良いギルド長ならやってくれるはず…ここも丸投げ一択だ。

 

「…まず、ユグドラシルという世界だが…我々からすれば箱庭のような世界なのだ。そこに、化身(アバター)を作って入り込む…ここまでは良いか?」

 

驚愕に染まり、声が出せないようだがなんとか頷くシャルティア。魔王がそれに応え、続ける。

 

「そして、箱庭の外の世界に我々が生活しているのだが、まさに地獄でな…常に死を覚悟しなければならぬような世界なのだ…」

 

「─恥じることは、ありません…理解出来ないのは、仕方のないこと…理解できたところだけ…言ってみなさい」

 

目をパチパチさせてるシャルティアに取り敢えず、フォローを入れてやる。…なんか、嘘は言ってないんだけども凄くスケールが大きくなってる気がする…いや、俺じゃ他に上手く例えられないから、何も言えないんだけどさ。

 

「え、えぇと…至高の御方々の…今のお姿は、仮のお姿で…本当のお姿は別にある…ということで、宜しいのでありんしょうか…」

 

辿々しいながらも、ちゃんと理解出来ていることに安堵する。分からなかったらいつでも聞いてほしい。隣のギルド長がきちんと説明してくれるよ。

 

「合っていますよ…今は、時間がありませんが…面談が終わったら…理解出来ないところは…説明しましょう」

 

「─うむ。聞くことは決して不敬などではない。恥じることもないのだ。何度でも説明しようとも」

 

「は、ハッ…未熟者であることをどうか、お許し下さい…」

 

─あ、この流れはまずい。

 

俺とモモンガさんは、共に平社員で他社の人と交流したこともある。その時の日本人特有の謙遜という名の終わらない応酬を繰り返したことを、二人とも思い出した。

ありがとう、ならいいのだ。そこで一旦、話がまとまる。しかし、謝罪は駄目だ。どうしてもこちらこそ、いやいや…が始まる。どちらかが折れない限り、続くのだ。

 

それを察知したモモンガさんが営業で培った経験を活かして─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─うむ、お前の全てを赦そう。それでは続けようか」

 

間髪入れずに強引に話を逸らした。流石である。

 

「…本当の姿をしている世界で我らは…全てのプレイヤーは生きている。─…ペロロンチーノさんもそこにいる」

 

「─…!」

 

取り敢えず、ペロロンさんがいれば良いっぽいな、この子…ペロロンさんのとこだけ反応してる。

モモンガさんもそれに気付いたのか、ペロロンさんに関係するところだけ説明し始めた。

 

「だが、今現在、ペロロンチーノさんのいる世界と交流が出来ない状態なのだ…ペロロンチーノさんが死んでいないと言ったのは、今の状況になる前に生存が確認できたからだな」

 

「そ、そうでありんしたか…ペロロンチーノ様…」

 

─この子、ペロロンさんの名前が出ると理解力が格段に上がってないか…?

 

頭が足りていない設定のはずだが、製作者が絡むと設定の枷が外れでもするのだろうか。謎は深まるばかりだな…。

 

「ペロロンチーノさんが来れなくなった理由だが…本当の姿の世界は過酷でな。生きるのに必死だったのだ。そちらの世界で死ぬと、もう二度とユグドラシルに来れなくなってしまうからな…生きてはいるが、こちらに来れる余裕が無くなってしまった。─っ…故に、私に…お前を託したのだ、と…思う」

 

「あなたには…酷なことかも、しれません…ですが、最後まで…彼はあなたのことを…想っていましたよ」

 

「あ、ああ…ペロロンチーノ様ぁ…うっ…ぐす…」

 

うんうん。あとは思う存分、泣きなさい…モモンガさんにも酷なことを言わせてしまったな。まだ納得していないのに、改めて自分から言うのはきっと辛かっただろう…よし。

 

《…[ももんが]さん》

 

《っ!─…はい》

 

骸骨の魔王の眼窩に灯る赤い光を真正面から見つめて、鬼の姫は言葉を紡ぐ。ほんの少しだけ口角が上がった微笑みを添えて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《辛かったら…俺の胸で泣いていいんだぜ…?》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔王はそれに応えるように。

表情の出ない白い(かんばせ)が確かに微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《…あとで宝物殿裏集合。なっ?》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─…あるぇー?

 

 

 

─つづく。

 




ペロロンチーノさんが生きていると言っているのにいつの間にか死んだ流れになってる。何故だ。

ふと思ったんですが、階層順に難易度が上がってますね。7階層から跳ね上がってますが…。


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