というわけで今回はデミウルゴスです。
内容は本編12のままなので、飛ばして頂いて大丈夫です。
最後のやり取りだけ、少し本編に絡むかも…。
数多のシモベが玉座の間に集う。種族も多種多様、大きさも大小様々に違う者たちに共通することは三つ。
一、至高の御方に創造して頂いたという矜持。
二、神を超える神に仕えることが出来る至福。
三、その神のお役に立てるなら喜び勇んで死ねる狂信。
そして先ほどここに集えとお呼びが掛かり、かなりの数のシモベがこの神域でひしめき合うが誰一人として言葉を発しない。あまつさえ音を極力出さないよう神経を張り詰めてすらいた。
──神聖なる神の領域を穢すわけにはいかない。
その想いも皆共通していることだ。そんな中で先ほどの
部下達は穢すまいと必死に
さて、今回はそんな上司達の中でもデミウルゴスにスポットを当ててみよう。
多くの同胞に召集が掛かり警戒網のシフトを速攻で組み直し、いち早く駆け付け、荘厳な神域に居させて頂けることに感謝と畏敬の念を持って跪き、至高の御方々がその玉体をお見せになるその時まで先ほどお話しになられた内容を今一度反芻する。
『あなた達は役目を全うしている』
『私達は家族だ』
『我が子よ』
脳髄が至福で満たされ狂喜が延髄を駆け巡り体が震えてしまう。涙が溢れ出そうになるのを必死に堪えた。自身の創造主がお隠れになられて3年と10ヶ月…しかし、その実『りある』という我々では届かない上位世界を相手に闘われておられる、とのことだった。そのような中で父上はこのナザリックを護り、維持され、母上は危機を察して駆け付けて下さった…。
──否!もっと以前からその偉大なる計画をお立てになられていた筈だ!
話しぶりから『りある』での脅威は私の想像を超える…レイドボス、いやワールド?上位の世界そのものならば間違いなくそれ以上の脅威だろう。それ故に我が創造主を始め至高の御方々はそちらに専念せざるを得なくなり、このナザリックを維持するためにひとり父上は残られた。
不覚にも私には分からなかったが、今現在は未曽有の危機とのこと。『りある』との交流も望めず、しかも原因が分からない。しかし、原因は分からずとも兆候は掴んでおられたはず。
母上だ。ここ数年は極稀にお越しになられていたようだが、それはナザリックの様子を見るため。そして、まさに危機に合わせるようにピッタリとお帰りになられた…。これは予め計画を練り、計画通りに進まねば無理なタイミングに思える。
本当に不敬だが母上の玉体は他の至高の御方々と比べるべくもなく、とてもか弱い。なればこそ、父上をサポートするべくお帰りになられた。それは今も闘っておられるであろうウルベルト・アレイン・オードル様を始めとする至高の御方々の帰るべき場所…『
しかし、これは考えようによっては父上お一人では不安が残るなどという事に繋がりかねないが逆に考えてみろ。父上と母上のお二人ならば尚盤石、ということだ。
余り
それはつまり、『りある』と
──!?
背筋が凍った。すぐ隣に件の母上がおられる。他の同胞の時のようにすぐに通り過ぎることなく、立ち止まっておられる。一瞬のことが永遠にも感じられるほど長かった。しかし、母上は父上とともにゆっくりとした足取りで階段を上られる。知らず極々僅かな吐息を漏らした。
…いや、私は何を恐れている?母上は家族と仰って下さった。そして家族は分かち合うもの、と。ならばこそ、私の考えを全て曝け出すべきなのでは?…母上は慈愛に満ち、非常に温和な御方だ。全てを曝け出したところで世界より広いその御心で受け止めて下さるに違いない。だが、考えてみろ。それに甘えるようではシモベ…いや、
──もしや…そこまでお考えになられて、あえて立ち止まられたのか?
「面を上げよ」
全ての考えを一旦放棄して、お言葉に従い顔を上げる。ご尊顔が目に入った瞬間に言葉が
『《あなたの考えは分かっています。甘えてもいいのです。しかし、自身の力も信じて欲しい。職務を全うしているあなたは決して弱くない…あなたならもっと高みに至れるはず》』
やはり、全てを見透かしておられた。衝撃で視線が揺れる、涙で視界が滲む。しかし、しかしだ。…刮目せよ、デミウルゴス!あの全てに恐れられ、慈悲に満ちた至高の
「…この度は不確かな脅威に晒されているなかで、無理に集まってもらい感謝する」
「感謝など畏れ多いですわ。至高の御方に命ずられれば如何な時でも馳せ参ずるのが我らシモベ…どうぞ、御心のままに」
アルベドが私達を代表して答えた。その通りだ。我らの全ては至高の御方々のためにある。親子であろうと、それは変わらない。…変わらないはずだ。
「そうか、胸に留めておくとしよう。早速だが本題へ入ろう…耳に入った者も多いだろうが、この度は実に慶ばしいことに夜想サキさんがナザリックへと舞い戻った!」
やはり、何度聞いても素晴らしい吉報だ。お言葉通り、実に慶ばしい。計画の一端とはいえ、お姿が見えなかったのはやはり寂しいものがあった。そもそも、その計画を知れたのもあのお話しがあったからこそだ。
カツン!
その時、同胞達の歓声が止まる。もしや、父上を怒らせてしまったか?もしそうならば、いくら同胞とはいえ、父上を不快にさせた罪は余りにも重い。特にシモベを
代表する立場のアルベドが激怒するだろうが、それは私とて同じだ。この手で八つ裂きにせねば。
「──…うむ、気持ちは分かるが静粛に。そのサキさんから大事な話がある」
そのお言葉に姿勢を正す。全てのお言葉がそうであるが、決して聞き逃してはならない。デミウルゴスよ、余計なことは考えるな。全身全霊で以って傾聴するのだ。
「…お久し振りです。皆ご健勝そうで何より…ですが、私は皆に謝らなければなりません…」
母上がお謝りになる…一体、何をだ。もしや、姿をお見せになられなかったこと、つまり計画の一端のことを、か。
いやしかし、そこまでなさる必要は…いや、まさか。
そこまで考えたときにまたも
「…他に来れなくなってしまった[ぎるめん]達にも、あまり来れなくなっていた私にも理由はあります。しかし、長を始め皆を不安にさせ哀しませた事実に変わりはありません…故に他にいない者達に代わり、私が謝罪します。──哀しい思いをさせて、ごめんなさい」
そう言い切られ、土下座を敢行なされた。やはり、理由とは計画のことだ。それを鑑みれば、仰ることは理に適っている。しかし、
──…胸が痛い。張り裂けそうだ。母上の土下座…正直、見たくなかった。我らのためにそこまで思い詰めておられていたというのか。なんと…なんと深き慈愛…。
「お止め下さい!」
「至高の御方がシモベに頭を下げるなど!」
「お謝りになる必要は御座いません!」
「どうかご尊顔をお上げ下さい!」
後ろから声が上がる。悲痛な声だ。気持ちは分かる。私も正直に言えば潰れるほど叫びたい。お止め下さい、と。しかし、これも恐らくは計画の一端。狙いがまるで分からないが、必ず何かお考えがあるはずだ。
──…母上の目に涙?
「みっともないわね、
前方から声が聞こえた。聞こえたが何を言ったのか、一瞬だけ内容が理解出来なかった。高速で頭を回転させ、今言った言葉の意味を考える。
──…今、アルベドは何を言った?お母様?…いや、それよりも…。
「本当は不敬になるから皆の前では言いたくなかったんだけれど…余りにも今の姿は見かねるわ。何ですか!いつまでも
──この
いくら守護者統括で、仮に娘だと認められたとしてもシモベはシモベだ。考えるまでもなく、目の前におられるは至高の御方。そのような対等な言葉遣いをしていいはずがない。真に八つ裂きにすべきは目の前のこいつか…!
「アルベド!それは不敬──」
視界に入った白磁の手を見て、言葉を止める。一体、何故…いや、まさか…しかし…。
思考の渦に飲み込まれかけて、
「──…良い。良いのだ…この私が赦す。お前の全てを赦すぞ、アルベド…」
「…我が身では余りある慈悲の御心に感謝致します、モモンガ様」
これは、私達は
「[あるべど]…今、私を…。──俺を『母』と?」
「…折角、言ってあげたのに聞いていなかったようなので、もう呼びません…ええ、誰が呼ぶもんですか」
…流石にそれは
──…だが、あの母上の穏やかなお顔は…。
「…傾聴。まずは混乱を招いたことを謝りましょう…しかし、『この謝罪』は受け取らなくて結構。それと[あるべど]の態度は不敬ではありません」
『!──!?』
『傾聴』のお言葉に一旦考えを放棄し、耳を傾ける。この謝罪は受け取らず、先程の…なるほどなるほど。流石は至高の御方々。私など、やはり掌の上ですね。
「その通りだ。アルベドの言動は不遜に映るかもしれないが、私も許している。そして先程の謝罪、『そちら』はどうか受け取って欲しいのだ。お前達に負担が掛かるのは重々承知している…しかし、今は受け取ってくれるだけで良い。これはサキさんの言葉だが、お前達にとって親とも呼べる私の仲間達に対してお前達は恨む権利も許す権利も持つそうだ。
『ハッ!!』
…もう感動しかない。体が戦慄する。この一連の流れは完全に計算され尽くしたものだ。母上のあの謝罪。あのままでは我らは決して受け取れない。受け取ってしまえば、至高の御方が頭を下げたという事実を認めてしまうことになる。それは我らシモベには重過ぎる事実。しかし、アルベドがクッションとなりそちらに目を向けさせ、さり気なくアルベドの行為を推奨しつつ尚且つご計画に気付くよう仕向ける。これらは我らの忠誠心を巧みに利用しなければ成しえないが、逆に言えば。
我らの忠誠をそれだけ信用して頂いているということ。
──信頼が最上ですが、それは高望みというもの。まずは信用して頂いている事実に感謝を…。
そして、恐らく真の狙いは
『恨む』などそういう愚か者はいないはずだが、私とてお話しを聞くまでは疑問も多かった。この世界も牛耳るとなれば、その前段階程度は我らシモベで
──…是非とも
無論。このような考察はしているが、母上のお話しはしっかりと聞いている。私の中にも御父様の愛が込められているらしい。実感が沸かないのが残念でならないが。大図書館に大変貴重な本──『あるばむ』というらしい──が置かれる。その本を読めば至高の御方々の愛が垣間見れる、と。
──是非とも拝見させて頂きたいものですね。御父様の愛もこの目で見ることが出来るのでしょうか?
一体、何が記されているのか興味が尽きない。他の同胞も同じ気持ちのようで、これは貸出は諦めた方がよさそうだ。その場で時間制限付きの閲覧のみになるだろう。複製が急がれることは必至であり出来れば助力させて頂きたいと思う。
「…サキ。秘密の会話はほどほどにして貰えないかしら?」
…理解はした。したが、やはり何というか。忌避感が出てしまう。シモベの性だろうか。アルベドの
「ああ、ごめんね。でも、あんまり嫉妬しないでよ。私は皆のお母さんだけどこの人の妻じゃないし」
──…いやはや、流石に衝撃的です。てっきりご夫婦かと思っておりましたが…違うのですね。
「お前…もうほんと…あぁもう!ともかくだ。先ほどのサキさんの謝罪の件は皆頼むぞ。これは強制でも命令でもない。疑問の件は命令だがな?」
そのお言葉にしっかりと頷いて返答するが、他の階層守護者を除いた同胞は狼狽えている。情けなさを感じてしまうがお話しを聞いていなければ私も
しかし、階層守護者が
「…皆、落ち着きなさい。至高の御方々の前ですよ」
「ふふ、そうでありんすえ。夜想サキ様…いやさ、『お母様』のお言葉はしっかりとこの私が受け取りいたしんした!」
「…はい?」
──…ハッ。私としたことが。
唐突な台詞に言葉の意味が理解出来なかった。いやはや、シャルティアもなかなか
それはつまり、守護者全員に同じお話しをされていたということ。ふむ、推理とはいえないお遊びのようなものでしたが、予想通りでしたか。
「あっ、シャルティアずるい!私のお…お母さんでもあるんだからね!」
「ええっ!?お、お姉ちゃん!皆の前で
──やれやれ。マーレ、あなたも詰めは甘いですがなかなか
「おや、聞き捨てなりませんねマーレ。不敬ながらも予想はついておりましたが、やはり皆さんもでしたか」
「フム…トイウコトハ、デミウルゴスモカ」
「(…母上の謝罪。しっかりと心に刻みまして御座います…。)」
何かとてつもなく不愉快な発言が耳に届きましたねぇ。
「そうなるねコキュ…ッ!?──…おやおや、なんだか不遜な物言いが聞こえましたが…セバス?」
「はて、何の事ですかな?」
ふ、ふふ…あくまで
「ふふー、『お父ちゃん』も混ざりたいなら行ってこい!──痛ってぇ!?」
「!?──セバス!勝負は一旦預ける!」
この
「貴様に言われても嬉しくないわ!このボケェ!」
「アルベドォ!!お母様に刃を向けるとはいい度胸してんじゃねぇか!アァン!?」
不味い、何故かアルベドが暴走している。シャルティアが完全武装でアルベドに立ちはだかっている今が治療のチャンスか…!
「シャルティア、そのまま足止めを!…ペストーニャ!母上の治療を!」
ペストーニャ・ショートケーキ・ワンコが治療のために駆け付けるも母上が無邪気にもお戯れになられる。正直、ちょっと羨ましい。
「ちょっ、夜想サキ様…嬉しいのですが、困ります。早く治療を…」
「母と呼んで欲しいわん?」
「あ…わん。──わ、わふん!?」
羨ましい。
「おい
その通りで御座います、父上…ん、少しニュアンスが…?
──『くそびっち』とは何でしょうか…。
「おっと?後ろを見てみな、坊や」
「誰が坊やだ、誰が…。──ッ!?」
そう。父上の後ろには虚ろな目で血の涙を流し、歯を食いしばり過ぎて口の端から血を垂れ流し、今にも死にそうな顔で嫉妬に燃えるアルベドがいた。
──…うわぁ。
シャルティアも引いている。ふむ、アンデッドも引きつる恐怖とは一体…さ、流石アルベド。統括の名は伊達ではありませんね…
「…モモンガ様は…ペストーニャが…お好み…なのですか…?」
「…あー…アルベド。綺麗な顔が台無しだ…ぞ…」
「モモンガ様…モモンガ様はペストーニャが…お好みなのですか…?」
統括殿は相変わらず乱心中のようで、父上のお言葉を全く聞いていない。ふむ、父上も混乱なさっておいでだ。
「あ、あー…いや…そんなこと──」
「──[ももんが]さん。[ぺす]が悲しそうだよ」
「夜想サキ様!?」
アルベドの視線に殺気が篭もる。それもよりによって母上に対して。流石にこれは見過ごすわけにはいかない。至高の御方へ殺気を飛ばすなど言語道断。決してあってはならぬことだ。
いつでも殺す準備をする。私の牙では届かないかもしれないが、関係はない。他の同胞達も同じ気持ちだ。
「まぁまぁ[あるべど]。[ももんが]さんはあなたを試しているんですよ…あなたの想いが本当かどうかを」
しかし、まるで柳に風の如しで全く意に介さぬご様子。流石で御座います、母上。
「(嘘くせぇ…)モモンガ様…?」
「う、うむ…そ、そうだな。お前が私を想っていることは承知の上で試させてもらった…だが、少々暴走してしまうようだな?それではいけない、演技は大事だぞ?」
非常に不遜な呟きが聞こえたが…。──そんなことよりも何と素晴らしいお考えだ…確かにその通りだ。私も心情に流され、シモベとしての性のままにアルベドを殺そうとしていた。しかし、これからを考えればそれでは駄目だ。
この栄光あるナザリックを、ひいては雷名が轟くアインズ・ウール・ゴウンの伝説を紡ぐ偉業を成し遂げるには内々の不敬など些事である、とその玉体で以って示して頂いたのだ。
──…正直、肝は冷えましたがね。お戯れは程々にして頂きたいものです…。
「妻に相応しくなるための愛の鞭、ということですわね…なんと厳しくも愛に溢れたお方でしょうか…」
ふむ。アルベドはアルベドで別の解釈をしているようですが…それもまた真実なのでしょう。母上が奥方でないとするならば、確かにアルベドは妻として相応しいのかもしれません。暴走はしますが、それを除けば優秀であることは確かです。
「それじゃあ、[ももんが]さん。ひとまず、解散の流れですかね?」
「…そうしましょうか。それでは、皆の者!今日話したことは胸に留めておくように!…質問はいつでも受け付ける!不敬と思わぬこと!」
『ハッ!!』
嗚呼、素晴らしき御方々。私はこの御方々のシモベであること。息子であることを誇りに思います。今後、その栄誉に相応しく、また恥ずかしくない働きをせねばなりませんね。
まずはアルベドに至高の御方々の『ご計画』について意見を伺いましょう。慎重に行わねば…。
「…アルベド、少々お話があります。至高の御方々の『ご計画』について、です」
「『ご計画』?…何かしら」
「ええ、実は…。──…ということです」
「『(それが真実ならばどれだけ良かったことか…。)』──その話は他の者には?」
「いえ、これからですが…?」
「…事は極めて重大です。慎重に進めねばなりません…まだ胸の内に秘めておいて頂戴」
「勿論です、勇み足になる者もいるかもしれませんし…『時』が来るまで待ちましょう」
「ええ、お願いね『(…モモンガ様に相談すべき案件ね)』」
──つづく?
━オリ設定補足━
ヤシャ
夜叉です。鬼系の最上位種族。物理系統にボーナスがつくスキルや能力を持ちますがおっさんは回避系統に全ツッパです。