骸骨魔王と鬼の姫(おっさん)   作:poc

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今度こそカルネ村!と思ったらカオス回に。
話が全然進まねぇ…どうしてこうなった。

オリキャラ視点です。


本編12─皆に謝罪で『はちゃめちゃ』らしい

「とりあえず、こんなものですか」

 

骸骨の魔王(モモンガさん)の声音は明るい。意外と使えそうな『掘り出し物』が何点か見つかったのもあるが、それ以上に思い出のあるものがいくつも出てきたのだ。あの時はこうだった、その頃はどうだった、など楽しかった頃が思い出されて気分はいくらか高揚していた。そんなモモンガさんを見ているとこちらとしても提案した甲斐もあったというもの。

部屋の掃除というか整理自体はそんなに掛からなかった。元々、物が多いだけで散らかっている訳ではなかったし隣でモモンガさんに釣られて満面の笑顔を見せているアルベドの功績が大きい。

聡明で家事も一流という設定がなされているだけあって、あっという間に種類別にクローゼットにしまったり飾り棚に陳列したりしてしまったのだ。アルベドが整理してくれているなか、俺達は思い出を語り合っているだけだった。よくあるだろ?掃除してる最中に懐かしいものを発見してそれに気を取られてしまう事が。

 

──…それがちょっと熱心になってしまっただけさ、うん。

 

「そうですね…遠隔視の鏡(みらぁ・おぶ・ りもぉと・びゅういんぐ)辺りが一番の掘り出し物かもしれませんねぇ」

 

「試運転したら本当に周りは草原でしたしね…マーレとアウラの作業も大体終わってるみたいですし、あとでじっくり弄ってみましょうか」

 

屋外なら指定したポイントを距離関係なく見れるアイテムだ。便利そうだが、ちょっとした妨害魔法で簡単に遮断出来るためユグドラシルではほとんど使われなかった。しかし、外の様子を見るだけならかなり有用なアイテムであることに変わりなく、使いようによっては幅も広がるだろう。

だが、ゲームが現実になったことでこのアイテムにも変化があった。操作方法がまるで違うのだ。ゲームの時はコンソールから座標を指定して視点の移動が行えたのだが、今はそもそもコンソールが表示されない。どうすべきか四苦八苦しながら適当に弄ったら起動し、ナザリックの周囲が映りユグドラシルからの変化を目の当たりにして驚いた。()()()()と視点を回して試運転して(遊んで)いたらアウラ(子供)達の頑張ってる姿が映り、何とも言えない気持ちになって真面目にやろうと思ったのだった。

 

「その前に…家族(虫以外)全員を玉座の間に集めましょう。ちゃんと謝罪しなくては」

 

「…本当にやるんですか?」

 

モモンガさんの問いにしっかりと頷いて返答をする。これはさっき言った通り、自分なりの『けじめ』だ。ただの独りよがりかもしれないが、それでもこのまま()()()()でいくのは何より自分自身を許せないだろう。自分も子供達を悲しませていた要因の一つなのだ。それを思うと目の前にいる感情の読めない目で見つめるアルベドが堪らなく怖かった。

 

「[あるべど]…独りよがりなのは分かってる…」

 

「…正直に言えば私には分からないわ。でも、少なくとも私は…。──まぁ、好きにやってみたら良いんじゃないかしら?あなたも至高の御方の一人でしょう?」

 

…(いいなぁ)

 

モモンガさん、声が漏れてる。アルベドがすごい不思議そうな顔をしてるから。

それ()は置いといて、アルベドにそう言われるとなんだかむず痒い。何を言いかけたのか気になるが、後押ししてくれているのは分かった。

 

「よし、そうと決まれば善は急げだ。[あるべど]、皆を玉座の間に」

 

「あなたに命令されるのは釈然としないけれど…いいわ。それで?皆というのは全てのシモベでいいのかしら?」

 

()はどうでもいい。[ぎるめん]に創られた子達だけでお願い」

 

その時のアルベドは意外そうな顔をしていた。こちらとしても意外な反応に面食らう。何か変なことでも言っただろうか。

 

「あら、()人間にしてはちょっと面白い発想ね…分かったわ。『虫』以外、ね?」

 

そう言ってアルベドは妖艶な笑みを浮かべた。そんなにおかしなことかと内心で首をひねる。よく分からないが、再三の確認には答えておかねばなるまい。

 

「そ。『虫』以外、ね」

 

「了解よ。その上で重要なことが二つあるわ…第四と第八階層のシモベ達や警戒網に組み込まれているシモベについてよ」

 

ああ、なるほど。謝罪のことだけ先行しててそこまで思い至らなかった。ちゃんと確認を取ってくる辺りは流石アルベドだ。俺に褒められても嬉しくなさそうだが。

とりわけ八階層の子供達はこのナザリック防衛の要だ。今の状況であの子達まで呼び寄せるのは玄関や窓を開けっ放しにするのに等しい。誠に遺憾だが、あの子達に会うのは後日だろう。ガルちゃんはでか過ぎるし。

防衛網に関しては短時間なら虫で代用すれば問題ないんじゃないかと思える。流石に防衛に関することで自分が勝手に決めるわけにはいかないのでギルド長に伺いを立てる必要はあった。

 

「…というわけで[ももんが]さん的にはどう思いますか?」

 

「何が『というわけ』なんですか…まぁ、そうですね。四と八は動かすわけにはいかないし、警戒網に関してはデミウルゴスに一任していますし…防御に専念させて伝達を密にすることを徹底させれば問題ないんじゃないですかね?アルベドはどう思う?」

 

「不安は残りますが…脅威が見えない現時点ならば短時間であれば問題はないかと」

 

まぁいちいち脅威を考えていたら()()がないし、話も進まない。俺も『前』に進めないためにこれはどうしても外せない。なんだか乗り気じゃなさそうなモモンガさんは気になるが、デミウルゴスになるべく多く集められるようにしてほしいと頼んでもらうことにした。

 

「──…オッケーだそうです。一時間後に集まるように言っておきましたから、アルベドもそう伝えておいて」

 

「はい。それでは、モモンガ様。至高の御方に創造して頂いたシモベを玉座の間に一時間後に召集、ということで宜しいでしょうか?」

 

「うん、もうサキさんに任せるよ…」

 

「…かしこまりました。それでは、玉座の間に参集するよう呼び掛けて参りますわ…失礼致します」

 

そう言ってアルベドはモモンガさんに()()一礼して退室していった…まぁ、あの子はあんな感じくらいで丁度いい。それより気になるのはモモンガさんが投げやりになっていることだ。仲間外れみたいで拗ねてるのか?

 

「どうしたんですか?一人だけ上の立場みたいで拗ねてるんですか?」

 

「ちゃうわい!…なんかサキさんを責めてるみたいで嫌なんですよ。皆が来なく…来れなくなったのはサキさんのせいじゃないのに…」

 

ああ、なるほど。律儀な人だ。モモンガさんが気に病むことじゃないのに。しかし、リアル事情があったとしても()()()()()以上、それは言い訳でしかない。子供達やモモンガさんが寂しい思いをしていた事実は変わらない。

 

「そこまで深く考えなくてもいいと思いますけどねぇ…なら、一つ[ふぉろぉ]をお願いしますよ」

 

()()と人差し指を立てて提案する。お、なんかこの動きはデミウルゴス辺りがやりそうで格好良いな。

 

「フォロー…ですか?」

 

「はい。私が頭を下げれば少なからず皆が動揺すると思うんですよね。んで、[ももんが]さんが何かしら[ぱふぉうまんす]してどうか謝罪を受け取って頂戴なって言ってほしいんですよ」

 

魔王が腕を組んで考えている。あんまり乗り気じゃないし──よくよく思えば謝罪に乗り気もくそもねーわ──それなら、と代替案的な頼みごとをしてみたが…やっぱり駄目だろうか。でも、俺一人だと色んな意味で収拾がつかなくなりそうで不安なのよねぇ。

 

「ふむ…普通と魔王、どっちが良いと思いますか」

 

「魔王で」

 

「…根拠は?」

 

「大勢の前で普通に喋れる?」

 

「………」

 

「「無理だな((でしょ?))」」

 

その後、あれこれと相談し合っていたらなんだか謝罪会見を開くような感覚になっていたために、現実(リアル)みたいに()()()風に軽いものではないのだ、と今一度気を引き締める。

 

──…あの悪いことと認めたんだからまぁ許してくれや、みたいな態度は本当にムカついたなぁ…。

 

『上』がひたすら搾取する酷いとしか言えないほど酷い世界を思い出すと沈静化が起きる。()()はなるまい、と密かに決意した。

 

「どうしました?」

 

「…何でもないです。皆が待ってるでしょうし、行きましょう」

 

今後訪れるであろう明るい家族ライフにあんなの(現実)は要らない。正直、忘れ去りたい。しかし、記憶の奥底にこびり付いて離れない。戒めとしても憶えておかなくてはならない。どうしようもないジレンマを抱えて、威厳を出すためにスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを取り出し当人じゃないのに緊張している魔王とともに玉座の間へと向かった。

 

 

 

 

 

玉座の間へと続く、細部に至るまで見事な彫刻が施された荘厳で巨大な二枚の扉。そこで出迎えたのは、今にも動き出しそうなほどリアリティ溢れる造詣の天使と悪魔の像。そして、屈強な執事であるセバスだ。鋭い眼光がこちらの姿を認めると一礼して音もなく傍に寄った。

 

「セバスか。待たせてしまったようだな」

 

「待つなどそのようなことは御座いません、お心遣い感謝致します…皆揃いまして御座います」

 

「そうか…それでは入ろうか。サキさん、行きましょう」

 

それに首肯して、モモンガさんの後ろを追従する。セバスが()()()と扉の前に移動してその大きな扉に手を添えると、二枚とも音もなくゆっくりと開かれた。

 

〈伝言〉(メッセージ)。一応、回線を開いておきます》

 

《はいよー》

 

《…軽いなぁ》

 

玉座の間では壮大な光景が広がっていた。中央に敷かれたレッドカーペットを除いて、種族も大きさも多種多様に揃えられた子供達が()()()()()()に詰めて玉座に向かって跪いている。身じろぎ一つ、微かな呼吸音一つさえ聞こえないほど静寂に包まれた空間においてその様相は、まるで置物のような錯覚を覚えた。ちょっと狭そうなのが申し訳なかったが。

セバスは相変わらず音もなく気配さえ殺して追従し、魔王の杖が床を叩く音と足音、姫の足音だけが鳴り響いた。子供達の隣を通り過ぎれば差し出す首が取れそうなほどにより一層頭を下げてくる。この忠誠心には俺も頭が下がる思いだ。まぁ実際に下げに来たわけだが。うまい。

 

《いやうまくねぇし、何でそんなに余裕あるんですか。こっちは一杯一杯なんですけど》

 

《冗談の一つでも考えてないと気が狂いそうですよ。俺はそんなに立派なもんじゃない》

 

《…俺だって似たようなもんですよ》

 

プレアデス(戦闘メイド)達の横を通り、セバスがそちらにそれた気配がした。階層守護者達の横で一瞬立ち止まる。目の前にある階段を上れば玉座だ。自らを底辺と()()()()一般人でしかない支配者(親達)に大勢の前で喋る経験など皆無であり、二人は一歩ずつ踏みしめるようにゆっくりと壇上へ上がる。重苦しい重圧(プレッシャー)に耐えかねて項垂れている様子はまるで処刑場に向かう罪人のようにも見えた。

もちろん、子供達には威厳ある姿しか映らない。何故なら(こうべ)を垂れて姿は見えず、足音しか聞こえないからだ。

やがて魔王が世界級(ワールド)アイテムである玉座へと座り、姫がその傍に控えるようにして立つ。普段ならば反対側に守護者統括も控えるのであろうが、今の彼女は階段下の子供達の先頭で跪いていた。

魔王が意を決して声を掛ける。

 

「…面を上げよ」

 

ザッ!!

 

首を上げる微かな音が幾重にも重なり大きな津波となって押し寄せてきた。その圧倒的な音の圧力は広くて大きなこの部屋が震えたのを幻視させるほどだった。

そして、見渡す限り部屋いっぱいの様々な顔には紛れもなく神の威光に当てられた信者の()()が見てとれる。()()を見たことがなくてもそうだ、と断じれるほどに高い忠誠心が表情から溢れ出ていた。狂信と言い換えてもいいだろう。親でありたい俺としては複雑だったが。

 

「…この度は不確かな脅威に晒されているなかで、無理に集まってもらい感謝する」

 

「感謝など畏れ多いですわ。至高の御方に命ずられれば如何な時でも馳せ参ずるのが我らシモベ…どうぞ、御心のままに」

 

アルベドが代表して応え、後ろの子供達が一斉に頷く。二度目ということもあって流石に幻視はしなかったが、これだけ数が揃っていると小さな音も凄い音量になって体中に()()()()と届くのが改めて感じられた。

 

《サキさん、もう早く済ませましょうよ。この空気に耐えられないです》

 

《不本意ですけど同感です。さっきから沈静化が酷いです》

 

しかし数多の視線に曝され、子供達の()()()()とした緊張感が醸し出す不慣れな空気に早くも限界を感じた二人は、さっさと本題へ移ることを決心した。

 

「そうか、胸に留めておくとしよう。早速だが本題へ入ろう…耳に入った者も多いだろうが、この度は実に慶ばしいことに夜想サキさんがナザリックへと舞い戻った!──…うむ、気持ちは分かるが静粛に。そのサキさんから大事な話がある」

 

場が沸き立ち、子供達の歓声が飛び交うも()()()と杖を叩いてその場を収めたモモンガさんと目線で合図を交わし、一歩前へと出る。沈静化が激しく起こるほどの緊張は生まれて初めてだが、起伏が激し過ぎてちょっと気持ち悪い。

()()()()()()()()全ての視線が一斉に集まり、極度の緊張に達して起きた強烈な沈静化とともに生唾を飲み込む。感情が一気に冷え込み、唾を飲んだ音が思いの外大きくて子供達に聞こえなかったかと余計な心配が出来る程度には回復した。

因みにアルベドは終始モモンガさんを見つめていた。熱い視線で。

 

──つーか、アルベドったらマジでブレねぇな…そういうとこは尊敬するわ。

 

「…お久し振りです。皆ご健勝そうで何より…ですが、私は皆に謝らなければなりません…」

 

その言葉に子供達がどよめくも魔王がその手に持つ杖で再び()()()と叩いて静かにさせた。なんか怒ってるみたいでおっかないからその方法は止めた方が良いんじゃないかと思う。

 

「…他に来れなくなってしまった[ぎるめん]達にも、あまり来れなくなっていた私にも理由はあります。しかし、長を始め皆を不安にさせ哀しませた事実に変わりはありません…故に他にいない者達に代わり、私が謝罪します。──哀しい思いをさせて、ごめんなさい」

 

そう言い切り、土下座する。玉座の間で悲痛な叫び声が上がる。いつか聞いた声と重なって聞こえた。これが『引き金』となってしまった。

 

「お止め下さい!」

「至高の御方がシモベに頭を下げるなど!」

「お謝りになる必要は御座いません!」

「どうかご尊顔をお上げ下さい!」

 

モモンガさんからの〈伝言〉が遥か遠くで聞こえる。何を言っているのか聞き取れない。

止める声が非難の声に変化し始めた。過去の記憶がどんどんフラッシュバックする。やがて、非難の声がはっきりと()()()()()()()()

 

『《やめろ!どういうつもりだ!》』

『《どうして…こんな事を…?》』

『《お前は一体何がしたかったんだ?》』

『《親殺しが、()()()()と…》』

 

 

 

 

 

『《 貴 様 が 子 な ど 誰 が 認 め る か 》』

 

 

 

 

 

…そんな幻聴が耳の奥で木霊し、身が引き裂かれた。先程のアルベドとのやり取りが自分でも気付かないうちに尾を引いていた。本気で拒絶されたのは本当にショックだった。

 

現実での行い(悪夢という思い出)が蘇る。

 

道具としてしか見られなかったと()()()()()僕。

両親を殺した()()()俺。

家族に見捨てられたと()()()()自分。

俺は両親を捨て、家族に捨てられた。

 

そして身勝手にも淋しくなり家族を欲した。

 

知らず涙が零れた。身体が震えた。淋しさと後悔が込み上げた。こんな俺は地獄に落ちるべきだったんじゃないか?もしかして、本当は誰にも必要とされていなかったんじゃないか?

堂々巡りでいつまでも終わらない気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みっともないわね、()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

終わらない悪夢から現実に引き戻したのは、俺に知らず絶望を与え、今しがた希望を与えてくれた声。アルベドの声だ。

 

「…え?」

 

「本当は不敬になるから皆の前では言いたくなかったんだけれど…余りにも今の姿は見かねるわ。何ですか!いつまでも()()()()と!──『母』ならば堂々と胸を張りなさい!」

 

「アルベド!それは不敬──」

 

声を上げたデミウルゴスが突然に言葉を止めた。他の子供達も殺気立っているが、言動を止めている。不思議に思い、隣を見やれば魔王が手を上げて制していた。

 

「──…良い。良いのだ…この私が赦す。お前の全てを赦すぞ、アルベド…」

 

「…我が身では余りある慈悲の御心に感謝致します、モモンガ様」

 

混乱している俺を他所に話が進む。いや、アルベド。今、お前…。

 

「[あるべど]…今、私を…。──俺を『母』と?」

 

「…折角、言ってあげたのに聞いていなかったようなので、もう呼びません…ええ、誰が呼ぶもんですか」

 

そう言って()()()を向くアルベドが今はたまらなく愛おしかった。出来れば今一度呼んで欲しかったが、無理強いはしない。

この子は『これくらい』で丁度いいのだ。

 

《サキさん、聞こえますか?大丈夫ですか?》

 

《大丈夫です…ご心配をお掛けしました》

 

自分を心配そうに見つめる骸骨の魔王(モモンガさん)に申し訳無さと嬉しさを感じた。少なくとも今は、俺を必要としてくれている人がいる。俺を心配してくれる人がいる。それだけでなんと心強いことか。そんなモモンガさんが好きで尊敬出来て誇りに思えた。

そして、今でこそ殺気立っているが先ほどまでこの子達も同じように心配していたのだろう。種族にもよるが、赤く目を腫らした子達も一杯いた。

 

《取り敢えず…場が混乱しっぱなしなので何とかしろやこの問題児(ビッチ)

 

──このクソハゲ…人の気も知らないで…。

 

だが、考えることとは裏腹に気持ちはとても穏やかだ。空気は読める筈なのに変なとこで空気が読めない童貞がとても微笑ましかった。本人は意趣返しのつもりなのだろうが、このタイミングでそれはないだろう。

 

自分の事は棚上げ。問題児(クソビッチ)と呼ばれて幾数年、全く衰えはしない。

 

「…傾聴。まずは混乱を招いたことを謝りましょう…しかし、『この謝罪』は受け取らなくて結構。それと[あるべど]の態度は不敬ではありません」

 

『!──!?』

 

傾聴と言われて一斉に姿勢を正す子供達。本当に素直で良い子達だ。

自分の意図に素早く気付いたモモンガさんが玉座から立ち上がって、言葉を引き継いだ。こっからは俺が言うより魔王が言ったほうが、()()()。小賢しいけどね。

 

「その通りだ。アルベドの言動は不遜に映るかもしれないが、私も許している。そして先程の謝罪、『そちら』はどうか受け取って欲しいのだ。お前達に負担が掛かるのは重々承知している…しかし、今は受け取ってくれるだけで良い。これはサキさんの言葉だが、お前達にとって親とも呼べる私の仲間達に対してお前達は恨む権利も許す権利も持つそうだ。()()をどうするかはお前達の自由であり不敬ではない。この私が赦す…これはお願いになるが、じっくり考えてみてくれ。それと疑問等あれば、後ほど個人的に聞こう…いや、あるならば聞きに来なさい。こちらは命令だ。不敬と考えることこそ不敬と知れ」

 

『ハッ!!』

 

小さな音も数多に重なれば津波となった。それが気合の入った返事となればいかほどか。

想像を絶する大音量となり、あまりの音圧に柱や壁が今度こそ幻視などではなく本当に()()()()と振動した。ここまでくると逆に心地が良い。

 

《うお、すげぇな…サキさん、他人事(ひとごと)っぽく言ってしまってすみません。でも…──》

 

《──いやいや、分かってますよ。()()はそれで良いんです。今のあなたは『魔王』ですからね…それと最後のは超良いですよ、だんだん分かってきましたね》

 

()()()()と頬骨を掻いて照れているが、こんな時まで相変わらず律儀な人だ。皆に好感が持たれるのも頷ける。そして、最後の良い仕事っぷりよ。命令じゃないと不敬だと思って絶対に聞きに来ないだろうからな。

 

「…まぁ、ぶっちゃけますと私としては許そうが恨もうがどっちでもいいんですけどね。ただ、あなた達には親の愛情が詰まっている。それだけは忘れないで欲しい…その『証明』である()()大図書館([あっしゅうるばにぱる])に置いておきます。自由に閲覧なさい」

 

《ちょ、また勝手に…まぁ、そのくらいならいいか》

 

一冊の巨大な盾のような本を虚空から取り出す。『アルバム』だ。これを大図書館に置いておいてほしいと司書長であるティトゥス・アンナエウス・セクンドゥスを呼び出して手渡す。受け取る彼の手は()()()()と震えており、重いなら後で持っていくと言うとビックゥ!と文字通り跳ねた。見た目は骨なのにかわいい動作をしよる。骨って皆()()なのかね…。

 

「い、いえ!問題ありません…余りにも貴重な一冊とお見受けしました。それ故の緊張で御座います…大変お見苦しいところを──」

 

「──大丈夫大丈夫。破けてもまだ予備はあるし…あ、そうだ。()()は高位の素材だけど、中身は低位のものでも大丈夫だから暇を見つけて中身だけ複製してみてほしいかな」

 

「…お時間さえ頂ければ完璧に複製してみせます。どうか、お任せ下さい」

 

司書長の静かな言葉に不退転の覚悟が秘められている。眼窩に灯る火は隣の魔王よりは幾らか小さいが力強い輝きがあった。

複製なんて門外漢だし専門家が頑張るっていうならお任せしよう、うん。

 

「分かった、任せる。頑張れ!」

 

「この命にかえましても…!」

 

《…考えるの面倒になったろ。あ、複製といえばスクロールの補充とかも出来ればやりたいですね。消耗品の補充方法は早いうちに確立しとかないと…》

 

流石ギルド長。こんな時によくそういうことを思い付くなと感心する。

 

《ああ、確かに。課金[あいてむ]なんかはもう手に入らないでしょうし、どんな素材がいいかとかも調べて貰いましょう。[でみ]ちゃん辺りに》

 

《でみちゃん…って、デミウルゴスのことですか。まぁ頭の良い彼なら適任かもしれませんね。アルベドには内政をお願いしたいし》

 

「…サキ。秘密の会話はほどほどにして貰えないかしら?」

 

おっふ、アルベドに怒られてしまった。でも、俺やモモンガさんに許されてるとはいえ他の子供達の視線が凄いのだが気にならないのだろうか。

 

「ああ、ごめんね。でも、あんまり嫉妬しないでよ。私は皆のお母さんだけどこの人の妻じゃないし」

 

『!?』

 

「お前…もうほんと…あぁもう!ともかくだ。先ほどのサキさんの謝罪の件は皆頼むぞ。これは強制でも命令でもない。疑問の件は命令だがな?」

 

モモンガさんが勢いで場を取り繕うが、余計に場を混乱させてしまったのは気のせい…ではないな。『階層守護者級』を除いて、皆が()()()()していた。見かねたアルベドが先んじて声を掛ける。

 

「…皆、落ち着きなさい。至高の御方々の前ですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふ、そうでありんすえ。夜想サキ様…いやさ、『お母様』のお言葉はしっかりとこの私が受け取りいたしんした!」

 

「…はい?」

 

続くシャルティアがこの騒動の起爆剤になってしまったのは、いったい誰の血を引き継いだせいなのや…出てくんな、鳥。

突然のことで流石のアルベドも呆気に取られ、窘めるタイミングを逃してしまったようだ。

 

「あっ、シャルティアずるい!私のお…お母さんでもあるんだからね!」

 

「ええっ!?お、お姉ちゃん!皆の前で()不敬だよぅ…」

 

「おや、聞き捨てなりませんねマーレ。不敬ながらも予想はついておりましたが、やはり皆さんもでしたか」

 

「フム…トイウコトハ、デミウルゴスモカ」

 

(…母上の謝罪。しっかりと心に刻みまして御座います…。)

 

「そうなるねコキュ…ッ!?──…おやおや、なんだか不遜な物言いが聞こえましたが…セバス?」

 

「はて、何の事ですかな?」

 

「あぁん?嫉妬は見苦しいでありんすえ?チビ助。わらわなんか抱き締められて頭を撫でて頂きんした…嗚呼、素晴らしき光景でしたえ…」

 

「なっ!?わ、私だってねぇ!…──」

 

あっちこっちで起こり始めた口論を見て、なんだか懐かしい思いに駆られた。隣を見れば、他の子供達と同じように呆然と見つめる骨がいた。なんだ、手なんか伸ばして。混ざりたいのか?

 

「ふふー、『お父ちゃん』も混ざりたいなら行ってこい!──痛ってぇ!?」

 

魔王の背骨を思い切り引っぱたいたら、逆にダメージを受けてしまった。手が変な形に折れてる。そういや、この骨【上位物理無効Ⅲ】持ってたんだった…。

 

「…なにやってんだか…フフ」

 

「こんのくそ禿げ…羨ましいなら素直に言えし」

 

「…サキ。モモンガ様をバカにするとはいい度胸ね…?」

 

目敏くアルベドがこちらの様子を見てやがった。目くじら立てんなよ。可愛い顔が台無しだぜ。

 

「貴様に言われても嬉しくないわ!このボケェ!」

 

「アルベドォ!!お母様に刃を向けるとはいい度胸してんじゃねぇか!アァン!?」

 

「シャルティア、そのまま足止めを!…ペストーニャ!母上の治療を!」

 

アルベドがバルディッシュ(ぶっそうなもん)を取り出し、シャルティアが完全武装になって俺の前で立ちはだかる。デミウルゴスが指示を出して、ペスが治療に駆け付けてくれた。他の子供達は殺気立って、アルベドの周りを取り囲んでいる。

しかし、俺はそんなことは気にせずにペスと戯れることにした。

 

──あゝ、癒やされる…()()()()やでぇ。

 

「ちょっ、夜想サキ様…嬉しいのですが、困ります。早く治療を…」

 

「母と呼んで欲しいわん?」

 

「あ…わん。──わ、わふん!?」

 

やべぇ、流石ナザリック最萌大賞。餡ころさん、すげぇわ。骨が羨ましそうにこっち見てるぜ。

 

「おい変態(クソビッチ)。なに羨ましいことしてんだ」

 

「おっと?後ろを見てみな、坊や」

 

「誰が坊やだ、誰が…。──ッ!?」

 

そう。骨の後ろには虚ろな目で血の涙を流し、歯を食いしばり過ぎて口の端から血を垂れ流し、今にも死にそうな顔で嫉妬に燃えるアルベドがいた。どんな顔だよ…おい、ペスを怯えさせんじゃねぇ。ていうか、シャルティアですらちょっと引いてる。やっぱりこの子(アルベド)、ある意味すげぇわ。

周りの子達も守護者統括の変わり様にドン引きしているが、大丈夫なんだろうか…大丈夫なんだろうな。

 

「…モモンガ様は…ペストーニャが…お好み…なのですか…?」

 

「…あー…アルベド。綺麗な顔が台無しだ…ぞ…」

 

「モモンガ様…モモンガ様はペストーニャが…お好みなのですか…?」

 

()()()()が通じない。何を勘違いしているか分かるが、この骨は動転して何が駄目だったのか気付いていない。冷静に見れば、他の女の子に視線が釘付けだったのがバレたバカップルみたいだな。

 

「あ、あー…いや…そんなこと──」

 

「──[ももんが]さん。[ぺす]が悲しそうだよ」

 

「夜想サキ様!?」

 

ここで油を投下します。アルベドの射殺す視線がこっちに向きました。シャルティアが即座に反応、ドン引きだった自分を奮い立たせて俺を護ろうと必死に立ちはだかりました。ほんといい子。骨が〈伝言〉で何か叫んでますが無視しよう。

沈静化が起きて燻るほど凄い楽しいがこれ以上は本当に収拾がつかなくなりそうなので、ここいらで終いかな。

 

「まぁまぁ[あるべど]。[ももんが]さんはあなたを試しているんですよ…あなたの想いが本当かどうかを」

 

(嘘くせぇ…)モモンガ様…?」

 

「う、うむ…そ、そうだな。お前が私を想っていることは承知の上で試させてもらった…だが、少々暴走してしまうようだな?それではいけない、演技は大事だぞ?」

 

おお、やるじゃん。上手くまとめた。俺からしたら凄い情けない彼氏にしか見えないが。

胡散臭そうだったアルベドもモモンガさんの言葉なら全力で信じるらしく「妻に相応しくなるための愛の鞭、ということですわね…なんと厳しくも愛に溢れたお方でしょうか…」と涙を流して感動している。

周りの子達も流石は至高の御方、慈悲深いなどと勝手に忠誠心を上げている始末だ。

落ち着いたところでペスに治療してもらい、武装解除したシャルティアの頭とペスの頭を撫でながらモモンガさんに話し掛ける。シャルティア、感極まって抱き着くのは別に良いんだけど尻を撫でない。ペスは…鼻まで真っ赤にして()()()()震えている。かわいい。

 

「それじゃあ、[ももんが]さん。ひとまず、解散の流れですかね?」

 

「こっの…(あとで説教だな…。)──そうしましょうか。それでは、皆の者!今日話したことは胸に留めておくように!…質問はいつでも受け付ける!不敬と思わぬこと!」

 

『ハッ!!』

 

大人数が一斉に返事をして跪くと地震が起きる。一つ賢くなった鬼の姫(おっさん)だった。

 

──…不穏な呟きは早く忘れるに限るね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…んで、俺の部屋の前に並ぶこの行列はなに?」

 

「…皆、[ぎるめん(生みの親)]について聞きたいんだってさ」

 

「…()()()のほぼ全員、か」

 

「………がんばって!」

 

「お前も手伝うんだよぉ!!?」

 

終わらないのでボツ。

 

 

 

─つづく。

 

 




オリキャラの生い立ちなどは一応設定していますが、本編で出すかは今のところ予定にはないです。プロットすらないくせに予定も何もないですが。わふん。

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