岸波忍法帖   作:ナイジェッル

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第05話 『鬼人 桃地再不斬』

 Cランク任務当日、岸波白野はシロウと共有している自室で気合を入れて、お世辞にも豊満とは言えない胸をさらしで強く巻いていく。そして特殊な布で作られた和服を着て、忍具の詰まったポーチを太ももに巻き、シロウ印の刀を腰に携えれて準備は完了した。

 

 「忍具よし。医療道具よし。電気の消し忘れも無し」

 

 最後に致命的な忘れ物が無いか念入りに確認。

 結果、何も問題はないと強く自負して部屋を出る。

 太陽の光が万遍なく降り注いでいる外では、迷彩柄の外套を羽織っているシロウと黒いロングコートを着用したメルトリリスが白野を待っていた。

 

 「白野。忘れ物してないわよね」

 「電気はちゃんと消してきたか」

 「うん。キッチリ確認したよ」

 

 二人とも、相変わらず歴戦の勇士のような佇まいをしている。素人の自分でさえ、彼らの隙は限りなく少ないと自覚できるほどだ。毎度思うが本当に下忍かコイツ等は。

 そんな何とも言えない思いを心中で吐露し、白野はガチャリと玄関の鍵を閉めた。

 

 「よし、では行くか」

 

 シロウは集合場所である大門に向かって歩を進め始めた。メルトリリスと白野はその小さいながらも、大きく頼もしく見える彼の背中についていく。

 自分を含む、第一班の下忍メンバーは全員里の外での任務は今日で初めてだ。白野は未知なる任務に不安と緊張で胸が一杯である。それなのにシロウもメルトリリスも平常運転。自分とは違い、テンパってもいない自然体だ。まるで自分一人だけが取り残されていっているような感じがして、無性に情けなくなる。

 だが、それでいじける白野ではない。自分も彼らに追いつけるよう、足掻いて努力を重ねればいいと自身を力強く鼓舞する。足手纏い、お荷物になるだけは絶対にお断りだ。

 

 暫くして、大門の前に到着した。そこに第七班と、第七班の護衛対象であろう老人、それに第一班の教師言峰綺礼も同じタイミングで集合した。

 シロウ達は初対面のはたけカカシと橋作りの名人タズナに自己紹介を簡潔に済ませる。

 

 「うっしゃあああああ! んじゃ、しゅっぱぁぁぁぁぁつ!!」

 

 分厚い門の口がゆっくりと開かれ、テンションが軽く高まったナルトは威勢の良い声を上げた。

 

 「ちょっとナルト。何はしゃいでるのよ」

 「だってオレってば一度も里の外でたことねぇーからさぁ!」

 「おいおい先生よォ。本当にこんなガキが護衛で大丈夫なのかぁ!?」

 「はは………上忍の私がついていますから、そう心配はいりませんよ」

 

 第七班は賑やかだなぁ、と白野はのほほんと呑気に思いながら、里を皆と共に出る。

 賑やかなボケとツッコミを繰り返すナルトとサクラ。無言で歩くシロウとサスケ。タズナの愚痴に付き合わされている教師陣営。そしてメルトリリスと他愛のない話をする白野。

 二つの班は不協和音を生じさせることなく、順調に波の国にへと歩を進めていった。

 

 

 ◆

 

 

 「あれがターゲット………チッ、上忍が二人もついていやがるか。少々、厄介だな」

 「どうする兄者?」

 「………雇い主の期待を裏切るわけにはいかん。爺さんの暗殺は予定通り決行する」

 「了解した」

 

 木の枝に身を潜ませる二人の男。彼らは霧隠れの額当てにガスマスクを装備し、黒いコートで身を包んでいる。

 右腕に巨大な籠手を取り付けているのが長男朱鬼。左手に朱鬼同様のタイプの籠手を取り付けているのが次男藍鬼。腕の立つツーマンセル特化型の中忍だ。

 

 「反撃の余地を与えることなく、一息で上忍二名を潰す。でなければこの暗殺は達成されないだろう。分かっているな、弟よ」

 「応よ。奴らさえ殺せば後は青臭い下忍の餓鬼共とターゲットのみ。全ては、初撃で決する」

 

 二人は頷き合い、必殺を誓った。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 上忍二名、下忍六名、ターゲット一名の集団。

 一番危険かつ厄介な上忍は一撃で仕留めなければならない。

 鬼兄弟は彼らと自分達にある実力の差というものを重々理解していた。

 故に、油断なく決死の覚悟で仕留めなければならない。でなければ、ターゲットを殺すどころか逆に返り撃ちに合うだろう。

 鬼兄弟は先回りをし、彼らが通るであろう道の端に人工的に作った水溜りを用意する。

 後は水遁を使い、その水溜りの中に身体を潜ませて奴らが通過するのを待つだけだ。

 

 「今さらながら不安になってきたなぁ。山賊ならともかく、強い忍に襲われたら……」

 「Cランク任務で他里の忍と殺り合うことはない。そう気張らなくても大丈夫だよ、サクラ」

 

 顔をマスクで隠している上忍とサクラという下忍は幸いなことに油断してくれている。

 嗚呼、これほどのチャンスがあるだろうか。

 

 ““───仕留める!!””

 

 覚悟を決めて鬼兄弟は行動に移した。

 水溜りから素早く、かつ気付かれぬよう身を躍らせる。

 背後から朱鬼は銀髪の上忍の後頭部を即座に貫き、藍鬼は黒髪の上忍の心臓を抉り取った。

 

 「まずは」

 「上忍二名───殺」

 「「「な!?」」」

 

 金髪の少年、桜髪と茶髪の少女、ターゲットの老人はいきなりの奇襲に驚愕した顔をする。一般人のタズナはともかく、忍たる者が怖れ動転するとは何事か。

 ────やはりまだ毛も生えていない素人下忍だ。残る三名の下忍の方はそれなりの実力があるようだが、問題はない。一気に畳みかける!

 

 「悪く思うなよ、金髪小僧」

 「う…あ………!?」

 

 朱鬼は乱雑に遺体と化した上忍を放り投げ、一番近くにいた金髪の少年に鋭い鉄爪を向ける。

 自分達の殺気にやられ、怯え震えている彼は恰好の得物でしかない。

 

 「はっ……遅いぜアンタ」

 

 その鉄爪に蹴りを入れて阻んだのは青い忍服を着用している少年だった。

 朱鬼は素直に驚いた。いったいいつの間に、これほどの接近をしていたのか。

 ………恐らく、下忍のなかでもかなりデキる奴だ。末恐ろしい才気を感じられる。

 

 「ふん。餓鬼にしてはやりおるわ!」

 

 舐めていたらやられるのは此方だと即座に理解した朱鬼。

 

 「だが此方も中忍なのでな。負けてはやれん───!」

 

 すぐさま腰に据えられていた斬馬刀を引き抜き、首を切り落としに掛かるが─────

 

 「はいそこまで」

 「ぬぅッ!?」

 

 仕留めたはずの銀髪の上忍によって、両腕を拘束され身動きを封じられた。

 

 「貴様……何故、生きている………!」

 「いやいや、変わり身くらい気付かないと駄目でしょ君」

 「…………ッ」

 

 言い逃れできないほどに無様過ぎる。仕留めたと過信した過去の己を殺したい気分だ。

 朱鬼は必至に抵抗するがまるで歯牙にもかけられない。そして赤子を捻るかのようにあっさりと組み伏せられた。分かってはいたが、中忍と上忍の実力の差が開き過ぎている。しかもこの男、上忍のなかでもかなりの手練れだ。中忍程度の自分では元より勝ち目などなかったか。

 

 「ごあっ!?」

 

 続いて藍鬼も仕留めたと思っていた黒髪の上忍によって虚しく無力化された。

 

 ───もはや暗殺を続行するのは不可能だと、否応無しに決定づけられた瞬間であった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 「…………霧隠れの中忍だな、こいつ等は」

 

 シロウは襲ってきた忍の動き、装備、そして霧の額当てを見てそう判断した。

 装備もなかなか上等なモノだ。特に鋼鉄で出来た鉄爪には毒が塗られている。

 

 「流石は中忍。良い装備を持っている」

 

 さりげなく彼らの装備一式を巻物内に保管するシロウ。

 敵から武具を徴収するとは武具使いの鏡と言える。

 人としてはどうかと思うが忍としては正しい在り方だ。

 

 「ナルト。お前、手の甲に掠り傷を受けたな。あまり動くな、毒が回るぞ」

 

 木に括りつけ無力化した襲撃者の武装を全て剥いだ後に解毒剤を探す。

 毒使いは解毒剤もセットで持っているものだ。探せば出てくるだろう。

 幸い、致死性の高いものでないので何とか間に合う。

 

 「俺は……何も、できなかった…………」

 「凹んでいる暇があるなら自身の身を按じろ」

 「………くそっ」

 

 現実を突き付けられ、顔を伏すナルト。

 ライバル視していたサスケに助けられ、しかも自分との実力の差を思い知らされた彼の心情は容易に察することが出来る。いくら気丈なナルトと言えど、かなり堪えるだろう。

 

 「よォ………ケガはねぇかよビビり君」

 「────────ッ!!」

 「こんな時に挑発なんぞするなサスケ。それにナルトも落ち着け。言ったはずだぞ、容易に動けば毒が回ると」

 

 シロウは静止を促し、先ほど発見した解毒剤の瓶をナルトに渡す。

 

 「………さて、ではタズナさん」

 「な、なんじゃい」

 「これはいったいどういうことなのか、説明しただけませんかね」

 

 カカシは腕を組み、タズナに説明を促した。

 

 「この忍二名は貴方を確実に狙っていた。確か我々が受けた依頼内容はギャングや夜盗などから貴方を護ることだけだったはず。忍が関わってくるなんてのは聞いていない」

 「……………」

 「敵が忍だというのなら、間違いなくBランク以上の任務だ。どのような事情があるか知りませんが、依頼で嘘をつかれては困ります。これだと我々の任務外ってことになりますね」

 

 依頼の嘘にBランク以上の任務。しかも下忍以上の忍の襲来。これは新米の下忍が三人も組まれている第七班が受け持つ任務の範疇を軽く超えてしまっている。引き返すことが妥当と言える。

 

 「ん───………こりゃどう考えても荷が重い。任務は………」

 

 中止、そうカカシが言おうとしたその時───ナルトは己のクナイを左手の甲にぶっ刺した。

 

 「「「ナルト!?」」」

 

 いきなりの自傷行為に皆は目を見開く。

 だが、アレは単なる自傷ではないと彼から発する闘気によってすぐに伝わった。

 

 「俺ってば、もう二度と助けられるようなマネはしねぇ。

  怖気づいたり逃げ腰にもならねェ………」

 

 何処までもまっすぐな瞳で、強い意志の籠った声で、彼は啖呵を切る。

 

 「この左手の痛みに誓うってばよ………オッサンは守る。任務続行だ!!!」

 

 それでこそ、うずまきナルトだ。

 曲げぬ意志。挫けぬ根性。火影という大きな大望を抱く少年。

 その在り方は眩しく、純粋で、とても綺麗であった。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 結局、第七班は任務を続行することになった。また依頼人のタズナも自分を付け狙う人間について素直に話してくれた。

 彼の口から出た人物の名は、海運会社の大富豪にして世界有数の大金持ちと有名なガトーという大物だ。裏では数多くのギャングや忍を使い、麻薬や規制品の密売など悪どい商売を生業としている男である。

 一年ほど前に、波の国の利益に目を付けたガトーは瞬く間に海上交通・運搬を牛耳った。全て馬鹿でかい財力と暴力が為せる力技だ。

 島国の富を事実上独占に成功した彼だが、唯一不安な種が残っていた。それが、かねてから建設されている橋の完成である。

 孤島である島国と大陸を紡ぐ橋が完成されては、交通運搬が全てその橋に流れてしまう。海上交通・運搬に大きな打撃が与えられるのは火を見るより明らかだ。

 故に、ガトーは橋建設の最高責任者であるタズナが邪魔なのだ。

 

 「わし等は今自分達が生きるだけでも超精一杯なんじゃ。高額なBランク任務以上を頼めるだけの金なんてとても…………じゃから、依頼をする際にこの事実を隠すしかなっかった」

 

 確かに気の毒な話だ。聞けば大名でさえも貧乏だというのだから、市民であるタズナ達がどれほど苦しい生活を強いられているかは想像に難しくない。

 しかし、どのような事情であれシビアな思考を持つ忍であれば、この任務は危険極まりないロクでもないものとして割り切り、降りるだろう。だが幸いにも第七班は良くも悪くも情に厚い者達ばかりだ。上忍であるカカシも任務の続行を許可した。

 

 「さて、第一班はどうしますか綺礼先生。流石にこのまま我々と共に行動していてはそちらにも被害が及ぶ恐れがあります」

 「それがね、私の生徒が第一班と同伴することを強く希望しているのだ。いやはや、お人好しが多くて困っている」

 「と、いうことは………」

 「このまま第一班と第七班は共に波の国を目指す。不測の事態があればそちらと連携を組み、対処しよう。………分かっていると思うが」

 「貸し一つですね」

 

 カカシの答えに綺礼は満足げに頷いた。

 上忍のなかでもカカシと綺礼はかなりの猛者だ。

 中忍なぞの並みの忍ではこの二人を相手取ることは不可能に近い。

 

 

 ◆

 

 

 現在第一班と第七班は波の国へと渡るための舟に乗り込み、濃い霧に覆われた海を渡っていた。

 十分ほど時間が経つと、完成前の大橋が姿を現した。あれがタズナ達が命がけで建設している波の国最後の希望。その規模たるや、想像した以上のものだった。

 確かにこれほどの橋が完成されては、海上運搬の事業に大きな影響を及ぼすだろう。

 

 「やっと着いたか。しかし、最初の襲撃以来まったく敵は襲ってこなかったな」

 「ええ。なんだが薄気味悪いわね。こう、嵐の前の静けさっていうのかしら」

 

 シロウとメルトリリスは警戒を最大限にまで強くする。

 ここは敵の本丸といっていい。何処から敵が現れるか分かったものではない。

 

 「………ふむ。私達が採取すべき薬草はこの位置の正反対側か」

 

 綺礼は地図を取り出し、薬草のある場所を確認する。

 

 「随分と距離があるな」

 

 流石に歩き詰めの下忍達に構わずこのまま取りに行くのは酷すぎる。

 いや、シロウとメルトリリスは問題ないのだろうが白野は問題ありだ。休息を挟まなければ倒れてしまうだろう。

 

 「どこで休息を取るべきか………」

 「おいアンタ」

 

 綺礼が近場にある宿屋の情報をガイドブックで調べていたところで、タズナが声を掛けてきた。

 

 「どうしました?」

 「寝床ならわしの家を超使え。任務でもないのにここまで警護してくれた礼じゃ」

 「………分かりました。その好意に甘んじるとしましょう」

 

 宿で泊まると金が掛かる。しかし、この老人の家に泊まれるのなら金は掛からない。

 タダほど高いものはない。まぁ、ガトーに命を狙われている人物の家に泊まるのは、少々気が退けるが。

 

 「…………!!」

 

 突如、背後から迫る風切の音が皆の耳が捉えた。そしてようやく、とてつもない大きなモノが自分達の首を狙って飛来していることに気付くことができた。

 

 「全員、伏せろ!!」

 

 サクラと白野は反応に遅れたタズナを無理矢理伏せらせ、残る忍も身体をしゃがませて飛来してきた物体を躱す。

 

 ―――ズガンッ!!

 

 命を狩るために飛来してきた物体は、近くあった木にめり込み勢いを止めた。

 

 「あれ……は………」

 

 シロウはその物体を瞬時に理解する。

 飛来してきたのは、刀だ。しかしそれは刀と言うには、あまりにも大きすぎた。

 大きく、ぶ厚く、重く、そして…………大雑把すぎた。

 

 ――――それは正に、鉄塊だった――――

 

 惚れ惚れする見事な業物だ。華美な装飾なぞ一つもなく、敵を屠ることのみに特化した形状。担い手を選ぶ、非凡の断刀。チャクラを莫大に秘めたその刀からは、職人の魂がはっきりとエミヤには見えていた。

 

 「ほぅ………その眼、この刀の良さが分かっているようだなぁ 小僧」

 

 木に刺さった断刀の柄の上に乗り、現れたのは一人の忍だった。血の匂いが全身から滲み出ているその男は、間違いなく刺客として現れた霧隠れの中忍とは比に為らない重圧を身に纏っている。

 あれほど濃密な血の匂いは、百人殺した程度では付きはしない。恐らく、千人以上もの人間の生き血をその身に浴びてきたに違いない。人というより悪鬼の類だ。

 

 「こいつの名は首切り包丁という。そして俺はその担い手、桃地再不斬。元忍刀七人衆の一人だ。………さっそくだが、その爺さんを大人しく渡してもらうぜェ」

 

 やはり、そうか。あいつがあの抜け忍『桃地再不斬』。他里にまで名を轟かせた生ける伝説を持つ忍の一人。その実力たるや、並みの上忍では歯が立たないほどのモノと聞く。

 手練れの刺客が送られてくるだろうと予想していたが、まさかこれほどの大物がやってこようとは。流石、ガトーカンパニーの社長だ。エゲツナイモノを手駒にしている。

 

 「シロウ! 囲まれてるよ!! 数は………30人!!」

 

 白野は印を結び、周囲を感知して凶報を知らせてくれた。

 それにしても30人とは随分と多い。

 

 「………綺礼先生。周囲の敵はよろしくお願いします」

 「任された」

 「第七班はタズナさんを守れ。卍の陣だ。お前達はこの戦いに加わるな。

 ───それが、ここでのチームワークだ」

 

 カカシは左目を覆っていた額当てをゆっくりとずらした。再不斬は口元を覆う包帯越しでも分かる笑みを浮かばせ、サスケを筆頭にその場にいた多くの忍がざわめき立った。

 

 彼の左目は普通じゃない。紅い網膜に黒い巴が三つその瞳に浮かんでいる。

 アレはうちは一族の一部の人間に現れる特異体質。

 幻・体・忍を全て兼ね備える三大瞳術の一つにして万能の瞳。

 

 「初っ端から写輪眼を使ってくるとは光栄だね」

 「君相手に余裕になんてなれないからな」

 「ハッ、そうかい。そいつは有り難い。

  それでは行かせてもらうぞ………霧隠れの術────…………!」

 

 かなりのチャクラが練り込まれた霧が発生し、とてつもない殺気がぶつかり合う。いつも好かした態度を取るサスケも目に見えて恐れを為している。

 これが、上忍同士の殺し合い。未だに刃も交えていないというのに、これほどの圧迫感を生むとは恐れ入る。

 白野もシロウとメルトがいなければ容易に殺意の渦に飲まれていた。

 

 「カカシには里に帰った際、麻婆を五杯ほど奢ってもらわなくては割に合わんな」

 

 ギチリと拳を握る綺礼は計30名の忍者に狙いを定めていた。

 

 「岸波兄妹とメルトリリスはスリーマンセルを組み、私と共に敵の迎撃に当たれ」

 「「「了解!」」」

 

 白野は腰に携えていた刀を抜き、メルトリリスは鋼鉄の具足を着用、そしてシロウは陰陽の印が刻まれた双剣を手に取った。

 

 「白野は無理せず俺達のサポートに徹してくれ。お前の感知能力と幻術は頼りになる」

 「分かった………!」

 「メルト。此処には大きな湖がある。巧く使えよ」

 「言われるまでもないわね」

 

 ───今此処で、命を賭した死闘の幕が()けた───

 


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