岸波忍法帖   作:ナイジェッル

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・今回はセタンタメインです。GOでは今でも兄貴を愛用しているので頭も上がりませんね。矢避けの加護便利すぎて変な笑いが出そうです。


第16話 『第三試験予選:Ⅰ』

 セタンタは独自に編み出した感知のルーンから発せられる知らせに口元を緩ませていた。

 本来なら岸波白野のように先天的な才能がなければ扱えない感知能力だが、ルーンという秘伝忍術を全て習得、ないし編み出しているセタンタからすれば感知を行うなど造作もない。この万能性こそ赤枝に伝わるルーンの強み。その他の一族を出し抜く長所の一つ。

 

 「本当に今期の中忍試験はどうなってやがるんだか」

 

 次から次へと強敵、難敵がこの中央の塔へと集まってくる。

 死の森と怖れられ、昨年ではほんの僅かな班しか残らなかったこの試験だが、今年はその二倍もの班が生き残る結果となった。

 監視官も驚かずにはいられない、前代未聞の突破数だ。

 無論、それだけ多くの班が生き残ったとなれば差っ引きも行われる。

 第三試験に向かうチケットを賭けて競う予選。それがどんな内容であれ、これだけの第二試験通過者を半分以上に減らすための措置が行われることはもう約束されている。

 此処に集った者達は皆あの試練を乗り越えてきた忍達だ。誰も彼もが中忍になる素質を持つ。

 そしてその兵共の中から、更に厳選された忍が勝ち残っていく。

 

 「このような時に、何をニヤついているのですか貴方は」

 

 多くの強者と会い見えるこの機会に、セタンタはフード越しからもよく分かるほど大きな笑みを浮かべていた。浮かべずにはいられないほど、これから先行われるであろう予選に期待を寄せていた。

 今まで砂隠れの下忍において、セタンタとタメを張れるのは我愛羅くらいだった。それが、今ではどうだ。岸波シロウを筆頭に数多くの強者共が己を倒す可能性を秘めた牙を研いでいる。こんな状況を愉しまないでいつ愉しむというのか。

 

 「セタンタ殿が浮かれてしまうのも致し方のないこと。これほど練度の高い下忍が集う中忍試験など、過去に例が無いからな。かくいう俺も、予選が楽しみで愉しみでしょうがない」

 「ディルムッド……貴方まで」

 

 ディルムッドは愛槍の手入れをしながらも、その眼光は実に嬉々としている。まるでご馳走にありつけている獣のようだ。いつもの甘いマスクなど見る影もない。

 男二人してこれからの難関をまるで褒美であるかのように受け取っている。なんという戦闘狂気質だろうか。無駄な激戦は控えたいバゼットには分からない心境である。

 

 「私としては、なるべく手の内を晒さずに第三の試験に望みたいのですが………」

 「ま、確かにそれが一番ベストなんだがよ。ただそれを叶わせてくれるほど、敵さんも甘くはねぇと思うぜ?」

 「そんなことは言われるまでもない。もし、全力を出さざるを得ない状況に陥れば、その時は迷いなく手の内を晒します。その場合 勝ち残ったとしても第三試験で対策を取られる危険性はありますが、その時はその時。敵の策ごと粉砕してみせましょう」

 

 先を見据えるくのいちにしては脳筋としか思えない発言だが、これも彼女の持ち味だ。

 慎重でこそあるが、いざとなったら大胆な行動力を持って目の前の壁を打ち砕く。

 その戦闘力はこの班のなかでは最も低いものの、戦闘時における冷静さと相手の度肝を抜く豪胆さは時にセタンタとディルムッドを上回る戦果を叩き出すことがある。

 彼女のその潜在能力は、紛れもない本物だ。セタンタ達の前で公言する以上、彼女は必ず成し遂げてみせるだろう。

 

 「貴方も、あまり浮かれ過ぎないようにしてください。私達の本来の任務(・・・・・)は中忍試験とはまた別にある。こうして純粋に楽しめるのは、今だけかもしれませんよ」

 

 バゼットの言う、セタンタを含む砂の忍に銘じられた本来の任務とは砂隠れのこれからの有り様を決めかねない重要なものだ。ランクで言うならば特A級……Sランクと言っても過言ではない。

 それにディルムッドは視線を少し落とした。あまり、気が乗らない内容であるが故に。

 しかしセタンタは特に気負いを感じないような雰囲気で「へいへい」と軽い返事を返す。

 

 「とても関心できた任務内容じゃないが、上が腹をくくって決断したことなら文句は言わねぇさ。忍と為った以上、国の為に働かないとな」

 「………しかしセタンタ殿。このようなこと、許されるのでしょうか。正規の段取りを取るなら兎も角、これは木ノ葉に対する明らかな約定違反では」

 「そりゃあな……だが、俺達は所詮国の一道具にすぎん。道具の心中がどうであれ、国の方針には従わなきゃならないもんだ。それにまだこの任務が決行されるか決まったわけじゃない」

 「この話を持ちかけてきた音側がしくじるようなことがあれば………我らの任務は任務ではなくなる」

 「そうだ。だがま、今のところ音側は順調にコマを進ませている。決行される可能性の方が高いだろう。まだ覚悟が決まっていないのなら、さっさと決めとけよディルムッド。その上で、この中忍試験を存分に楽しめ。心残りをしないようにな」

 「………はッ」

 

 セタンタは与えられる任務がどのような内容であれ忠実に従う。勿論、心境では納得しかねるものもあるが、それでも任務は絶対だ。不満はあれど放棄することはない。

 風影の意志は砂隠れの総意。誉れなき忍に唯一誇りがあるとするならば、それは国に尽くし、任務を果たすことのみだ。

 

 ―――ジリジリジリ、ジリジリジリッ!!―――

 

 第二の試験終了を知らせる煩いアラームが部屋中に響き渡る。

 

 「………会場に移動するか」

 

 第二の試験が開始され、今日で丁度5日が経過した。

 タイムリミットだ。

 今、このアラームが鳴るまで中央の塔へ辿りつけなかった忍は例え無事だろうが失格となる。

 セタンタの感知だと此処に辿りつけた班は9組。総人数27名。

 

 “多いな、やはり”

 

 みたらしアンコの宣言通り半分以上削られた……が、それでもまだ多い。

 確かにこれならば予選による差っ引きが行われるのも仕方がない。

 セタンタ達は会場の入り口の前に立ち、その一枚隔たれた扉の向こうから感じる程よい圧力を肌身に感じる。

 悪くない緊張感だ。

 セタンタは嬉々としてその扉の取っ手を握りしめ、力強く開き、会場に足を踏み入れた。

 先に集まっていた者達は皆揃えて入室してきたセタンタを注目する。

 多くの難敵に警戒の籠った視線を向けられてなお、彼の表情は自信に満ちている。『どのような忍が相手だろうと負けるつもりはない』とその眼は堂々と語っていた。

 皆は班ごとに一列に並んで待機していたのでセタンタ達も彼らに習い一列に並んだ。

 隣の班は、同郷の砂隠れの忍。砂漠の我愛羅、扇のテマリ、傀儡使いのカンクロウと風影の子達のみで編成されたエリートチーム。下忍でありながらもこの木ノ葉を陥れる為に選ばれた精鋭部隊と言っても差支えない。

 

 「よう。相変わらずの無傷っぷりだな、最凶」

 

 セタンタが話しかけた我愛羅は自他共に認める砂隠れ最凶の忍だ。

 絶対防御と謳われる砂の防衛忍術、人並み外れた莫大なチャクラ、そして冷徹無比な思考能力。どれを取っても文句無し。上忍をも優に上回る実力を持つ猛者だ。無論、殺し自体に何の躊躇いもなければ慈悲もない。

 故に彼は並みのことでは傷つかない。傷ついたことがない。あの死の森を通過したというのに、傷一つ負っていないことがなによりもの証拠。

 そしてこの我愛羅こそ、砂隠れの切り札にして極秘任務の要。セタンタ率いる班は、彼の護衛も含まれている。

 

 「………ふん」

 

 我愛羅は同志のセタンタに何の興味も示さず、無視をした。

 可愛げがないのも相変わらずか。

 常に剣呑な雰囲気を纏う最凶にやれやれとセタンタは苦笑する。

 互いに決闘決着つかずの間柄だというのにこの冷たさよ。いくら話しかけても碌に相手にしてくれない。まだ仲間だとも認識されていないのだろう。

 彼の出生、そして里の待遇は極めて特殊。友人になろうとしても、彼自身がそれを拒む。

 我愛羅にとって、兄弟もチームも等しく同価値。ただの小煩い存在でしかない。

 強大な力を宿す忍にしては、その背中はあまりにも寂し過ぎた。

 

 暫くして27名、9組の班がこの会場に集合した。

 いやここまで多くの忍が一同に揃うとなると、流石に圧巻と言わざるを得ない。

 過去例のない、8組以上の下忍が死の森を通過し、こうして列を形成している。

 

 “多くの班が木ノ葉隠れか。流石は隠れ里一番の大国。優秀な人材を多く輩出する”

 

 日向を筆頭に高名な一族が名を連ねる木ノ葉隠れの忍の質は他の隠れ里と比べても群を抜いている。砂隠れも我愛羅のような忍を生み出すなどして対抗しようとしているが、風の大名の強引な軍縮に伴い年々差をつけられているのが現状だ。

 

 “自国が焦るのも無理ねぇな、こりゃあ”

 

 だからこそ、砂隠れは音隠れと手を結んだ。

 このまま国力に差が広がり続ければ最悪、木ノ葉に対抗しり得る手段を失いかねない。

 それを風影と砂隠れ上層部は危惧し、その最悪の道筋を回避する為に、同盟国である木ノ葉を裏切る下準備に取り掛かっている。

 同盟の条約も口約束のようなものだ。不義理でこそあるが、今の砂隠れに手段を選んでいられるほどの余裕もない。

 

 “砂隠れが焦っているところに、音隠れがあの計画を持ち出してきた。タイミングとしてはまさに絶妙。ちょいとキナ臭いと思わんでもないが……”

 

 喉元に異物が引っかかるような違和感を感じながらもセタンタは静かに予選の説明を待つ。

 末端でしかない自分がいくら勘ぐったところでどうこうなるわけでもない。今は目の前の試練に全力を尽くすことだけを頭に入れておけばいいと自分を無理矢理納得させた。

 

 「えー、それでは今から第三の試験について説明する。全員、静かにするよーに!」

 

 みたらしアンコの力強い声に先ほどまでざわついていた者達が静まり返る。

 既に各々の班の担任上忍全員が到着している。その中には当然、己の師であるスカサハの姿もあった。

 彼女からは無様な闘いはするなよ、と念押しするような威圧感が自分にだけ放たれている。

 セタンタは己がスカサハに特別気に入られていることは分かっていた。大きな期待を持たれていることも理解している。

 ああ、師の名に恥じぬ戦いをして魅せよう。

 降りかかるスカサハのプレッシャーをセタンタは後ずさることなく受け入れる。

 これから何が起ころうと、誰と戦おうと、赤枝の忍に敗走は許されないのだから。

 

 静まり返った下忍達にアンコは満足そうに頷き、ある忍をこの場に呼んだ。

 その忍はどの班の担当上忍でもなく、みたらしアンコと同じく特別上忍に位置する忍だ。

 

 「皆さん、始めまして。此度 審判役を仰せつかった月光ハヤテです。よろしくお願いします」

 

 月光ハヤテと名乗った男の顔は、正直言ってかなり顔色が悪い。というか体調がすこぶる悪そうだ。しかしあんな身でも上忍を張れるのだから、実力は高いのだろう。

 

 「ゴホッゴホ……いきなりですが、皆さんには第三の試験の前にやってもらいたいことがあります………ゴホッ」

 

 いや本当に大丈夫かこの男。

 セタンタのみならず多くの下忍が目の前の特別上忍に不安を持った。

 しかしハヤテは下忍達の不信な目を理解していながらも無視して説明を進める。

 

 「……それは本選の出場権を賭けた第三の試験予選です」

 

 その言葉によって先ほどまで静まり返っていた空気が爆発的にざわつき始めた。

 

 「皆さんの不満も理解できます。実際、予選というのは基本行わないものなのです。ですが数年に一度、行わざるを得ない事態になることがあるんですよ……ゴホッ」

 

 それに多くの下忍が早急に説明を求めた。

 

 「単純な話です。第一、第二の試験を経て生き残った合格者が多すぎ(・・・・)た。そのため中忍試験規定にのっとり予選を行い、第三試験の進出者を減らす必要があるのです」

 

 優秀な人材が多い時だけに起きる稀な処置。

 予選を行われること自体は名誉であり誇れるものであるのだが、命を削って戦っている参加者からすれば面倒事でしかない。唯でさえ死の森で多くの体力を削がれた中で、更に余分な戦いを強いられているということなのだから有難みを感じるなんて在り得ない。

 

 「ゴホッ……次の第三試験では多くのゲストが招かれます。試合を見に来られるのは一般人だけではありません。各国の大名、影を背負う忍頭、貴族豪族など著名な方々も含まれるのです。

 なので人数が多すぎてダラダラ試合をするというのは極力避けたい。その為の苦肉の対処とも言えるでしょう」

 

 中忍試験とは、ただ中忍を選抜する為だけにあるものではない。

 同盟国間の戦争の縮図と例えられるほど重要性を持つ。

 第三の試験で招待される者達は言わば忍に仕事の依頼をされる大切な顧客だ。

 彼らは中忍試験を通してその国の忍の錬度を見極める。ただ遊びで見に来るわけじゃない。

 多忙な身である大名達のことを考えれば、この人数でそのまま第三の試験を行うわけにはいかない。少しでも時間を短縮させる為に、適度な試合時間を確保する為にもある程度篩いをかけられるのも致し方のないことだ。

 

 「えー、というわけで……ゴホン。体調の優れない方、これまでの説明で止めたくなった方は今すぐ申し上げてください。これからすぐに予選が始まりますので」

 

 いくら下忍が困惑しようと関係ない。試験は粛々と進められていく。時間は待ってはくれないというやつだ。

 予め予選の存在を知っていたセタンタは既に心の準備ができている。問題はない。

 他の忍達も腹を括らなければ落ちかねないと理解したのか、顔つきが困惑から決意あるものに変わっていく。流石は此処まで辿りついた精鋭。いい感情の切り替えようだ。分かってはいたが、これは一筋縄ではいかないなとセタンタが感じたその時だった。

 

 「あの―――………僕はやめときます」

 

 一人の少年が気弱そうな声を出して、予選の参戦を辞退した。

 

 「木ノ葉の薬師カブトくんですね。ゴホッ、ゴホ。分かりました。では、下がっていいですよ」

 

 彼は自分達に背を向け退場する。

 ここまで辿りついたというのに随分とあっさり引き下がるものだ。まるで中忍試験自体にはさほど執着がないのではないかと思えるほどに。

 

 「他に退場者はいませんか? ここからは個人戦になりますので自分自身の判断で手をあげてください。第一の試験のように一人が辞退すると班メンバーも諸共失格……なんてことにはなりませんので」

 

 しかし、薬師カブト以外の棄権者はこれ以上現れなかった。

 皆が闘志に燃え、不安も消え失せ、今か今かと予選の内容を待っている。

 その心構えにハヤテも口元を緩ませて頷いた。

 

 「……分かりました。もうこれ以上待っても退場者は出てきませんね。では、これより予選を始めたいと思います。

  これからの予選は一対一の個人戦。つまり実戦形式の対戦とさせてもらいます。カブト君が退場してちょうど26名になったので合計13回戦を行い、その勝者が第三の試験に進出できます」

 

 一対一の決闘。

 セタンタからすれば望むところというものだ。

 

 「ゴホッゴホ………ルールは一切ありません。どちらか一方が倒れるか死ぬか…負けを認めるまで戦ってもらいます。死にたくなければ早めに降参してください。また、審判である私が勝負がはっきりついたと判断したときは止めに入る場合もあります。そしてこれから君達の命運を握るのが―――あの電光掲示板です」

 

 ハヤテは皆に会場の壁に設置されている巨大な電光掲示板に注目するよう指示した。

 

 「あの電光掲示板に、一回戦ごとに対戦者の名前を二名ずつ表示します。

  では、さっそくですが記念すべき第一回戦目の対戦者の名前を映してもらいましょう」

 

 多くの下忍が食い入るように電光掲示板を見る。

 固唾を飲み込む音も聞こえた。

 まずは初戦。この予選の戦いの幕を切るのは―――。

 

 

 【ウチハ・サスケVSアカドウ・ヨロイ】

 

 

 映し出された二名の名は、初戦を飾るには申し分のないものだった。

 両名共に木ノ葉隠れの忍。しかも一方はあのうちは一族の生き残りにして今年の№1ルーキーと噂に高いうちはサスケ。一度は彼の戦闘を生で観察したいと思っていたところだ。

 

 「では、掲示板に名を出された二名は前に」

 

 サスケとヨロイは静かに自分達の班の列から抜け、前に出た。

 ヨロイという男は何処までも自信に溢れている様子だが、注目されているうちはサスケは些か覇気に欠けていた。決してやる気が無いというわけではないが、見るからに疲弊している。

 

 「第一回戦対戦者は赤道ヨロイ、うちはサスケに決定。両名―――異存は、ありませんね?」

 

 ハヤテの問いに二人は頷く。

 

 「えー、では対戦者を除く上の方へと移動してください」

 

 彼らの戦いの邪魔にならないよう、サスケとヨロイ以外の人間は指定された観戦席に移動する。

 椅子も何もない簡易的な観戦席は対戦者の戦いを上から一部始終 観察することができる。

 

 「うちは一族を生で見るのも初めてだが……さて」

 

 写輪眼という特殊かつ優れた目を持ち、驚異的なバトルセンスを有する忍を多く排出してきた伝統ある一族。あの千手一族と唯一対等に渡り合えたとされる、実質的に最優秀と言えるほどの血統を誇っていると言えるだろう。

 しかしとある事件にて、うちは一族はほぼ壊滅状態になった。その希少な生き残りが、うちはサスケ。注目株となり得るには十分過ぎる要素を持っている。

 

 「………あれが噂の№1ルーキー」

 

 バゼットも注意深くサスケを観察していた。

 

 「うちは一族の数少ない生き残り……写輪眼はもう会得しているのでしょうか」

 「仮にも死の森を抜けてきた下忍だからな。持っている可能性は、極めて高いだろうよ」

 「……そうですね。できれば、この試合で披露してくれると今後の参考になるのですが」

 

 セタンタは内心でそれは叶わないだろうと静かに思った。

 

 “うちはサスケのチャクラが不安定すぎる”

 

 ルーン魔術の透視は白眼ほど細かくチャクラを視ることは出来ないが、ある程度のチャクラの流れくらいは掴むことができる。

 

 “首辺りに異常な異物(チャクラ)が打ち込まれているな。それも、神経を犯すなんてレベルのもんじゃねぇ。ありゃ命に関わりかねない呪いとみた”

 

 どういった経緯であんな呪いを貰ったかは知らんが、アレだと動くのも辛いだろうに。

 ろくな封印もされていない呪いを背負いながら、ここまで勝ち抜いた猛者共と相対するのは自殺行為に他ならない。それはサスケ自身も理解しているはずだ。

 それでも辞退をしなかった。それだけあの下忍はこの中忍試験に全霊を賭けているということ。

 ただのエリート思考な忍ではないらしい。無理を通して戦いを挑む奴は、無謀でこそあるが根性はある。そういった類の馬鹿は嫌いじゃない。

 

 「……ごほッ、ごほ………そろそろ良いですね」

 

 皆が観戦席に移動したことを確認したハヤテはゴホンっと咳払いをして、手を挙げる。

 

 「それでは―――始めてください」

 

 その挙げられた手は合図と共に振り下ろされた。

 

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 

 

 初戦の試合は、うちはサスケの勝利で終わった。

 とはいえ圧倒的優勢をもって勝利した……わけではない。誰が見ても辛い勝利だった。

 それもそのはず。彼はチャクラを練ることすらできないほど弱っていた。毒で体の多くを蝕まれていた状態とさえ言える。

 そんな状態で、体術一本のみで勝利を拾ったのだ。

 あれがうちはの血の力なのか。それともうちはサスケという男の根性が結果を結んだのか。

 ―――あるいはその両方か。

 何にせよ、あの初戦は見事なものだった。

 

 そして勝者のサスケは観戦席に上がることなく担当の上忍と共に姿を消した。

 恐らく、あの悪趣味な呪いの緩和に赴いたのだろう。

 次に彼の姿を見る時は、第三の試験の場とみて間違いない。

 

 本命の写輪眼こそ拝見できなかったが、それ以上のものを見れたのでセタンタも概ね満足できた。

 

 それからも予選は次々と開始された。

 蟲を操る者、女の戦いを魅せる者、影を操る者、己の忍道を貫く者。

 初戦だけではない。一試合、一試合の全てが素晴らしいの一言に尽きた。

 圧倒的な力で圧勝する者もいれば、知恵を働かして策に嵌める者もいる。あのナルトという忍は木ノ葉のアカデミーで最も成績が悪かったらしいが、この予選で巧みな戦術を用いて勝利したことにより皆に一目置かれるようになった。

 まさに千差万別。これまでの試合で一度たりとて同じような戦いはなく、つまらない戦いも無い。

 世界は広い。そう思わざるを得なかった。

 それと同時に、己の血も騒ぎ立て始めた。

 

 これだけの名勝負、拙戦を魅せられれば誰だって熱くなるというもの。

 ここで血が疼かなければ男ではない。

 まだか。俺の戦いは、まだなのか。

 セタンタはウズウズしながら次の試合を掲示される電光掲示板を見つめ続け、そして遂に―――その時がやってきた。

 

 【セタンタVSディルムッド】

 

 最も、対戦相手は未知の相手ではなく、幾度も剣戟を合わせた友ではあったが。

 まさか身内との対戦になるとは思わなかったが、まぁこういうこともあるだろうとセタンタは納得した。もう予選からは個人戦なのだから班員同士が当たることも決して不思議なことじゃない。

 そしてチラリとディルムッドの顔を覗いてみると案の定、殺る気に満ち溢れた表情をしていた。もう覚悟、気合は十分ですと此方にまで伝わってくる。

 

 「どうしてこんな組み合わせに……」

 

 同班のバゼットは頭を抱えた。

 極秘任務が控えている以上、どちらかが棄権し、第三の試験に進んだ方が周囲に手の内を晒さずに済む。無駄な潰し合いは望むものではない。

 しかしセタンタも、ディルムッドも、此処で自ら進んで棄権できるほど出来た男達ではない。何よりそんな中途半端なことは、我らが担当上忍スカサハが許さない。

 

 「では、指名された二人は降りてきてください」

 

 二人は何の躊躇いもなく、観戦席から舞台へと移動した。

 バゼットはもうどうにでもなれ、と思考を放棄する。

 あそこまで火の着いた二人が勝ちをわざと譲るなんて有り得ないのだから。

 

 「まさか、セタンタ殿と中忍試験で雌雄を決することができようとは……感無量です」

 

 既にディルムッドは愛用する二丁の魔槍の封を切っている。

 魔槍に蓄積された呪いがじわじわと矢先の空気を侵食する。

 最初から全力で行く姿勢。その闘志は清清しいまでの殺気に変わる。

 

 「愉しませてくれよ、ディル。俺は本気で行くぜ?」

 

 フードを下ろし、素顔を曝け出すと同時に獣の如き獰猛な表情を見せるセタンタ。

 

 「本気どころか、セタンタという男の全力も引き出させてみせます。

  その偽りの武装(・・・・・)戦闘スタイル(・・・・・)を見事 剥がしてご覧に入れましょう」

 「あの洟垂れが立派なこと言うようになったじゃねぇか」

 「伊達に、貴方の背中を追っていたわけではありません」

 

 嬉しいねぇ……とセタンタは日々成長していく男の姿に笑みを浮かべざるを得なかった。

 

 「ゴホッ…ごほ………両名ともに、準備は整いましたね」

 「―――ああ」

 「………はい」

 「それでは、始めて下さい」

 

 ハヤテによって試合のゴングは鳴らされた。

 ディルムッドはその開始の合図がとても心地よいものと感じてならなかった。

 いつかは越える。超えてみせると見つめ、憧れていた男が目の前にいる。

 模擬戦などの生易しい戦闘訓練ではない。正真正銘の真剣勝負。

 どちらかが倒れるまで終わらない、第三の試験を賭けた実戦形式。

 

 「俺は、今まで追っていた貴方の背中を今日此処で……超えてみせる」

 「まだまだ超えさせねぇさ。こっちにも、赤枝の忍としての意地があるからな」

 

 砂隠れの鬼才と天才は互いに笑う。

 笑い、笑って、笑い合って――――全力で駆けた。

 




・次回もセタンタメインで話が進みます。
 スカサハは未だに実装されていないのでまともな描写が書けないです………年内には実装されますように(切実な願い)

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