「皆の者、捕らえろ!」
水影様の号令で、一斉に忍達を捕らえていく。
幻術でチャクラが切れかけていた忍達は、抵抗らしい抵抗も出来ずに捕まった。
男達が寄ってたかって暴行を加えていたのは、恩人の子であり、お姉ちゃんと懐いてきていた六尾の人柱力、トウカちゃんだ。
私が整えていた髪型もボロボロになっていて、桃の花のような瞳は恐怖で揺れ焦点が定まっていない。
全身に酷い傷があり、衣服が乱れ…1部の男達の下半身の衣服も乱れていたため、何をしようとしていたかは明白だった。
それだけは未遂で済んで良かったと言うべきだろうが…ここまで酷い事をされるまで気づけなかった。
そして、付近には壊されて破片になった両親の遺品が落ちていた。
怯えた目でこちらを見ながらも、尾獣チャクラを出したまま警戒している。
いや、警戒しているのは…中にいる六尾だろう。
恐らく、自分の身から溢れ出すチャクラに、トウカちゃんは気付いていない。
こちらに敵意が無いと踏んだのか、トウカちゃんを包んでいたチャクラが収まっていく。
足に負った怪我で立てずに座り込んで、ごめんなさい、私なんていなければ…とうわ言のように呟いているトウカちゃんに近付いてそっと抱きしめる。
「ごめんなさい…私が、もっとしっかりしていれば…貴女を守るって決めたのにっ…守れなかった…!」
気を失った彼女の肌は青白く、人形のように血が通っていないようだった。
だが、激しい暴行による打撲痕とクナイによる刺し傷や切り傷から溢れる血によって人形ではないと感じる事が出来た。
医療忍者が応急処置をしていく中で、ボロボロになったトウカちゃんの姿を見る。
無事な所が無いのではと思える程傷だらけで、足の骨が折れているのが分かる。…恐らく、逃げないようにするためだろう。
酷い怪我を見慣れている医療忍者達も一様に顔を顰め、痛ましい物を見る目であった。
クズ共の行動には反吐が出る。
寄ってたかって子供を暴行し、幻術まで見せて両親の遺品を壊す事によって徹底的にトウカちゃんの心を徹底的に打ち砕いた。
霧隠れは…ここまで腐っていたのか。
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「記憶…喪失…?」
あれから3日、トウカちゃんの意識が戻ったと聞いて病室へ向かおうとする私を水影様が引き止めて執務室へと入れた。
そこで聞かされた内容に、心臓が嫌な音をたてる。
「あぁ。
両親の事も、君の事も、自分の事も…全て忘れてしまっている。
医師によると、思い出す可能性はゼロではないが、無理に思い出させるとパニックに陥る可能性が高いとの事だ。」
「私の、せい…っ!」
足が竦み、唇を噛むことで涙を堪える。
「照美、君のせいではない。
危険因子の上忍を見抜けず、暴挙を許した儂が悪いのだ。
責任は全て水影である儂にある。」
「でもっ…!
トウゲン様とモモカ様の忘れ形見であるあの子を守る事が出来なかった!私が、もっと異変に気が付いていれば…!」
「落ち着けっ!」
水影様の声に、深呼吸をして気をなだめる。
「あの子は、人柱力として幼かろうと戦場へと送られる運命を辿る事になる。
大人が始めた戦争に実力があるからといって幼い子供を送り出す事はしたくないが…今すぐにでも送り、尾獣の力を使えといった声も大きい。
私としては、トウカちゃんのアカデミー卒業時期に合わせ、やぐら君も下忍として同じ班にしておきたい。
トウカちゃんには、実力がある。アカデミーも最短で卒業できるだろう。
…その時に、照美が導いてくれ。」
「…!はいっ!」
水影様の執務室を出た私は、今まで以上に闘志に燃えていた。
担当上忍として、あの子の近くで守る事が出来るように。
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犀犬を肩に乗せ、水晶にするための花を探す為、森の中を晶翠眼を発動したままゆっくりと歩いていた。
「…ん?」
『誰かおるやね…あ、メイさんやよ。』
「知り合いなの?」
『モモカが血継限界を理由にいじめられていたメイさんを助けてよく家に遊びに来てたんよ。…記憶喪失になってからは見てないけど…。』
気のそばで佇むメイさんを見やり、
〝担当上忍になれるよう頑張らなきゃ〟〝今度こそ、守る〟〝私のせい〟
私が記憶喪失になった事件で、異変に気付いていれば守れたかも知れないと責めているようであった。
水影様からは私のアカデミー卒業後に担当上忍に、と言外に伝えられたらしい。
ふとメイさんの周りに目をやると、綺麗な椿が咲いている。
そっと近付いていくと、メイさんと目があった。
『メイさん…話すのは初めてやね。
モモカの中にいた、六尾やよ。』
「尾獣…?」
なんで、と驚きで目を見開くメイさん。
原作より若く、15、6歳に見える。
『今はトウカが人柱力やから、森の中とか人に見られる心配が無い所では外に出てるやよ。』
「そう…トウカちゃん、私は貴女のお母さんにお世話になった照美メイよ。宜しくね。」
「宜しく、メイさん。」
「トウカちゃんは…どうしてここに…?」
「お花、取りに来たの。
水晶に閉じ込めるんだ。」
「…?水晶?」
「見てて」
晶翠眼を発動させ、
ダイヤモンドのようにカットして、最終的にハート型にする。
隣でポカンと固まったメイさんの方を向き、赤椿の方を手渡す。
「メイさん、上手く出来たから上げる。」
「…へ?」
「白の方がいい?」
「い、いえ、赤い椿、好きよ。…綺麗ね。」
角度を変えて見るメイさんの目は、キラキラと輝いていた。
「水晶を操る一族…本当にいたのね…初めて見たわ。」
『トウゲンの一族からの遺伝やよ。
あまりにも目立つから、代々一族の者は隠れて…目撃者をほぼ0に抑えて生きてきたらしい。』
「そう…」
メイさんと別れ、
「一瞬で帰れるって便利…チートよね。」
何から何まで規格外だ。
消費チャクラも少なく、瞳術も多彩で、闇に堕ちれば落ちるほど強くなるなんてめんどくさい事もない。
よく考えたら一族単位で見れば日向が最強な気がする。
安定的に白眼が現れ、情緒不安定でもない。
つまり、早死したくなければ…
「犀犬、目標が決まった。
日向一族全員を相手にして勝てるくらい強くなるわよ!」
『もうなってr…ゲフンゲフン、なんでも無いやよ。
うん、まだまだ改善の余地はあるもんね。』