「それで、何があったの?」
一通り冷蔵庫を整理し終え、テーブルに座ってからやぐらさんが口を開いた。
『三日前、玄関前に霧隠れの上忍が待ち構えてトウカを連れ去って…大人数で暴力を加えたんよ。
それだけじゃない…2ヶ月前に亡くなった母と3歳の時に亡くなった父親からの贈り物を壊し、お前など愛されて居なかったと幻術まで使って徹底的に精神的な苦痛を与えていった。
…俺が幻術を解いてもまた別の忍びが幻術に掛け、また次の人間が続きから幻術に…って感じで全員のチャクラが尽きる直前に水影が助けてくれたけど、恐怖でパニックになって…。』
「そう…」
やぐらさんはそれっきり俯いてしまった。
初めて記憶を失う直前の話を聞き、水影様が沈痛の表情でいた事に説明がついた。
『トウカの亡くなった母が前の人柱力やったんよ…だから、まだ本人が人柱力だと分かってなくても、守ってやれる存在は俺だけだったのに…外に出て忍びに危害を加えると危険因子として始末されるかもって…幻術をスグに解く位しか出来なかった。
我慢出来ずに暴走しかけたし…俺もまだまだやね。』
「それはっ…!お前のせいじゃない…!」
『それでも、トウカが耐えられずに記憶を失ったのは事実やよ。
本人が人柱力とは知らなかったとはいえ…無理矢理にでも精神世界に連れて行って、怯えられる事を承知で伝えれば良かったんよ。
…モモカも、トウゲンも、トウカを愛していた。モモカの中から俺がずっと見てきたんやから間違いないって。
よく考えたら…あの泡の盾も、モモカが見てられずに出てきたんかもしれへんね。
今日初めて出てきたし…俺だけに任せられなかったんやね…。』
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「どちらが…化け物だ…!」
家に帰り、血が出るのも構わず拳を握りしめる。
帰る直前、六尾からはトウカちゃんの事を頼まれた。
『もしも…また同じような事があれば、磯撫経由で伝えるから…その、力になってくれる?』
比較的穏やかな性格の六尾だが、それでも…昔は人間に対して好意的というわけでもなかったらしい。
だが、トウカちゃんの母が人柱力の時から…パートナーとして、保護者として一番近くにいた。
トウカちゃんに自分が認知されて無かろうと…守ろうとしていた。
六尾が中にいて血継限界を持つからといって、トウカちゃんのような小さな子に余りにも酷い仕打ちが出来てしまう里人の心の方が化け物に近いだろう。
『やぐら〜、大丈夫?』
「あぁ、大丈夫だ。」
ゴツゴツとした見た目とは裏腹に、内向的で優しい磯撫は俺を心配そうに見上げる。
ひんやりとしている頭を撫で、精神を落ち着かせる。
トウカちゃんは、全ての記憶を失った。
仲が良かった俺の事も、愛してくれた両親の事も、何より自分の事も…全て、分からなくなった。
俺も…それなりに言われてきたが、兄がいて、親友とも呼べる友達がいて、守られてきた。
だが、トウカちゃんは…六尾のみだ。
血継限界も、六尾の力も…命を守ることは出来るが、心まで守ってくれるとは限らない。
戦時中で、幼い子供であろうと戦場へと送られるだろうトウカちゃんにとって、理解者の存在…無条件で愛してくれる存在が、何よりも支えとなる。
俺が…トウカちゃんを、支えよう。
「ただいま〜」
「あ…兄ちゃん、おかえり。」
「どうした?なんか元気ねぇけど…」
「い、いや…その…。」
紫色の目とアッシュの髪は同じだが、左頬の傷が無いだけの…俺とほぼ同じ顔立ち。
双子では無いのだが、後ろ姿までよく似ていると言われ間違われやすい。
2歳歳上なのに、俺とほぼ同じ体型だ。
トウカちゃんの事をどうやって説明しようか悩んでいると、磯撫が甘えるように兄の足元に擦り寄りながら説明を始めた。
『あのね、犀犬…六尾の人柱力の子が…』
「トウカちゃんに何かあったの?」
『うん…その子が、記憶喪失になっちゃったの。』
兄にトウカちゃんが受けた仕打ちを説明すると、みるみるうちに泣きそうな顔になった。
「
思考回路も似通っている俺たちは、同じ結論に達した。
一度霧隠れを壊して作り替えなければ根元から腐り落ちる、と。