下忍の第一歩
「トウカちゃん、一緒に帰ろ?」
「うん!」
教室のドアの所から顔を出して私に話し掛けて来たのは、やぐらさんだ。
やぐらさんは時折こうして一緒に帰ろうと言ってくれるのだ。
入学から約半年。
未だにぼっち生活を続け、学年首位をキープし続けている私を誘う人間はおらず、やぐらさん達がこうして誘ってくれるのは有難くもあった。
〝可愛い〟〝トウカちゃん、好き〟〝言えない、嫌われたくない〟
瞳力も上がって晶翠眼を発動して居なくともある程度は心を読めるようになった。
遮断する事も可能だが、奇襲に対して先回りする事が出来なくなる為最小限に抑えている。
やぐらさんの好きは、まぁ…〝そういった〟好きなのだろう。
手を繋いで私の家まで送って貰い、名残惜しそうに帰っていくやぐらさんを見送ると、家の中に入る。
私達のアカデミー卒業も近い。
同じ班に配属され、戦場を駆け抜けるハメになるだろう。
人を殺す事に慣れているとは言えない。
だけど、初めて人を殺したあの日から、既に覚悟は決まっている。
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「収穫無し、か…。」
晶遁分身を変化させ、図書館へと情報収集へと向かわせていた。
大まかな歴史が原作とは変わり、各里の状況も変わっている事だろう。
だが、他里の情報はそれほど多くない。
柱間とマダラのようなビックネームが公表している物ならまだしも、他里においそれと情報を垂れ流す里はない。
この世界ではネットなんてない。
スマホで簡単に世界中の情報が集められる前世は、本当に恵まれているのだろう。
情報一つにしても命懸けだ。
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卒業試験が近づき、不安で目に見えて元気を失くすやぐらさんに、ある物を手渡す。
「これは?」
「…お守り。」
私が手渡したのは、紫水晶のネックレスだ。
(やぐらさんにとって)効果抜群のお守り。
証拠に、歓喜の気持ちが入ってきた。
〝嬉しい〟〝トウカちゃんからの贈り物〟〝家宝〟
「ありがとう、トウカちゃん。」
やぐらさんの後ろに花が咲いているのが見えた気がした。
…それほど、可愛い笑顔だった。
やぐらさんの背中を見送り、犀犬がポツリと呟く。
『気持ちがどんどん強くなってる…これは、トウカであっはんうっふんな事を考えるのももうすぐやよ。…ピンクな映像にも慣れとくんよ?』
「…考えないかもしれないし」
『やぐらも一応男で立派な象さんがついてるんよ?』
やめれ、象さん言うなし。
まぁ、男性の生理現象にとやかく言うつもりもないが…最初のうちは気まず過ぎて目を見れないであろうことは、簡単に予想できた。
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「トウカちゃん、俺が…トウカちゃんを守るよ。」
「なら、やぐらさんの事は私が守る。」
私がそう返すと、複雑そうな表情を見せる。
私のような5歳児だろうと、容赦無く下忍として任務に着くことになった。
9歳であるやぐらさんも、本来ならば…守られるべき子供だ。
それでも私を守ると言ってくれた彼を守りたい。
「あなた達の担当上忍、照美メイよ。
知っての通り、今は戦時中で…実力があれば、ドンドン戦場へと送られる。
下忍であろうと、あなた達はハードな任務をこなす事になるわ。
絶対に…私より先に死なないで。あなた達には、長生きする義務があります。」
私達3人はしっかりと頷き、上忍としての任務へと向かったメイさんの背中を見送る。
―やぐら、トウカ、君麻呂。
後に幼き実力者として歴史に名を刻む事となる3人の英雄が、忍としての一歩を踏み出した―。
戦争が始まれば、殆どの人間が卑遁・手の平返しの術を使うようになりますですよ