目が覚めると戦時中でした。
消毒液のツンとした匂い。
目に飛び込んで来た、白で統一された部屋と申し訳なさそうな顔をしたおじさん2人。
体中に走る痛みで目を覚まし、入ってきた情報に混乱を隠せない。
私は…電車に轢かれ、確実に死んだはずなのに。
天国というのは、こんなに現実感に溢れる所だったのか。
「目が覚めたか…トウカちゃん、今回の件…申し訳なかった。
儂が部下の教育をしっかりしておれば…」
「トウカ…って誰ですか?」
聞き慣れない名前に思わず首を傾げる。
私の名前は、そんなに可愛い物では無かったはずだ。
きっと、このおじさんの人違いだ。
そして、言葉を発した事で自分の声が子供のように高くなっている事にも気付いた。
「…?トウカちゃんは…君だろう?」
「私…トウカって言うんですか?」
私の言葉に、おじさん2人は目を見開いて固まった。
「まさか…記憶が…?青、医者を呼べ!」
「はっ!」
青と呼ばれた眼帯を付けた人が目で追えないほど早く病室から出ていく。
そして、青と言えば…NARUTOの登場人物だったハズだ。
「トウカちゃん…すまぬ…記憶を失うほど…辛い思いをさせてしまった。
儂が至らないばかりに…。」
「水影様、医師を連れてまいりました。」
白衣を着た女性が私の体を診察していき、記憶に関する質問もされていく。
驚く事に目を覚ました瞬間の痛みは時間と共に消えており、傷は薄れていた。
「流石…人柱力とも言える治癒力ですね。」
「人柱力?」
人柱力…って、え?
ここって…本当にNARUTOの世界なの?
「その身に尾獣を宿した者の事だ。
尾獣は全部で9体…一尾から九尾までおる。
トウカちゃんは六尾の人柱力。尾獣達は人知を越える強さをもっているため、人柱力も…迫害される事が多い。
トウカちゃんも…儂の部下が暴走し、入院に追い込まれる程の暴力と罵倒を受けてしまった。
…済まない…。」
水影様(仮)の懺悔を聞きながら、原作を思い出す。
六尾…骨格があるナメクジのような尾獣だったハズ。
原作ではウタカタが人柱力…つまり、原作より前の時代?
それとも、原作とは乖離してしまっているのだろうか。
「六尾と友達になれるかな?」
「…え?」
「どうやったら会えるんですか?」
「…尾獣と人柱力は精神世界で相見えると聞くが…。」
水影様(仮)が帰り、1人になった病室。
目を閉じて、精神を落ち着かせる。
周りの空気が変わったのを感じ、目を開けると、目の前にはヌメリがある白い壁…ではなく、六尾の体があった。
…近すぎて顔が見えないため、少し離れて見上げる。確か、上の触覚の様なものが目だったハズだ。
周りを見渡すと、湿気の多い洞窟の様な場所であった。
「初めまして。私…」
『トウカ、やね。
外での会話聞いてたやよ…俺の姿を見ても…友達になりたいと思えるんけ?』
「ん。
貴方が友達になりたくないと思うならそれで構わない。
何をやれば友達なのかは分からないけど…でも、貴方とは死ぬまで一緒にいるんだから信頼関係を築きたいと思ってる。」
『…俺もやよ、犀犬ってんだ。
色々教えたるけんね。』
「よろしくね、犀犬。」
手の大きさが違いすぎる事に驚くが、握手をする。
犀犬の手はフニフニと柔らかく、冷たかったけれど嫌な感じはしなかった。
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「ここが私の家?」
『トウカはここで一人暮らしやったんよ。両親が亡くなってるから…。』
犀犬の言う通り、一軒家の中には人の気配はない。
意識を取り戻して2日。
具体的な術等は家にある巻物に書かれているとの事だ。
ふと冷蔵庫を覗くと、中身が大体が賞味期限切れとなっている。
…おそらく、まともな品物を売ってもらえなかったのだろう。
『買い物に出ても…品物じゃ無くて拳が来る事の方が多かったやね。
霧隠れでは、血継限界は隠避されやすいから…
晶遁は都市伝説や噂としか認識されてないから、使ったらまず目立つやよ。』
「そっか。
でも…生き残る為には血継限界だろうといくらでも使わないとね。」
私は4歳だから…後少しでアカデミー入学だ。
それまでに基礎はしっかりしておきたい。
犀犬曰く、今は第3次忍界大戦の真っ只中らしい。
この世界では、10にも満たない幼子だろうと戦場へと送られる。
人柱力で血継限界を持つ私であれば、アカデミーでの生活なんて、あってないようなものだろう。
寝室に鏡を見つけ、覗くと目の前の少女もこちらを見つめる。
桃色の目と、若草色の髪をした将来有望な容姿の少女だ。
子猫のような丸っこい目でこちらを見つめる鏡の中の私。
自分とのにらめっこを辞め、外に出る準備をする。
流石に賞味期限が1ヶ月弱も過ぎた物を食べる気にはなれなかった。