あと、すまない、
なんかすまない。
本当すまない。
キャラが適当すぎて…
すまない。
どらごにっくあーつ?
その日は、曇天だった。
折角洗濯したものがこれでは乾かない。
以前魔力を使って乾かしたらすぐにばれた。
「…トール、またズルをしたな?」
「へ?な、なんのことですか?」
シロウさんは最近、魔力で何かをする事を極力やめなさいと言う。
特に直接作用するような類を、だ。
透視してポケットの中を見るくらいは良いそうだが。
「日に干したなら匂いがしなさすぎる、完全に無臭でそれでいてアイロンかけしたみたいに乾いてるとかおかしいからな?」
第一、布団なんかはそのお日さまの匂いがいいんじゃないか、とか言っていた。
…因みに、お日さまの匂いとか言うがあれは太陽光で死滅したダニや微生物の死骸の匂いである。
…それを言ったらこっぴどく叱られた。
「人間の常識って、細かいですよねえ…」
ま、とりあえずお日様に当てれば良いわけですからね。
と、考えて大きく息を吸い込む。
ついでに多量の
カッ!
稲光にも似た光の柱が天にかかる雲を難なく散らしていく。
「…ょし!」
…いまにも降りそうだった雲がなくなり、日が差し込んできた。
因みにこの後。
何故かブレスで雲を散らしたのがバレて怒られた、なんででしょう?
「……匂いならいいよね?」
ああ、至福です。
シロウさんの香り…癖になりそう。
…見られたら怒られそうですが、もう我慢できない、思わずシロウさんの衣服をかき抱いて匂いを嗅いでしまった。
「…ああ、いけないとわかってると何故か余計に…スハー、スハー。」
…変態である。
=
帰宅部で、今日は頼まれ事もないので早めに帰路についていると。
──いきなり、雲が光に蹴散らされて晴れた。
トールだな、間違いない…帰ったらお仕置きだ。
…お仕置き、って言っても軽くチョップしてお説教するだけなんだけどな。
卑猥な意味じゃないぞ、決して。
「…見つけた…。」
何か、道端に佇む少女がそんな事を呟いていた。
薄紫の長いふわふわの髪に、ヒラヒラとした飾りの多い、ワンピース姿の可愛らしい童女。
何故か頭にカチューシャと一緒にツノみたいな飾りが見える。
…コスプレ?
まさか、トールの…?
「まさかな、そうそうドラゴンに会えるわけがないか。」
そう呟いた俺は、見事にその言葉を裏切られることになるのだが、その日はそれで暮れていった。
翌日。
日曜なので買い物に出ようとすればトールが当然とばかりについて行くと主張した。
「…ああ、わかったわかった。」
早々に観念してついてくるのを許可する。
暫く一緒に歩き、駅に向かう途中でトールに袖を引かれた。
「ん?トール、駅はこっち──」
今日はトールも喜ぶかと、新都のデパートに行こうかと思ったのだが。
「…ああ、あの白い建物ですか…あそこは嫌です、聖騎士共の本拠地を思い出すんですよ…。」
「…トールの基準って…大体過去の経験からだよな。」
苦笑いしつつも、商店街なら馴染みもあるしそれならそれでかまわないか。
「ならとりあえず魚から買いに行こうか。」
「はい!」
嬉しそうだな、トール。
「お!トールちゃん、今日はお連れさんがいるとか珍しいな…って、あれ?シロちゃんじゃないか。」
「…ああ、こんにちは、トダさん。」
魚屋のトダさん、中学の頃から買い物に来ているからこの商店街の人なら大体顔見知りだ。
…そういや、トールと一緒に来たのは初めてだしな。
「…どういう関係?」
まあ、聞かれるよなあ。
「…こば…シロウさんはご主人様です!」
「いっ、ちょ、誤解を招く事を言わない!」
ほら、トダさんちょっと引いてるじゃないか!?
「いや、ハウスキーパーですからね!?」
「あ、ああ、そっか、シロちゃんもお年頃だしなあ…桜ちゃんはどうしたんだ、まさか二股!?いかん、いかんよ!?」
「話聞いてくださいよ!?」
すったもんだありまして。
「わー、コスプレのお姉ちゃんこんにちは!…お兄ちゃん、彼氏?」
「あらトールちゃん、とシロウちゃん、あらあらあらあら、そうなの?そういうことなの?」
「…どういうことですか…」
通りすがりの子供や、ご近所のおばちゃんにも変な事を言われた。
つ、疲れる…行く先々でなんか誤解を受けている!
「シロウちゃん結婚するのかい!?桜ちゃんかわいそうに…この女泣かせ!」
八百屋でもそんな事を言われ。
「どうしてこうなった…」
と、俺がうちひしがれていた時だった。
「泥棒ーー!!」
甲高い悲鳴とともに小太りの男が女物のバックを抱えて走ってきた。
あいつが泥棒だろう。
「…シロウさん、捕まえてもいいですか?」
「あ、ああ…ドラゴンだとバレないようにな、ブレスや魔法も無しだぞ?」
「はい、おまかせください!」
言葉とともに。
トールの上体が僅かに沈みこむ。
膝を曲げ、走り出す予備動作だろうか。
次の瞬間、そこに残っていたのは罅割れたレンガのタイルと、土埃。
かなり離れていた男の背後に、まるで瞬間移動の様にして現れ、いや。
跳び、追いついたトールが勢いよく空中で身体を捻り、右拳を振り下ろした。
ゴパア!!
派手な音をたて、地面にめり込む泥棒。
「………」
「え。」
「は?」
皆、一様に驚きを隠せない顔だ。
あたりまえだ、わかっていた俺ですら一瞬絶句してしまったのだから。
やりすぎだ!
(こりゃ、空気──ヤバイ?)
「トー…r」
ワッ!、と。
最悪の想像をした俺の考えは杞憂だったようだ。
皆が口々にトールを褒め称える。
「すごいじゃないか!トールちゃんこんなに強かったんだなあ!」
「わあああ、お姉ちゃん、ドラゴンポールみたい!」
アニメに例えてキラキラした瞳を向ける子。
バンバンとトールの肩を叩く八百屋の大将。
他のみんなも笑顔だ。
…よかっ、た…、本当に。
「…トール、帰ろうか。」
「は、はい!」
びっくりしていたトールを連れて商店街から出る、思わず手を握って連れて来たが…トールは震えていた。
「…怖かった、です…やりすぎてしまった、かと…あの沈黙の後、私向こうの世界みたいに怖がられて、また──」
「…それ以上言わなくていいよ、トール…今度からはもう少し自重しような、人間レベルに身体能力も控えるように。」
「はい…あれ、でも…この間みたテレビではあのくらい…」
「…それは作り話だからな、本当、気をつけてくれよ?トールに居なくなられたら…なぁ?」
夢、壊しちゃったかな…?
「はい…ありがとう、ございます。」
きゅ、っと手を握り返された。
…ドラゴンとか言ってもやっぱり、女の子、なんだなあ。
「…この手、暫く洗いません…」
「ん?何か言ったか?」
「いえ、なんでも!」
トールの顔が明るくなる。
弾けるような、いつもの笑顔。
「…トールはやっぱり、笑ってるほうが可愛いよな、うん。」
「ふぁっ!?/////」
なんか、もじもじしながら真っ赤になって黙るトール。
(…なんか変な事を言ったか、俺??)
「…こばやし、じゃなかった…シロウさん…私、貴方を…」
「ん?」
「…なんでもないです、帰りましょう?」
「ああ、そうだな…桜も待ってるだろうし。」
「…そうでしたね…あの小姑もくるんでしたね…はぁ。」
「小姑って…桜が聞いたら怒るぞ?」
「……こば、シロウさんのばぁか。」
「え??」
何故か、ぷくーっ、と頰を膨らませて怒り出したトール。
手はきつく握りしめて離さないくせに。
暫く目を合わせてくれなかった。
謝り倒して許してくれたが、なんで怒ったんだ…
本当に、なんでさ???
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
どらごんょぅι゙ょ、ょゎぃ?
先日、まさかと考えたわけだが。
その時の童女が、玄関前に佇んでいる。
「…え、えっと…うちに、何か用か?」
一緒思考がフリーズしたが。
十中八九トールの知り合いだろう、むしろそうでなければおかしいからな。
「…人間。」
「あ、やっぱりトールの知り合い…?」
俺を人間呼びとかまあ、自分が人間ではないと白状した様なものだ。
角とか有るし、よくみたら…紐のさきにマリモがついた様な可愛らしい尻尾まである。
「…そう、トール様と、別れて!」
「…は?」
別れて?何を言ってるんだこの子。
…トールがくる前に話をしないとややこしくなりそう──
とか考えた側から、背後に気配。
「私とっ、別れて?…こ、シロウさん…まさか、まさか!うーわーきーですかぁっ!?」
トールの顔がどんどん険しく…いや、もう半竜化してる!?
火をチロチロするな!
「お、落ち着けトール!?」
ひょい、と俺の身体からトールの知り合いだという少女が顔を出した。
「あれっ!?」
それをみたトールの怒気がしぼんでいく。
…ホッとした。
=
「…紹介します、この子はカンナカムイ、私の知人です。」
「…まあ、予想はしていたが…やっぱりか。」
「…で、カンナちゃんはなんでウチに?」
「トール様が行方不明になって、探してた。」
と、カンナの顔が歪む。
「そういう事は親しい人には言っとこうぜ…」
「あはは、いろいろあったので。」
適当だな、おい!?
「…トール様、なんでそんな姿に…私と、帰ろう?」
「…それは、できません。」
きっぱりと断わるトール。
「なんで!?」
カンナ、涙目である。
「…なんでっ、て…私はシロウさんを…愛してますからっ!!」
大袈裟なポーズでちゃぶ台に足を乗せて胸を強調しながら答えるトール。
「…おい、真面目に…」
「大真面目ですっ!」
…むう。
「やっぱり!バザールでデートしてるの見た!人前で手を繋いで…うらや…変態!」
今羨ましいとか言いかけたか?
「えふぇへへへへ…」
「照れる真似とかすなっ!?」
思わず突っ込みを入れてしまった。
…たく、どこまで本気なんだか。
「──こうなったら、おまえを殺して…!」
やば、トール並みの腕力で殴られたら…!?
ぽくん。
ポクポクポク。
…あれ?
完全に見た目通りの力だった。
子供のそれだ。
「…カンナ、貴女──すごく非力になってませんか??」
「と、トール様がおかしい…ここはマナの純度が、低すぎる…。」
がっくりと崩れ落ちるカンナ。
そうか、魔力で腕力を補っていたのか…
だから人型でもトールはあんな凄まじいのか。
「…カンナちゃん、もしかして、さ。」
「……」
「帰れなく、なった?」
「ウっっ!?」
ガァン!と、ショックを受けるカンナ。
「…そ、そんな事、ない…。」
「でも、行くとこないよね?」
追い討ちの様でかわいそうだが…子供に正直に話させるには仕方ない。
「はぅっ!」
「…さあ、俺の目を見て話してごらん?」
「…う。」
何故か顔が赤くなるカンナ。
「…シロウさん、顔、近いです。」
また、トールが頬を膨らましていた、なんでさ。
「…カンナ、何を企んでいるんですか…シロウさん狙いなら諦め──」
「トールは少し黙ってろ、頼むから。」
手で目を覆い目眩がしそうな思考を振り払い、続ける。
「…実、は…。」
****
「いたずらして追放された??」
「カンナはいたずらっ子でしたからねぇ。」
「……う。」
涙目で俯くカンナ。
玄関の外で泣きながら扉を叩いている近所の子供の姿を見たのを思い出した。
「はい、大体そんな感じです。」
「…心を読むなよ…」
目をそらすトール、魔力を使ったな…?
どこまで思考を読めるかわからないがプライバシーとか無いのかよ。
「…カンナちゃん、行くとこないなら、ウチに来るか?」
「…あっれえ、私の時はダメって言ったのに、あっれえ〜?」
むううう、と迫ってきるトール。
「一人許したら二人も三人も一緒だよ。」
「に、人間なんか信じない!何か企んでる、利用しようとしてる!」
「…知らない世界で誰も信じられない…そんなのは当たり前だ、俺だっていきなり信じたりはできないさ。」
(シロウさんならあっさり信用してそうですけどね…)
「…トール、今何か失礼な事考えたろ?」
「…シロウさん、テレパシストですか!?」
「…表情でわかるだけだ、全く。」
気を取り直し、カンナの頭に手を置き、撫でる。
「…誰かを信じるなんてさ、友達になったり、恋人になった後にするものなんだよ、──だから、カンナ、一緒に居よう?それだけでいいから。」
…目を見開いて耳まで真っ赤になったカンナが、涙をポロポロ零しはじめる。
「う、ひっ、うう〜〜、うん、う〜/////」
(──私、シロウさんを…好きになって、良かった。)
「…なんだよ、トール?」
「ふふ、シロウさんに、惚れ直してました。」
「…からかうなよ。」
トールはそれから終始ご機嫌で。
カンナはなかなか泣き止まず食事を終える頃には22時を回っていた。
「さて、風呂入って寝るかなあ…あ、先でいいからお風呂は勝手に使ってくれ、トール、カンナを入れてやってくれよな?」
「…シロウさんも、一緒に入ります?」
「なっ、は、入らないよっ!後でいいから、俺は!」
一瞬、トールの裸体を想像してしまったのは健全な男子なら、仕方ないだろ。
「……こばやし、わたしのはだか、みたい?」
「や、だから俺は衛宮で、こばやし、は旧姓…って俺が変態みたいに聞こえるからやめなさいっ!?」
「「うふ、あははははっ。」」
二人して太陽みたいに笑う。
…ま、女の子は笑ってるほうが…いいよな?
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
どらごんすれぃやぁ
円蔵山、柳洞寺。
ここ冬木市、深山町に広がる御山の中腹に位置する寺である。
ここは多数の檀家を持つこの地域の仏教の本拠地みたいな場所で、藤姉…、藤村先生の同級生であり穂群原学園OBである柳洞零観さんやその弟、現生徒会長の柳洞一成の家でもある。
今日はその一成の頼みで境内や寺院内の大掃除を手伝いに来たわけだが。
「すまんな、衛宮…学園外でまで手伝わせてしまって。」
「いや、かまわないさ普段から一成には世話になってるしな。偶にはこんな広い場所を掃除するのも悪くない。」
「いやいや、恩に着るぞ、衛宮。……ところでそちらの御仁は…随分と奇抜なファッションをされているようだが…」
と、奇抜な、のあたり失礼だと思ったか一成が声を潜めて聞いて来た。
「ああ、最近ウチで働いてくれてるハウスキーパーのトールだ。」
「はうすきーぱー…ああ、家政婦さんですか、なるほどそれでその格好…や、これは失礼しました自分は柳洞一成、衛宮とは同級生でして、今日はうちの小坊主連中がやる筈だった作業なんですが急な用事で数人本山に
「なるほどなるほど…私の方こそよろしくお願いします、シロウさんのお友達なら私にとっても仲良くしたい方ですからね、まだこの国には慣れなくて…お寺というのは教会とは違うのですか?」
「外国の方には馴染みは薄いかもしれませんね、事に貴女の様な白人系の方には教会の方がわかりやすいのでしょうが…大雑把に言ってしまえば信仰する神の違い、でしょうか…信仰し、教義を守り、広めるのは変わりありませんが…仏教は複数の神を奉る教えであるのが最大の違いですね。」
「はあ、つまりは悪魔死すべし!蛇(教義的解釈としてのドラゴンの意)、滅ぶべし!主の名の下にい!とか言いながら甲冑姿のやつらが竜を追い回したりしないわけですか。」
「…どんな映画に影響されたかは存じませんが…それは教会の方でもないのでは…いや、まあ昔話的な話であれば我々坊主も鬼や邪を祓う様な行いもして来ていますが…あくまで病や不幸を祓う…坊主である我々が言うのも変ですが、所謂 "人々の安心" を作るが為の行為であると私は思っていますがね、本物の竜や鬼、悪魔など見た事はありませんから。」
「…お前が言うと本当に身も蓋もないぞ、一成。」
「はは、まあそういうな、神仏が居ないとは言っていない、少なくとも現代においては悪魔祓いだの、退魔業などはありえない話だからな。それに竜は神仏に数えても差し支えない、雨や水の恵みは竜に例えられるだろう?」
と、一成がまた理屈を並べるとトールがひし、と一成の手を取りキラキラした目で見つめついた。
「あなた…よい人間ですね!」
「ははは、トールさんは竜がお好きかな?」
女性に手を握られて少々驚きながら人の良い笑みを浮かべて答える一成。
「はい、それはもう、身内ですから。」
「ほう、竜を祀る様な生まれで?」
キラリとメガネを光らせて聞く。
「まあ、似たようなものですかね。」
…トールの場合むしろ崇め畏れられる方だよね。
「村々の人々は崇め畏れていましたが…」
と、そんな会話をしていると寺院内から厳しい声がした。
「一成、そいつから離れろ。」
「──む、ジーク?」
雑巾片手に現れたのはおよそ坊主とは思えない、作務衣姿にざんばらな長髪をした細身の巨漢だった。
身体つきこそ締まっているがその背丈はかなり高い、190に届くのではないだろうか。
「…彼らはお客人だ、その物言いは失礼だろう、ジーク。」
「む…、そうなのか…その女性からどうも見知った気配を感じたので、つい…一成がそういうのなら私の勘違いか…すまない。」
巨躯を折り曲げて丁寧に謝罪する男に、トールもとくに噛み付くでもなくはあ、と気のない返事を返している。
「…紹介しよう、我が家にホームステイしている親父殿の知り合いでな、ジークという。」
「ジーク、だ…よろしく。」
「ああ、衛宮士郎ですよろしく。」
手を差しだせば、握り返しながら「シロウ…シロウ…?」と巨漢は首を傾げている。
「…トールです、ところで貴方…雑巾絞った手で握手とかどうなんですか、手を洗いましょうよ。」
と、自分にも向けられた手を見て、やんわり握手を断わるトール。
「…あ、すまない、シロウ。」
「あはは、かまいませんよ。」
うん、悪い人には見えない、というか和尚の知り合いならそれこそ杞憂だろう。
さて、それでははじめようか。との一成の言葉に掃除が始まった。
=
雑巾がけ、掃き掃除、道具類の修繕、破棄。
主に俺が修繕を、トールが掃き掃除、ジークは一人であの広い廊下をすぐに拭き終えてしまった。
「…負けませんよ?」
トールが何故か対抗心むき出しで箒を振り回し始め、土煙が盛大に舞う。
「ゲホ、ゲッホ、うわ、トール!やりすぎだっ喉にくる、ゲホゲホゴホ!」
「あわわわ、す、すみません!?」
苦笑いしながらそうして、境内に出された古いストーブを修繕しているとジークがその様子を覗きに来た。
「…器用なものだな、シロウ。」
「そうでもない、構造さえ理解すれば簡単なものさ。」
「…そういうもの、か。」
「ああ、そうさ。」
なんだか、年上だろうに妙に子供じみた人だ。
「…これを、はめればいいのか?」
外していたストーブのカバーを付けようとジークがそれを被せる。
ガチャガチャ。
「む…はまらん…」
ガチャ、ガタガタ、パキン!
「…あ。」
どうやら部品の噛み合わせが悪いままに力任せに押し込もうとしたらしく、パーツが欠けてしまった。
「…す、すすす、すまない!」
「あちゃ…まあ、あとで接着しておきますよ、ダメならパーツを今度調達してきますから気にしないでください、確かうちの土蔵に使わなくなっていた同型のストーブがあった筈なんで。」
「…ふ、私達の勝ちですね。」
離れて見ていたトールがドヤ顔していた。
…お前なにもしてないだろ?
結局、夕方までかけて掃除を終わらせて飯くらい食べて行かんか、との一成の誘いを丁重に断り、帰路を急ぐ。
…桜がそろそろきている頃だからな。
今日は夕飯の支度を任せてしまったし少しくらいは手伝わないと。
と、途中でトールがいきなり立ち止まる。
「わ、と…どうした、トール?」
「…シロウさん、あのジークとかいう奴、どう思いますか?」
「…どうって…不器用な感じだけど良い人じゃないか?」
「あいつ、危険です、私の本能がガンガン警鐘を鳴らすんですよ…シロウさんもできればあまり関わらないでください、お願い、します。」
そう告げるトールはあまりに真剣で、僅かに震えていた。
「…大丈夫、トールが何を怖がるか知らないけど…少なくともあそこの和尚が住み込みを許してるんだから見境ない人間じゃないさ。」
そっと肩に手を置き、迷ったが頭を撫でる。
トールは目を細め、気持ち良さそうにした後頬を染める。
「こ、怖くなんかありませんが…あいつからは勇者とか呼ばれた奴らと似た気配がしました、同時に…物凄く危険な、魔力も。」
ええ、あれは──人間じゃ、ありませんでした。
トールが絞り出した言葉に。
「あ痛っ!?」
俺は───、チョップで返事をしていた。
「他所様の事をよく知りもしないで悪く言わない!」
「え、え〜!?そんなあ!」
…心配してくれるのは嬉しいけど、な。
心が何処か暖かくなるのを感じながら。
「二人」衛宮家の扉を潜る。
「おかえりなさい、先輩!」
「トールさま、おかえり?」
桜とカンナの笑顔に迎えられながら。
ああ、幸せだなあと。
感じたのはどちらだったのか。
【あとがき的なモノリス】
何故か居ます、ジークフリート。
カルデアアフターシリーズとリンクしているのはこの辺りという話でして、ぐだお、ぐだこや他の鯖も実は居ます。
まあ、あくまでジークフリートとルコア以外はゲストでしか出しませんが。
それでは皆さま、またの更新でお会いしましょう!