NEW GAME!   作:ぞい☆

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何このカオスな初出社は

物心つくときから、筆を握り絵を描いていた。

窓から見える景色、何気ない日常風景、人物、キャラクター、などなど…描くものは毎日違っていた。

そんな事をしていたからだろう、小学校に上がると、美術部にお誘いがあったので、気が付いたら入部していた。

そのままあれよあれよと、中学校、高校とそのまま美術部に入部し続けたのだった。

 

その時、絵だけにしか興味なかった俺は、小・中・高の美術部の部員の影響で、アニメやらゲームやら色々ハマってしまったのはいい思いでだ…。

そして高校を卒業した俺はと言うと…。

 

 

「いやぁ…まさかイーグルジャンプに就職するとは、未だに信じられないなぁ…」

 

確かに、そう言ったものにハマっていたけども、まさかこの手の仕事を職にするとは思ってもいなかった訳で。

やっぱり作るよりもプレイする側の方が良かったのではと、今になって見ればそう思わなくもない。

でも、好きな絵で食べていけるなら、贅沢は言っていられないだろう。

 

これで俺も大人入りかぁ、もう少し子供で居たかったなぁ…時が過ぎるのマジで早過ぎてどうし様だぜ全く。

…さて…。

 

「涼風青葉です、よろしくお願いします…。涼風青葉です、よろしくお願いします…」

 

目の前で絶賛ぶつぶつしながらうろうろしている、スーツを着た中学生くらいの子が会社の入り口をふさいでいては入れないんだけど、これどうすんの?

このまま就業時間までこうしてる気なのだろうか…うーん、どうしよう、声をかけづらいんだけど。

俺も一緒にうろうろしてた待ってた方が良いのかなこれ。

 

「こら!」

 

「ひゃっ!」

 

うぉっと…びっくりしたぁ。

いきなり後ろから女性が大きな声を上げたため、目の前の中学生(仮)と同時に俺もビビッてびくっとなってしまった。

流石にそれは不意打ちじゃないですかねぇ。

 

「な~んて、ふふ。ここは会社だから子供は入っちゃ駄目よ?それで、貴方は新入社員かしら?」

 

チラッと俺の方を見て、少しばかり距離を置かれた…。

あぁ、はい…俺の格好の方が何処をどう見ても不審者にしか見えませんよねすいません…。

俺、絶賛花粉症中、マスクと花粉防止にサングラスをかけているので本当に不審者にしか見えません、ホントにありがとうございました。

 

「すみません、花粉症なのでこんな格好ですが…新入社員です、はい。出来れば通報しないでもらえると嬉しいです…」

 

「あ、あぁ…そうだったの。怪しんでしまってごめんなさい」

 

「いやいや、こんな格好してる奴を怪しむ方が正解ですよ。と言うか初出社でこんな格好してるこっちの方が申し訳ないです…はい…」

 

 

「あ、あはは…そ、それより中に入りましょう?」

 

「はい」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!私も!私も新入社員です!」

 

無事誤解も解けたことで会社に入ろうとした時、後ろにいた中学生(仮)が手を挙げて主張を始めたのだった。

って、こいつも新入社員だったんだな…何処からどう見ても中学生くらいにしか見えないんだけど。

こう言うのを童顔っていうんだったよな?

 

「あら、貴女も新入社員さんだったのね!ごめんなさい、私ったら…」

 

「わ、私こそごめんなさい!す、涼風青葉と言います。入社するって聞いてますか…?」

 

「涼風……あ、聞いてます。一緒のチームだわ」

 

「ほんと!?」

 

おーおー、どうやら本当に新入社員だったようだ。

しっかし、やっぱり同じ女性同士、話やすんだろうなぁ、どんどん話が進んでいくよ。

これは下手に口を挟むよりも、待っていた方が賢明だろうなぁ…。

 

「私はADの遠山りんです、よろしくね。それで、貴方のお名前は…?」

 

「あ、えっと、絵筆渚です」

 

「絵筆君ね?貴方も一緒のチームだから、ちょうど良かったわ」

 

うわぁお、同期と上司がどちらとも女性とは、中々居づらい空間になりそう何だけど…。

い、いや…!美術部も似たようなもんだったし、今さらどうってことない!やってやるぜ俺!

 

「私はADの遠山りんです、よろしくね」

 

なお、この後涼風がADをアシスタントディレクターと勘違いして自爆したのだが、そこは割愛していこうと思う…。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここがオフィスよ。皆時間ぎりぎりに来るからまだ誰もいないけど」

 

遠山さんに案内され、とうとうオフィスへと来てしまった。

ここが今日から俺の職場になるんだと思うと、柄にもなくワクワクしてしまっている。見渡せば、色々な資料が積み重なっていたり、パソコンが置いてあるデスクが見える。

…ちらって視界に入ったが、フィギュアやおもちゃが飾ってあるデスクもあったんだけど…あれも参考資料か何かに使うのだろうか…。

 

い、いや…何も純粋に絵を描きたい人の集まりというわけでもないか、ゲーム好きが高じてこの業界に入ったってオタクもいるわけだし、自分のデスクをどう使おうが何も言われないのなら、全然大丈夫なんだろう。

 

「ここが貴方たちの席、左右どっちかは決まってないから、お互いにどっちが使いたいか話し合って決めてね?」

 

後ろを見てみれば、何とさっき視界に入ったフィギュアがたくさん飾ってあるデスクの後ろではないか!

そして隣には、髑髏のマークが入った布がかかっているデスク…な、中々にキャラが濃い人が使ってそうな場所ですね!!(困惑)

 

「そうだ、何か飲む?」

 

「あ、じゃあお茶をください」

 

「分かったわ。涼風さんは何にする?」

 

「それじゃあオレンg…いやいやっ、コーヒーブラックで!」

 

キリッと効果音が付きそうなくらいの顔つきで涼風はそう言ったのであった…。

いやお前、今オレンジって言いかけたろ…絶対ブラックなんて飲めないだろ…などと内心でツッコミを入れるが、本人に向かって口にする勇気なんかはない。

 

初対面では既に不審者みたいな恰好をして会っているのだから、第一印象は最悪だ、さらに追い打ちをかける様にそんな事を言った日には…!

女子には絶対に逆らうな、ツッコミを入れるな…これ、美術部で培った経験則也…悲しい経験であった。

 

「はぁ…優しそうな人で良かった~…ね!絵筆君!」

 

「うぇ…あ、そうだな」

 

いきなり話を振られたので変な声出てしまった。

こいつ…もしかしなくてもコミュ力高いな…!俺だったらこんな不審者みたいな恰好した奴にフレンドリーに接したりしないぜ…。

 

「これから一緒に頑張ろうね!」

 

「そ、そうだな…頑張ろうぜ」

 

微妙そうな反応を示した俺に、涼風は少し不思議そうな表情を浮かべていたのであった…。

その時、何処からか女の人の声でうめき声が聞こえてきた。

つかれたぁ…もぅやだぁ…などと、中々に疲れ切ったうめき声なので、もしかしたらあまりのブラックさでここで首つりをした女性の霊が住んでいるとでも…いうのだろうか……。

とか何とか言っていたけど、仕切りの端から足が見えているので、首つりではなく過労死の可能性が高いと思ったのは秘密…。

 

とりあえず二人してしばらく固まっていると、おもむろに涼風はキーボードを持ち、恐る恐る仕切りの向こう側へと進んでいく。

お、おぉ…勇気あるなおい…

 

「おぱんつーーー!?」

 

「お前は一体何を見たんだーーーー!?」

 

初出社がとてもカオスな件…。

とりあえず俺はこのまま何も見ないようにここに座って待っていることにしよう、そうしよう…。

呻いていた人は幽霊でもなんでもなく、ここの社員らしい。

仕切りの奥で涼風と色々話していると、飲み物を用意してくれていた遠山さんが戻ってきた。

 

「あら、起きてたの?って…!ズボン履きなさいズボンを!新入社員には男性もいるって昨日伝えた筈よね!?」

 

「あ、あっれー?そうだったっけ?あはは、ごめんごめん」

 

もしや下着姿で寝てたのか…?よ、よかったぁ…涼風についていかなくて…。

新入社員、入社初日に女性の下着姿見て通報される…みたいな事件が起こらなくて。

 

「それで?もう一人の子は何処にいるの?まだ来ていない感じ?」

 

「えっと、絵筆君なr「あ、はい、ここです」」

 

「うわぁぁぁ!?不審者!?」

 

とりあえずひょっこり顔だけ出してみたらこれである。

というかこれが普通の反応だから何とも言えない…驚いた女性を遠山さんが落ち着かせるようになだめてくれてるので事なきを得た…。

 

「あっはっは!そっかそっか、花粉症だからそんな恰好してるのか!いやぁ、ごめんね?」

 

「いえいえ、これが普通の反応なので全然大丈夫です」

 

「そうだそうだ。はい、飲み物持ってきたわよ。あ、私のでいいけど飲む?」

 

「サンキュー。それで?この二人は何処の班に…ゲホゲホ!これ砂糖入ってないじゃん!」

 

「あ!逆だったわごめんなさい!」

 

どうやら間違って涼風のブラックコーヒーを渡してしまったようだ。

そのまま回ってきたブラックコーヒーに口をつける涼風だったが、涼風もむせてしまったのでやっぱり飲めないことが明るみになってしまったのであった…。

あ、この緑茶美味しいです遠山さん、あざっすーー!

 

そんなこんなで淹れてもらった飲み物を飲んで、落ち着いたところで先輩からの質問が飛んできた。

 

「二人は年いくつなの?」

 

「18です!」

 

「同じく18です」

 

「へぇ!二人とも高卒できたの!?珍しい!でも新人ちゃんは高校生にも見えないな!はっはっは!…新人君は…良く捕まらなかったな…」

 

「くっ…花粉がこんなに恨めしいと思ったことはない…!!」

 

「あ、貴女こそおいくつなんですか!」

 

「……いくつに見える?」

 

「…うっ」

 

せんぱーい、その切り返しはずるいと思いまーす。

俺に飛び火しないように知らんぷりしとこーっと思ったら、俺の事もチラッと見てくるのでどうしよう…あ、今ちょっと目が合った…畜生、逃げられなかったぜ…。

 

「あれは…『フェアリーズストーリー』のポスター!」

 

「あ、知ってるんだ。私が初めて携わったゲームなんだ~」

 

へぇ…結構前のゲーム何だけど、その無印からすでに働いてたって事は…はっ、まさかこの人!

 

「まままま、まさかみそ…」

 

「そんなに行ってないわい!」

 

あ、先に涼風がその答えにたどり着いたみたいだけど、どうやら違ったみたいだ。

良かったぁ、口走らなくて…涼風、お前の犠牲は無駄にしないぜ、たぶんな…。

 

「25だよ、私も高卒で入ったの」

 

「ああああ、あのごめんなさい!」

 

「うふふ、良いのよ気にしなくて」

 

流石遠山さん、ぐう聖ですね…え、遠山さんはいくつに見えるかって?

おっと、どうしてそんなに俺をちらちら見てくるんですか…?さっき何も答えなかったからですか?それとも男性がどう答えるか気になるんですか?

 

やめてください、その視線は俺に効く、やめてくれ…。

 

「えっと…20歳…」

 

「同い年だよ!!」

 

「いい子ね」

 

俺がそう答えると、25歳先輩が憤慨し、遠山さんはくすくすと笑っている。

同い年に見えないのはこの差なのではないだろうか…。

 

「で、でも感動です!子供の頃に好きだったゲームを作ってた人が目の前にいるなんて!私、あのゲームでキャラクターデザイナになりたいって思ったんです!」

 

「あら、ならここにいる八神コウがそのキャラデザだったのよ」

 

今明かされる衝撃の事実!

何とこの人が、フェアリーズストーリーのキャラデザをしていた、有名な八神コウさんだったのであった!

 

「八神先生だったんですか!?」

 

「急に態度変わったなっ」

 

それはもう熱い手のひら返しであった…。

そりゃ顔も見たことのない自分の尊敬する人が目の前にいる人だったと分ったらそうなるよな、俺だってそうなる自信あるわ…。

 

「それで―?新人君は無反応だけど、びっくりした?」

 

「えーっと…ワ、ワー、ビックリシタナー」

 

「絶対思ってないだろ!?全く…無理に驚かなくていいって」

 

「コウちゃんが意地悪な質問するからでしょ?ちなみに、今日から八神が涼風さんと絵筆君の上司だから、三人とも仲良くね」

 

 

ワ、ワー、マジデスカ遠山サン…。

大丈夫かなぁ、いましがた結構失礼な反応しちゃったし、仲良くやって行けるだろうか…とても心配になってきた。

 

「が、がんばりまシュッ!」

 

「よろしくお願いします…!」

 

こうして、俺のゲーム会社の初日が始まったのであった…。

何でまだ始まったばかりなのにこんなに濃いんだろうか、疲れたよ…っ。


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