IS ~無限の成層圏に輝く暁の夏と奇跡の翼~ 作:Giotto27
「う、うう……」
周りの喧騒によって一夏は目を覚ました。
(一体…何が……)
目の前で起こっていることを意識が覚醒したと同時に驚愕する。
少女たちが手から風や炎を出していることもそうだが、なによりは
(
銃弾を弾き、迫る刃を防ぎ、ときには押し返し反撃すら決めてみせるその光景は一夏の中にある『ISはISでしか倒せない』という概念を覆すものだった。
気がつけば誘拐犯たちは次々と無力化されていき、IS2体を残すのみとなっていた。
「だ、大丈夫ですか!? しっかりしてください!」
とそこで一夏は自分に向けて声を掛けられていることに気が付く。返事をしようとそちらに視線を向けて――一夏の思考は固まった。
「て、天使?」
「え、あ、はい。天使ですけど……」
当たり前のように返されたレミエルからの返答に再度思考が固まりかける一夏だったが、それは怒号によって阻まれる。
「なんなのよこいつら!」
「なんでISの攻撃が通じないのよ!」
ISを纏った2人が業を煮やしたようだった。
「あのガキの…あのガキのせいで…あのガキがあぁぁぁあああ!!」
突如、IS2体が目の前の美海とソフィーナから標的を変え一夏に向かって突撃した。
「! まずい、止めてくれ!」
「了解」
「わかりました」
突然のことに焦り、裕也の判断が少し鈍る。
咄嗟に出した指示によりセニアのレーザーとアウロラの障壁により1体は止められたが、もう1体は構わず一夏とレミエルに迫りその手に持つ剣を振りかぶる。
「こんのぉぉおおお!」
「!!」
「こ、こないでください!」
恐怖で硬直した一夏を庇うようにその身を抱き寄せ覆いかぶさるレミエル。その拍子にお互いの手が触れた瞬間
ズォオオオオオ!!
と、レミエルの翼の無い左肩から強い光が放たれ、振り下ろされた剣を押し返しISごと吹き飛ばす。
光の奔流は止まることなく放たれ続け、やがて翼の形へと変わっていく。
「この光って
「じゃあ、あの倒れているヤツもαドライバーってこと?」
美海とソフィーナがそれぞれ推測をする中でレミエルは溢れ続ける光とそれによって形作られた光の翼を見続けていた。夢にまで見た双翼が自身の背にあるからだ。
(これが……私の可能性、なんですか?)
「ああもう、なんなのよ!」
呆けていたレミエルだが、金切り声のした方を向くと先ほど吹き飛ばされた女性が憤怒の形相で睨み付けていた。
「や、やめてください! もうこんなこと……」
「うるさい! 一体何なのよ!? こんな……こんな……」
スラスターを一気に点火して全力の突撃。標的は―――レミエル
「あああああぁぁぁあああああ!!」
狂気とも錯乱ともとれるような声が響く。ISの持つ剣が迫るなか、レミエルは一夏に話しかける。その瞳にはいつもの諦めの色は映っていなかった。
「お願いします。もう少しだけ力を貸してください!」
一夏の手を握り決意を固める。
溢れ出る光の出力が増し、翼の輝きが強くなる。
(この人と一緒ならきっと!)
「エクシード・リンク 〈白き刃の奇跡〉!」
レミエルの光の翼とISの持つ剣が衝突し火花を散らす。
一瞬の鍔迫り合い。
だがISの持つ剣に罅が入り、数秒もしないうちに砕け散り、レミエルの翼が直撃する。
「が、ぁぁあああああ!?」
そのまま再度吹き飛び地面に叩きつけられ気絶し、ISが解除される。
「はぁ……はぁ……おわり、ましたか……?」
「レミエルちゃーん!」
「ひゃあ! 美海さん!?」
「すごいよさっきの! あんなに強い出力で
息を整えていたレミエルに飛びつき笑顔で褒め倒す美海。
他のみんなも賞賛の言葉を送っている。
そんな中
(いったい……何が………)
最後まで状況が飲み込めず呆けていた一夏は、出血と目の前から
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「う、うぅ……此処は……?」
次に目覚めたとき、一夏は全身のいたるところに包帯を巻かれ病室着を着せられた状態でベッドに寝かされていた。
清潔感を感じさせる白一色の塗装と、ツンと鼻をつくような消毒液独特のニオイから医療関係に使う部屋だと分かる。
「あ、起きたか?」
その声と同時に一夏のことを黒髪黒目の少年が覗き込んできた。身長や雰囲気から自分より年上だろうと一夏は判断する。
「あの、此処は?」
「保健室。あ、まだ寝てていいぞ。傷自体は治りかけているけど、体の疲労や痛みは消えてないだろうから」
言われて体のあちこちが軋むような感覚を覚えて再びベッドに沈み込んだ。
「目覚めてすぐで悪いけど、なんであんなことになってたのか話を聞かせてほしい。
とりあえず、名前聞かせてもらえる?」
「はい……織斑一夏です」
「織斑君……か」
無難に名字で呼ばれたが、一夏は混乱し、状況が飲み込めていなかったためか、呼ばれ方に対して変な意地をはっていた。
「あの……できれば名前で呼んでください……名字で呼ばれるのきらいなので」
黒髪黒目の少年が一瞬怪訝な顔をしたが何かを察した表情になって頷いた。
「わかった。じゃあ名前で呼ぶよ。
俺は柊裕也。俺のことも呼ぶときは名前でいいから」
「裕也さん……」
「それでいいよ。じゃあ改めて話を聞かせてくれ」
そこから一夏はすべてを話した。姉の織斑千冬が出場する第二回モンド・グロッソ観戦のために半ば無理矢理連れて行かれたこと、その決勝戦当日に誘拐されたこと、姉にも政府にも見捨てられたこと、そして、誘拐犯たちに殺されそうになったところ、青白い亀裂に呑み込まれて気がついたらあの場所にいたこと。
それを聞いた裕也は戸惑った表情を見せたが、咳払いをして真剣な表情で話し始めた。
「落ち着いて聞いてほしい。まず、今の話に出てきた『IS』とか『モンド・グロッソ』とかいうのは存在していない」
「え?」
「それからこの写真を見てほしい」
手渡されたのは一枚の上空を写した写真。ただし、そこには青空のほかに赤、紫、黄、の輝きを放つ光が浮かんでいる。
「この光が何か、わかる?」
「いえ…わかりません……」
突然見せられたものを理解できずに混乱する一夏だったが、裕也はその様子を見てどこか納得していた。
「あ、あの此処はどこですか? それにさっきのISが存在していないってどういうことですか?」
「落ち着いてくれ、ちゃんと説明するから―――」
「ほら、コソコソしてないで入るわよ!」
裕也が口を開こうとしたとき廊下から騒がしい声が響く。
「え、で、でも……」
「大丈夫よ、お見舞いくらいで裕也さんは怒ったりしないわ」
「早く入りましょう。いつまでもここで騒いでいたら迷惑です」
「ほら、いこ! レミエルちゃん」
「ひゃあ!」
バタバタと入室してくる五人の少女たち。ここが本当の病院だったら咎められていただろう。
「あ、起きたんだ! 私は日向美海、よろしくね!」
「理深き黒魔女ソフィーナよ」
「コードΩ46セニアです」
「アウロラです。よろしくお願いしますね」
「れ、レミエル、です…よろしくお願いします……」
次々と自己紹介をする少女たち。場所を考えれば少し元気が良すぎるだろう。
「みんな少し落ち着いてくれ。次々に喋られたら混乱するだろ?」
「あ、ははーごめんね?」
「あ、あの!」
声を上げた一夏に視線が集中する。一度に視線が集まりビクつくが疑問を発せずにはいられなかった。
「さっき助けてくれた人たちですよね……ありがとうございます。
でも、あのときの手から風や炎を出したり、光の翼はなんだったんですか?
それに……その頭の角や背中の翼は作り物じゃないですよね? いったいどういう……?」
「それも含めて説明するよ。まず―――」
そこから一夏はこの世界の事情について教えられた。
青の世界、黒の世界、赤の世界、白の世界の4つが繋がり、世界各地で異変が起きていること。
今いる場所が青の世界―地球の青蘭島であり、四世界から集まったプログレスとαドライバーの育成のための教育機関であること。
ウロボロスという異変の原因と考えられる存在が青蘭島を狙ってくるため撃退していること。
「以上が大体の世界事情で、さっきの一夏の話と合わせると、ここは一夏にとって異世界ということになる」
「異世界、ですか……話をしているうちにそんな気はしていましたが……」
話をしていると徐々に一夏の顔が俯き始めたのを見て裕也が慌ててフォローに入る。
「ご、ごめん。やっぱりきついよな、いきなり異世界に来たとか言われてしかも帰る方法が分からないなんて」
「い、いえ、それについては別に良いんです……寧ろ、これでよかったかもって」
一夏の言葉に頭に疑問符を浮かべる一同だが、次の言葉で表情が険しくなる。
「俺……前の世界では優秀な姉と兄に比べられて出来損ないって蔑まれていたんです。名前もまともに呼ばれなくて、生きているのに死んでいるのと変わらなくて……だからあの世界と決別できてよかったなーなんて……」
言葉を紡ぐにつれて表情が暗く寂しいものに変わっていく。まるで、今までどれだけの悪意を受けてきたかを物語っているように。
「そっか……なら青蘭学園に入らないか?」
「え?」
「いくらこっちで生きることを決めたからって身寄り無しじゃ苦労するだろうし。
それに学園に入れば補助も受けられるから生活していくのに便利だぞ?」
「ちょ、ちょっと待ってください! さっきの話から考えるとこの学園はプログレスかαドライバーしか入れないんですよね? 俺はどっちでもないのに」
当然の疑問を口にするが裕也は否、と答える。
「いや、さっきの戦闘で一夏がαドライバーだということは確認している。憶えてないか?」
「俺がαドライバー……?」
自分がαドライバーだと自覚できないせいか困惑する一夏。そこに遠慮気味に声がかかる。
「あ、あの……憶えてないですか? あのとき……斬られそうになったとき私の手を握って力を貨してくれたことを……」
「え、えっと……そういえばなんだか不思議な感覚があったような」
レミエルに言われて一夏は朧げながらも自分に何があったか思い出す。
「あのとき、わたし今までで一番強く繋がりを感じたんです。だからその……青蘭学園に入ってくれたら、力を貸してくれたら嬉しいなって……だからあの、えっと……」
レミエルは必死に何かを伝えようとしているが言葉尻が小さくなっていく。
「じゃあ…ここに入れてもらってもいい……ですか?」
困惑しながらも答えた一夏にみんな笑顔で迎え入れる。
このとき、これが後に起こる騒動の始まりだったとまだ誰も知る由もなかった。
美海たちの口調がおかしくないか心配で気が気でないです。おかしいと思ったらご連絡ください。
感想、誤字報告待ってます。
ただ、誹謗中傷はご勘弁ください。