IS ~無限の成層圏に輝く暁の夏と奇跡の翼~ 作:Giotto27
どうかよろしくお願いいたします。
Prologue1
「クッソ! どうなってやがんだよ!?」
「なんで織斑千冬が出場してるのよ! 脅迫状はちゃんと送ったんでしょうね!?」
とある廃墟の一角で男女数人の激しい怒声が響く。
その声に手を後ろ手に回され両手両足を拘束されている少年‐‐織斑一夏は意識を一度そちらに向けてまた顔を伏せた。その表情は諦めと絶望、そしてどこか納得したかのような色を帯びていた。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
いつからだろう、まともに名前を呼ばれなくなったのは。
誘拐犯達の怒声を聞きながらそんなことを考えてしまう。
両親に捨てられてから年の離れた姉が俺と双子の兄・春十を養うために頑張り始めた。周りからよく『お姉さんを見習って頑張りなさい』などと言われた。それまではまだよかったが一気に歪んでいったのは、あのころからだ。
『インフィニット・ストラトス』‐‐‐通称IS。姉の友人である篠ノ之束が宇宙空間での活動を想定して開発したマルチフォーム・スーツ。発表された当初は全く相手にされていなかったが、謎のハッキングにより日本に向けて発射された2314発以上のミサイルを搭乗者不明のIS《白騎士》が迎撃。さらに《白騎士》捕獲のために送り込んだ戦闘機及び戦闘艦を瞬く間に無力化した事で評価が一転した。 そして当初の目的、宇宙進出から軍事進出へと変わっていった。しかし、ISには女性しか乗れないという欠陥がありそれにより女尊男卑の風潮が広まっていった。
そんな中優秀なIS乗りとして活躍する姉を持てばどうなるか‐‐‐結果は周囲の期待の加速だった。
加えて兄がやればなんでもできてしまういわゆる天才であることも期待を加速させた。
だが、凡人であった俺にはその期待に応えることができなかった。努力こそしたがそれは2人に一歩届かない成果。
‐‐‐『なんで織斑千冬の弟がこんなこともできないんだ?』
‐‐‐『織斑千冬の弟ならこれぐらいできて当然だ』
‐‐‐『なんで双子の兄はできて弟にはできないんだ?』
次第にそんなことを言われて努力を否定された。結果が良いものでも悪いものでも周りの評価は同じ。寧ろ良い結果を出せば最初の頃は結果が芳しくなかっただけにズルをしたんじゃないかと 罵倒され暴力を振るわれることさえあった。
気付けば、本当に仲の良い極少数の友人を除いて俺の名前を呼ばなくなっていた。
『出来損ない』
『織斑の恥』
『織斑千冬の付属品』
そんな風に呼ばれた。
そんな日々に姉は気付かず話をしようにも『今は忙しい』と取り合ってくれない。
それでいて『お前達2人は私が守る』などと言ってくるのだ。ちゃんと見てくれないのに。それでもいつか、もしかしたら、気付いてくれるのでは、そんなことを思いつつ努力を続けた。
だが、現実はそれをゆるしてくれなかった。
姉が出場する第2回『モンド・グロッソ』‐‐IS世界大会に親族応援という形で兄共々招待されていた俺は、
その決勝戦当日に誘拐された。どうやら犯人達の会話から『織斑千冬の決勝戦出場阻止』のようだが……怒号が響いたのを考えるにどうやら失敗したようだ。
(結局、家族よりも名誉を選ぶのかよ、守るなんて言葉も口先だけのものじゃないか……)
だからこの結末も思うことなんてなにもない……
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
「チッ! どうする依頼人のねーちゃん達よぉ!?」
「どうするって……私達の顔を見られてるから放置するわけにもいかないし……」
「殺すしかないでしょ」
そう言ってISを纏った女性が1人、銃口を突きつける。
「恨むなら、助けに来なかった、貴方の姉を恨みなさい」
(ようやく……あの日々から解放されるのか)
一夏は死の恐怖よりも苦しみから解放されることに安堵していたが、その顔を眺めていた女性は眉をひそめた。
「やけに静かねアンタ……まぁ、騒がないでくれるならこちらもありがたいけど」
一夏は引き金に指がかけられたのを見て、そっと目を閉じその瞬間を待つ。
だが
バギン!
銃撃音とは違う何かが罅割れる音に思わず目を開く。
すると誘拐犯達も自分達の後方に視線を向けている。その先では
そしてー
一際大きな音を立てて景色が崩れた。それは大きな亀裂となり……周りのものを吸い寄せ始めた。
「クソ! なんだよあれ!?」
「知るかよそんなもん!」
「ちょっと置いていかないで!」
その場の全員が逃げ惑うが、なす術なく亀裂に吸い寄せられ吞み込まれていく。そして拘束され抵抗ができない一夏も吸い寄せられていく。
そして
「う、うぁぁぁああああああああ!」
亀裂に呑み込まれる。
こうして織斑一夏はこの世界から消えた。
いかがでしたでしょうか。
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