或いはこんな織斑一夏   作:鱧ノ丈

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 大変にご無沙汰をしております。
 続きをご期待されていた方におかれましては長らくお待たせしてしまいました。
 リアルの方が色々忙しく、気力体力が日々ごっそり持っていかれていました。

 そんな中ではありますが、何とか続きを書くことができたので更新です。
 こんなご時世なので、皆さまの暇つぶしの一助になれれば幸いです。


第八十五話:異形の猛威

 さながらパレードを彩るレーザーの如し、だが沸かせるのは観客のボルテージでは無く恐怖心。所詮はタンパク質の塊でしかない人の身などただの一射で蒸発させて余りある熱量が光条となって乱れ飛ぶ。その間を縫うように飛びながら一夏と初音は唐突な事態の発生を飲み込もうとしていた。

 

「なんだありゃ……!」

 

 困惑しながらも険しい声が漏れる。依然としてアリーナ地表部を覆う砂塵の奥、目を凝らした先にソレは見えた。黒の巨体だ。人型を取ってこそいるが余りに歪な造形、おおよそ尋常の人間のシルエットではない。まず間違いなく見る者全てにこれは相容れない存在であると認識させるだろう。もっとも姿形以前に行動で以って敵対的であるということを存分に語ってくれているわけだが。

 

「ッ!」

 

 二人目がけて真紅の灼熱が飛んでくる。二手に分かれるように回避軌道を取ると同時に一夏は通信を管制室へと繋げた。

 

「状況は! 他の皆は!?」

『登録未確認のISによる襲撃です! 観客席の生徒たち、外部のスタッフたちは既に避難済み! 織斑君と斎藤さんもすぐに避難を!』

了解(かしこま)!」

 

 流石、持つべきは優秀な候補生(ライバル)たちである。事態が発生したその瞬間から各々のISを展開して守り役を引き受けながら他の生徒たちの脱出を促していた。おそらくはそのまま避難の付き添いをしているのだろう。通信越しの真耶が既に教員による実働部隊を向かわせているとの情報が入った。全てを任せきりにするつもりは無いが、ここはセオリー通りに数と連携の暴力で不埒者を締めあげてやろうと算段して――

 

「織斑、来る」

「は――?」

 

 愛機が発した再びのアラートに今度こそ目を丸くした。同じアラートに同じ反応だ。白式に内臓されたOSが目の前の空間モニターに学園全域を表すマップを投射する。一夏と初音がいるアリーナには二人のISを示すマーカーと、未確認機を示す赤い光点が一つ。そして同じ赤い光点が学園の各所に存在していた。その数は――8つ。それが意味するところは即ち、目の前のソレと全く同じ脅威が学園内8か所にて発生しているということ。

 

「なっ――」

 

 絶句する。例え勇猛な気質を持つ一夏、それに劣らない初音であっても場数の経験が足りなかった。目の前に現れた脅威に対して臆さず挑むことはできる。だが同じことが同時に多数発生したら? どうすれば良い――パニックには及ばずも思考が止まり困惑とも言える状態に陥る。故に、その直後に喝を入れんと鋭い声が飛んできたのは――声の主を考えればいささか業腹ではあるものの――正しく僥倖と言えるものであった。

 

『教員部隊! 専用機持ちは散開! 専用機持ちは私以外が二人一組(ツーマンセル)で敵機に対処! これで5機! 残り3機は教員部隊で! 一夏くん聞こえるわね!? 悪いけど、君と初音ちゃんでアリーナのそいつを対処!! 良い!?』

 

 生徒会長 更識楯無、事態の発生を受けて既に専用機"ミステリアス・レイディ"を纏い宙を駆けていた彼女は敵の増加を受けてすぐさま判断を下し、学内に展開されてる全ISに向けてのオープンチャンネルで指示を飛ばしていた。それを受けた各IS、その駆り手たちは一切の疑問を挙げなかった。分散しての各個対応、余りにシンプルな手法だが他に手が無い。だからこそ動きも迅速だった。最も数が集っていた1学年専用機所持者たちは即席のタッグ3組を編成し各々の敵へと向かう。他方では第3学年ダリル・ケイシーと、楯無と同じ第2学年所属のフォルテ・サファイアの二人が最も手近な敵へと向かった。そしてアリーナへと向かっていた教師陣もまた迅速にチームを編成し直して各自の持ち場へと急行する。斯くして戦場は整った。背にする仲間たちを守らんがため、ここに戦端は開かれた。

 

 

 

 

 

「テメェ、何者だ……!」

 

 顰めた眉の下から眼光鋭く見据えながら一夏は問う。眼前の襲撃者、正体不明のISは一言で言えば異形の姿をしていた。

 まず第一に肌色という物が一切見えない。纏うIS、その下のISスーツの構造にもよるが、多少なりとも乗り手の素肌の一部が露出して視認はできるものだ。だが目の前の未確認機(アンノウン)はそれが一切無い。両手足と胴体の標準的なISパーツはともかくとして、頭部を覆う装甲はバイクのヘルメットのごときフルフェイス、そして装甲に覆われた箇所以外は全てが鈍色のISスーツに覆われている。

 更に目を引くのは両腕だ。左右どちらも人の手の形をしていない。左腕は砲門のごとく中央に虚空の空いた筒状に、右腕は刀のごとき反りを持った長大なブレードに、実に剣呑な様相を示している。だが見た目通りに両腕が武装であるならば、特に左腕はマズイと一夏と初音は同時に思考する。未確認機は上空からただ一度の砲撃でアリーナの防壁を破り侵入してきた。それだけでも出力が如何ほどかは察せられるもの。言えることは単純(シンプル)だ。直撃(あた)れば、危険(ヤバ)い。

 

「織斑、攻める。左は撃たせない」

承知(それな)! 」

 

 声と共に機体を奔らせながら初音は一夏へと指示を飛ばし、言い終えるより先に一夏も動き出していた。互いの考えは同じ、同時に攻め立て左腕の砲撃を封じる。互いに得意とする近接戦闘で一気に押し潰す。敵の戦力が未知数の状態での突撃は愚策かもしれないが、それよりも判明している脅威の方が対処としては優先される。

 

「――シィッ!」

 

 先んじて敵の間合いに飛び込んだ初音がブレードを振るうが、それは左腕の砲台が盾となり難なく防がれる。あわよくば破壊を――初音の脳裏にそんな考えがよぎるも直ちに却下する。手応えからして相当に堅牢だ。破壊は容易なことではない。

 初音が刹那の思考を奔らせる中、続く二撃目として一夏が仕掛ける。空いた右腕側より剣を振りかぶり、さながら獣の牙のようにその切っ先を突き立て――ることは無かった。刃の切っ先は無人機の手前での地面を穿つ。もはや真っ当な人類の視界確保をしているかも怪しいが、それでも一夏の方を向いていた未確認機の書面にはその視界を覆い遮るほどの土埃が巻き上がる。直後、未確認機の背後には改めて剣を構えた一夏の姿が現れていた。

 原理は単純。切っ先の一撃で土煙による視界遮断を仕掛けた後、突き立てた剣を軸とし、スラスターの瞬間噴射で全身を回転させながら背後を取った。主兵装となる刀剣装備"蒼月"の高周波振動は起動済み、ハイパーセンサーに頼らずとも常人離れした動体視力と身体制御は既に狙いを敵の左ひじ関節に向けていた。

 

(まずは邪魔なその大砲斬り飛ばして次は右だ。そのまま両脚斬り飛ばしてダルマにしてやる――!)

 

 そうして無力化した後に口を割らせれば良い。両手足斬り飛ばすのだから命に係わるだろうが知ったことでは無い。吐くこと(ゲロ)ってとっととくたばれ。既に一夏の思考は敵への殺意等しい怒気に至っていた。

 人の心かないんか?――そう問われれば、こう答えるだろう。 襲撃(カチコミ)仕掛け(カマシ)てきた糞野郎にンなもの要らねぇ、と。

 心身に十全な気を漲らせ、必殺の意思と共に刃を振るう。狙いは過たず吸い込まれるように敵の左ひじ関節へと迫る。だが、寸でのところで割り込んできた敵の刃に阻まれる。相応の手練れで無ければ防げないだろう一撃を防いだ、その事実を一夏は淡々と受け止めながら敵を見遣り、ある一点で僅かに目を見開いた。だがその直後、スラスターによりその場で駒のように大きく回転をした敵の勢いによって初音共々に弾き飛ばされ、再び距離を取らせられる。

 

「織斑、もう一度」

「ウス。先輩、左から攻めてください。奴の右、妙だ。野郎、さっき俺の剣を防いだ時に腕が非実在(アリエネ)ぇ曲がり方しやがった」

 

 一夏は端的に情報を伝える。弾き飛ばされる直前に確かに見たのだ。敵の右腕が凡そ人体としてはあり得ない曲がり方をして一夏の剣を防いでいるのを。どのような原理(タネ)かは知らないが、敵の剣が変則的な動きをすることは予想に容易い。であれば、剣の相手は自身が請け負った方が良い。

 自分の方が剣では上と言うような一夏の言葉に初音も思う所がないわけでは無い。だが、敢えて比べるならば、極めて業腹だが事実でもある。いずれは超えて改めて上下を理解(わか)らせるとして、今は確実に未確認機の対処をすることが最優先。故に初音は何も言わずに一夏の言葉に従った。

 

 

 

 

「通信の復旧を急げ! 学園内各所のロック解除もだ!!」

 

 学内の一角にある指揮所で千冬は周囲の教師、スタッフに指示を飛ばしながら眼前のモニター群を睨みつける。

 突然の未確認勢力による襲撃には学内の誰もが、千冬すらも僅かなりとも動揺をしたが初動は楯無がすぐさま飛ばした指示で迅速なものとなっていた。だがそこからが問題であった。

 生徒、そして今日の新型機試験のために来訪していた倉持技研のスタッフが各々最寄りのシェルター、あるいは臨時の避難所として機能する各教室に退避をし、千冬ら指揮チームが配置に付き終わったその直後、学内設備が一斉にクラッキングを受けたのだ。これにより学外はおろか学内の通信すら遮断、更に全ての隔壁が動作、ロックされたことにより身動きも取れない状況となっていた。幸いか、あるいは下手人の仕掛けなのか、各所の監視カメラは機能しているため千冬らが詰める指揮所から学内各所の様子、即ち未確認機の対処のため最前線に立つ教員、生徒たちの様子は確認ができる。だがそれしかできない。ただ見ていることしかできない状況だ。

 

(クソ、何が目的だ……!)

 

 実の所この指揮所において、否――この学園内において唯一千冬のみが未確認機に心当たりがあった。思い出されるのは春のクラス対抗戦直後の夜。闇を纏いながら訪問してきた浅間美咲より受け取った情報、彼女の手により破壊された無人稼働ISだ。受け取ったレポートは既に内容を頭に叩き込んだ上で焼却処分されている。そして記憶にある美咲が相対したという無人ISと、現在学園に襲撃を仕掛けている未確認機は非常に類似しているのだ。

 

(何が、目的なんだ……!)

 

 だが千冬の思考は更にその先へと向かっていた。未確認機の実態、その背後へと。それが可能な唯一の可能性へと。

 未確認機の行動は不可解なものだった。迎撃にあたっている教師部隊、候補生たちと攻防を繰り広げ、堅牢な守りにより数的不利を打ち消しているものの、攻勢を見ればいまいち決め手に欠けているような動きをしている。更には時折攻撃の照準をシェルター、あるいは教室などの避難者が居る区画へと向け、当然ながら守らんと学園側のISが割り込めばあっさりとそちらへの攻撃を中断する。

 守りは固いくせに攻めにやる気が見受けられない。さりとて脅威性故に放置はできない。まるで現状維持こそが目的とも取れる。では仮にそうだとして何故なのか、黒幕の次の行動のための時間稼ぎなのか。しかし通信、隔壁ロックへのクラッキング以降は何も起きてはいない。それ故に、千冬も敵の狙いがつかめずにいた。

 依然、モニター群は学園内各所での戦闘の様子を映している。最も苛烈な攻防を繰り広げているのはアリーナ――織斑一夏・斎藤初音の2人の現場だ。両者ともに近接戦闘主体の機体であるため、アリーナを縦横無尽に駆けて未確認機を攻め立てている。その余波で巻き起こる土煙、砂埃によって監視カメラの映像が阻害される勢いだ。

 

(頼む、皆無事でいてくれ……!)

 

 ただ見守ることしかできない。そんな状況下に置かれている自身に無力感を抱きつつ、千冬はただ全員の無事のみを念じていた。

 

 

 

 

「今頃、どこのお国も肝を冷やしているのでしょうね」

 

 およそ余人の目に留まることはまず無いであろう場所、数千メートルという上空で己のISを纏いながら浅間美咲は独り言ちていた。

 甥弟子とも言うべき織斑一夏、とは別に密かに着目していた一人の少女。その二人が新型機試験とは言えISで立ち会うという噂を耳にした彼女は持てる権限と能力をフル活用(無駄遣い)して遥か上空からの見物を決め込んでいた。だが良い感じに勝負がノッて来たところでの無粋な乱入者だ。目にした瞬間につい「……また?」とぼやいてしまったのも仕方のないこと。

 いつぞやとは異なり、今回は直接学園へ仕掛けている。こうなると流石の美咲にも迂闊に手は出せない。自分だったら一体刻むのに10秒(ウィダー1本)も掛からないのになー等と考えつつ、学園内の戦力ならば十分対処できるだろうと、今回は見物を決め込むことにした。そして甥弟子と注目株の方を改めて見遣り――

 

「……」

 

 無言のまま、眉を小さく顰めた。しばし思考を巡らせた後、一つの決定を決めた美咲はそのままISの通信機能をある人物へと繋げる。

 

「あぁ、お久しぶりですね。えぇ、やはりちょっとした騒ぎになっているでしょう? 私も見ていましたから。――本題です。横田で搬出準備を進めているそちらの新作、段取りと根回しは私が済ませておくのですぐにでも送り出しますよ。どのみち、遅かれ早かれ()に渡す予定なのでしょう? なら今が良いタイミングです。……えぇ、私の見立て通りなら、ほぼ確実に要りますよ。ぶっつけ本番? それの何が問題なんです。その程度、我が一門に連なるならこなして当然。それでは、事後の彼のサポートはお願いしますね、ヒカルノ(・・・・)

 

 

 

 

 

 金属同士がぶつかり合う音、地面が抉れ吹き飛ばされる音、スラスターが噴射する音、様々な音が入り混じるアリーナの中で一夏と初音は未確認機との交戦を続けていた。

 既に連携の形は確立されつつある。敵は武装の大きさ、付随する重量故か小回りする動きをしていない。むしろその重量を活かし総身を振るうことて重い一撃を仕掛けてくるのが基本、それが2人の認識だ。時折、両腕に重量級の武装を備えている点を活かしてか、重心移動によるトリッキーな回避運動をするが、十分に対処できる範囲だ。

 スラスターの噴射で瞬間的に加速した回転で初音が弾き飛ばされる。直後、上空から一夏が急降下、唐竹の一閃を見舞う。速さと重さを兼ね備えた一太刀だが、その動きは直線的な落下だ。未確認機は右腕のブレードを掲げることであっさりと受け止め――直後に一夏は僅かに手首を捻った。刃同士の接触部を支点に一夏の切っ先が天を向く。バーニアによる姿勢制御を補助として、未確認機の刀身に滑らせるように刀身を立てた一夏は殆ど減速をしないまま着地、ブレードを構えたことによりがら空きとなった未確認機の胴を間合いに捉えた。

 好機(ワンチャン)と見るや考えるよりも先に体が動く。身に沁みついた動きは一切の無駄を省いた横薙ぎ一閃を放つ。だが未確認機もしぶとく抵抗を試みる。空いた左腕が己を抱くように回しこまれ頑強な方針が盾となり一閃を防ぐ。そのまま左腕を振るいぬき一夏を弾き飛ばす算段なのだろうが流石に動きも読めてきている。刀身越しに未確認機の左腕に力が込められたと感じるや否やバックステップとブースターの瞬間噴射で距離を取る。未確認機は一夏が離れたと見るや即座に左腕を振りアリーナ壁際まで吹き飛ばされた初音に砲門を向ける。

 

「先輩!」

 

 一夏が思わず警告の声を上げるが初音は既に動いていた。砲門から幾発もの火球が放たれる。纏うIS「紫電」は機体構成の下地(モデル)に白式が用いられている。故にその機動力は現時点での学園内に存在するISと比較しても見劣りしないものだ。速度を出し振り切ることに専念すれば無数に迫る火球の速射から逃れることは決して難しくはない。

 

「クソが!」

 

 思わず悪態をつきながら一夏は再び未確認機に斬りかかる。言うまでも無く砲撃の妨害をして初音を助けるためだ。

 迫る一夏に当然相手も反応する。だがやはり機動力では一夏に、白式に軍配が挙がる。未確認機の守りが整うよりも早く一夏の方が仕掛けた。踏み込んだ足は大地をしかと踏みしめて己を支えるアンカーとする。柄を握る右手、右腕に気力を充実させヒュッと鋭い吐息と共に刃を振るう。逆袈裟、間髪入れずに右薙ぎ、左袈裟、切り上げ、唐竹、一息の間に幾つもの太刀筋を重ねて波濤の如き斬撃を浴びせる。未確認機は寸でのところでブレードを守りに割り込ませてきたが遅い。十全に構えられていない以上、こちらの太刀筋が守りを弾き飛ばすのは確実――そう見込んでいた。

 

「……なに?」

 

 だがその目論見は外れることとなる。数秒の間に計十三太刀、ただひたすら守りに徹するか或いは一太刀一太刀全てに対処しきるだけの実力が無ければ間違いなく防御を食い破られる斬撃の連続、それを未確認機は受け切った。目論見が外れたことに一瞬目を見開き、次いでふと感じた違和感に思考を巡らせる。

 

(奴の防御(ガード)、確かに硬かったが硬すぎる。受けてる衝撃だって馬鹿にならねぇはずだが、構えが殆ど崩れてねぇ。背格好(スタイル)見るに剛力(パワータイプ)でもない。というか、まるで機械でロックしたみたいな……)

 

 反撃とばかりに繰り出された突きを受け流しながら一夏は身を捻り、勢いそのままに回転からの一太刀を浴びせる。振るった左腕で弾き返しながら再度迫ってきている初音に向けて火球を放つ。もう一つの違和感がこれ、向けられる攻撃の比率が初音に傾いている。先に落としやすそうな方を狙っているのか。だが実際のところ、相手にした時の体感は一夏と初音の間に大きな差は無い。むしろ元来備えた身体能力、剣術を長所とするもIS操縦の経験は未だ浅い方の一夏、IS操縦の経験は多くとも身体能力、剣術の腕で一夏にやや劣る初音。互いの長所短所が作用して丁度釣り合っていると言って良い。

 

(こいつは一体……)

 

 攻防の最中、今まで敢えて探究せずにいた相手の正体に思考の一部を割いた一夏は、自然と以前の記憶が掘り起こされるのを感じていた。そう、あれは確か数日前に姉と交わした言葉だ。

 

 ―――国家が開発してる新型機ってのは確実に、かは何とも言えないけど、連中に狙われる可能性が高いって認識で良いのかな―――

 

(まさかっ!)

 

 最初から狙い(エモノ)は初音、否、彼女が纏う"紫電"だとしたら納得がいく。背後関係までは分からない。乗り手すら不明なISを同時に何機も襲撃に用いる――浮かびかけた考えを無意識に封じながら一夏は警告を発しようとする。

 

「先パ――ガッ!?」

 

 一夏が狙いに感付いたことを察したのか、未確認機はスラスターを吹かし守りすら捨てながら一夏へと当身(タックル)を叩きつける。思考の方に意識が向いていたことに迂闊(シクッた)と己を叱咤するも、重量級の突撃を受けた一夏は大きく引き離れることを余儀なくされた。

 

「がら空きだ――」

 

 守りを捨てた未確認機に好機と見たか、初音が自身が最も頼りとする渾身の突きを叩き込もうと迫る。ダメだと声を挙げることより動くことを一夏は優先した。初音からは見えていないだろうが、未確認機の左腕、砲門の中に赤い光が妖しく輝いているのを一夏の視界は捉えていた。間違いなく最初にアリーナのシールドを破った一撃、あるいはそれに準ずるだろう大火力の一撃の準備だ。

 

 初音の突きが放たれる。未確認機は身を捻り躱そうとするも間に合わない。直撃こそ免れたものの、火花を散らしながらシールドを削る。ならばもう一撃と剣を引き戻そうとし、腕が動かないことに気が付いた。動かないのは腕では無い、握っている剣の方だ。未確認機は右の腕内に抱えるようにして初音の剣、その刀身を抑え込んでいた。刃が触れることでシールドが削られる火花を散らしながらも剣は微動だにしない。

 そしてこの瞬間に初音もようやく理解した。左腕の砲門がその内に赤い光を満たしながら自身に向けられている。

 

「あ――」

 

 小さく漏れた声はか細く、彼女がまだ少女に過ぎないことを示すようなものだった。

 

 ここまでか――

 

 思いのほか静かに納得した直後、衝撃と共に初音の視界がブレる。

 連続の瞬時加速で一夏が割り込んできていた。思わず柄を握っていた手も離し、初音は未確認機の斜線から弾き出される。

 入れ替わるように一夏が斜線に収まるのと同時に最大出力の砲撃が放たれ、一夏と白式は禍々しい真紅の閃光へと呑まれていった。

 

 

 




 安心して欲しい。ここで主役が死んだら話が終わってしまう。
 それはない。



 さて、気が付けばざっくり2年と4ヶ月くらい空けていました。
 その間にコロナのあれこれで世の中は大きく変わったなと。
 ISに掠るくらいでも関係することと言えば、当時シャルロットで萌え豚を大量増産した花澤香菜さんがご結婚されたりだとか。簪役の三森すずこさんもご結婚されたりとか。色々なブームが流行っては収束していき、本当に色々ありました。

 そんな中ではありますが、本作は相変わらずのノリでやっていこうと思います。
 強いて言いうならブッこむネタが変わっていくことくらい……
 早いもので来年の夏くらいにはこのハーメルンで本作を開始して10年、今時点ですらにじファン時代の執筆開始から10年経っています。

 作者である私……は独り身社畜が相変わらずですが、読者の皆様におかれては色々変わったところもあるかと。そんな中で本作は変わらない味でいこうと思います。進歩が無いとも言いますな。

 次の更新が何時になるかは私自身、皆目見当がつかないのですが、何とか頭から文章絞り出して何よりも更新する、これができれば良いなと思います。

 引き続き、一年365日24時間感想はウェルカムですので、一言でも頂ければ幸いです。
 それでは、また次回の折に。

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