無職無能の最強双剣士 ~圧倒的努力に勝る強さはない~ 作:虎上 神依
故郷の街が魔族に襲撃され、その街が地図から消えた日。
俺は生きる事を諦めて樹海へと足を踏み入れ、目論見通り魔獣に襲われて意識を失った。
だがその翌日――俺は一人見知らぬベッドの上で目を覚ました。
自分が生きていることに驚きを感じつつも俺は辺りをキョロキョロと見回す。
こじんまりとした家だったが何故かただならぬ雰囲気を醸し出していた、だかそれとは対称的に心を安らがせてくれるような暖かく包み込む優しさも感じ取れる。
自分の身体には昨日、魔獣や魔族に襲われて出来たと思われる軽傷が幾つか残っていた。しかし、それ以外の重度な傷は全て治っている。
一体誰が俺なんかを助けたんだ……? その時の俺はそう思った。
「目を覚ましたか、坊主」
ふと声のした方を向くとそこにはかなりガッシリとした体つきの男がタバコを咥えながら座っていた。見た目からして40年代半ばぐらいで体躯から分かるように相当な実力者だと俺は直ぐ様感じ取った。
「……おじさん、ここは?」
「会ってそうそうおじさん扱いか……。まあ、それぐらいの見た目ってこったな、仕方ねえ。坊主、ここはおじさんの家だ」
「おじさんの家……?」
「ああ、樹海『魔獣の巣』の中にひっそりと立っているおじさんの家だ」
その男は自慢げにそう言った。
当時の俺は信じられなかった、まさかこんな樹海の中で生きている人がいるなんて……。だが――窓の外から見渡せる木々の数々はここが樹海である事をしっかりと証明していた。
「で、坊主名前は?」
「……ゼルファ」
「ゼルファ・ガイアールだな?」
「……何で知っているの?」
「鑑定魔法は既に使ったさ、一応念の為呼び名が変わっていないか確認したまでだ」
俺はその男から目を逸らして俯いた。
本来であれば名字は名乗りたくなかった、知られたくなかった。
そう、あれを家族だと俺は認めたくなかったからだ。ゴミでも捨てるかのように自分を見捨てた親を――
「じゃあもう一つ聞くぜ? 坊主はどうしてこんな足を踏み入れる事すら恐れられている樹海に来たんだ? 流石に知ってるよな、この樹海の噂は」
「……その樹海に住んでいるおじさんの方がよっぽど不思議だよ」
「う、まぁそれは置いておくとして――、差し支えなければ答えてくれるかな?」
「……うん」
本来なら話したくなかった、だがこの人なら話してもいい気がしたのだ。
俺は今まで何があったかを全て話した、無職無能の事も、魔族の少女の事も。
その男は俺の話を静かに聞いてくれた。それだけでも俺の心は自然と安らぎ、不思議と涙が流れた。
「そっか、坊主……。そりゃ辛かったろうな」
その男は俺の頭を優しく撫でてくれた。
今まで人に撫でられた経験が殆どなかった俺はこの時初めて本当の愛情というものを理解した、様な気がした。
そう、今まで蔑まされてきた分、その男が優しく接してくれた事がとても嬉しかった。
「だったら坊主、これから死ぬ気でこの樹海で強くなっていかねぇか?」
「えっ……?」
「見返したいんだろ? 坊主を無職無能って笑ったやつを、だったら努力あるのみだ。幸いこの家には食材やポーションからあらゆる武器、防具まで基本全て揃っている。だが、その代わりこの樹海で生きるにはそれ相応のサバイバル力が必要だ。無論死にかけることだって何度もあるだろう。どうだ? こんな樹海で生きていく覚悟が坊主にはあるか?」
「…………」
「無理にとは言わんぞ、その時は近くの街まで送ってやろう」
俺は考えた。これはひょっとしたらとても素晴らしいチャンスなのではないかと。
強くなりたい、強くならなければならない。
俺は恨んでいた、自分の弱さを、臆病さを、無力さを――そのせいで俺の大切な人は死んでしまったのだから。
「強く……なりたい――ッ!!」
「よく言った!! ならば明日から剣術から体術、魔法なにやらまで叩き込んでやる。おっと無職だからって心配するこたぁねぇ、無職だって努力すりゃあ武器だって極められるし魔法だって使える。寧ろ、この世界努力していない人が多すぎているだけだ」
そしてその男は俺の頭をなでて言った。
「――改めてここで修行するか? ゼルファ」
「は、はい……ッ! お願いします、師匠ッ!!」
「ハッハッハ!! こいつは鍛えがいありそうだな、よしまずは俺についてこいッ!」
そう言って師匠は1階への階段を降りていった。俺は師匠の後ろをおっかなびっくり付いていく。
見たこともない素材から出来ているこの家は本当に興味深い事この上なかった、一体どうしたらこんな家が出来るのかもいつか知りたい。当時の俺はそんな事を思っていた。
師匠は1階に降りた後に一見何もない様に見える壁に手を当てて合言葉らしきものを言った、するとその壁が動き、なんと地下への階段が姿を現す。
「……弟子になった祝いだ、いいもの見せてやる」
師匠はそう言って階段を下っていく。
怪訝に思いながらも師匠に付いていくと――そこにはあり得ない光景が広がっていた。
螺旋階段を降りていくと途中から視界が広がった。
周りには無数の本が円形になるように並べられていて、その螺旋階段を囲うかのように出来た直径10メートル以上は有りそうな円形の本棚は高さ40メートル以上はある。
その10メートル毎に足場が付けられていて本を取りやすくしているのが見てわかった。
「す、凄い……、なにここ?」
「本来なら誰にも見せちゃいけねぇ場所だが、弟子の坊主は特別だ。――ここは『封印されし禁忌の図書室(アナザータブーライブラリー)』。過去から現在までの世界のあらゆる本がここに収められている」
「こ、こんな数一体どこから……?」
「新しい本ができればここの本も増えるという禁忌の魔法を使った仕組みだ。この図書館に無いものはない、故に物凄く広いのだ。因みにこの場所だって図書室の一部に過ぎん、地下には無限に本が広がっている」
「う、嘘でしょ……。凄い、凄すぎるよ、師匠ッ!」
「ハッハッハッ!! 今から坊主にでも読めそうな本や、魔術書がしまってある場所に案内してやろう。無論、ここの本はいつでも幾らでも読んでいいからな。ロックされている場所は除くが」
俺は歓喜で心が満たされていた。
こう見えても俺は大の本好き、よってこんな図書室を見て興奮しないわけがない。
その後、俺は師匠に案内されて『封印されし禁忌の図書室』を巡った。
恐ろしく広い場所だったが何とか地図を頭のなかに記憶する。
因みに師匠がこれは面白いと勧めた本はライトノベルという小さな小説本だったが当時の俺には全く内容はわからなかった。
このライトノベルという類の本に俺がハマったのは当時から数年後のことである。
「よし、ではあらかた図書室も紹介し終わったし。そろそろ特訓始めるか。ゼルファ、これから俺の技術やこの無限の本を利用して最強を目指すんだ。無職の限界を打ち破る挑戦をしようではないかっ!」
「はい、師匠っ!!」
こうして俺の最強を目指した樹海での生活が始まったのであった。