無職無能の最強双剣士 ~圧倒的努力に勝る強さはない~   作:虎上 神依

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Chapter2-39 勝利の祭

「勝った……のか?」

 

 インセンド爆散の余波がまだ静まらない内に聞こえたザーラの一言。

 俺はフッとため息をつき『オーバーテンション』を解除すると静かに剣を鞘に収めた。

 ようやく終わったのだ、恐らく世界最凶だったであろう人面蜘蛛との戦いが……今ファスタットの勝利という結果で幕を閉じたのだ。

 

「ああ、俺達の勝ちだな」

 

「――よっしゃああああああああっ!! 勝ったぞ、テメェらぁ!!」

 

「「「うおおおおおおおおっ!!!」」」

 

 至る所から冒険者、衛兵の歓声が聞こえてきた。

 俺達は遂に勝ったのだ。あのインセンドという悪魔に。

 心の底から喜びと燃え上がる気持ちが湧き出てきて『オーバーテンション』を解除したというのに俺は今までで一番熱くなっていた。

 全くとんでもない相手だったな、『超オーバーテンション』使わないと勝てない相手とかちょっとやり過ぎはしないか?

 だが、いい勉強になった。今度から敵と戦う時は予め『テンション』を溜めた状態で挑むとしよう。うん、そうしよう。

 ……って戦いの考察なんかどうでもいいか、今は――

 

「やったぁ――ッ! ゼルさんが勝ったぁ――ッ!」

 

「ああっ! やってやった――うぉっ!?」

 

 後ろを振り返った瞬間、ウルナに抱きつかれた俺は思わず驚きの声を上げてしまう。

 

「やった……、勝ったんだねっ! ゼルさんっ!」

 

「ちょっ、お前なあっ!! というか何でさも自分がやったかのように喜んでんだよ、この野郎っ!」

 

「アハハハッ!! だって、ゼルさんが勝ったんだもんっ!!」

 

 最高の笑顔を浮かべながら俺の顔を上目遣いで見ているウルナ、そんな彼女を見て俺はニカッと笑った。

 ――インセンドの戦いで俺が再度立ち上がって前を向けたのも、最後の渾身の一撃も全て彼女の力あってこその結果だ。

 それに……、皆が3分間時間を稼いでくれなければ俺は勝てなかった。

 だからこの勝利は、戦いに参加したファスタットの冒険者、衛兵全員で勝ち取ったものだ。

 皆で協力して得た勝利――これ以上に清々しく爽快で気持ちのよい物はないだろう。

 

「オラも混ぜて欲しいんだぞっ!」

 

「はぁ!? ちょっ、お前何して――」

 

 人間の姿となったフェンが俺の背中に飛び乗ってきて一瞬呼吸が止まる。

 だが――それだけで、この喜びの嵐は終わらなかった。

 

「さあさあテメェら、この街を命懸けで救ったクソ無職を胴上げするぞッ!!」

 

「「「へっへっへっ、待ってましたぁ!」」」

 

「えっ、ちょっと待て待て待てっ! 何する気だっ!!」

 

「あぁ? 勝った祝いに胴上げするって言ってんだよッ! クソ無職ゼルファ、覚悟しやがれッ!」

 

「オラも手伝うぞっ!」

 

「おいっ、ザーラっ! フェンっ! 止めろって!」

 

 しかし、抵抗する間もなく俺はザーラ軍団達に担がれると空高く胴上げされた。

 ――生まれて初めての感覚。胴上げされる喜びと下から聞こえる「わっしょい、わっしょい」の掛け声をしっかりと噛みしめる。

 もう既に明るくなりかけている空、それはまさしく闇を照らす光で俺らの勝利を祝っているかのように感じられた。

 

 

 

 

 

 

 

 《Point of view : Anna》

 

「ようやく肩の荷が降りた感じね……」

 

「ああ、そうだな」

 

 ザーラ軍団を中心として皆に胴上げされているゼルファを眺めながら私とカゲヨは言った。

 いつの間にか人間の姿となった神獣フェンリル――フェンと呼ばれている――やウルナ、そして一番関係ないであろうザイルまで胴上げされている始末だ。

 それは丸でこれからファスタットの街で始まるであろう宴と馬鹿騒ぎの開始の合図のようだった。

 

 私も皆と同じでとても嬉しかった……、だがここで衛兵団長が馬鹿騒ぎするのは何だか場に合わないような気がする。

 そんなこんなで私は10分前から行われているこの謎極まりない胴上げ祭りを傍から見ていた。

 

「実を言うとアタシ、あの人面蜘蛛と対峙した瞬間に諦めかけちゃったんだよな。あんな悍ましい奴に勝てるわけがないって――」

 

「そうね……、推奨レベル不明。こんな敵は恐らく世界でも初めてよ」

 

「でも――まさか勝っちまうとはねぇ、やっぱりゼルファは化け物だわ」

 

「ふふっ、彼の化け物っぷりは今に始まったことじゃないでしょ? それに――彼があそこまで苦戦する事に衝撃を受けたわ、あの顔面土砂物の赤黒カマキリに」

 

「カマキリ――クッ、アハハハッ!! だよな、アイツ蜘蛛というよりもカマキリだもんなッ!」

 

 既にいなくなった敵に対してシレッと悪口をすらすらならべる私に対してカゲヨは大笑いしていた。

 私の悪口癖は我ながら相変わらずだ、特に今回のようないつも以上に緊張や恐怖などでストレスが溜まるような敵に対しては容赦するつもりはない。

 本来ならここでストレス発散がてら悪口大会を開くのだが――それ以前に私はある事にとてつもなく惹かれていた。

 

「……それよりも早くモフりたい」

 

「アハハハ――――ハァッ?」

 

「今私はかつてない程にゼルファさんの獣耳を触りたい衝動に駆られています。ああ……、触りたい、今すぐにでも触りたい、触れなかったら死ねる」

 

 私はゼルファを見ながら今にも昇天しそうな幸福顔で手を組みつつ空に向かって祈った。

 何を祈っているかは、最早言うまでもない。何故なら私はこの街、屈指の獣人好きであり動物や魔獣をモフるのが大好きなモフリストであるからだ。

 カゲヨからは獣人キチガイやら獣人フェチやらと呼ばれているが別にそんな事はない、ただ純粋に獣人が好きなのだ。特にあの耳は溜まらない……っ!

 最近は亜人を奴隷にする街や国が増えてきているが、無論私はそれに対して強い反発心を抱いている。

 何故あんなに可愛い人達が奴隷にされなければいけないのだろうか、頭がどうかしているのではないだろうか? 魔族と少し関わりがあるというだけで大袈裟過ぎると思う。

 

「あぁ――、ゼルファの事だし何度か本気で頼み込めば触らしてくれるんじゃねぇか? ……というかゼルファの奴いつまで獣人でいるつもりなんだ?」

 

「願わくば一生あのままで」

 

「……そりゃねぇと思うけどな」

 

「確かにそりゃねぇと俺も思うな」

 

「そうだな……、ん? ザーラっ!?」

 

 突如隣に腕を組みながら現れたザーラにカゲヨは驚嘆する。

 

「さて――カゲヨ、アンナ。テメェらも胴上げだが覚悟できてるだろうなぁ?」

 

 ザーラは不敵に笑いながらそう言った。

 これは――チャンスッ!!

 

「いいでしょう、では出来れば獣人ゼルファさんの隣で」

 

「あ、アンナ……、アンタねぇ」

 

 ……一体何が悪いというの、獣人好きとして当たり前のことでしょう?

 

「……というか、ザーラ。あ、アタシもなのか?」

 

「当たり前だろ? さあ我がザーラ軍団ッ! カゲヨとアンナを連行したまえッ!」

 

「「「うっすッ!!」」」

 

「ちょっ、はぁ!? 待て待て、おーいっ!!」

 

 こうして私とカゲヨも抵抗する間もなくあっさりとザーラ軍団によって胴上げ祭りに強制参加させられる事となった。


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