無職無能の最強双剣士 ~圧倒的努力に勝る強さはない~   作:虎上 神依

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Chapter2-36 決戦 VS激昂魔将インセンド 中編

『クッ……、ゲハハハハッ!! 遂にノコノコと現れたな、ウルナ・ホメイロォッ!!』

 

 怒りで醜悪な表情に歪んだ顔を更に歪ませんながらインセンドは怒号を上げた。

 

「ウルナ……、どうして――?」

 

 なぜ彼女がここにいるか、どうして逃げなくてはいけない彼女がここまで戻ってきたのか理解できず、唖然としながらウルナとインセンドが対峙するその光景を眺めていた。

 

『感謝するぞ、わざわざ捕まりに来てくれてッ! おかげさまで探す手間が省けた。さて、その肢体をバラバラにしてでも貴様をあの方の元へ強制連行してやるッ!!』

 

 インセンドが再び前足を振りかぶり、鎌の刃に魔力を集中させ始めた――その瞬間だった。

 突如現れた一筋の閃光が電光石火の早業で鎌を受け止め、黄色い火花を散らせた。

 

 

『な、なにぃッ!?』

 

 

「どうだい? オラのホーリー・ジャスティス・クロウを食らった感想はっ! サンクチュアリィ・ノヴァッ、正義執行じゃあっ!」

 

 厨二病全開の格好をした白髪の少年が魔力で創造した聖光を放つ爪でインセンドの鎌を受け止めていた。

 そして次の瞬間――少年の爪からまばゆい光が炸裂し、生み出された衝撃波がインセンドの巨体を軽々しく押し退けた。

 

「フェンッ!?」

 

「待たせたんだぞっ、ゼルファ! ウルナ――、オラが今からインセンドと戦って出来る限りスタリングするから回復頼んだぞッ! 何としても、彼らが到着するまでホールドアウトゥッ!!」

 

「……大体分かったわッ!」

 

 フェンは、眼帯を付けた右目を抑えながらインセンドを睨みつけた。

 

「疼くぞっ、この聖気眼が邪悪なる力に呼応して疼いているっ! さぁ、ゼルファの次はオラが相手だっ! 聖なる炎に焼かれて――死ぬがいいっ!」

 

『黙れぇ、このクソガキがぁ!! 今すぐにその肢体、骨、臓器諸共全て八つ裂きにしてくれるッ!!』

 

 フェンの右掌から放たれた光り輝く聖火とインセンドの口から砲撃された毒々しい色を帯びた魔弾が衝突し、爆風を撒き散らす。

 その隙にウルナは俺を戦闘の影響が及ばない離れた所まで引きずると俺の傷に手を当てて治癒魔法を詠唱した。

 

「待ってて下さい、今すぐに治しますからっ!」

 

「なんで来た――」

 

「はい……?」

 

「なんでここに来たんだ? 言ったはずだぞ、逃げろって――」

 

 先程までとは違って迷いが見られない真剣な面持ちで一生懸命両手に魔力を集め、傷を癒やすウルナに俺は質問した。

 

「じゃあ逆に聞きますが、なんで勝機があるかどうかも分からない悍ましい敵に一人で挑むような無茶をしたんですか?」

 

「あの状況で俺以外にファスタットを滅ぼそうとしている奴を止めることの出来る可能性がある者がいなかった、だから――」

 

「だから……命と引き換えに街を守ろうとしたんですか? 自分の身を犠牲にしてでも私を助けようとしたんですか? 衰弱している冒険者達を巻き込まないようにあの場所で戦ったんですか?」

 

 ウルナは美しく端麗な顔を歪ませて俺の顔を見た、彼女の涙袋は膨らんでいて今にも泣き出しそうな表情だった。

 

「ああ――そうだ。奴がファスタットに到達すれば大量の死傷者が出る、だか俺が戦えば多くて俺の命だけで済む」

 

 既にインセンドと俺に仕込んだ自分の死と引き換えに奴を道連れにする魔法の術式を感じながら言った。

 

 いざという時は躊躇なく発動するつもりだった。仲間、知り合い、街の人々の命と自分の命を天秤にかけて考えても答えは明らかである。

 元より覚悟は決まっていたのだ、勝てる可能性が少しでも残されていたから諦めなかった。

 

 だがもしもの場合――

 南と西が海に面しているファスタットに逃げ道なんてほぼ存在しない、船という手段があっても街の人全員が乗れるわけではない。つまり――奴がこの街に侵入した時点で誰かが確実に死ぬこととなる。だから――もし勝てなかったら死んででも奴を倒そうとしていた。

 

「俺の命だけって――じゃあ、ゼルさんは考えましたか? もし、自分を守ってくれる大切な人が自分を庇って敵に殺されたとしてその庇われた人がどんな気持ちになるか、今後その人がどんな闇を抱えるようになるか!!」

 

「……俺なんかが死んだ所で悲しむ奴なんてたかが知れているだろ――」

 

「ふざけないでッ!!」

 

 

 ――乾いた音が俺の耳に響いた。

 頬を中心として一瞬で広がる痛みに、思わず叩かれた頬を手で押さえる。

 ウルナの突然の行為に俺は唖然とする事しか出来なかった。

 

 

「ゼルさんが死んだら……、私は……、私はどうすればいいんですかッ!? 唯でさえ、一度大切な人を失っているのにっ!!」

 

 

 彼女は治癒魔法を片手でかけつづけながらも頬を伝う大粒の涙を拭った。

 

 

 

「確かにゼルさんが私を守ってくれることに関して、私はいつも感謝していますし、助けられた時は凄く嬉しいですよ? でも――命と失ってまで庇われたくないッ! もう、守られるだけの存在は嫌なんですッ!!」

 

「――――ッ!!」

 

 

 

 俺の顔を見ながら泣きじゃくるウルナ。そんな彼女にかける言葉が思いつかなかった。

 今まであっただろうか? ――ウルナの気持ちをしっかりと考えたことが。

 彼女がどんな状況でどのように考えるか、俺は考えていただろうか……?

 

 

「グァッ――――!!」

 

 

 突如――身体中に傷を負ったフェンが俺の横に転がってくる。その様子からしてかなり深刻な状況のようだ。

 

 

「くっ……、こいつ強すぎるんだぞっ!!」

 

 

『ゲハハハハッ!! 無力、無力、無力無力無力無力無力ッ!! 絶望的に無力過ぎるッ!!』

 

 

 インセンドが残酷な笑みを浮かべながらゆっくりとこちらに近づいてくる。

 俺はまだ動くことが出来ない、ウルナは治癒魔法を俺にかけている最中、フェンは重症――これは詰んだか?

 

 

『どうだぁ? 絶望の縁に立たされた気分は』

 

 

「絶望? ふふっ、笑わせないで下さい。私たちはまだ諦めてなんかいませんよ」

 

 

『――ッ!? 貴様……、もう一回言ってみろ』

 

 

「だからまだ諦めてなんかいませんから、絶望するにはまだ早すぎる」

 

 

『ウルナ……、もう――怒ったぞッ!! 殺してやるっ、殺してやるぅっ!!』

 

 

 既にスタンバイされていた、前足の鎌をインセンドは怒りに任せてウルナと俺の頭上に振り落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが――

 

「破空連突ッ!!」

 

「袈裟斬りッ!!」

 

「闇斬りぃ! ヒャッハーッ!!」

 

 疾風の如く現れた3人がインセンドが振り落とさんとした鎌に向かって斬りかかり、拮抗させる。

 暫く互いにせめぎ合った後に両者共弾かれ合い、インセンドは衝撃を弱めるため後ろに飛び退いた。

 

 

「うわー、こりゃ気持ち悪いわぁ……」

 

「こりゃ、幾ら士気が上がっている状態とは言え、いざ目の前にすると何故か力が漲って震えちゃうな。怖くは無いんだが……」

 

「カゲヨ、それは武者震いというのよ」

 

 

「ザイル、カゲヨ、アンナッ!!」

 

 眼の前に現れた3人を見上げると俺は何か不思議な温かい感覚に襲われ、身震いする。

 

 だが、それだけではなかった。

 俺がどうして3人がここに来たかを聞くよりも早く、複数の人間が放つ咆哮が耳に響いてきた。

 その数は100人、いや100人どころではなかった。

 少なくとも300人はいるであろう人間の大群が猛々しい叫び声を上げながら驚愕の表情で固まっているインセンドに立ち向かっていたのだ。

 

 

「こ、これは――ッ!?」

 

 

「一人で勝てないなら、皆で戦えばいいのよゼルさんっ!」

 

 

「ウルナさんが無我夢中で撤退しかけていた冒険者達に呼びかけて集めたんですよ、まだゼルファさんが一人で戦っているってね」

 

 

 この数の冒険者をウルナが……?

 全ての事情を理解した瞬間――全身を駆け巡るような喜びと感動に俺は思わず苦笑してしまった。

 ――ここに来たってことはあの蜘蛛軍団も倒したんだろ……? 全くとんだ無茶をしてくれたもんだぜ。

 ウルナの魔法を経て傷を半分ほど回復させた俺が起き上がろうとしたその時だった。

 

 

「あぁッ!! こんな所にいやがったかクソ無職ッ!!」

 

 

「ザーラッ!?」

 

 

 特徴的なドスの効いた低い声に俺は飛び起き、周りを見渡す。すると俺の後ろにザーラが腰に手を当てて怒りを露わにしながら立っていた。

 次の瞬間――ザーラはウルナの治癒魔法によって傷を回復したばかりの俺の胸ぐらを掴んだ。

 

「おい、テメェ!! この街のアイドル、ウルナちゃんを泣かせるとは何様のつもりだぁ!!」

 

「は、はぁ――!?」

 

「事情は聞かせてもらったぞクソ無職ッ! なんかよく分からない石使ってファスタットまで彼女の有無も聞かずにワープさせたらしいなぁ! そんでもって自分の命と引き換えに街を守ろうとか、調子乗ってんじゃねぇ!!」

 

 そして彼からは考えられない程の優しさで俺の胸ぐらを離した後、ザーラは右手でサムズアップし――ひっくり返した。

 

「例え街が守られたとして、テメェが一人で強敵挑んで死なれても誰も喜ばねぇんだよッ!! そこんところ分かってんのかぁ?」

 

「「「そ~だ、そ~だッ!!」」」

 

 ザーラの後ろにいる如何にも悪そうな奴らもサムズアップをひっくり返し、ブーイングを始めた。

 

「……こんな時に何だお前ら」

 

「つまりあれだ、俺はお前に人の強さは職業やユニークスキルで決まるものではないことを教えられた。だから――今度は俺がお前に仲間の定義を教えてやろうと思ってな」

 

 ザーラはブーイングサインを下ろすと再び腰に手を当てていった。

 

「仲間ってのは守るものの事を言うんじゃねぇ、互いに信じあう事のできる関係を言うんだ。互いを信用して初めて真の仲間になれる。ただただ守っているだけじゃそれは仲間とは言わねぇ、そりゃ用心棒のやっていることと全く同じだ。今のお前は一匹狼過ぎるんだよ、もう少し俺達冒険者を頼れってんだ」

 

「ザーラ……、お前いつからそんな良い奴になったんだ?」

 

「元々から善者だバーカァ!!」

 

「「「そ~だ、そ~だッ!!」」」

 

 再びブーイングの嵐が発生するが無視して沢山の冒険者と戦っているインセンドを見やる。

 彼らとインセンドのレベル差は言うまでもなく明らかだ。だがインセンドは冒険者達の勢いに押されて、かなり苦戦していた。

 鎌はタンクと高レベル者が束になって防ぎ、発射される光線は何重にも張られたバリアによって防いでいた。

 もう少し冒険者達を頼れ……か。

 確かに――これならいけるかもしれないッ!

 

 

「皆ぁ!! 聞いてくれぇ!!」

 

 

 俺はインセンドと戦う冒険者達に向かって叫んだ。

 

 

「3分だッ!! 3分、時間を稼いでくれぇ!! そうすれば――、奴を倒せる勝機があるッ!!」

 

 

 今までに無いくらい士気を上げて強大な敵に挑む冒険者達が皆、各々に頷いて、雄叫びを上げた。

 嬉しかった――心の底から燃え上がってくる歓喜が全神経を伝って全身を駆け巡り、奥から無限の力が湧き上がってくるようだった。

 

「聞いたか、皆の者ッ!! 今から3分間、ゼルファを奴の手から守るんだッ!! 今まで一人で戦ってきた彼の勇姿に応えてッ!!」

 

「「「「オオオォォォォッ!!!!」」」」

 

 アンナの掛け声に応えて、冒険者達は咆哮を上げ、各々の武器を構えながらインセンドに立ち向かう。

 

 

 

「頼んだぞッ!! ハアアァァァ――――」

 

 

 

 俺は地面に巨大な魔法陣を描き強制的に『テンション』を溜めるプロセスに入った。


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