無職無能の最強双剣士 ~圧倒的努力に勝る強さはない~   作:虎上 神依

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Chapter2-35 決戦 VS激昂魔将インセンド 前編

 ファスタットから北に数km進み、草原を抜けた先にある森の中にそびえ立つ大きく高い崖、その麓で俺とインセンドの激闘が繰り広げられていた。

 幾度に渡ってぶつかり合う強大な力によって平らだった地面は大きく抉れ、ヒビが無数に入り、周りの木は殆ど薙ぎ倒されていた。

 

 

『デス・ポイズンサイズ――ッ!!』

 

 

 致死毒と魔力を纏ったインセンドの鎌による斬撃が空をシュッと斬る。

 紅紫色の衝撃波が俺に向けて放たれ、音速をも上回るスピードで地面に亀裂を入れながら襲い掛かってくる。

 

 刹那の判断――、俺は凍てつく覇気を纏った刀を斜めに振り下ろし衝撃波諸共周囲を凍りつかせる。

 水色の波動が冷気を生み出し、抉れた地面や岩、木を一瞬にして氷の彫刻へと変化させながらインセンドに襲いかかる。

 だが、インセンドは激怒の色で染まった顔で歯ぎしりしながらも黒の反魔法を展開し、凍てつく波動を弾き返す。

 

「へぇ、今の攻撃をあっさり防ぐか」

 

『ゲハハハハッ! この程度の攻撃で俺を倒せると思うなよ?』

 

 夥しい瘴気を放ちつつも奴曰く――黒の虚無から生み出された黒い魔弾を宙に創造し、俺に向けて砲撃する。

 あのウルナの漆黒の魔弾連射魔法よりも遥かに上回る威力と数でどの属性かも判別不可能な魔弾が不協和音を奏でながらマシンガンの如く、空を貫く。

 

 属性不明とか――マジ訳分かんねぇんだよッ!

 どんだけこの世界の常識を覆せば気が済むんだこいつは。

 

 溢れる程の魔力を双剣に注ぎ込みつつ、出せる限りの全力で剣を振るった。

 緑色の風魔法を纏いしブレードから放たれた空を切る斬撃は宙を突き進む魔弾を一刀両断しつつも竜巻を生み、地面を揺るがす。

 

 しかし魔弾は竜巻など物ともせず容赦なく俺の肉を削ろうと飢えた獣のように大気を突き進み襲いかかる。

 俺は竜巻を生み出した初撃の勢いを保ったまま脳の回路が悲鳴を上げるぐらいに剣を振り回し、俺に当たりそうな魔弾を一つ残らず斬り裂いた。

 

「はぁ……、はぁ……、見たこともない姿、見たこともない属性の魔力、そしてこの世界には見合わないほどの力、オーラ、覇気、全部何もかも逸脱している、……一体どこから何しに来たってんだ」

 

『クックックッ、俺の目的はこの世界を乗っ取り、支配すること――それ以上も以下もない』

 

「はぁ、はぁ――下らねぇ。そんな自分勝手な理由でお前らは生きる者を殺し、絶望に陥れるのか?」

 

『ゲハ、ゲハハハハッ! そうさ、俺らが求めるのは他者の絶望、絶望こそ格別の甘味だッ! 有を無にする時の快感――、想像するだけでも激怒するぜぇ! ゲハハハハッ!!』

 

 笑いながらも振られるインセンドの鎌から放たれる斬撃の衝撃波を避けつつも、俺はインセンドの周囲を旋回し始める。

 

 

 ――悪だ、紛うことなき悪だ。

 人の絶望を傍からみて喜ぶような奴でここまで腐った野郎はいないだろう。

 

 インセンドは世界を乗っ取り、支配する事が目的と言っていたが――それは恐らく誰もが推測できない程の深い意味を持っている。

『真実』を知る権利――、俺が持つその権利により知った一つの事実が彼の目的の真意を示している。

 恐らく残された謎とこの世界の存在意義を知った瞬間――俺は最後の結論に辿り着くことが出来るだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 本来であれば鑑定失敗とだけ表示されるはずだった。

 だが極める所まで極めつくした俺の鑑定魔法は奴の情報をこう提示した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――【鑑定不可。対象の生物はこの世界のデータに存在しない物です】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これらの文字列が意味する事。

 それは奴こそ――俺が探し求めているものの鍵を握る種族、即ち俺が本当に倒さなければいけない『第三の敵』である事を示していた。

 まだ分からないことは多い、だが奴がこの世界に来て征服行動を起こした時点で奴らが俺らにとって何者であるかは想像がつく。

 

 だから――奴にファスタットを滅ぼさせる事とウルナの身柄を奪われる事は何としても防がなければならない。

 下手したらこの街や世界だけでなく――世界を超越する何かまでも全て奴らの手に落ちる。

 それだけは絶対に防がなければならないッ!!

 

 

「エクステンドスラッシュッ!!」

 

 

『虚無の死鎌ッ!!』

 

 

 俺とインセンドの攻撃が交差しあい、凄まじい覇気と突風が周囲の何もかもを吹き飛ばした。

 両者の斬撃は激突した後に拮抗、だがそれは一瞬のことで――不可解なエネルギーによって俺はインセンドの凶悪な鎌に弾き飛ばされた。

 

「――ッ!?」

 

 直ぐ様受け身を取ろうとするものの、身体に力が入らず地面を転がった。

 鈍い痛みが突き刺すように駆けめぐり、見ると左肩から右横腹に掛けて太く深い斬り傷が刻み込まれていて、そこから鮮血が湧き水のごとく流れ出ていた。

 

「ガッ……、く、くそぉ……、力が入らねぇっ! だが……、まだだッ!」

 

 痛みで力が入らなくとも足元がおぼつかない状態でも俺は剣を地面に突き刺すとゆっくりと立ち上がった。

 全身から血が流れ出ているがそんな事を気にしている場合ではない……、自己再生能力が少しずつ俺の身体を治しているのを噛み締めながらも剣を構えた。

 

『ゲハハハハハハッ!! 愉快ッ、実に愉快だぁッ!! その顔が絶望に染まる瞬間が楽しみで仕方がないぞぉッ!!』

 

 再びインセンドの凶悪な両腕の鎌が俺に向けて振り下ろされた。

 全力でその鎌を受け止めようとするものの、力の差は明らかだった――俺はあっさり押し切られ、再びその鎌によって身体を切裂いた。

 意識が遠のきそうになりながらも再び全身を地面に強打して転がった。

 最早、起き上がる力すら残されていない。だが俺は最後まで諦めようとしなかった。

 

 右掌をインセンドに向けて無詠唱でフレイムショットを発動する。

 極太の火の光線がインセンドの鎌に直撃し、インセンドの巨体ごと遠くへとふっ飛ばした。

 だが決定打に欠けるその魔法はインセンドの体力を少し削る程度で収まる。

 

 

『クックッ、最後まで足掻くか……。だが無駄なことよ、その圧倒的な無力、絶望的な無力を痛感するが良いッ!!』

 

 

 インセンドは前足を頭上に掲げ、膨大な魔力を集中させ始めた。

 俺を絶望へと陥れようとする強大な一撃が今放たれようとしていた。

 

 

 ――あの魔法を食らえば、今度こそ確実に死ぬ。避けることは不可能。ならば……、奴を巻き込んで自爆するのみ。

 

 

 

 

『無の勾玉――ッ!!!』

 

 

 

 

 正体不明の魔力によるあらゆる色彩を塗りつぶした様な虚無が俺に襲い掛かってきた。

 俺は左手に持つ刀を己の心臓に向け、突き刺そうとした。

 

 

 

 だが――その矢先、虚無の光線はどこからともなく飛んできた邪悪なオーラを纏った巨大な漆黒の邪槍に防がれた。

 

 虚無の漆黒と邪悪なる漆黒がインセンドと俺の中央で激しくぶつかり合い、拮抗した。

 凄まじい速度で回転する黒槍はその虚無ですらも破壊し始め、黒に塗りつぶされた膨大な流線を徐々に飲み込んでいく。

 

 

 

 その果て――

 

 

 

 凄まじい衝撃波を伴って漆黒の爆発が巻き起こり、インセンドと俺を吹き飛ばした。

 だが――俺は虚空を虚しく舞った後に何者かにぶつかり、支えられた。

 頭に弾力のある柔らかい感触が伝わり、仄かな甘い香りが俺の鼻をくすぐる。

 そして背中を何者かの小さな手に支えられて、俺は無事どこも叩きつけることなく受け止められたのだ。

 

 何者かに優しく地面に下ろされた俺は先程伝わってきた頭の感触に少し驚きつつ、静かにその何者かの方を向いた。

 

 

 

 

「ウルナ――?」

 

 

「助けに来ました、ゼルさんッ!」


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