無職無能の最強双剣士 ~圧倒的努力に勝る強さはない~   作:虎上 神依

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Chapter1-4 異端者

「さ……、さ、さささささ――ッ!!」

 

「ちゃんとした言葉を話そうな、ウルナ」

 

「だ、だ、だって……、さ、さそ、サソリがぁ!!」

 

 ウルナはベッドの影でプルプル震えながら首を傾げているチビミをビシッと指差して言った。

 

「安心しろ、ミスリルスコーピオンのチビミは俺の従魔だ」

 

「はい、貴方に危害を加えるつもりはナイデス」

 

「じゅ、従魔っ!? 何それ!? 魔獣が人に懐くなんて聞いたことが……しかも喋ってるし」

 

「コイツはだな、俺のエクストラスキル『魔獣召喚』によるものだ」

 

「魔獣召喚!?」

 

 ウルナはベッドの影がひょっこりと顔を出しながら訪ねた。

 俺はそんな彼女にも分かるようにそのスキルを解説する。

 因みにエクストラスキルというのはユニークスキルとは違って職業など関係なしにレベルに応じて手に入るスキルの事を言う。

 それで、一般的にエクストラスキルは大体レベル100毎に一つ手に入ると言われているがこの『魔獣召喚』は例外的に俺がレベル20に到達した時に手に入れたものである。

 だから実質、このスキルが俺のユニークスキルみたいなものなのだ。

 

「『魔獣召喚』は契約した魔獣をいつ、どんな時でも召喚することの出来る凄いスキルだ。因みに契約した魔獣は一部を除いてこのチビミの様に言語を喋るほどまで知能指数が上昇して一緒に暮らすことが出来る様になる。まあ、契約するためには力を見せつけるとか仲良くなるとか色々な努力が必要だがな」

 

「な、何なんですかそのとんでもスキルは――というかそれってユニークスキルじゃないんですか?」

 

「……残念ながら違うんだよな」

 

「ご主人様は紛いもない無職無能ですカラ」

 

「えっ……?」

 

 ウルナは驚いたかのように目を見開きながら俺を見た。

 

「お、おいチビミッ! 何言ってんだよ!」

 

「ですが、どちらにせよいつか言わなければいけないことでショウ?」

 

「……、そうだけどさ」

 

 チッ、まさかこうも早く無職無能である事を知られてしまうとはな……。

 今の発言はよしてもらいたかったぞチビミ……。

 

「……、ゼルさん、本当に無職無能なの?」

 

「……ああ、そうだよ」

 

 辺りに微妙な雰囲気が漂った。

 それもそうか……、やっぱり無職無能の扱いなんてそんな物だよね……。

 

「――それはそうと、ご主人様ッ! 大変デスヨ!!」

 

「……、何が?」

 

「窓の外を見て下さイ!!」

 

 俺はチビミに言われるがままに窓の外を見る。

 ――なんか凄くでかいサイクロプスがのっしのっしと身体を揺らしながらコチラに近づいてきていた。

 

「な、な、な、何ですかあれは!!」

 

「あのデカさ……、ギガントサイクロプスかな」

 

「そ、そんなこと言っている場合じゃないですよ! このままだとこの家潰されてしまいます」

 

「だろうな」

 

「だろうなって……、ともかくゼルさんは下がっていて下さい私が倒します!」

 

 そう言ってウルナは俺が壁に立て掛けておいた彼女の両手杖を取ると寝起きとは思えぬ速さで階段を駆け下りていった。

 俺とチビミはその後に続くかのように彼女の後を追う。

 

「う、ウルナ! 倒すって、自信あるのか?」

 

「自信なんてありません! でも、この状況やるしかないじゃないでしょ! 大丈夫です、任せて下さい。こう見えても私、『大賢者』ですから」

 

 そう言って彼女は可愛らしくサムズアップした。

 なるほど……、大賢者だったのか。道理で相当強そうなオーラを彼女から感じた訳だ。

 だがそれ以前に――

 

「君は――俺を守ろうとするのか? 俺は無職無能だぞ?」

 

「当たり前よ! いくら無能でも貴方だって一人の人間でしょ!? それに私には貴方に助けられた恩もありますから!」

 

「なるほどな……」

 

 俺は人を守るため真剣にそのサイクロプスに立ち向かおうとしている少女を見て静かに微笑む。

 ――いるんだな、無職無能を差別せずに守ろうとする人も。中々面白いじゃないか。

 

 だけど……、その俺にとっては嬉しい勘違いも程々にして欲しいところだな。

 

 俺達が家を出る頃には既にソイツは家の前まで歩を進めていた。

 10メートルはある巨大なサイクロプスがニヤニヤと笑いながら一つ目をギョロつかせ俺らをジロジロと見ている。

 

 

「グオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

 

 

 巨人は俺らを威嚇するかのように咆哮を上げた、そして右手で大きな棍棒を振り上げるような仕草をする。

 

「お、大きい……。でもやらなきゃっ!!」

 

 そう言うと彼女は数歩前に出て両手杖を左手に持ちながら杖の柄に魔力を込め始めた。

 どうせ威力の高い火魔法でも放つのだろうと家の扉の前でチビミと見守っていた俺は次の瞬間言葉を失う。

 

 彼女の右掌から出現したのは火でもない、水でも、はたまた風でも、雷でもない。

 

 

 

 それは漆黒の球体だった。

 

 黒い稲光を迸らせる邪悪なエネルギーの塊だった。

 その球体は彼女が魔力を込めるに連れてグングンと大きくなっていく。

 

「ご、ご主人様……、あれって――」

 

「あ、ああ。間違いねぇな、まさか本物を見ることになるとは――」

 

 俺はその魔法に覚えがある。

 そうそれは間違いなく禁断の魔術書に書いてあって特定の人しか取得することのできないそれ・・だった。

 俺の記憶が正しければその魔法の名は――

 

 

 

 

『邪魔法』

 

 

 

 

「漆黒の魔弾よ、全てを破壊しなさいッ!!」

 

 詠唱を終えた彼女の杖先からそれは発射された。

 漆黒の球がサイクロプス目掛けて一直線に飛んで行った。

 

 それはサイクロプスの腹に直撃すると減速するどころか何事も無かったかのようにサイクロプスを押し返しながら森の中へと飛んでいった。

 森の巨木をメキメキと折りながらサイクロプスはその漆黒の魔弾を止めようと藻掻いているのが見て伺える。

 

 そして刹那――黒い巨大な爆発が起こり、凄まじい黒煙が舞い上がる。

 

「すっげえー……」

 

「でしょでしょっ! このレベル88の大賢者ウルナ様に掛かればあんな巨人どうってことないわよ!!」

 

 両手杖を背中に背負うと少女は腰に手を当て、可愛らしいドヤ顔をしながら高らかに笑った。

 何というか――美少女って何しても可愛いんだね、すごいすごい。

 

「ああ、まさかいとも容易く邪魔法を扱うやつがいるとは思わなかったぞ……。感動した。」

 

 邪魔法――それはあまりにも強力な故神々が封印したと言われる禁忌の魔法だ。

 その魔法は物を創り出す聖魔法と相対するもので周囲の魔素を操り、邪悪なる破壊の力を生み出す。その破壊の力は結界や反魔法ですら効くか怪しいと言われているほどだ。

 一般人であれば暴走を招くことにもなりかねない禁忌の魔法だ、それを何気なく使うのは最早常人のそれを凌駕していると言わざるをえない。

 

「――知ってたの? この魔法が邪魔法だって……。」

 

「無論知っていたさ。こう見えても俺知的だからな。」

 

 ふっ、と俺は笑った。

 確かにこれはいいものが見れたかもしれないな、だが――

 

 

「グオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

 

 

 サイクロプスは再び起き上がり、怒りの咆哮を上げると鋭いギョロ目で俺らの事を睨みつけた。

 その目からして、あのサイクロプスの怒りはもう激怒の域を越えている。巨人である自分があの彼から見てとても小さな漆黒の魔弾に吹っ飛ばされたのが相当癪に障ったのだろう。

 

「う、嘘っ!?」

 

「まっ、まだ生きてるって知ってたけどね」

 

「ちょっと、知ってるんだったら早く言って下さいよ!!」

 

「いやー、実に愉快だったよ。だって倒した気満々であんなドヤ顔をするんだからさ」

 

「そ、それは……」

 

「はっきり言って超ダサかったぞ、ハハハッ!!」

 

 俺は久しぶりに大声を上げて笑った。

 そしてむくれながらも再び魔法の詠唱を始めようとするウルナの頭を軽くポンと叩いて上げる。

 

「因みにアイツ推奨レベル209な」

 

「に、にひゃくぅッ!? で、でもやらないと――私達死んじゃうじゃないですか!」

 

「いやいや無理すんなよ、病み上がりだろ?」

 

「で、でも――ッ!」

 

「安心しろ、俺がやっとくから。さて、こりゃ、ちょっとばかし燃えてきたな。チビミッ! ウルナたんの事頼んだぞー」

 

「はい、ご主人様ッ! ささっ、ウルナ様はどうか後ろに下がっていて下さい」

 

 言ってチビミは鋏と毒針を振り上げて威嚇っぽいポーズを取る、それ見たウルナは反射的に飛び退き、後ずさりした。

 

「……、で、でもっ! ゼルさんは無職無能――」

 

「はい、確かにご主人様は無職無能デス。ですがその一方でご主人様は最強に至りし御方でもありマス」

 

「さ、最強……?」

 

「はい、見ていればきっと分かりマスヨ」

 

 

 

「グオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

 

 

 

 サイクロプスが再び咆哮を上げその巨体からは考えられない速さで走ってきた。

 棍棒を高く振り上げ、怒り狂ったような表情を顔に浮かべている。

 見ただけであらゆるものが慄くであろうその巨人の表情を見て俺は不敵に笑った。

 

 

「ガアアアアアアッ!!!」

 

 

 巨人の茶色のトゲトゲとした混紡が猛スピードで俺に振り下ろされる。

 後ろで「イヤアアアアアッ!!」とウルナの悲痛の叫びが聞こえた。大方俺が今の攻撃死んでしまうとでも思っているのだろう。

 

 俺は振り下ろされる棍棒を注視しながら目にも留まらぬ速さで腰に付けている剣を抜く。

 

 刹那――長さ5メートル、太さ3メートルはあるであろう棍棒は斜めに一刀両断された。

 サイクロプスは突如軽くなった腕をものすごい速さで振り下ろすと同時に前のめりに体勢を崩す。

 

 

「重圧斬り」

 

 

 ただ平然と呟きながら俺は背中の剣を抜いて地面に突き刺した。

 すると俺の周りの重力が途端に重くなり、体勢を崩し巨体を揺るがせていたサイクロプスは自分の重さに耐えられずズゴンッと豪快に跪き半分に斬られた混紡を地面に落とした。

 

 

「ぐ、グガアアアアッ!!」

 

 

 サイクロプスは必死に足掻く、しかし恐るべき重圧に身体を動かすこともままならず遂にその場で突っ伏した。

 俺はそんなサイクロプスを見て乾いた笑みを浮かべながらゆっくりと近づいた。

 背中につけていた鞘を取り、身を包んでいたマントを投げ捨てて、オレンジを基調としたジャケットとグリーンの迷彩柄のズボンを露わにする。

 

 

「ぐ、グゴッ……」

 

 

「サイクロプスか……、もう少し骨のある魔獣だと思ったんだがな」

 

 左手の持つ剣の刀身にオレンジ色の光を放つ地属性の魔力を纏わせ、右手に持つ刀の切先から大気を揺るがすようなの風を巻き起こさせる。

 超重圧の中を何気ない顔で歩き、遂にサイクロプスの顔の前に到達すると涼しい顔で剣を構えた。

 

 

 

「地空双破」

 

 

 

 言葉が発せられるとともに地が割れ、空間が裂けた。

 風が容赦なくサイクロプスの肉体を斬り裂き、それに追い打ちを掛けるかのように大地をも斬り裂く斬撃が脳天から足元まで駆け抜けた。

 次の瞬間――サイクロプスは跡形もなく爆散、周りの大木を根っこから吹き飛ばし、地面にクレーターを生成する位の凄まじい余波を撒き散らしながら消えていったのだった。

 

 

「……、あのー、何があったんですか?」

 

「言ったでショウ? 大丈夫だって――」

 

「いや、それ以前にゼルさんは何をしたんですか!? 速すぎて何も見えなかったんだけど!?」

 

 

 俺は何事もなかったかのように地面に落ちている鞘とマントを拾って双剣を鞘に収めた。

 サイクロプス如きに驚いて、怯えているようじゃこの樹海では生きていけないからな。あんなレベル200の魔獣と遭遇なんて日常茶飯事だし。

 

「――ゼルさん、無職無能ですよね?」

 

「ああ、紛れもなく無職無能だぞ」

 

「嘘は……、ついていないですよね? 無職無能のそれには見えなかったんですが……」

 

 面倒くさそうに俺は頭を掻きながら片手でステータスの設定を弄って、頭上にカーソルを表示させる。

 ステータスの公開設定は個々で自由に設定することが出来る。レベルとパラメーターの一部を公開するものもいればはたまた自分が素晴らしい職業であることを皆に見せつけるものもいる。

 

 だが、俺が公開したのはレベルのみである。

 そもそも彼女は俺の職業――無職――を知っているので公開する必要性がないと判断したからだ。

 

 本来なら何も驚くことのないはずの情報、だがウルナはその数値と文字列・・・を見て目を見開き、今まで見た中で最大級の驚き顔を見せてくれた。

 

 

 レベル:999(暫定)

 

 

 そこには絶対にあり得ないであろう値と(暫定)という訳のわからない文字列が記載されていた。


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