無職無能の最強双剣士 ~圧倒的努力に勝る強さはない~   作:虎上 神依

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Chapter2-25 無職無能&大賢者&狂戦士VS『災厄』Part1

 夜の帳が訪れ、月がはるか上空で輝いている頃。

 ファスタットの北側の石塀の前、そこには多くの冒険者と衛兵団全隊が集まっていた。

 

 街を囲むかのように広がる草原、そしてそのはるか遠くに広がる森林、その奥から青い大群がファスタットへとゆっくりと歩みを進めていた。

 森を燃やしては草を燃やして大火事になる程に火を吐きながら進むブルーリザード。

 ブルーリザードの集団の真中、一際目立つのはブルーリザードの十数倍の大きさはあるであろうアルティメットブルーファッツの集団。

 背中が青くお腹が黄色い四足歩行トカゲの魔獣であるブルーリザード、だがアルティメットブルーファッツはそのお腹が普通のブルーリザードよりも遥かに大きく、比べてみると月とスッポン位の違いはある。それ故に四足歩行で歩けなくなり、自然に二足歩行となってしまったのだ。そんな巨大なアルティメットブルーリザードが3体もいる。

 

 だが、それだけではない。

 そのアルティメットブルーリザードが囲むように守る更にそれの1.5倍以上大きい巨大な青蜥蜴。

 それは辺りのものに凄みを与え、恐怖を与え、威圧感を与えた。

 

 彼らはひたすら進んでいた。

 自らの力を皆に知らしめるため、自らの命を脅かす生命を排除するため。

 巨大な蒼色のトカゲの元、恐れること無く火を吐き続け辺りを燃やしては道を作りゆっくりと前進していた。

 その数は千を遥かに凌駕し、万を下回る程だ。

 

 

 

「グギャオオオオオオオオオ――ッ!!!」

 

 

 

 

『災厄』の主犯の青蜥蜴は目の前にある街に向かって大きく咆哮を上げる。

 空気は大きく揺らぎその振動は遠くにいる冒険者達や衛兵団の人々、街中まで響き渡る。

 

「避難は終わったのかしら?」

 

 華麗かつ優雅であり、先頭経験豊富な緑髪の衛兵団長、アンナは隣にいる副団長に聞いた。

 

「はい! 住民全て港付近に避難し終えましたっ!」

 

「分かったわ……。でも――本当にやれるのかしら、あんな巨大な蜥蜴……」

 

「団長のアンナさんがそんな事言ってどうするんです? なんとしても奴は食い止めなければならない、でないとこの街だけでなく大陸中に被害は広がる」

 

「勿論分かってるわ、だけど……この規模は予想以上よ」

 

 アンナは強敵を前にフッとため息をつきながらも自分の後ろにいる武装した衛兵団全隊を見渡した。

 皆、神妙な面持ちで目の前に立ちはだかる強敵を見ていた。

 そして横にいる冒険者の軍勢、その数は衛兵団に多少劣るが、一人ひとりが強者揃いで頼りがいがある。

 だが、その彼らを持ってしても今回ばかりは勝てるかどうかも分からない。

 

 

 衛兵の鑑定隊の偵察によると――中央の元凶は驚くべき数値を叩き出したのだ。

 

 

 ブルーリザード 推定レベル50

 オリゴンリザード 推定レベル89

 オリゴングレード 推定レベル125

 グランドオリゴンブルー 推定レベル178

 アルティメットブルーリザード 推定レベル219

 ブルーリザードの軍勢はこれらによって構成されている。

 

 

 

 そして『災厄』の元凶

 アルティメットオリゴンファッツ 推定レベル326

 

 

 

 唯でさえ魔族軍や王国軍の軍隊よりも恐ろしい軍勢がいるというのに中央に佇むのはレベル300を越えた化け物、タイマンで倒せるとしたら大勇者サイ、またはその相方大賢者メーア位しかいないだろう。

 そしてそれはこの街で有名な『女侍』カゲヨ、偶々帰省中だった『ザ・クラッシャー』ザイル、そして勇敢な衛兵団長『無双槍剣聖』アンナの3人を持ってしても勝機はほぼ皆無に近いだろう。

 

 だが――現在、この街には偶然にも約二名の規格外が存在する。

 ガンガスによりSSSが確約された『最強の無職』ゼルファ、そしてその旅仲間の『邪賢者』ウルナ。

 そう、彼らに掛ける他この戦いを制する手段はない。

 

 だが、それでもやるからにはどんな運命が待ち受けようともこの街を守り抜く。それがファスタット衛兵団の使命だった。

 

「皆の者、恐れず立ち向かうのだ! 全てはファスタットのために!!」

 

「「「ファスタットのために!!!」」」

 

 アンナの掛け声に反応して衛兵団全隊は武器を振り上げて皆叫んだ。

 

「行くぞ! 皆、私についてこい!!!」

 

「「「オオオオオオ――――ッ!!」」」

 

 そう言ってアンナは行進し続けるブルーリザードの大群に全力で草原を走り始めた。

 今ここにファスタットの民と『災厄』の戦いの火蓋が切って落とされたのだった。

 

 

 

 

 

 

「おっ、どうやら始まったみたいだぞ。ウルナ」

 

 俺は森林の中にある大きな木の上から遠目に戦場を観察していた。

 あのブルーリザードの奴、火ばっか吐き出しやがっておかげさまで山火事になりかけたじゃないか。

 

「――何でこんなに巨大な山火事を一瞬で消火出来るわけ?」

 

「目障りだから努力で消した」

 

「もう言っている意味が怪物理論過ぎて理解不能ですっ! ねっ、そう思いませんザイルさん?」

 

 木の下にいるウルナは横で準備運動をしている青髪の男――Aランク冒険者ザイルに話しかけた。

 

「だね……、ウルナちゃん。噂には聞いてたけど、こんな規格外見たの初めてさ」

 

「それはともかく、数多いなぁ。心が踊っちゃうじゃねぇか」

 

「ゼルさん、申し訳ないですが、その思想が全く理解出来ません」

 

 そう、俺らは予め先回りをしてブルーリザードの軍勢の斜め後ろ辺りに待機している。

 俺が思いついた作戦は至って簡単だ、後ろから回り込み大量のブルーリザードらの不意をつくとともに一気に倒し、アルティメットブルーリザードの壁を一つ叩きのめす、そしてアルティメットオリゴンファッツと戦うことだ。

 アルティメットオリゴンファッツが後ろを向いて前進することを止めさせてしまえばブルーリザードの軍勢も歩みを止めるはず。

 だから何としても後ろを向かせ俺らに注意を向けてもらう必要性があった。

 囮と言っては何だが、非常に危険な作戦である。だからこそ、経験値が稼ぎやすい! こんな完璧な作戦は無いだろう!

 これで確実にウルナのレベルは15上がることが約束されました。はい、美味しすぎるっ!

 

 そんな適当な考えで来た訳だが、案の定同じ考えのやつが一人いた、それがこのザイルだった訳だ。

「あーれ? 君達も僕と同じ考えかい?」と言って近づいてきて向こうから勝手に合流された。だが、戦力が増える事は悪いことではない。寧ろ俺としては嬉しい。

 ザイルはカゲヨと同じくレベル150を超えているであろう数少ない冒険者の一人なのだ、そんな人が俺らと行動してくれるのであれば非常に心強い事この上ない。

 ――まっ、その気になれば俺一人でも何とかなりそうだけど。この『災厄』はね……。

 

 

 ここまで来て分かったことが一つだけある。

 それは――この『災厄』の不自然さである。

 確かにブルーリザードはここら周辺にいる初心者にとっては屈指の強魔獣だ、だがその魔獣が主に生息するのは『魔獣の巣』の近くである東側、決して北側ではないのだ。

 それに本来なら『災厄』の存在に気づくのはもっと早い気がする。

 『魔獣の巣』から出てきた軍勢なら話は別だが、『魔獣の巣』から魔獣が出てくる事は人間と同等の思考能力を持つ者でなければそうそうない。

 

 これは憶測でしかないが……、もしかしたらこの『災厄』は自然災害ではないかもしれないのだ。

 自然で無ければ何なのか、そう故意だ。

 この『災厄』は意図的に起こされた可能性がある、何者かの手によってね。

 

 ――だが所詮、可能性が少しあるだけだ……、そもそも『災厄』が人の手で起こせるなんて俺も聞いたことが無い。

 じゃあ魔獣がやったのか? 一理あるが、この世界に存在する意思ある魔獣の殆どは俺の従魔、アイツらがそんな事をするわけがない。

 可能性があるならまだ会ったことのない火神龍や水神龍か……? いや、プライド高き伝説の六龍がわざわざファスタットを滅ぼすためこんなまどろっこしい事をするとは思えない。

 

 ……もうどうでもいいや。

 妄想や考察なんてしている暇あったら敵倒したほうが話が早い、だが――余力は念の為残すべきだな。

 

「ねぇ、ウルナちゃん。その、握手してもらっても――」

 

「ここでナンパとは相当ですよザイルさん」

 

 キツい視線をザイルに食らわすウルナ、常識に照らし合わせて考えてもこの状況でナンパは明らかに頭おかしいだろ……、何かザイルといるとちょっと調子狂うぜ。

 俺は木の上からそんな茶番を見つつも飛び降りる。

 

「さてと、二人共。そろそろ行くぞ」

 

「おっ遂に来たか? あのブルーリザードの大群を――殺る時が」

 

 いきなりザイルの声色は変わり、顔に狂気のような影が差し込む。

 思った以上のギャップだなおい……、通りでクラッシャーという不名誉な異名を付けられているわけだ。

 

「ひっ……。あっ、す、すみません、行くんですねそろそろ」

 

 おいおい、ウルナもドン引きしてるじゃねぇか。そのギャップどうにかしろよ。

 

「あぁ、ともかく奴らの侵攻をさっさと止めないとな」

 

「そうだねぇ、奴らの侵攻劇を――血祭りに上げてやるぜ、ヒッヒッヒッ……」

 

 やだ、この人怖い。

 ザイルの言葉の端々から見た目から考えられない程の狂気が感じられる、いや感じられる以上に丸見えだ。

 二重人格者の疑いを掛けても成立するぐらいにギャップが激しすぎる……。

 

「んじゃ俺はそろそろ行くよ。BYE!」

 

 そう言ってザイルは物凄い速さで走り去っていく。

 ザイルの性格や凄まじい狂気はともかく彼の実力は確かだ。俺らがわざわざ手助けする必要もないだろう、だが――

 

「なっ、抜け駆けは許さんぞッ!! 行くぞウルナ!」

 

「はい! 全く、ナンパもいい加減にして欲しいですねッ!」

 

「それは自分の容姿見てから言おうな……」

 

 そして俺らも同時に地を蹴り、ザイルを後ろから追う形で走り始めた。

 待ってろ『災厄』、絶対にお前らの思い通りにはさせないからな。


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