無職無能の最強双剣士 ~圧倒的努力に勝る強さはない~   作:虎上 神依

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Chapter2-16 未踏破ダンジョン『亡者の執念谷』探索編

 ダンジョンの中は墓場の様な場所だった。なぜか上空には薄暗い紫色の気味の悪い空が広がっていて、あたり一面の草原に幾多の墓がたてられている。

 ――ダンジョンってこんなに不気味な場所なのか?

 

「亡者の執念谷」

 

「えっ……? 亡者の執念ダニ?」

 

「そう、このダンジョンの名前。見ての通りアンデット系の魔獣が巣食うダンジョンの様ね」

 

 周りを見回しながらウルナは言った。

 ダンジョン――見た目が丸で別世界だ、いや別世界その物と言っても差し支えないだろう。

 個々に来る際に触った転移結晶が何よりの証拠だ、ここは元の世界とは断絶されている別世界、恐らくダンジョンと言うものが元の世界とはかけ離れた外の世界なのだろう。

 

「ダンジョンは幾つかの階層に分けられていてそれぞれで風景、地形が変わる。私達の目的はその幾多の階層を抜けて最奥部まで辿り着くこと」

 

「ほぉ……、それでその階層って幾つあるんだ?」

 

「未踏破なんだから分かるわけないじゃない! でも――文献によると少なくとも60階層はあるみたい。因みに初級が5階層、中級が10階層、上級が25階層よ」

 

「へぇ、聞いていると多いんだか少ないんだか分からないな」

 

「そうですね、強いて言うなら階層毎にそのダンジョン特有の大ボスがいますね。それで、奥の階層に行けば行くほど、敵も強くなるし、ボスも強くなる。難しい所だと道中に中ボスも登場するみたいね」

 

「なるほど――それを一気に踏破するのか。案外難しそうだな」

 

「いえ、一気に踏破する必要はないです。一度行った階層や入り口なら階層の入り口にある転移結晶でいつでも行けますから。無論、ダンジョンの入り口の結晶も含めてね」

 

「大体仕組みは分かった、んじゃ熱血鎮火しない内に行きますかね」

 

 俺は幾多の墓場で構成されているダンジョンを進み始めた。

 ダンジョン内には陽の光がない、しかしその代わりに紫色に光る光源が空中に多数浮かんでいて内部を少し明るく照らしている。

 だが――暗いことには変わりはない。敵を見つけるのであれば魔力感知か察知スキルを使わなければ無理だろう。

 

「……本当に気味が悪いですね」

 

「あぁ――ワクワクしてきた、燃えてきた、熱くなってきた」

 

「私、貴方の心情がたまに理解できなくなります」

 

 その時だった――墓の影から何かが沢山出てくる。

 それは紛いもなくスケルトンの集団、その物だ。だが――そこらにいるただのスケルトンではない、各々が片手剣や両手杖、斧、槍、鞭などの武器を持っていて俺達人間と同じような体格である。

 

「ヒッ……! で、出たッ!」

 

「出たも何もただのスケ――ダァーッ! 一々くっつくなっての!」

 

「だ、だってぇーっ!」

 

「アンデット系のダンジョン何だろ!? 慣れないと踏破出来ないぞ!」

 

「わ、私来る気なかったしぃ!」

 

「決意はどこ行った決意はッ!!」

 

 と、二人で騒いでいるその時だった。

 

 

 

 シャッ!!

 

 

 

 スケルトンの素早すぎる奇襲――少しもブレる事ない空気を斬り裂く音が聞こえる。

 通常のスケルトンとは思えない完璧すぎる奇襲。

 だがその時、俺は既にウルナを抱えつつも奇襲を避け、後ろに飛び退いていた。

 

 

「う、嘘っ……!」

 

「油断するなっ!! その一瞬の隙が命を奪い取る引き金になるぞ」

 

 

 もしあの場所にウルナ一人だけが居たとしたら――確実に殺されていただろうな。

 俺だったからスケルトンの動きを瞬時に判断できたが……、コイツは中々やり甲斐がある魔獣じゃねぇか。

 

 

 ――クレヴァスケルトン 推奨レベル93

 

 

 鑑定魔法で直ぐ様敵の情報を調べ上げる。

 一階層でいきなりウルナの格上か、確かに未踏破だけはあるな。

 

「ウルナッ! 一瞬も気を緩めるなよっ、今までやって来た特訓の成果を見せつけてやれっ!」

 

「はいっ!」

 

「後言っておくが俺の強さに期待はしてくれるなよ? 俺も経験値目当てでデバフ掛けて奴らに合わせて戦うからなっ!」

 

「ふぇっ!? ま、マジですか!?」

 

「そうしないとウルナの成長に繋がらねぇじゃないかッ! いいか? 世界は弱肉強食だ、食われる前に食らい尽くせッ!!」

 

 言い終えると俺はデバフを掛けて基本ステータスの弱体化を図る、そして一気に目の前のスケルトンの懐に飛び込む。

 刹那の瞬き、俺の長剣がスケルトンの肋骨を切り砕いた。

 力だけではない、全身とそのスピードの勢い全てを片手剣に乗せて速攻でスケルトンを吹っ飛ばし、絶命させた。

 

 

 カタカタカタ――

 

 

 仲間が殺られたことで怒りに火が着いたのか、墓の後ろから6体のスケルトンが俺らに向かってくる。

 瞬時の分析――剣系2体、槍や斧の中距離武器3体、両手杖メイジ1体。

 

 

「ウルナッ――真ん中の槍と斧狙えッ!」

 

「ハイッ!!」

 

 

 彼女は左手のステッキを逆手に持ち、一気に横に薙ぎ払う。

 杖先から10は軽く超えているであろう漆黒の魔弾が出現し、中距離武器のスケルトンだけを狙って発射される。

 その凄まじい魔力にスケルトンが一瞬慄く、その1秒も満たない時間がこの世界では死を意味する。

 

 

 ――驚くなら0.5秒以内にしやがれッ!

 

 

 デバフが掛かってる体なのにも関わらず俺は右手で刀を抜刀、音速の斬撃が前衛を一瞬で蹴散らした。

 美しく煌めく軌跡、それは確かに敵の骨を砕き余波である衝撃波を放った。

 そして固唾を呑みこむ前には既に中衛のスケルトンは破壊の魔弾の餌食となっていた。

 

 だが、それでも俺は気を一切抜かない。

 

 後ろに合図を送るとともに俺は爆風の中を駆け抜け後衛のメイジ役スケルトンの前に飛び出て、二本の剣を一気に振り落とす。

 いずれも刹那の出来事、だがスケルトンはそれを予想していたかのように両手杖で上手くガードし、剣を食い止めた。

 

 ――掛かったな、貧弱脳がッ!!

 

 

「今だ、斬り裂けぇ!!」

 

 

「ハアァッ!!」

 

 

 突如後ろから飛び出してきたウルナ、気迫の入った掛け声とともに振られる片手剣。

 ――それは美しく舞う花びらのような、一閃。スケルトンの急所を突き、絶命させるには十分すぎた。

 

 

「はぁっ……、はぁっ……、やりましたねゼルさん」

 

「ああ、にしても初っ端からこれか――心が躍るな」

 

「踊らせないでぇ……、私死んじゃうから……」

 

 

 死なせるわけないだろ、バーカ。

 

 

 

 

 

 

 それから1時間程経っただろうか、俺達は周りを見回しながら歩いては出てきた敵と戦い続けた。

 最初は少しデバフを掛けすぎたので少し緩め、俺はウルナのサポートをしっかりと務めた。

 一階層は出てくる魔獣は全てクレヴァスケルトンで、全く苦戦することはなかった。

 

 ただ――奇襲にさえ気をつければね。

 

 クレヴァスケルトンは基本、奇襲をメインとして相手と戦う魔獣のようだ。現に奴らと遭遇した時は100%の確率で奇襲をかけられる。

 でもそのおかげも合ってか、ウルナは奇襲を避ける技術を身に着けていた。奇襲を仕掛けられた一瞬で回避する技術だ。

 だが――問題としてはその技術は敵を事前に察知してないと発動できないのが難点である。

 不幸中の幸いというべきか彼女も魔力感知は多少出来るようなのでそれも込みで特訓させておいたが。

 

 そして俺達は今――階層のボスが待つ、ボス部屋と呼ばれている場所までたどり着いていた。正直、平原を唯突っ切ってきただけなので余り苦労はしなかったがこのダンジョンは何せ――広い、広すぎだ。異常だろ。

 

「ここが……、ボス部屋ですか」

 

「うわぁ、趣味悪すぎかよぉ」

 

 目の前に佇む大きな扉は腕や足の骨と頭蓋骨などで出来ている様で見た目から気味悪さ満点だった。

 アンデット系のダンジョンだからってこれはちょっと作った神のセンスを疑うぞ。

 

「ねぇ……、一緒に開けない?」

 

「ん? 別に構わないぞ」

 

「エヘヘー、ゼルさんと一緒ー」

 

「意味が分からん笑い方するな」

 

 そんな事を言いながら俺達はボス部屋の扉に手を掛け、一気に押す。

 そして待ち受ける暗闇の中へと歩を進めていった。

 

 広い部屋――足元すら見えない暗黒、だが俺の察知はしっかりと捕らえていた。奴の存在を――

 俺達がある程度まで進んだ所で、背後で扉がゆっくりと閉まる音が響いた。これ以上はこの部屋から逃げる手段はないのだろう。

 

 次の瞬間――暗く広い空間に不気味な青い光が付き、円形の舞台が姿を現す。

 俺らが入ってきた入り口部分の道は既に床が無くなっていて舞台の外は奈落の底。

 

 

 ――ガタガタガタッ!!

 

 

 スケルトンよりも重そうな骨の音が辺りに響く。

 目の前に鎮座するは一回り大きいクレヴァスケルトンが冠を被り、マントと王笏を持った魔獣。

 

 

 ――キングクレヴァスケルトン 推奨レベル108

 

 

 雑魚よりも一際強い、ボスのお出ましだ。


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