無職無能の最強双剣士 ~圧倒的努力に勝る強さはない~ 作:虎上 神依
ウルナの弟子入りが決定し、特訓を始めてから10日後のある日。俺らはいつも通り朝早く起きて特訓をしていた。
特訓の内容は無論、剣術と片手剣とステッキの二刀流での立ち回り方だ。
俺はこう見えても片手剣、両手剣だけでなくあらゆる武器の使い方、立ち回り方を師匠に叩き込まれた為、基本どんな武器であろうと使いこなすことが出来る。
だが色々な武器を使ってみて最終的には自分に合っていると思った片手剣、二刀流で戦うことにした。
片手剣でも極めれば近距離だろうと遠距離だろうと全てカバーできる様になるし、上手く扱えば剣先から魔法を放つことも出来る。
言ってしまえば自分は片手剣のセンスがあると、そう感じたのだ。
ウルナに特訓をつけた結果――彼女は片手剣のセンスがとても良かった、いや異常と思えるほどセンスが光っていたのだ。
素振りの基礎的な型も既にほぼ完璧な状態まで出来ているし、動きも綺麗だ。美少女である彼女が一度剣を振れば、誰もが見惚れるほどだ。
更にわかり易く説明するとデバフ――俺の基礎ステータスを5分の1程にする魔法――を掛け、左手のみで戦う俺相手で打ち合いをしても引けを取らないレベルまで上達していた。
――いや、全然わかりやすくなっていないか? ともかく、彼女は凄いのだ。まさか10日でここまで上達するとは夢にも思っていなかった。
「……踏み込み方も大分良くなってきているな、しかもフットワークも中々だ。ウルナやっぱ大賢者から大剣豪に転職してこいよ」
「そ、そんな事出来ませんって! 生まれた時点で職業は変えられないのに……」
「だが十分に才能がある。大体こんなデバフ掛けたとはいえ俺と打ち合える時点で相当だぞ、ウルナ」
「ムッ……。なんか癪に障る言い方ですね」
「事実だろ? 俺が何年間修行のために剣を振ってきたと思っているんだ?」
「うぅ、正論だけどなんか腹立つ」
「でもウルナなら案外5年以内には俺に追いつくんじゃないか? それぐらい凄いぞ、君は」
「そ、そうですかねぇ……。エヘヘ――」
左手で髪を弄びながら頬を赤らめて目をそらすウルナ、褒めなれていなくて照れている彼女も可愛いな、見てて癒される。
「それに、そろそろスキルにも反映されてるんじゃないか?」
「えっ……? ほ、本当だ! スキルの欄に『剣術Ⅴ』が追加されてる!」
「――ちょっと待て、Ⅴなのか?」
「はい、間違いなくⅤですね」
ウルナはドヤ顔で腰に手を当ててその豊かな胸を張り、俺にアピールしてきた。
――ここにも化け物がいるじゃねぇか。
基礎スキルとはいえ、幾ら何でも始めて10日でスキルレベル『Ⅴ』まで到達する人間、初めて見たぞ。
まあ、初めてとは言え元々俺は樹海に引きこもっていた人間だからもしかしたら案外普通なのかもしれないけど……。
でも俺は初期武術系スキル、レベル1上げるのに5日かかってませんでした? あれぇ、おかしいですねぇ。
「『剣術Ⅴ』かぁ……、まさか特訓だけでここまで伸びるとは思いませんでした」
「スキルレベル上昇に影響する事しかやってないからな……。無駄なことはやるだけ無駄だから」
「――ところで、そんなゼルさんの剣術スキルはどれ位なんでしょうか?」
「俺か? 俺は『剣神Ⅳ』だな」
「け、『剣神』……? 何ですかそのヤバそうな名前」
「別にヤバくないと思うんだが……、武術系スキルは知っての通り数段階に分かれている、例えば基礎スキルである剣術に関しては下から『剣術』『剣豪術』『剣聖術』『剣王術』『剣帝術』『剣神術』と6段階に分かれているんだ。でも――15年やってたら『剣神』位フツーだろ?」
因みに基礎ではないものには『魔法剣術』とか『剣閃』とか『衝斬撃』色々あるのだ、俺の場合はあまりにも多すぎて『特殊総合剣術』というスキルに全て統合されてしまったがな。
「わ、私、剣歴60年の歴戦の剣士が持つ『剣聖術』までしか知らないんですけど……?」
「はあ……? それはないだろ」
「そうでした、ゼルさんはゼルさんでしたね。常識が通用しないんでした」
「いや、案外王までは簡単にいける。問題は帝と神だな……、あれを上げるにはかなり時間がかかる」
「その歴戦の剣士60年分の努力を簡単にいけるの一言で済ませるゼルさんの感覚を疑いますね」
呆れたかのようにウルナは「やれやれ」と首を振るや否や俺の怪訝そうな顔を見てクスリと笑った。
「でも――それだけ努力したからこそ、今のゼルさんがいる。そうでしょ?」
「良くわかってるじゃねぇか、努力だけは裏切らねぇ、強くなる最短ルートさえ見つけちまえば後は努力だけでどうにかなるんだよ! 熱くなれば何だって出来るッ、よって熱血最強説ッ!!」
「――ふふっ、相変わらずですね……、では続き始めます?」
ウルナは特訓前夜にあげた彼女曰くヤバい剣を右手に、神樹の宝玉を中心にして俺が創作した、彼女曰くヤバいステッキを左手に構えた。
俺が適当に暇つぶしで作った武器がまさか彼女の物になるとは誰が想像しただろうか。
「あぁ。んじゃ始めっぞッ! 上手くついてこいよ?」
「はい、よろしくお願いします!」
こうして再び剣の打ち合いが始まったのだった。
朝早くに始まった訓練は太陽が完全に登りきる頃――ステータス24時間時計で言うと7時位――まで続いたのだった。
「ふぅ、いい汗かきましたねぇ」
「そうだな。というかデバフ掛けてウルナと戦ったら何か経験値上がったんだが……」
「へぇー、人間相手でも上がるもんなんですねぇ」
「そこじゃねぇよ! 上がったって事は十分死ぬ可能性があったって事だぞ!」
「そりゃ……、私の邪魔法あんなに食らってたら――ねぇ」
「邪魔法恐ろしいな……、今度から剣で斬ることにするわ」
訓練中、使い始めて10日でステッキをほぼほぼマスターしたウルナなら連射邪魔法魔弾を50発ぐらい被弾した。
幸い俺ということも合ってデバフのかかっていないHPは異常なまでに高く体に傷がついても直ぐに治るためそこまで気にしてはいなかったが――そこまで命に危険がある魔法なのか、破壊特化の邪魔法は!
「でも……、ゼルさんでも経験値上がるんですね? レベル999だからてっきり頭打ちかと」
「ふっ、(暫定)を忘れたのか? 確かに表示はレベル999だが実力は無職レベル999のそれだとは限らないんだぞ? 実際レベル999なのには変わりないけど、経験値パラメーターがマックスになったら俺のステータスもこ――、いや上がるし、エクストラスキルも手に入るんだぞ」
「そ、そうなんだ。今の発言でゼルさんの規格外パラメーターが更に上がりました」
「なんだよ規格外パラメーターって――」
訳の分からない単語に困惑しながらも俺は満足そうな笑顔を浮かべるウルナを見た。
体の汗を拭いたタオルを首にかけながらウルナは服の襟を少し引っ張って手で中に風を送っていた。多少見え隠れする豊かな双丘が目に入った瞬間、俺は凄い勢いで横を向き体をタオルで拭く。
そう言えば――ずっと戦闘服ってのもあれだし、そろそろ服でも買おうかな。
一応、パジャマとかも持っているには持っているのだが……、原始的すぎてちょっとウルナの前じゃ着れない。
「そうだ! ゼルさん、今日は依頼じゃなくてダンジョン行きません?」
「ダンジョン?」
何だその如何にも面白そうな名前の場所は?
「えっ、知らないんですか? 神に作られたと言われている様な自然出来る迷宮のような所ですよ。中にはダンジョン特有の魔素で出来た高レベルな魔獣がうようよしているんです」
「な、なんだそのレベル上げにはうってつけの凄そうな遊び場は!」
「いや……、冒険者の戦場を遊び場扱いしないで下さい! 因みにダンジョンではそこでしか手に入らないアイテムやスキルもあるみたいですよ! 行ってみませんか!?」
「――良し今日はそこに遊びに行こう! ふっ、燃えてきたぜ」
「だから遊びに行く感覚でダンジョン行かないでッ!!」
ウルナも最近ツッコミが上手くなったようで――