無職無能の最強双剣士 ~圧倒的努力に勝る強さはない~ 作:虎上 神依
「さてと――まず特訓するにあたってだが……」
俺はベッドの上であぐらをかきながらウルナがベッドの横に立て掛けていた両手杖をビシっと指差した。
「明日から両手杖は止めだ」
「はいはい、両手杖は止め――って、ええぇぇっ!?」
ウルナは納得したかのように首をウンウンと縦に振ったと思いきや絶叫した、一体何がそこまで彼女を驚かせたのだろうか。
「りょ、両手杖を止めろとな!? な、何奴ぅっ!」
「何奴もなにも両手杖だと圧倒的に動きづらいだろうが、大賢者としての才能と利点を活かせていないぞ」
「で、でもこの杖は――神父様に貰った大切な杖なんですぅ!」
「別に捨てろとまでは言っていない、止めろと言ったんだ」
「捨てろと止めろってほぼ同意義ですよねぇ」
恨めしそうなジト目で見つめてくるウルナを横目に俺は首を傾げる。
両手杖は100%却下だが、それ以外で何かいい武器はあるだろうか。
槍――は両手杖と全く変わらん、意味なし。鞭――いや、将来性が全くと言ってもいいほど無い。だとしたら魔力を高めてくれるステッキか……、或いは――
いや、もしかしたらこの組み合わせでいけるかもしれないぞ。
「俺は右手で片手剣、左手でステッキをオススメする」
「け、剣っ!? なんで大賢者の私が剣を!?」
「軽くウルナの戦闘を見ていた感想だが、ウルナは遠距離かつ弾丸系の魔法が得意だよな?」
「な……、一日でよく見抜けましたね」
「それ以外で補助魔法やら、回復魔法やら、状態異常魔法やらの事情は全く分からんが、攻撃において遠距離が得意なのであればいざという時に近距離も鍛えた方が良い。遠距離ばかりに頼っているといざ敵に自らの懐へと入り込まれた時に対処する方法が見つからないからな」
「確かに……一理あるかも」
そうだ、スキル的な観念から考えても彼女にとって魔法は職業が故にレベルが上がりやすい、しかし――武器系のスキルレベルは自ら特訓しなければ一向に上がらないのだ。だから――個人的にスキルレベルの上げやすい剣術は俺のオススメである。
因みにスキルというのはあらゆる生物のステータスの一つであり、その生物が使える技、魔法などを記載するものだ。どういう仕組でそうなっているのか分からないし、気になるが、そういうシステムなのだと割り切ってしまえば然程問題はない。
またスキルは自らの職業によって獲得出来るものが変わってくると巷で言われているが、実際は努力すれば、弓師であっても剣術を、剣士であっても魔法を取得することは可能だ。だが、職業は素質みたいなものでもある為努力する量は変わるが……。
そしてスキルには個々にレベルが存在する。例えばスキル『剣術Ⅳ』、この『Ⅳ』というのはスキルレベルの事で熟練度が上がれば上がるほど上昇するレベルである。上限は『Ⅹ』であり、上限に辿り着くと同時に元のスキルは違う物へと派生していくのだ。また、派生した物で似ているものが集まれば勝手に統合され、ステータスを綺麗にしてくれる。
例えるとすれば俺が持っているスキル『魔法創造』だ。元々は『極迅雷魔法Ⅹ』と『極氷結魔法Ⅹ』をはじめとするほぼ全ての種類の魔法がしっかりと記載されていたのだが、いつの間にか4文字にまで簡略化されていたのだ。
「で、ステッキは名前の通り魔力を高める武器だ、これは一見両手杖の劣化版にも見えるが実はこのステッキ、弾丸系魔法使いとはかなり相性がいいんだよ」
「相性がいい……? なぜです?」
「ステッキの一番の強みはその魔法の連射性だ。両手杖は魔力を貯めて強い一撃を放つことが出来る、だがその一方で弾丸系の強みである連射性を打ち消してしまっているんだ」
「でも――連射性を高めると逆に威力が落ちますよね?」
「無論だ、だから多くの魔法使いが両手杖を使っているんだ。だがウルナは他の皆が持っていない邪魔法を持っている。そこか鍵なんだ」
「邪魔法……? あっ、もしかして――」
「そう、邪魔法は名の通り物を破壊する魔法だ、それ故に元々から威力が高い。だから、魔力を溜めて一回撃つよりは連射するほうが強いんだよ」
「なるほどぉ……、それなら納得ですね」
ウルナはウンウンと頷いた。良かった、納得してくれたのなら話は早いな。
俺はとある物を取り出すため空間魔法を起動しようとした――その時だった。
「所で――話はずれますがゼルさんって一体どれだけの魔法が使えるんですか?」
「おっ、気になるか? 実はだな――俺が使える魔法は一つだけなんだ」
「一つだけ……? まさか火魔法だけとか――」
「俺が使える魔法は『魔法創造』だ! どうだ、凄いだろ?」
「あ、はい。やっぱりゼルさんはゼルさんですね」
……まるで意味が分からんぞ。
ゼルさんはゼルさんですねってそのままじゃねぇか、大体『ゼルさん』はいつ形容詞(?)になったんだよ。
「さて――話をもとに戻すぞ」
俺は改めて空間魔法を起動して収納からある物を取り出す。
そして――それはウルナの目を点にさせるには十分な代物だった。
「な……、なんですかその如何にもヤバそうな剣は」
「コイツはだな、俺がまあまあ頑張って作った片手剣さ。素材はまず、剣を作る際には欠かせないヒヒイロカネ、そしてちょっとレア素材のオリハルコンとアダマンタイトを143:161で混ぜた超合金、アダマンランティア、白龍と言われているエレザードプラティナの爪で出来ている。その他にも魔法付与とか色々してるけどそれは割愛するね」
「……突っ込みたいことが幾つもあるんですが」
「ん? なんだ、素材が悪かったのか?」
「いえ、まず剣を作るには欠かせないとか言ってますがヒヒイロカネって何ですか? 聞いたことないですけど。次にオリハルコンは伝説の金属です、決してちょいレアな素材ではありません。後、アダマンタイトって架空の金属じゃなかったんですか? アダマンランティア? 聞いたこともないし意味分かりません。それと――素材に伝説の白龍の爪使わないで下さい」
「んあ? エレザードプラティナなんてどこにでもいるじゃん」
「いませんからっ!! いたら人間は既に全滅してますからっ!!」
「ふーん、まあ取り敢えずこれ上げるね」
「わーい、ありがとーっ ――じゃないっ! こんな明らかに聖剣よりもヤバそうな剣使えませんからっ!」
「いやいや、ちゃんと魔法付与で誰でも使えるようにする『イージーユーズ』を施してるから」
「なにその付与!? 聞いたことないんですけどっ!?」
聞いたことない? 嘘つけ、ちゃんと本に書いてあったぞ。
「ともかく、ちゃんと使えるようになるから――自身持って」
「わ、分かりました……。やってみます」
ウルナはおっかなびっくり剣を受け取ると鞘から抜いてみる。
緋色と白銀の刀身が姿を見せ、彼女にとっては世にも恐ろしいほどのエネルギーを放っている。
「ひゃっ。す、すごい……」
「だろ? まっ、明日からソイツを相棒に頑張ってくれや」
「でも――本当にいいんですか? こんなもの貰って」
「当たり前だろ、仲間なんだから。 それに俺は俺でコイツらがいるからな」
俺は壁に立てかけてある両手剣に限りなく近い長剣と如何にも国宝級の輝きを放っている刀を指差した。
「そ、それは――この剣よりもヤバいんですか?」
「ああ、アイツらは神話の時代に作られたガチな魔剣だ。こんな適当に作った剣とは訳が違う」
「そうなんだ……、やっぱりゼルさんだ」
やはり意味が分からんぞ、その形容詞(?)は。